1.知らない女の子。
「みつけた」
「え?」
学校帰りの駅の改札口を出てすぐ。ファッションモールを行き交う雑踏の中に、ただ一人だけ僕の目を見つめて動かない知らない女の子が寒そうに目の前に立っていた。
吐く息が白い。
「ど、どなたですか?」
「知らないの?」
けれど、バスターミナルへの連絡通路へと続くエスカレーター……と透明の四角い強化ガラスで出来たエレベーターが眩しく光る。
ビルの谷間で反射したその光は、二月初旬の夕日をさらに反射させていて目が眩む様だった。
「あ、あの……」
「待って」
その子が見つめる視線が、僕の足もとを止めた。
同じ学校の制服に黒いマフラーを首もとに巻いていた彼女は、口もとをそのマフラーで覆い隠す。
黒くて長い髪の毛。視線が合ったまま目を離せなかった。
まるで、非現実的。夢の中にいる様な感覚。僕は、しばらくジッとその場に立ち尽くすしかなかった。
(夢じゃないよな……)
──胸の鼓動。
四十三番乗り場で乗るはずだったバスが、出発予定時刻五分前を切ったまま動かないでいる。それを、遠目で確認した。
電光掲示板のテロップの中を、オレンジ色の光が流れる。家の近所を経由するバス停留所の名称だ。
その子が、僕にゆっくりと近づいて来た。
「しばらくぶり。高校生になってからは、初めましてかな?」
「え? えと、人違い……ですよね?」
「んーん。違う」
知らないこの子。
何処かで会ったとか? そんな記憶すら無い。けれども、確かなのは──。
(──夢の中で、見た子……)
目の前の彼女の僕を見つめる真っ直ぐな視線。僕の足もとから伸びる影が、地面に縫われた様に身動き出来ない。
──〝未来都市計画二十一〟のこの街のテーマソングが、駅の構内に響いていた。
改札口を出てすぐ見える交差点の信号は、赤から青に変わったと言うのに。
僕は躊躇ったまま、そこから一歩も踏み出せずにいた。目の前のその子に近づけない。
時が止まった様な感覚。生まれて初めて体験した。
「カフェとか。行く?」
その子の言葉に思わず僕は──。
首もとに巻いてある紺のマフラーで口もとを覆い隠した。片手でより一層深く。見つめる彼女の視線からは、逃げられなかった。
「……うん」
言われるがまま──。だけど、夢を見ている様で。
現実にいるはずの僕は、コクリと気がつけば、うなずいていた。
その子も、黒いマフラーで口もとを覆い隠しながら……僕から視線をそらさずに、そう言った。
「じゃ、行こっか」
夕日が、僕と彼女の半身を照らしていて。
彼女の黒い瞳が、虹色を含んだダイアモンドの様に輝いて見えた。
改修工事の済んだ真新しい駅の大理石のような白い柱の影が──、僕ら二人の影の先端をゆっくりと、静かにくっつける様に。
「そう……だね」
それこそ──。まるで、時間を止めたかのようだった。
……それにしても、知らない誰かに僕がついて行くだなんて。今にして想うと、自分でも考えられない。信じられない出来事だった。