ノイジーマイノリティー
「イテテ…」
ここモスク城の一室に、この国の王であるラビタスが自身の左頬を氷で冷やしながら目の前で不貞腐れている一人の女性に事の発端を説明し始めた。
「だから〜ヒメ!信じてくれよ!俺は何もやましい事はしていないんだ!信じてくれ!」
『ピックっ』
ラビタスの弁明を腕を組みながら不機嫌そうに彼の話を聞いていたヒメが、この出来事の当事者と考えられるラビタスの言い訳?を聞いた上で彼の釈明を切り捨てた。
「別に私はあんたが誰と一夜を共にしようと知った事はないんだけど、その善人ずらした言動と今あんたの身の回りに起きているハーレムみたいな現象との辻褄が合わなすぎてイライラしているだけ!」
ヒメの指摘通り、先程までラビタスが寝ていたベットの上にはセクシーな寝巻きを身に纏ったRG・ゴーレムの『セネ』と『カイル』が無防備な姿で横たわっていた。
「き…きっとこの二人が勝手に俺の部屋へ忍び込んで、俺のベットに入り込んでいただけなんだ!信じてくれ!俺は悪くない!!」
ヒメに対して何回も頭を下げ必死に釈明するラビタスの姿を目の当たりにしたヒメは、一旦その握っていた拳を解くと今度はベットに寝そべる二人のRG・ゴーレムに自分達の行動の真意を問いただした。
「こいつはそう言ってるけど、そこのエロそうなあんた達の目的は何?」
ヒメの問いかけにRG・ゴーレムのクール担当の『セネ』が自分達が行った行動の真意を真顔で淡々と語り出した。
「では…代表しては私からこの様な事態が発生してしまった経緯を説明させてもらいます…そう!これは全て我らの主人であるラビタス様が望んでいた事です」
『!?!?』
「や…やっぱりそうだったんじゃない!?あんた!本当にペテン師ね!」
セネの発言を聞いたヒメは、一度解き放ったその拳をもう一度強く握り返し、その拳をラビタスに突きつけた。
「ち…違うんだ。全くそんな事、命令していない!…おいセネ!?お前一体何を言い出すんだ!?」
焦るラビタスを尻目に事を荒げている実感のないセネは、自分達の存在とヒメとの関係性・ラビタスが心に秘めていた願望を淡々とヒメに説明し始めた。
「そう言えば挨拶がまだでしたわね!ヒメお姉様!」
「はぁ?なに言ってんの?私に妹はいないわよ!?」
「まぁ聞いて下さい。私の名前は『セネ』。そこにいる小さいのが末っ子の『カイル』です。 私たちは二人はヒメお姉様が誕生してから1ヶ月後に生まれた新参者で、ヒメお姉様が私達を存じ上げないのも当然です。 ですが、私たち三姉妹は全員ラー様の魔力から誕生しているのは真実です。 故に我々3人はラビタス三姉妹と呼ばれて当然なのです。 いや呼んでほしい!!」
「はぁ?意味わかんないんだけど?」
するとセネの熱弁を聞いていた小柄なRG・ゴーレムの『カイル』がセネに同調する様に、腕を組みながら険しい表情を見せるヒメに擦り寄りながら直談判をしてきた。
「ヒメ姐〜!僕からも頼むよ!僕たちと姉妹になってよ!これは僕たちの夢なんだ!」
「ちょっとアンタ!離れなさいよ!何でそんなに三姉妹を押し売りしてくるの!?何が目的?」
クールそうな見た目と反して熱くなるとオタク気質が顔を覗かせるセネや、人懐っこく人間味があるカイルの姿を目の当たりにしたヒメは、『この際、三姉妹になるのも悪くないかも』と一瞬頭をよぎった。しかし、このまま話をすり替える事は良くないと判断し、ヒメはもう一度話を元に戻した。
「アンタ達、一回落ち着いて!!話がズレすぎよ!三姉妹を名乗る・名乗らないじゃなくて、もっと大事な話があるでしょ!?」
ついつい話に熱が入り話が脱線してしまったセネは一旦正気に戻り、もう一度話を本題に戻した。
『ゴッほん!すみません!では、話を元に戻しましょう。我々3人はラビタス様から生まれた存在…しかし、ヒメお姉様とRG・ゴーレムである私達には決定的な違いがあるます。それは、私達がラー様の体の一部から誕生したラビタス様の分身である事です」
『!?』
「あなた達って本当にコイツから生まれたのね!なんか不気味ね!」
ヒメは、セネの説明を聞いた上で反射的に苦い顔を彼女らに向けていた。
「お言葉ですがヒメお姉様!この世界では全く不気味な事ではありませんよ!ラー様や他の魔王を名乗る魔人族はこの世界に存在する神々と同じく生命を誕生させる能力を待ち合わせているのです。それはこの世界の生物の中でとても貴重な能力なのです」
「ふーん!いまいち納得出来ないけど、凄い力を使って誕生したのがあなた達なのね?」
「その通りです。そんな分身体である私達は、ラー様の分身体故にラー様の考えを理解し、それを実行に移す事が何よりも生きる喜びなのです」
「…」
「なるほどね! ほーら!この子の言う通りじゃない。アンタが実際言葉にしなくてもこの子らはアンタが考えそうな事やあんたが喜びそうな事を読解してあんたの為に行動に移したのよ!その答えが『添い寝よ』よ!そうよね!?」
「その通りです。流石ですお姉様」
ラビタスを崇拝するはずのセネがラビタスと対立するはずのヒメの推測を認めた事で、ラビタスに暴力を振るったはずのヒメの行動が何故か肯定されてしまった。
「そんな紳士の皮を被ったムッツリなアンタは私に殴られても文句は言えないのよ!分かったわね!!」
「そ!そんな〜」
ラビタスは、お節介なセネの助言も相まって最終的にヒメに一方的に論破される形で今回の揉め事は収束を迎えた。
ー 一方ラビタスがヒメに殴られた時の衝撃音を聞き付け、この国の大臣でもあり国王兼魔王のラビタスのお世話係でもあるチブーが主人であるラビタス危険を察知し、衝撃音が発生した寝室へ血相を変えて乗り込んできた。
『バッタン!』
「ラビタス様〜どうかなさいましたか!?…はて?一体なにが起きているのか?」
血相を変えて寝室へ侵入したチブーは、予想だにしなかったラビタスの姿を目の当たりにした。それは国王であるラビタスが複数の女性に囲まれながら、一人の女性に対して頭を下げるといったカオスな状況を目の当たりにしてしまった。
「こ…これは一体?…ん?ヒメ様?…おぉ!ヒメ様ではありませんか?お目覚めになられたのですね?本当によかったですじゃ!」
この国で長年、様々なトラブルを目の当たりにしてきたチブーでさえも国王であるラビタスが一人の女性に頭が上がらないといった状況に一瞬動揺を隠せなかったが、その頭を下げる相手がトラブルメーカーであるヒメである事を認識すると直ぐにこのカオスな状況を飲み込み、国王であるラビタスが全力で頭を下げている状況を一旦見なかった事にした…
そして、頭を下げるラビタスを一回無視し、すぐさま復活したヒメを祝福した。
「ん?あなたは確か…そう!爺ね!?この前は暴れて悪かったね。ごめんなさい…」
「お〜!ヒメ様直々に私に謝罪の言葉が頂けるなど、身に余る光景ですじゃ! ラビタス様!ヒメ様が優しい方でよかったですな!ははは!!」
予想外のヒメの謝罪に、驚きつつもヒメのサッパリとした性格に爺は一瞬でヒメの虜になってしまった。
「おい!この光景を見て、よくヒメ側につけるな爺は!?」
「いえいえ。私は常にラビタス様の味方でございますよ。ほっほっほ…」
「本当か?なんか俺だけ仲間はずれじゃない?」
『ハハッはは』
ー この場にいるヒメ以外の全ての者は全員ラビタスを崇拝している。しかし、何故かラビタスに否定的なヒメに対して文句を言う者は一人もいなかった。
ヒメには、皆を引き助けるカリスマ性が備わっていた。そんな彼女は転生前の世界でメジャーデビューが決まる程のカリスマアイドルであった。そんなヒメのカリスマ性は異世界に転生しても尚輝きを放っていた。
一方のラビタスといえば、この世界に転生する前の人格はというと『ただの根暗な陰キャ』でしかなかった。何より人前に立ち、何かを発表する事など一切行ってこなかった。その為、大衆慣れしているヒメの『人の心を掴む力』にラビタスは素直に羨ましかった…
そんな中、ヒメが放つ言葉の説得力に皆が魅了されていると、爺であるチブーがフッとある事を思い出した。
「そうじゃ!ラビタス様!貴方様にご報告がありました!」
「ん?爺、『ヒメが目を覚ました』以外に俺に報告する事なんてあったか?」
「覚えていらっしゃらないのですか?お風呂ですよ!お・ふ・ろ」
「あ〜風呂か!そう言えば俺が復活してから2番目くらいに爺にお願いしていた巨大な風呂場の建設の件か!?」
『ピック!!』
「ね〜ラビ様そのお風呂って一旦なのなの?」
お風呂に関して予備知識の全くないRG・ゴーレムの二人の内、カイルが真っ先にラビタスに質問を投げかけた。
「そっかお前達はお風呂の事知らないのか。じゃあ俺が教えてあげるよ。お風呂って言うのは、身体の洗浄や温浴を目的とした設備の事だよ」
「ふーんよく分かんないけど、この国にはその設備がなかったの?」
「実はそれに近い物は存在したんだ!それが温泉だ!」
『ピックピック!!』
「お…温泉あるんだ…」
実はその場にいた誰よりもヒメが一番『お風呂』や『温泉』といったワードに真っ先に反応を示した。
「お!ヒメも温泉に興味あるのか?実はこの地帝国タイタンには温泉が沸き出ているんだ。何よりこの国は地底に存在するから、地上に居るよりも温泉の元になる源泉が見つかりやすいんだってさ!でも源泉だけじゃ温泉とは言えないから、結構前から源泉を利用した風呂場の建設を爺にお願いしていたんだった!」
「かなり無茶な御依頼でしたが、やっと形にする事ができました」
「悪い悪い!源泉をわざわざこの城にまで伸ばして、それを利用したお風呂を設計させたのは本当に無茶振りでしかなかったよな!ありがとな爺」
依頼していたお風呂件を一切忘れていたとは言え、改めてお風呂の設計の任務を全うしてくれた爺に対して主人であるラビタスは最上級の感謝をチブーに伝えた。
「その一言で救われますよ。それもこれもラビタス様のため。この国の住人は温泉という存在は認識していたものの、殆どの住人は温泉に興味の無い魔物ばかり。そんな魔物達を先導してやっとの思いで、お風呂の設備を完成させたのは全てラビタス様のため。どうぞ一番風呂を満喫してくださいまし!!」
「そうかそうか!そんな思いでこの城の設備を整えてくれたのか…最高に嬉しいよ爺!じゃあ!その言葉に甘えて、早速一番風呂を満喫させて貰おうかな!!」
ー ヒメとの蟠りやRG・ゴーレムであるセネとカイルの紹介がひと段落した後、ラビタスはヒメに殴られた頬の件を水に流す意味も兼ねてお風呂に入り気持ちをリセットする事にした。
爺に連れられて新設されたお風呂場に向かうラビタスの背中を眺めながら、RG・ゴーレムの二人が何やらヒソヒソと良からぬ企みを練り始めていた。
そして、二人のその企みを遠目で眺めていたヒメは、まさかその企みの矛先が自分にも向けられているとは思いもしなかった…
<次回>お風呂場で大乱闘?鼻血でショック死?裸の付き合いはいいもんだ!!
乞うご期待