2_リューとデュー
ある朝、私は屋敷の地下に来ていた。
魔法陣が書かれたドアを開ける。二十扉になっており、一つ目のドアのその先は風除室のような小部屋があり二つ目のドアを開けるとメインの部屋である。
「おはよう、デュー」
一面に魔法陣が書かれた部屋、その中央のベッドに横たわっている女の子がいた。犬獣人のデューである。この子は普通ではない。四肢がなく、五感もない。髪は色素が抜けたように白く、肌も弱い。食事はまともにとれないし水を飲むのですら一苦労だ。
「おはようございます。ティカ様」
彼女がこうなった理由は禁忌術だ。彼女ともう一人、双子の妹のリューは魔術師の実験体にされていた。デューはその結果魔力量が常人をはるかに超える量になった。しかし代償として彼女の身体はボロボロになっていた。
「調子はどう?」
「はい、いつも通りです。痛みはありますが、それがなければ眠っているような感覚です。それに……」
「それに?」
「リューの楽しそうな様子でおなか一杯です」
デューは五感がないがそれを魔術で補完している。そしてその膨大な魔力量と制御能力を活かして私の領地の結界と監視をしてもらっている。ようは監視カメラでみんなのことを見守っているようなものだ。
「それじゃあ今日も一日よろしくね?」
「はい、行ってらっしゃいませ」
私は転移の魔法を使って仕事場に向かった。
─── 仕事といってもたいしたことはない。領地の管理が主な仕事だがそんなの私のかわいい獣人ちゃんたちにほとんど任せている。私はたまに書類にサインをするだけだ。それでも一応領主なのでそれなりに忙しい。
「ティカ様、お茶をお持ちしました」
「ありがとう、サシャ」
サシャが入れてくれた紅茶を飲みながら本を読んでいると、ドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。
「ティカ様!お荷物が届いています!」
そう元気にいいながら入ってきたのは犬獣人のリュー。デューの双子の妹で真っ黒できれいな髪をしている。この子も禁忌術の実験に使われた。その結果魔力が0、魔力回路すらもたない代わりに身体能力が人の域をはるかに超えている。
「ありがとう、リュー。その辺置いといて」
「はい!」
ズシン…。と床にそっと置かれた荷物はリューの身長の倍はある。重さは100kgはありそうだ。それを軽々と持っているリューは本当にすごいと思う。
「何が届いたの?」
「はい、これは……」
箱の中には大量の武器が入っていた。ナイフや剣はもちろんのこと、弓、銃などもある。
「これは……」
「まったく…みんな好き勝手買うんだから…」
サシャが隣でボソッとつぶやく。ここにいる獣人たちはみな奴隷としてひどい目にあってきた子ばかりである。そのため皆自己防衛の意識が高いというか、例外なく戦闘に備えている。この世界は平和ではあるがいつ戦争が起こるかわからない。その時のためにみんな自分の身を守れるようになりたいということだろう。
「そういえばサシャは戦えるの?」
「ええ、ある程度は」
「ふーん……今度見せてよ」
「わかりました」
「またまたあ、サシャさんその気になれば王都の騎士団壊滅させれるでしょう?」
「リュー、それ以上言うと今日のおやつ抜きにしますよ」
「ごめんなさい……」
この二人は仲が良い。というか、サシャが獣人たちに好かれている。皆から信頼され、尊敬されている。メイド長である彼女に逆らうものは一人もいない。
「わかればいいんですよ」
「えへへ…」
サシャがリューの頭をやさしく撫でる。リューも耳をペタンと寝かせしっぽを振っている。
「尊い…」
この光景が獣人を買う醍醐味といっても過言ではない。狼のサシャと犬のリュー、互いの本能というか習性というか上下関係がありつつも慈愛に満ちた二人の関係はまるで姉妹のようである。