LOVE and暴力
魔王ラビタスは、二人の女性型ゴーレム『セネ』と『カイル』を引き連れ、障害物も何もないだだっ広い広場『名もない荒野』に彼女達を連れ出した…
「よし…何も無いこの場所なら、いくら暴れても誰にも迷惑がかかりそうもないな…よし!早速この場所で戦闘訓練を実施しようか?」
魔王ラビタスは、生まれたばかりの彼女らがどのくらい自分達の力を制御出来るのか知っておく必要があった。 その理由は、ラビタスは自身が最初に製作した新種のゴーレム『ラビ・ゴーレムのヒメ』が自身の強過ぎる魔力を制御出来ずに無意識で破壊行動を繰り返してしまったのだ。 その結果、無意識に全ての魔力を使い果たしたヒメはその反動により意識を失い、今もモスク城の一室で眠り続けているのだ…
ラビタスは、今現在も眠り続けているヒメの二の舞をRG・ゴーレムの二人にさせない為にも二人の潜在能力や魔力耐性を早急に確認する必要があった。
そんなラビタスの真意とは裏腹に、RG・ゴーレムの『カイル』が緊張感のない一言をラビタスに放った。
「ね〜ラビ様!?ついさっき可愛い洋服を選んだばっかりなのに、この場所で戦闘訓練をしたら可愛い洋服ちゃんが埃まみれになっちゃうじゃん?」
低身長のRG・ゴーレム『カイル』が頬を膨らませ自身の洋服が汚れる事を本気で嫌がっていた。
「カイル!わがまま言わないの!せっかくラー様が私達に構ってくださるのに、ラー様を困らす様な事を言うんじゃありません!」
服が汚れる事を嫌がるカイルを高身長のRG・ゴーレムの『セネ』が大人の対応で妹のカイルを宥めていた。
「でもさ〜セネ姐も洋服が汚れるの嫌でしょ?」
「………!」「……!!…」
軽い言い争いを起こしていた二人に対して、二人の主人であるラビタスはどうやって女の子達の喧嘩の仲裁をするか本気で悩んでいた。
(ど…どうしよう?女性の同士の喧嘩ってどうやって止めれば良いんだろう…そもそもの俺は、複数人の女性と同時に会話するのが苦手なんだった…)
ー 魔王ラビタスは転生前の世界では、30歳過ぎまで女性に縁のない生活を送っていた。しかし、そんな人間だったラビタスは30歳を過ぎた頃から突如、結婚願望が高まりだしたのであった。 結婚への期待値が高かったラビタスは、婚活を始めてから何故か女性に振られ続けていた… そう!彼は極度の面食いであったのだ!
理想が高過ぎるが故に、狙った女性は全て一般的に美人のみ。結果的に美人にフラレ続けたラビタスは、収入・身長・顔に至るまで普通以下…自身が好意を寄せた殆どの女性は、男性への理想が高く彼女達からは見向きもされなかった…
そんな女性選びが下手くそなラビタスが自分の願望を詰め込んで製作した美人かつ自由過ぎるRG・ゴーレムへの対応に困り果てていた…
(しょうがない…ここは自分の権力を最大限に発揮するしかない)
「なぁカイル!そんなにその服が気に入ったのであれば、爺に頼んでその洋服を調達する様に頼んでみるよ!」
『!?』
ラビタスの発言により先程まで言い争いを繰り広げていた二人の女性が一斉に喧嘩をする事をやめてくれた。
「本当!?ラー様?ありがとう!僕、嬉しいよ」
「…えー!?カイルだけずるいですわ!」
クールそうなセネもカイルを甘やかす発言をしたラビタスに声色を変え、甘えて見せた。
「勿論、セネの分の洋服も調達させるから安心してくれ」
「わーい!やった〜」
「ありがとうございます!ラー様!」
ラビタスの職権乱用と言わざるを得ない発言により一瞬で機嫌を取り戻した二人に、女性が機嫌を直してくれる方法を一つ学ぶ事が出来たラビタスであった。
「何はともあれ、まずはオレが作る泥人形と対決してもらおうか!」
やっと戦闘訓練を行う前の心の整理がついた二人に対してラビタスは、得意の泥魔法を使用し戦闘用の泥人形を2体を一瞬で作り上げた。
次の瞬間…
『ドカ!』『ドカ!』
『!?』
「ラー様!この泥人形、耐朽性無さすぎだよ〜」
「そうですね!私達姉妹には少々貧弱すぎたかもしれませんね!」
何と!ラビタスが製作した泥人形達をRG・ゴーレムの二人が目にも止まらぬスピードで破壊してしまったのだ。
「一体お前達何をしたんだ!」
『?』
「『何をしたって』泥魔法だよ!僕達はラー様の眷属なんだから泥魔法が扱えるなんて当たり前だよ」
カイルのあっけらかんとした態度にラビタスは、彼女らの謎行動の理由が余計分からなくなった。
「俺の眷属が泥魔法が扱えるのは知っていたけど、その泥魔法は誰も教えていないぞ!何で直ぐに扱えるだ?」
ラビタスの疑問に、常識人そうなセネが分かりやすく説明してくれた。
「カイル!説明を省き過ぎですよ!ラビタス様は無自覚で私達と意識を共有したのだから!」
「意識の共有…だと!?」
「はい!ラビ様が私達に自身の体の一部を溶け込ませた時に、ラビ様がこの世界に転生した時から私達を作るまでに至った経緯や感情。チブー様から泥魔法を教わったこと…何よりヒメお姉様に対しての感情も私達に流れ込んでいたのです」
「…そうだったのか!じゃあ全てお見通しって訳か…俺がお前達を作った理由も全て…」
(ヤバいな〜俺が二人を作った理由が不純すぎるから、絶対二人は俺の事嫌いになったに違いない)
セネ達を製作した理由がヒメに対する感情が純愛なのか確かめる為だとバレた時、ラビタスは二人が自分にどんな感情を抱いているのか気になってしまった。
「もしかして俺の事嫌いになった?」
「え!?何故ですか?」
「いや〜だってお前達はヒメと俺が結ばれなかった時の保険みたいな立場なんだぞ!そりゃあ嫌いになるだろ!俺の事!!」
「くだらない…」
「くだらない!?」
「…すみません!つい本音が!嫌だわ私ったら!…良いですか?ラビ様!私達二人は貴方様の何番目でも構いません!」
『!?』
「そもそも私達は貴方様を愛する為に生まれたきた存在。何より私達を制作する時にラビ様が私達に込めた願いや寝る間も惜しんで私達を作り上げてくださった事、全てが私達の誇りなのです。それを踏まえた上でより一層私達は貴方様を愛しているのです。ですから何番目とかは一切に気にしておりません」
「…」「本当にお見通しなんだな…」
ー RG・ゴーレムの二人はラビタスの体の一部を媒介に使用して誕生した為、ほぼラビタスの分身としてこの世に誕生したのであった。そのため、ラビタスがこの世界に転生してから二人のRG・ゴーレムを作り上げるまでの彼の心情・悩み・葛藤に至るまでラビタスの想いが全て彼女らに溶け込んでいたのだ。その為ラビタスになってからの彼の全てを彼女らは知り尽くしていたのだった。
(なるほど…俺自身を知り尽くしているセネ・カイルの二人と俺に全く興味のないヒメ…この対極の二組なら俺が求める『最愛』の答えを導き出してくれる筈…)
ラビタスは自身の分身でもあるRG・ゴーレムの二人が既にラビタスと同等の戦闘の知識を備えた状態で誕生した事を知る事になった。
一方、RG・ゴーレムのカイルはラビタスが自分達に寄せている不安材料を理解した上で主人であるラビタスにとある相談を持ち掛けた。
「ねぇラビ様!?この際だから僕達に本気を出させるくらいの強い奴と戦わせてよ!だって僕達が自分達の限界を引き出した時に僕達が壊れないか心配してるんでしょ!?それならいっそ最初っからヒメ姐も戦った強化型のN・ゴーレムと戦わせてよ!」
何を思ったかカイル達は、ラビタスが考える自分達RG・ゴーレムの不安材料を理解した上で主人であるラビタスが考えていた戦闘訓練のプランを覆してきた。
「N・ゴーレムと戦わせろって!おい!?もしお前達が自分達の体の限界超えた時、お前達は粉々になってしまうかも知れないんだぞ!よくそんなに平然として居られるな!本当に俺の気持ちが理解できているのか!?」
ラビタスの計画ではゆっくりと時間を掛けて二人の潜在能力と体の耐久性を見極めるつもりであったが、当の二人はというと今すぐに自分達の実力を魅せ、絶対に自分達は壊れないのだと主人であるラビタスに証明したがっていた。
「ラー様!もちろん私達姉妹は本気です!何より私達は絶対にラー様を悲しませたりしません」
「じゃあ、どうしてそんなに自信があるんだ?」
「…それは、私達がラー様の愛を肌で感じているからです」
「愛を肌で感じる…それ、どう言う意味なんだ?」
ラビタスはセネ達から発せられる大いなる自信がどこから湧き上がっているのか、無性に気になってしまった。
「その答えは、私達の体と記憶にあります。今まさに私達の体から途轍もない魔力が溢れ出しています。しかしその魔力は私達の支配下にあります。それを可能しているのが、ラー様が丹精込めて作り上げてくれたこの体のおかげなのです」
「何度も何度も魔力を圧縮して作り上げたこの体の中枢である泥の『骨』そして、そのまわりを取り巻く強くしなりのある細かい繊維で出来た泥の筋肉。その全てが私達の自信につながっているます。そう!貴方様は最強のゴーレムをお造りになられたのです」
セネが力説してくれた自分達の身体についての説明を聞いたラビタスは、自信が抱えていた全ての不安が一瞬で吹き飛んでしまった。
「そんなにすごいのか?俺が作ったお前達の体は!?」
「お世辞ではなく、本当に凄い事です」
「……」
「わかった!お前達がそこまで言うのならアームドゴーレムを出してやる。…絶対に負けるなよ!!」
ラビタスは軽く息を吐くと、自身の体から不思議な電波の様な魔力を送信した。
「よし!…いでよアームドゴーレム!!」
『パッチん!』
ラビタスは自身の指を鳴らし、地中の中で休息していた強化型N・ゴーレムであるアームドゴーレムをRG・ゴーレムの二人の前に呼び寄せた。
『ゴゴゴ…」
ヒメとの激闘後、傷だらけになったアームドゴーレムはマナが多く分布している地帝国タイタンの地面にその身を委ね、自身の傷に大地のマソを流し込み破損した部位を修復していたのであった。
「これが、アームドゴーレムか!?カッコいいね!セネ姐!」
「そうね!さすがラー様がお作りなられた強化型のN・ゴーレムね!」
完全復活を遂げたアームドゴーレムの威風堂々たる立ち姿を目の当たりしても尚、一切動揺を見せないセネとカイルに唯ならぬ大物感を感じ取るラビタスであった。
「相手にとって不足なしね!行くわよカイル!」
「了解!セネ姐!」
『ブシュ!ブシュ!!』
まず先制攻撃を仕掛けたのはセネとカイル。二人は得意に泥魔法を用いて中型の泥の玉を瞬時に作り上げ、巨大なアームドゴーレムへ向けて解き放った…
『カン…カンカン』
二人が放ったその泥魔法も分厚い鎧を纏ったアームドゴーレムには一切ダメージを与えることが出来なかった…
「やっぱり、あれぐらいの泥魔法じゃ傷一つ負わすことが出来ないわね…」
先制攻撃に失敗してしまったセネ達に今度は逆にアームドゴーレムが反撃を開始した。
『ドン!ドーーン!!』
何と!アームドゴーレムは某ロボットアニメ宛らに片腕から順に一本ずつ計2本の分厚い前腕部を噴出させ、RG・ゴーレムの二人に向けて発射した!!
『ドッカーん!!』
アームドゴーレムから噴出された2本の腕は、2体のRG・ゴーレムそれぞれに直撃し大きな爆発音と共に大きな砂煙を立て、近くで戦いを見届けていたラビタスを一瞬で絶望のどん底へと叩きつけた…
「そんなまさか!?…だから言わんこっちゃないんだ……」
「…ん?」
一瞬最悪の瞬間を想像してしまったラビタスであったが、砂煙が舞う場所をよくよく凝視してみるとそこにはアームドゴーレムのロケットパンチを間一髪で受け止めているセネとカイルの姿がそこにはあった。
『ぐぬぬ…』
「ちょっとラビ様!?勝手に殺さないでよね!?僕達はまだピンピンしてんだからね!」
「生きてる?…よかった!二人とも無事か!?」
二人のRG・ゴーレムは、アームドゴーレムの強力な一撃をそれぞれが違った方法でギリギリの状態で受け止めていた。
『ジリジリジリ…』
ラビタスはアームドゴーレム攻撃を現在進行形で受け止めている二人を注視してみると、カイルは大型の斧で・セネは水魔法で出来た巨大な盾で炎の様なエネルギーを放出しながら突っ込んでくるアームドゴーレムの巨大な腕を受け止めていた。
「…やっぱりだ!俺のイメージはちゃんと彼女らに組み込まれているんだ! カイルは接近戦が得意な戦士タイプ! セネは魔法を扱える賢者タイプ! 二人ともちゃんとアームドゴーレムの攻撃を持ち堪えている!」
ラビタスはRG・ゴーレムの二人を制作するにあたり彼女らの性格だけではなく、彼女らの戦闘タイプまで細かくイメージして制作していたのであった。そのため、彼女らは咄嗟に自分達の得意な戦闘方法でアームドゴーレムの攻撃に対応していたのであった。
ラビタスが自分が製作した二人に対して自画自賛している中、水魔法を使用しアームドゴーレムの攻撃を防いでいたセネが拮抗していた戦闘を打破して見せた。
「やっぱり、水魔法単体だけじゃ複数の魔法で構成された泥魔法よりもパワーが劣るわ…なら、これはどうかしら!?」
「喰らいなさい!プリテイダー!!」
セネがその泥魔法の名を叫ぶと防御の為に既に使用していた水の盾が一瞬で茶色く濁りだし、泥団子の様な球体に変貌を遂げた…
そして次の瞬間!
『バックッ!』
ー 丸い泥団子に一本の横線が生まれ、泥団子は『パカッと』半分に割れ巨大な上下の顎の造形に変化を遂げていた。
そんな巨大な顎は、瞬く間に隣接していたアームドゴーレムの腕をそのまま飲み込んでしまった!!
アームドゴーレムの腕を飲み込んだ『泥の顎』は、すぐにその形を縮小させ飴玉ほどの大きさにまで形を変化させ、そのまま地面転がり落ちると一瞬で地面に溶け込んでしまった。
一方、ラビタスも知らない強力な泥魔法でアームドゴーレムの攻撃を退けたセネとは違い、ひたすらに自慢のパワーでアームドゴーレムのロケットパンチの攻撃を耐え忍んでいるカイルの姿があった。
『ピキピキ…』
「え!?やだ〜この斧、結構気に入ってたのに〜もうこんなにボロボロじゃん!!」
カイルは自身の土魔法で製作した斧の耐久性がアームドゴーレムの攻撃により徐々に形態維持が困難な状態までダメージを受けてしまっていた。そして…次の瞬間!!
『バッキ!!』
「うそ…ぼ…僕のエリザベスが…エリザベスが〜」
なんと!!カイルはこの数秒間の戦闘の中で製作した武器に丁寧に名前を付けていたのであった。
「よくも…よくも、僕のエリザベスを!!許さないぞ!」
なんと怒りに震えるカイルはアームドゴーレムのロケットパンチを片手で受け止め、自身から湧き出る強大な魔力を解放させると、怒りが混ざったそのエネルギーを自身の右腕に集約させたのであった。
『ゴゴゴ…』
「これが死んだロミオの分だ!」
『ボッコ!』
『バキバキバキバキ…」
カイルが放った強力な一撃はアームドゴーレムのロケットパンチを粉々に破壊する程の威力を秘めていた。
「あれ?僕の武器の名前って、ロミオだっけ?エリザベスだっけ?…ま!どっちでもいいっか!!ははは…」
「…凄いな二人とも」
生まれたばかりとは思えない程の自由過ぎる二人の戦い方を目の当たりにしたラビタスは、自分がとんでもない生物を製作してしまったのだと改めて考えさせられていた。
『!?』
アームドゴーレムのロケットパンチをそれぞれ破壊することに成功し、浮かれ気分でいる二人に対してラビタスはすぐさま彼女らに迫る脅威を彼女らに忠告した。
「おい二人とも!アームドゴーレムはこんなもんじゃないぞ!良く見て見るんだ!」
ラビタスの忠告通り二人はその場で小刻みに震えるアームドゴーレムを漠然と眺めてみると…
『ガシガシガシ…』
『!?!?』
「腕が再生している…」
先程、強力なアームドゴーレムの両腕の破壊に成功したばかりの二人は、直ぐにその破壊した両腕が再生したことに驚きを隠せずにいた。そんな二人に対してこの世界の秩序を新たに学んだラビタスが、彼女らに事の経緯を説明してあげた。
「この前爺に教えてもらったんだが、この世界にはレベルと言う名の戦闘熟練度が存在するみたいなんだ。 戦闘を重ねるとその人物の戦闘熟練度が上がり、ある水準に達成した時にレベルが上がる。 レベルが上がった時にその人物のステータスやスキルが上昇するらしいんだ。 今のアームドゴーレムは前回のヒメとの戦闘でレベルが上がったみたいなんだ。 結果、レベルが上がった事によりアームドゴーレムの再生能力もレベルアップし、今までよりも再生スピードが向上したんだ」
ラビタスの口から明かされたアームドゴーレムの脅威的な再生スピードの秘密について聞かされたセネとカイルは、大分焦ったのか二人で緊急会議を行なっていた。
『ヒソヒソヒソ…』
「ふむふむ…それなら何とかなるかもね…さすがセネ姐!」
話は合いが解決したのか二人はヒソヒソ話をやめ、その場に佇んでいたアームドゴーレムと一旦距離を置いた。
次に彼女らは、お互いの泥魔法で武器を製作し始めた。カイルはもう一度巨大な斧、セネは大型の杖を一瞬で作り上げた。
すると二人は、アームドゴーレムと一定の距離を保ちながら中距離で攻撃を開始した。
「作戦会議…そして中距離攻撃…カイルは性格上相手に突っ込んでいくタイプの筈なのに今は全然大人しい。アイツら何の作戦を練ったんだ?」
ラビタスがある程度二組の戦闘を観察しているとRG・ゴーレムの二人の行動にある違和感を覚えた。
「持久戦が目的なのか?それともダメージを与えながら何かを狙っているのか?」
ー 数分後…
『ドン!ドーーン!!』
ラビタスが二組の戦いを見届けていると、アームドゴーレムがもう一度得意のロケットパンチでセネとカイルを攻撃し始めた。
『キッラン!』
次の瞬間、待ってましたと言わんばかりにセネとカイルが自身の瞳を輝かせながら、二人は自身の全力攻撃をアームドゴーレムのロケットパンチ目掛けて行なった。
『ドッカーン』
強大なエネルギー同士のぶつかり合いが大きな爆発音を発生させ、同時に大きな砂煙があたり一面を覆ってしまった。
「最初と同じ光景か?…いや…何か様子が違いそうだ。 流石に2回目は心配要らないな…同じシュチュエーションなら尚更だ」
一見、RG・ゴーレムの二人とアームドゴーレムの最初のぶつかり合いと同じシュチュエーションに思えた今回の衝突も、ラビタスには何か違った意味合いに感じ取れた。
「ん!?…『同じシュチュエーション』…そうか!あの二人これを狙っていたのか!」
ラビタスがセネとカイルの作戦に気が付いた時、砂煙の中から巨大な二つの魔力の放出を感じ取った。
そして…砂煙が晴れ、その中から見たことが無い鎧を纏ったカイルが姿を現した!
「レベルアップ完了ーーー!」
何と今度の二人は一瞬でアームドゴーレムのロケットパンチを破壊して見せた。
アームドゴーレムの腕を破壊した事によるレベルアップを確認するや否や能力上昇によりその膨れ上がった魔力を使いに自身を強化する鎧と武器を新たに製作し、そのままの勢いのままカイルはアームドゴーレムに突っ込んでいった。
「させないわ」
勿論アームドゴーレムも負けじとカイルの攻撃を迎撃するが、その迎撃を逆にセネが水魔法と泥魔法を同時に使用して
阻止してみせた。
『ガッツん』
カイルが自慢の斧による攻撃をアームドゴーレムの顔面に叩き込むと、その衝撃でアームドゴーレムが大きくグラついた。
「潰れなさい!ジュビタプ!!」
カイルの攻撃をまともに喰らい、たじろいだアームドゴーレムにセネが追撃の泥魔法を浴びせた。
セネの泥魔法による巨大な鉄球の様な泥団子が空中から地上のアームドゴーレムへ向けて一気に襲いかかっていった。
カイルとセネのコンビネーションにより完全に地面に倒れ込んでしまったアームドゴーレムへ、セネとカイルが互いに手のひらを合わせ闇魔法に似た性質の泥魔法を続けて解き放とうとしていた…
「これで終わりよ……ブラック・コロイド!!」
次の瞬間!!
「しゅーーりょーーー!」
ラビタスの終了という掛け声が当たり一面に響き渡った。
『キッキ〜』
「ちょっ!?ラビ様!?ここからがいい所なんだけど?」
主人であるラビタスの命令によりアームドゴーレムに仕掛けようとした攻撃に急ブレーキを掛けたセネとカイルは、一旦攻撃を諦めその場を収める事にした。
「もう十分だ!お前達の強さも潜在能力も十分理解出来た」
セネは、自分達の限界を突破する為に必要であった魔法『ブラック・コロイド』が不発に終わった事が納得いかず改めてラビタスに攻撃の中止させた真意を問いただした。
「ラー様!お言葉ですが、あの魔法が完成した時に初めて私達は自分達の限界を越える事ができたと思います。 その為この不完全な今の状態ではラー様が私たちに抱いていた『自分達の魔力で自分達が無事でいられるか?』の検証が出来ずに終わってしまいます」
ラビタスはニッコリと笑い、満足した顔でセネとカイルに戦闘訓練の中止を促した
「セネ…その事なんだが、もういいんだ」
「もういいですって…それは一体?」
「お前達はきっとこの先、自分達の魔力に押し潰される事はないよ。 その理由は、お前達が臨機応変に戦っていたことが最大の理由なんだ」
「お前達二人は自分達の立場が危うくなった時、瞬時に仲間と相談してその場の最善を見つけ出した。自分達の限界を知り、尚且つその先自分達の弱点の克服方法をあの一瞬で導き出した。 それはもう、俺が考える答えに辿り着いている証拠だよ」
「…ラビ様が考えるその答えとは一体何なのですか?」
「その答えは、無理しない事だよ」
「無理しないとは一体?」
「ちょっと話がズレるけど、俺には婆ちゃんがいてその婆ちゃんにスゲー長生きしてるんだ。 そんな婆ちゃんに長生きの秘訣を聞いたら、その答えが『無理しない』なんだってさ!俺はお前達に少しでも長生きして欲しんだ。 だから俺はお前達が自分達で考えて無理を通さなかった事が今回の戦闘訓練で垣間見る事が出来て嬉しかった。 だからきっとこの先もお前達は大丈夫だよ。絶対に自分達の魔力で壊れる事はないよ!」
何とセネとカイルが無意識にやっていた行動は、ラビタスにとっては正解の行動だったようだ。
「言っとくが、同じ種族でもあるアームゴーレムを無理に壊す必要はないんだ!たとえお前達がアイツより強くても、今後同じ仲間同士で壊し合う必要は一切ないからな!覚えていてくれ!!」
「はい」「は〜い」
セネとカイルはラビタスの説明を全て納得した上で、自分達がやりすぎた事を素直に反省した。
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ラビタス一行は戦闘訓練を行った広場でアームドゴーレムと別れた後、彼らの拠点であるモスク城へ戻りカイル達の汚れたよ服を取り替えるなどの身の回りの整理を行った後に3人仲良く夕食を取る事にした。
この3人での食事会はラビタスがこの世界へやって来て最初の複数人での食事会になった。そんな中、ラビタスは改めて気の合う家族や仲間がいる事の素晴らしさを気づく事になった。
その日の夜、ラビタスは事前にお世話係であるチブーに用意させておいたカイル達二人の新しい部屋を彼女らに紹介した。
「ここがお前達の部屋だ。一人一部屋用意しておいたから今後自由に使ってくれて構わないぞ」
普通の女性なら一人一部屋を用意されたなら誰もが喜ぶ筈であったが、ラビタスを崇拝する二人は違った。
「え〜ラビ様と同じ部屋がいいな」
「私も同感です。せめて寝る時だけでも一緒に寝させてもらえないですか?」
「おいおい!二人とも!そんな無茶振りをするんじゃないよ!さすがに女子二人と寝るなんて、そんなはしたない事俺には出来ないよ」
(ま、マジか!?それはそれで願ったり叶ったりだけど、今の俺は恥ずかしさのあまり心臓のドキドキで寝れやしないよ!!)
ラビタスは自分に対して積極的な女性に免疫が無く、とりあえず今は美人な二人になれるまではまだ一緒に寝る事を避けておこうと心に誓った。
ー そして次の日の朝、事件が起きた…
「…ん?誰かそこにいるのか?…ましかして!?ヒメ?…ヒメなのか!?やっと目が覚めたのか?よかった嬉しいよ!」
「………」
「ん!?どうかしかのか?」
「え?」
『ドッカーーん!!』
ー ラビタスが自身の部屋の開閉音で目が覚めた時、そこには1ヶ月の間一回も目覚めることの無かった『ヒメ』が突如目覚め、自身の目の前に立っていた。
しかし、そんなヒメとの再会はラビタスにとって激烈でしか無かった…
ヒメはラビタスの顔を見るや否やその白くてか細いその拳に自身の魔力を込め、強力な一撃をラビタスの顔面に喰らわしたのであった!!
ラビタスはヒメの激烈な一撃の影響でベットの上から吹っ飛び、部屋の壁にめり込んでしまった。
「何で…いつもこうなるの…」
「うぅ…」
そしてラビタスは、今日2回目の眠りにつく事になる…
<続く>