裸一貫
地帝国タイタンの中央に聳えるはこの国のシンボル『モスク城』このモスク城の隣に増設された新たな施設…それが温泉浴場『赤裸々の湯』
この『赤裸々の湯』とは、このモスク城の主人であり地帝国タイタンの国王である二代目ラビタスが国の大臣であるチブーに命じて作らせた大浴場である。
そして、今まさに開設したばかりのこの施設をこの国の主人である二代目ラビタスが真っ先にお風呂の醍醐味、一番風呂を味わおうとしていた。
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ラビタスは胸を躍らせなら大浴場へ第一歩となる暖簾に手をかけ、その足を脱衣所へと向けた。
「す…凄い!予想以上のクオリティーだ」
まずラビタスの目に飛び込んで来た景色は、水捌けの良さそうな木材を使用した床・大きな鏡・脱衣かご。その全てがラビタスの発注通りの脱衣所であった。
自信から湧き上がる高揚感を楽しみつつ、ラビタスは自身の衣類を颯爽と脱ぎ捨てた。そして…ラビタスは満を持して浴場への引き戸に手を掛けた…
『ガラガラガラ…』
ゆっくりとその扉を開放してみると…そこには広々とした露天風呂が顔を覗かせか!!
「凄い…これ、濁り湯じゃないか!?」
地帝国タイタンに新しくオープンした天然露天風呂付き大浴場!!大中小の適度に凹凸がある丸型の岩を円形に配列させた雰囲気のある浴槽。その浴槽の中に、鉄分を多く含んだ赤褐色のお湯が目一杯に注がれていた。
濁り湯を目の当たりにしたラビタスは自身のはやる気持ちを一旦抑え、朝っぱらからヒメに汚された身体に掛け湯を行い、埃まみれの身体の汚れを丁寧に洗い流した。
「ふぅ…よし!」
ラビタスは一呼吸置くと堂々と浴槽の目の前に立ち、ゆっくりと足先から湯船に浸かって見せた…
そして、その勢いのまま全身を湯船にどっぷりと浸かってみせた。
『バッシャーー』
「クゥーー!温泉最高!!」
浴槽から大量にこぼれ落ちる濁り湯・立ち昇る湯気…その全てがラビタスのつもりに積もった体の疲れを癒してくれた。
ー ラビタスが温泉に満喫する事5分…
「いや〜最高に気持ちいな!ちょっと水温度は高いけど、実はこれくらいが一番丁度良かったりするんだよな〜 …だいぶ汗もかいた事だし『あそこ』で熱った体を落ち着かせようかな?」
ラビタスは先程から気になっていたとある設備に足を向けた。それは、露天風呂の隣に作られた『寝湯』が楽しめる設備であった。
「よくこんな大きない石を平に加工できたな!さすが爺達だな!見かけに寄らずセンスがいいな!」
技巧派なゴーレム達の職人技術に脱帽と感謝をしつつ、ラビタスは一旦熱った体を整える事にした。
「よっこらっしょっと!」
中身がおじさんのラビタスから中年特有の『ヨッコラっしょ』が発せられたと同時に、ラビタスはゆっくりと仰向けになり先程ヒメに邪魔された睡眠の続きを改めて再開させた…
ー さらに10分後…
『ドカドカ…』『ガヤガヤ…』
短時間であるが、質の良い睡眠を取っていたラビタスの後方からとある雑音が聞こえてきた…
「…ん?…せっかく気持ちよく寝ていたのに…一体何の騒ぎだ?」
『…い…イヤーーー』
「!?」
「な!?何事だ!」
脱衣所から聞こえた謎の悲鳴に反射的に飛び起きたラビタスは、目の前で起こる非現実的な光景にただただ立ち尽くすしか無かった…
『わっしょい!わっしょい!』
「ちょっと!アンタ達!今すぐその手を離しなさい!」
ラビタスの目の目に裸のRG・ゴーレムの『セネ』と『カイル』が同じく裸のヒメを担ぎ上げ、脱衣所から勢いよく飛び出してきたのであった。
「な…何なんだこれは!?」
何故か、寝室でラビタスの入浴が終わるのを待っているはずの3人が入浴中のラビタスの目の目に突如姿を現したのであった!!
「ん?ヒメ姐がそう言うなら…ホイっと!」
ヒメの『その手を離しなさい』に触発られ、ヒメを神輿の様に担いでいたセネとカイルが徐にヒメを担いだその手を急に離してしまった。
「キャァーー」
『バッシャーーん!』
脱衣所から飛び出した勢いのままのに、空中を舞うヒメが素っ裸のヒメ!!ラビタスが状況を飲み込む間も無くヒメが勢いよく濁り湯の中へ落ちていった……
「おいおいおい…何やってんだアイツらは!?」
「セネ姐!私達も温泉に入ろうよ!」
「そうね!せっかくだしこのまま私達も飛び込んじゃいましょう!」
「よし!えーーーい」
「バッシャーーーん!!』
謎行動が際立つ二人は、温泉のルールを全く理解せずにヒメに続けとばかりに勢いよく濁り湯に飛び込んで行った。
「アイツら、俺とヒメのいた世界であんな事したら一瞬で出禁くらうぞ!」
3人を心配するラビタスを他所に、温泉に対して無知すぎるRG・ゴーレムの一人、セネが徐に自身の魔力を解放させてた。
「ちょっとこのお湯、熱すぎますわ!だったら…えい!」
『ジュッボーーん!』
セネが放った水の塊と湯気が立ち上る濁り湯が混ざり合い、45℃だったお湯の温度が一気に30℃まで下がってしまった。
「おいおい…勘弁してくれよ…確かに高温ではあったけど、決して水を足す程の温度では無かったはずだ…一体全体アイツらは何がしたいんだ!?」
温泉マナーの検定が存在するのなら彼女らの点数は0点どころか検定自体の出禁を食らうであろうその粗暴な態度に、二人の主人であるラビタスはいても立ってもいられず、頭に被せていたタオルを腰に巻き直し温泉に浸かる2人と温泉に沈まされたヒメの元へ駆け寄った。
「おいお前達!!一体何しに来たんだ!?この施設は子供の遊び場じゃ無いんだぞ!!」
『……』
『ショボーン』
初めて見せるラビタスの怒りに満ちたその表情に、先程まで無邪気にはしゃいでいたRG・ゴーレムの二人は流石にピリ付いた現場の空気を察し、下を向きしょんぼりとした態度をラビタスに示していた。
『バッサーー』
「ちょっとアンタ!温泉のルールを知らないこの子達に流石にその態度は可哀想よ!もっと優しく接してあげなさいよ!アンタこの子達の親みたいなもんなんでしょ!」
先程までRG・ゴーレムの二人に湯船の中へ投げ出されたヒメが今まさに、全身ずぶ濡れの状態で怒りを露わにするラビタスへ文句を言うために水面から勢いよく飛び出してきた。
『!?!?』
「ヒメ…ちょ…まぁ…言いたい事は分かった…けど、一回しゃがんだほうが良いと思うけど」
ヒメから説教を喰らった筈のラビタスは、何やら頬を赤く染めながらヒメから視線をずらしていた。そして、ヒメの説教をサラリと受け流しながら彼女の体を指差した。
「アンタ何、私の説教をスルーしようとしてんの…本当アンタって…ん?」
『ポッ!!』
「い…いやーー」
ヒメは自身の豊満な胸・細くくびれたウエスト・大きなお尻、その男の妄想が全て詰め込まれたような自身の体を目視しするとやっと事の重大さに気づくのであった…
そう!ヒメはこの大浴場へ入ってから今に至るまで怒涛の様に事が進んでおり、自身が今素っ裸である事を忘れていた。そして、ヒメは恥ずかしさの余り全身を赤く染めながら足だけが浸かっていた濁り湯に全身を沈め、鬼の形相でラビタスを睨み付けた。
「見たわね〜私の裸…」(ど…どうしよう。父親以外で初めて男に裸を見られた!も…もうお嫁に行けないよ〜)
その言葉と態度とは裏腹に実はウブであったヒメは男性に裸を見られ内心めちゃくちゃドキドキしてきた。
「ご…ごめん。タイミングがタイミングだったから、怒られるよりも先に事実を伝えなくちゃっと思って…」
絶妙に気まずい雰囲気が漂うオープンしたばかりの『赤裸々の湯』に、相変わらず空気の読めない三姉妹の末っ子カイルがヒメとラビタスが放つ緊張の糸を一瞬で切断してきた。
「二人とも顔真っ赤だよ?もしかしてのぼせちゃった?」
『イラッ!!』
「いや!お前達のせいだろ!!」
意図的なのか?無意識なのか?空気の読めないカイルの発言に、初めて意見が一致したラビタスとヒメは二人に茶々を入れるカイルにツッコミを入れた。
「いやーん!セネ姐〜二人がいじめる〜」
ラビタスとヒメに当時に威圧されたカイルは半泣き状態で3人の言動を静観していたセネに助けを求めた。
「ふぅ〜。カイル!あなたはいつも一言余計なのよ…ラー様・ヒメお姉様!私からもカイルの無礼を謝らせてもらいます。すみませんでした…」
『ペッコリ』
「ま〜セネがそこまで言うのなら、一旦ここはセネの顔に免じてカイルを許してあげよう!な!ヒメ!!」
ラビタスとヒメに対して深々と頭を下げるセネの姿勢にヒメだけは『コイツ、最初はカイルと一緒になって悪ノリしていたくせにカイルがやり過ぎた途端、妹を売って自分だけいいヤツみたいに自分を演出している!コイツは相当な腹黒女に違いない』っと心の中でセネの腹黒さに恐怖を覚えていた。
「ま〜私は、最初も今もこの子達には対して怒りの感情は無いの!だから許すも許さないも無いわ!」
(なんかヒメって俺にだけ厳しくないか?)
ラビタスは、自身に対してのヒメの対応とそれ以外の人物への対応の違いに心を揺さぶられながらも、ひとまず女子3人の仲が良さそうで一安心していた。
「所で、セネ!…一つ疑問があるの?…何でこんな荒ぽいことをしてまで私をこの場所に連れてきたの?やってる事があなたのキャラと反していると思うの?」
ヒメは改めて、普段から冷静なセネがわんぱくなカイルと一緒になってヒメをこの大浴場へ連れ出した理由がずっと気になっていたのだった。
「あ!?そうでした!そうでした!大事な事を言い忘れていました!何故私たちが無理やりヒメお姉様をこの大浴場へ連れ出した本当の理由は…」
「理由は…?」
「それは、お二人が異世界人である事が関係しています!」
「…あ!?そう言えば今の私って異世界人だったわね」
「そうです!そもそもこの世界のお二人は、魔人族と呼ばれる珍しい種族。複雑なヒメお姉様の種族は、一旦魔人族として説明させて貰います。そんな珍しい魔人族の体に何故か異世界から来た転生者の魂が宿ってしまったのです…そんな謎が多い異世界転生についてとても興味が湧いた我々兄弟は、昨夜モスク城の図書館で異世界人について調べてみた所、異世界人の情報は一切存在しませんでした…その結果、私達はこの国でお二人が異世界人である事を隠す必要があると判断しました。」
「なるほど、俺の部屋は図書館の隣…だからお前達は調べ物をした帰りに俺の部屋に立ち寄ってそのまま俺と添い寝する事になるのか」
「なるほど…じゃ無いわよ!!大事なのは、異世界人が誕生した事がこの世界ではありえない事って話でしょ!」
ラビタスの突飛な発言が炸裂した所で、ツッコミ役が板に付いたヒメが全員の会話をうまく捌きながら、自身の推理と彼女らの行動の真意が同じかどうかをセネに問いかけた。
「ゴッホん!きっとあなた達は私が異世界人である事をベラベラと周りに喋り出す前に、この世界の住人の耳が届かないこの場所で事実を伝えるために私を無理やり拉致した…そうね!?」
「さすが!ヒメお姉様!よ!ラビタス三姉妹の頭脳!名探偵!」
「ははぁ…アンタって随分古いタイプの煽り方するのね…まぁいいわ!その事なら心配いらないわ!今の私は、この世界の住人である事を一旦飲み込んでいるわ。だから無闇にこの世界の秩序を壊す事は考えていないわ!」
「そう…だから決めたわ…今から私たち二人が異世界人である事はここにいる四人だけの秘密にするわ!いいわね…アンタ達!」
「おう!」「はい!」「わーい!四人だけの秘密〜」
ヒメの『秘密の共有宣言』により、この場にいる四人は同じ秘密を共有する同志である事を確認し合った。
そんな中、クール担当のセネが何やら神妙な面持ちでヒメの目の前にそっと近づいて来た。
「そう言えば、ヒメお姉様?先程私の事をアナタではなく『セネ』とお呼びになられましたね?」
「な…何よ急に…まぁ、言ったけど、何か文句でもあるの?」
突如、ヒメに対して不気味な対応を見せるセネに色んな意味で恐怖を覚えていたヒメは、彼女と一瞬距離を空けると恐る恐る彼女の回答に耳を澄ました。
「もしかして…私達二人とヒメお姉様の距離は縮まったんですか?…あと、先程も私達姉妹がこの場所ではしゃぎ過ぎた事をラー様に怒られていた時、ヒメお姉様は迷わず私達を庇って下さいましたし…」
「え…そんな事気にしていたの?」(…そうか!この子達は本当に私と仲良くなりたいんだ!ちょっと無茶苦茶なスキンシップを仕掛けてくる子達だけど、根は真面目だし…何より二人とも可愛い…よし決めたわ!!)
ー セネとカイルの姉妹は純粋にヒメと仲良くなりたかったのであった。ヒメが自分達の事を擁護してくれた事・自分の名前を呼んでもらった事に対して彼女達は心の底から嬉しかった。その結果、セネはヒメの言動の変化の理由が無性に気になってしまった。そして、気づいた時には無意識にヒメの前に立ち、自身の素直な気持ちをヒメに吐露していたのであった。
セネから発せられた純粋な気持ちが、心に闇を抱えていたヒメの心を明るく照らしてくれた。
その結果…ヒメはある決断をした。
「しょうがないわね〜ラビタス三姉妹って名前は絶対に認めないけど、セネとカイルとなら喜んで普通の三姉妹になってあげてもいいわ!」
「…」『ジーーン』
「や…やったーーー!!」
正式に三姉妹の結成を了承したヒメの発言を聞き飛び上がるほど喜んだセネとカイルは、喜びを爆発させる様に温泉に浸かるヒメの体へ飛びついていった。
「ちょっとアンタ達!色んなものが当たってるわ!それに、こんな事ぐらいで抱きついてこないでよね〜」
ラビタスは、言葉に多少の棘がありつつもセネとカイルの喜んでいる表情を目の当たりにし、ヒメが心の底から笑顔を振り撒いている様に思えた。
そんな中…三姉妹の和気藹々とした雰囲気を自らぶち壊すセネとカイルの行き過ぎたスキンシップが今まさに起ころうとしていた…
次回 ドタバタ温泉録クライマックス!