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いつのマニカ前世、二人ツナグ来世。~時超えの石~  作者: すみ いちろ
第二章 前世編。

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27.霊峰〝鼎石〟へ。




(ギチリ……ギチリ……)


「ハァハァ……。何故、この様な険しき山道を……と言うより、岩壁ではないか! 鎖を用いて登らねばならぬとは。如何ほどの急斜……」

「なんだ、真繋マヅナ? もう根を上げたか? お主の〝(レイ)〟とやらも頼り甲斐が……」

「馬鹿を申せ! 陰陽の〝行〟に比べれば、まだまだ!」

「ククク……。手を貸してやろうか? 〝葉由利(ハユリ)〟殿の幽霊騒ぎで眠れなかったのであろう? 無理をせずとも日を改めれば良きものを」

「葉由利殿には時間が無いのだ。……ハァハァ。それに少しは眠った。これ位で参る訳には」

「相変わらず強がりが過ぎるのぉ。では、真繋(マヅナ)よ。負ぶってやろう。……我が背に乗るが良い」 

「いらん!」


 ──摩尼伽(マニカ)の所有する大屋敷を出て、おおよそ一刻半。体感と日の昇る角度からして、その様に感じられた。

 道中、生い茂る木の葉の僅かな隙間より鳥が鳴く……。時折、天を仰ぎ見ていた。

 岩清水湧き出る豊かな森を、石苔や泥濘(ぬかる)む土草に足を取られぬよう歩くには気力が要る。……木漏れ日に漂う澄んだ空気と、腰に携えた竹筒の水を口に含む。

 隻眼にして長身の男──峰高(ほうこ)が、私と空昉が森を抜け出るまでの案内役を勤めた。が、その後。

「ここからは、神が祀られし〝神域〟。我らとて摩尼伽様の許しを得ずに立ち入る事は禁じられている」

 ──と、ぶっきらぼうに言い放ち、峰高(ほうこ)はクルリと踵を返して再び森へと帰って行った。

 

 その峰高(ほうこ)が言う神域とは……。今まさに、私と空昉がよじ登らんとするこの霊峰。足場が岩壁の急斜に滑らぬよう、打ち込まれし(くさび)と鎖を頼りに握りしめ……。明王の如き気迫で踏ん張る。そして、この霊峰の頂きに祀られし〝神〟こそが──摩尼伽(マニカ)葉由利(ハユリ)の本当の〝住まい〟──〝鼎石(かなえいし)〟であった。


「しかし、真繋(マヅナ)よ。我らのこの身なり……。例えるなら、山伏の様であるな?」

「あぁ……。倭国では修験者とも言われていたな。ハァハァ……。陰陽とは異なる原理にて〝(レイ)〟を高める様だが」

「命を落とすかも知れぬ行を経て、(レイ)を高めるとは。……嫌いではないが、危ういのぉ」

「まったくだ。浜に漂着して襤褸(ボロ)を着ていた我らには有難いが。ハァハァ……。いささか試練が過ぎる……」

「まぁ、良いではないか! 真繋(マヅナ)よ……。妹君の葉由利(ハユリ)様も摩尼伽(マニカ)様に劣らぬ美貌と聞いたが?」

「あぁ。幽霊の姿であったが、今も生きてるよ。それに、摩尼伽は男か女か……」

「なれば、尚登って会うより他あるまいっ!! ガハハハハ!!」

「単純と言うべきか……素直だな、空昉は。良くもあり悪くもあり……」

「何か言ったか?」

「いいや。ハァハァ……。いよいよだな。頂きが、すぐそこに……見えて来たぞ」







 ……さらに半刻。

 私と空昉(くうぼう)は、なんとかこの霊峰の頂きへと辿り着く事が出来た。

 〝(レイ)〟は温存しておいたが、息が切れる。やはり、もともとの体力不足と不眠が祟ったか。両膝に手を突き、しばらく呼吸が整うのを待った。それから、地面に腰を下ろす。隣に居た空昉は、自身の巨躯を起こして仁王立ちしたまま。……眩しく光る太陽に目を向けていた。

 この場所から遥かに望む、晴れ渡る空と紺碧の海に囲まれたこの孤島。深緑の森の麓に、村の家々と私と空昉が居た大屋敷が見えた。その小高い場所より更に先──。海辺に面した砂浜が広がる。漂着した我々が乗っていた木造船の破片や残骸に、点々とした人影が群がっていた。


「あそこから来たのだな」

「あぁ……。命からがらな」

「報いねばなるまい?」

「まったくだ。その為に来た。が……」

「後ろにある巨大な巻き貝の如き岩山とは何だと。そう言いたいのだな、真繋(マヅナ)よ?」

「……言わずもがな。まだ登らねばならぬとはな。しかし、入り口の様な〝(ほこら)〟が見えるな」

「待ち人は、その中に?」

「で、あろうよ」


 少しばかり溜め息をついた私は、ようやく片膝に力を入れ……この場を()つ決意をした。

 ──見上げるほどの巨岩が、天にそびえ立つ。

 が、(ヒト)一人分ほど通られる入り口の如き黒き〝(ほこら)〟から、摩尼伽(マニカ)の背後に感じた〝闇穴〟と同じ〝霊威〟を感じた。


(……意識が揺らぐかの様な空気。入ってはならぬと身体が警告を発している。が、会いに行かねば……)


 〝祠〟を目の前にして、益々その様に感じ入る。〝(レイ)〟を(まと)えば、私は意識を保てるが。いささか、空昉(くうぼう)のことが気にかかる。如何に巨躯を誇る空昉であろうとも、女子(おなご)の様に倒れはしまいかと。


「空昉よ。ここから先は、闇深き霊威が漂う為に私一人で行く。常人では意識が保てぬゆえ……」

「何を申すか、真繋よ! 友を一人で行かせる訳にはいくまい! ……我とて心配なのだ。念仏を唱えさえすれば、真繋の言う〝(レイ)〟とやらも、たちまちの内に高まろうぞ!」

「会いたいだけであろう? 摩尼伽様と葉由利の君に。女子(おなご)の事ともなれば、空昉は──」

「違う! 心配なのだ!! 真繋だけでなく、葉由利殿のご容態もっ!!」

「なれば、もしもの刻は手を貸してやろう。案ずるな。式神の右鬼と左鬼ともなれば、巨躯の空昉であろうとも、軽々運んでくれようぞ?」

「意趣返しのつもりか?! ぬぉぉ! 真繋よぉっ!! 僧侶であるこの空昉の意地っ!! とくと見せつけてくれるわっ!!」

「やれやれ。……では、参るとするか」

「おぅっ!! いざ、参るのであるっ!! 摩尼伽様と葉由利殿のもとへっ!!」

 

 



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― 新着の感想 ―
[一言] さあ、この先には一体どんなことが待っているのやら。 待て次回!!
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