真実+信念=知恵
ー あなたには信念がありますか??
信念…それは、教理や思想に対して揺らぐ事のない心を指す…
そして…時に信念は争うを生み出す…
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ここは地帝国タイタン。この国の天井に固く閉ざされた地上への入り口…『デーモン・ロード』と呼ばれる巨大な扉が存在する…
このデーモンロードを超え、その先に待つ”真実”を目指す一人の少女がいた…
その少女は、がむしゃらに答えを求めていた…その先の”真実”がこの世界からの脱出を意味していると信じていた…
そして、少女は扉を抜けた先に存在する真実へと辿り着くため、この扉を破壊する事を願った…
そんな少女の名は『夢見 姫』ことラビ・ゴーレムのシス。
扉の前に立ち塞がり彼女の『家出』を阻止する為に奮闘する魔王ラビタスと今まさに信念のぶつかり合いを繰り広げていた…
『ドガ!ドカ!ドッカン!』
(シスの奴、何か吹っ切れた様子だな。攻撃に迷いがない… 先程までは、心の乱れが攻撃の精度を低下させていた… しかし今は、冷静に俺の急所を狙ってきている…きっとシスなりの答えが出たのであろう…けど参ったな…闘いが長期化したらきっと俺…彼女に殺されるかも…)
空中では、シスが地上にいるラビタスを殺傷の力の高い闇魔法で狙い撃ちにしようとしていた。
一方の地上にいるラビタスは、自身を攻撃するシスの安否に気を配りながらシスの攻撃を迎撃するしか他ならなかった。
(今の俺の目的は、シスを捕獲する事…何より俺はシスを無闇に傷つけたくは無い…けど…そんな悠長な事を考えている余裕はなさそうだ!シスは明らかに俺を行動不能にさせようとしている…そして、隙ができた時にデーモンロードをこじ開けて扉の先へ旅立とうとしている…)
『シュルシュル…』『ドカン!ドッカン!!』
シスの闇魔法を迎撃する為に、ラビタスは泥団子のような攻撃系の泥魔法を放ちシスの闇魔法にぶつけるが、強力なシスの闇魔法に飲み込まれ闇魔法の形を崩せないままラビタスの目の前に闇魔法が降り注いできた!
『くるり…くるり…』
シスの闇魔法を器用に回転しながら間一髪で避けるラビタスは、攻撃を避けながら今発生している戦いの状況を冷静に整理していた…
(シスは、空中で俺を見渡しながら隙を見てデーモンロードへ向かおうとしている…一方の俺はと言うと、空中にいるシスの手も足も出せない状況だ…)
(何よりデーモンゲートは天井にあるし、空を飛べるシスが圧倒的に有利…それに比べて俺はときたら、地上で這いつくばるしか出来ない…)
(この不利な状況を打破する為には、俺にしか出来ない特別な作戦でシスの意表をつくしか他ならない…一体どうすれば……)
「…」
「…俺にしか出来ない事…俺が作った国…物を想像する力……」
「…」
「そうだ!これだ!」
『ムクムクムクッ!!…』
何かを閃いたラビタスは、辺り一面に30体ほどの泥人形を一気に作成した。
「証拠にもなくまた泥人形?…そんな地上でしか動けない人形なんて、空を飛べる私には何の脅威でもないわ! …でもアイツがまた何か企んでそうだし、とりあえず全て破壊しとくわ!」
『ドドドド…』
冷静に戦場の状況判断をしたシスは、ひとまずラビタスが製作した泥人形を全て破壊する事を選択した。
「1体目…10体目…25体目……ん?…27体目から減らない…」
ラビタスが製作した泥人形30体の内3体だけが破壊せれずにその場に留まっていた…
「…ん?…普通の泥人形と何かが違う…あ!?…コイツら鎧を着てる!?」
ラビタスが製作した30体内3体の泥人形が頑丈そうな鎧を装備し、シスの闇魔法を自慢の盾で防いでいた。闇魔法を受けた土の盾はすぐにシスの闇魔法によって破壊せれてしまったが、ラビタスが用意した新たな装備品をもう一度手に取りシスの攻撃に備え、盾と槍構えた。
「まず一つ目の作戦…それは泥人形の強化!!」
「泥人形の鎧と装備品は泥魔法に含まれる水魔法の割合を少なくし、尚且つ鎧の強度を増すために泥魔法を圧縮して作った『泥の鎧』これは泥を圧縮して出来ている影響で硬さは鋼と同等! この強度ならシスの闇魔法でも何とか耐えられるはず!」
泥人形改め、泥兵士達が自慢の槍で空中に浮遊するシスに向けて槍を勢いよく投げ込み、シスへの反撃を開始した…
しかし、当のシスはと言うと泥兵士の攻撃を完全に無視する事を決断した。
「あぁあーめんどくさ!…でも、まぁいいわ!ここは無視して構わない…だって私の目的はアンタらじゃないし!」
『バッサーー』
翼の生えたシスは、泥兵士達の槍攻撃が届かない程の上空へ舞い上がり、そのままデーモン・ゲートへ触れるまでに接近していた…
『コン!コン!』
「だいぶ硬いわね!」
『グッ!』
「ダメだ…びくともしないわ……どうやら、全力を出すしか無いわね」
頑丈で分厚いその大きな扉を一切動かす事ができなかったシスは、本来予定していたデーモンゲートの破壊を実行に移す為に、彼女は自身に宿る魔力の全てこの分厚い扉にぶつけようと魔力を集中させた…
『グググ………』
「…もうすぐ完成するわ!これならきっとこのバカ頑丈な扉を破壊出来るはず!!」
シスの強大な魔法が完成しかけたその時に、地上からとある物体がシスに向かって放たれた!
『ドッカンーーー!!』
次の瞬間!地上から放たれた謎の黒い球が空中の浮遊するシスに直撃した。
『ヒューーん』
謎の黒い球をモロに食らったシスは、若干黒焦げになりながら空中から地上に向かって急落下していった…
『ヒュー……ガッシリ!』
『?!?』
空から落ちきたシスを地上で待ち構えていたラビタスが見事に彼女を地上でキャッチした!
「…ごめんシス!でもこの方法しか無かったんだ!」
「…な…ナニコレ?」
ラビタスに優しく抱き抱えられたシスは、項垂れながらも目の前にどっしり佇む巨大な戦車に驚かせかれた。
「初めて見た…これ戦車?いつの間にこんな凄いものを…」
戦車?から放たれた巨大な弾丸?にかなりのダメージを喰らってしまったシスであったが、何とか一人で立ち上がるほどの体力は残っていた。
そして、ゆっくりと立ち上がったシスに対して、ラビタスが自身で作り上げた戦車について説明を行った。
「君はどう見ても俺より強い…けれど、戦闘に対してはまだまだ素人。必ず戦闘の途中で集中力が切れると思った…だから、わざと君をデーモンゲートまで近づけさせて扉に意識を向かせた。 そして、その間に天井まで特製の泥団子をとど貸すだけのパワーが出る大砲付きの戦車を造形したんだ!」
「最初の槍攻撃も私の意識を扉に向けるため放たせたのね…やられたわ…さすが42歳…」
「おい!本当の年齢を言うんじゃないよ…それにしてもよく覚えてたね!俺の年齢」
「…ちょうど私の熱狂的なファンに42歳のおっさんが居たから、だからアンタの年齢も覚えてた…そう…熱狂的なファン…」
「…」
「うっ…」
「どうしたんだ?泥団の衝撃でまだ体が痛むのか?」
『キッーーん!!』
突如、頭を抑えその場に倒れ込むシス…シスが苦しみ出して10秒が経過した頃、シスは突然その場から立ち上がり涙を流しながらラビタスに向けて自身がこの世界にやって来た経緯を語り始めた…
「大丈夫か!?一体何が起きたんだ!?」
「…思い出した…全て思い出したわ!」
「…思い出した!?一体何思い出したんだ?」
「この世界…本当に夢じゃ無いんだね…」
「え?急にどうした?何を思い出したんだ?」
「思い出したの…私がこの世界に転生した原因…私…死んだんだね」
「…思い出したんだな」
「…」
「あぁ…その通りだ…」
「ハァ…ハァ…アンタ優しいんだね…でも、その優しさだけじゃ現実を突き付けられた私の心は救えないよ…うぅ…そうだ…そんな優しいアンタに私が死んだ原因を教えてあげるよ…」
「…………」
ー シスがこの世界に転生した原因がラビタスと同じ死であり、何より自分が死んでしまったと言う現実から自分自身を守る為に一時的にその記憶を封印していたシスは、ラビタスとの会話の中で現実世界で自身の身に起きた悲劇を完全に思い出した。 そして心も体も満身創痍の中、現実世界で起きた自分自身の悲劇をラビタスに語り始めた…
「これが私の真実…」
「そんな…なんて残酷な事を…」
シスから語られた自身の死の真相はとても残酷で、第三者であるラビタスにもシスの怒りと悲しみが乗ったその言葉一つ一つが胸に突き刺さった…
ー 現実世界での『夢見 姫』は12歳からアイドルを始めた。元々はアイドルに一切興味が無かったが女手一つで育ててくれた母親の金銭面の苦労を軽減させる為に自分で考え大手芸能事務所が主催するアイドルオーディションへ母親に黙って履歴書を送った…
結果は満場一致でグランプリを勝ち取った。 彼女自身もこの勢いで一気にスターダムへと駆け巡るものだと思っていた…
しかし、現実はそう上手くいくわけでは無かった…
その華やかな見た目とスター性は元々彼女に備わっていたが、事務所の方針や彼女のアイドルとしてのスキル不足が原因でデビューまでに5年の月日が掛かってしまった…
彼女はデビューまでの5年間、先の見えない不安定と戦っていた…『自分はどこまで努力するべ報われるのか』『事務所は本当に自分をトップアイドルにさせる気があるのか』様々な葛藤の末、彼女は一つの答えを出した…
それは、SNSでありのままの自分を発信する事だった。
彼女は全てを曝け出し、隠していた本当の自分を全世界の人々に発信した。時に彼女の行き過ぎた発言は世間からは賛否が分かれたが彼女を支持する同世代の支持もあり彼女は瞬く間にスター候補生として世の中に知れ渡った…それが良くも悪くも彼女の運命を大きく狂わすことになる。
その結果、彼女は自身のセルフプロデュースによりSNSでバズり、業界に影響力を持つ有名プロデューサーの目に留まりメジャーデビューを勝ち取ったのであった。そして事件が起きた…
CDデビュー当日…CD発売イベントの会場へ向かう矢先に自宅の前で彼女が猫を被っていた時の熱狂的ファンに折りたたみ式のバタフライナイフで刺され殺されてしまった…
そして、目を覚ました時にはこの世界でラビタスが製作したラビ・ゴーレムの『シス』として生まれ変わっていた。
ー 彼女は、SNSで自身を曝け出すが余り自身の住所をある一人の熱狂的なファンに特定されてしまった。
その熱狂的ファンは彼女の古くからのファンで今現在SNSで全てを曝け出し、別人となった彼女を面白く思っていなかった…
その熱狂的ファンは彼女の全てを知りたかったわけでは無かった…自分が理想としていた彼女が自分を曝け出す事で彼が思い描いたアイドル像が全て崩れ落ち、彼が理想としていた『夢見 姫』は一瞬で崩れ去った…
その時、彼の中で何かが弾け彼女への愛が歪んだ愛へと変貌を遂げてしまった…
結果…その熱狂的ファンに彼女の自宅が突き止められ、『夢見 姫』は夢半ばで現実世界から別れを告げた…
シスは全てを語り終える頃には、彼女の周りに謎の黒いオーラが出現していた…
そんな黒いオーラは、彼女の心の闇と共鳴し全ての物の侵入者を拒んでいた。魔王であるラビタスでさえもこの黒いオーラの中で涙を流すシスの元へ飛び込む事が出来ずにいた…
そして、シスの心の闇が彼女の精神を飲み込んだその時…彼女の周りを囲っていた黒いオーラがシスの体の中に流れ込んだ!!
「まるで悪魔だ…」
黒いオーラと一つになったシスの見た目は、先ほどまで翼が生えた不完全な状態から頭部に二本の鋭いツノとお尻から黒くて長い尻尾を垂らした悪魔のような見た目に変貌遂げていた。
「おい!シス!しっかりしろ…」
『………』
「ダメだ…俺の言葉が通じない!…きっと、シスに眠る強大な闇の力が彼女の突発的な怒りと悲しみの感情と共鳴して暴走したんだ…」
『ドカドカ!ドカーん!!』
暴走する闇魔法の力に意識を奪われ、目の前にある全ても物を破壊するシスに対してラビタスは何も出来ずにその場で立ち尽くす事しか出来ずにいた…
「ダメだ…もう誰も暴走したシスを止めれるヤツは居ない…無論この俺でさえも…」
自身の限界を悟りその場で項垂れるラビタスの目の前に彼のお世話係であるチブーが遅れてこの場所に姿を現した。
「ラビタス様〜これは一体?何が起こったのですか?」
ラビタスは、どうしようも出来ずに項垂れる自分に駆け寄ったチブーに、自分とシスに何が起きたのかを断片的に説明をした。
「なるほど…そんな事が!でも大丈夫ですぞ!」
突然現れ、現状をほとんど理解していない爺の軽めの『大丈夫』にラビタスは無性に腹が立った。
「一体に何が大丈夫だって言うんだ!!明らかにこの国で一番強いシスが今まさにこの国を滅ぼそうと暴れ回っている…そんなこの最悪な状況でよく『大丈夫ですぞ!』なんて冷静でいられるよな!爺は!」
「…」
「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、ラビタス様は間違っております」
「お…俺が間違っている…どこをどう見て間違っていると思うんだ」
意外過ぎた爺のまっすぐな瞳と真っ直ぐな言葉にラビタスは少し面食らってしまった。
「周りをよく見渡してくだされ!!」
「…シスが、闇魔法でそこら中を破壊しまくっている…そして今まさにデーモンゲートを破壊しようと飛び立っていった…」
「それだけですか?」
「…」
『!?』「…俺が作った泥兵士三体と巨大な戦車が一台…」
「そう!それですじゃ!泥人形の上位種!泥兵士と実物と大差の無い戦車!この2種類をこの短時間で製作した貴方はまさしく魔王ラビタス様!」
「何よりこの短時間で貴方様は昔の力を取り戻しつつあります!そして今のラビタス様のお力なら魔人化したシス様以上のお力を発揮する事が可能ですじゃ」
「この2種類を作り出す事ってそんなに凄い事だったのか…でもどうやって今のシスを止めるんだ?」
「それは…この三体の泥兵士と泥戦車を融合させ、進化したノーマル(N)・ゴーレムを作れば良いのです!」
「進化したNゴーレムだって…本当にそんな事が出来るのか?」
「無論可能です!このに種類を制作した時のお気持ちを思い出して、Nゴーレムを制作してみてはいかがですか?」
「あの時の気持ち…それは、シスを救ってあげたいと願った時…そうか!?分かったぞ!魔力に願いを込めればいいんだ!?」
「そうか…不純でもいいんだ! 俺の信念が魔力に想像力を与えるんだ!よし!それなら上手くいく!俺が思い描く最強の巨人が誕生する!!」
一方の混乱状態の覚醒したシスはと言うと、何度も何度も闇魔法でデーモンゲートに攻撃を仕掛ける…しかし、それでもとても頑丈な扉を破壊するまでには至っていなかった…
『!?』
扉の破壊を続けるシスは地上に誕生したとある強大な生命体の存在を無意識に感じ取っていた。
「うゥーーっ」
覚醒したシスの目線の先には、頑丈そうな鎧を纏った巨大な泥人形『アームドゴーレム』が堂々と降臨していた。
『ビビビ…ドッカン!!』
早速、アームドゴーレムから巨大な魔力レーザー砲が放たれ、空中に漂う覚醒シスに強烈な一撃を喰らわした…
そんなアームドゴーレムの左肩には巨大なキャノン砲が装備され、もう一度覚醒シスの攻撃を仕掛ける為にエネルギーのチャージを開始した。
流石の覚醒シスも、ゴーレムの攻撃をこれ以上喰らうわけにはいかないと判断し、空中から急降下しアームドゴーレムに体当たりを仕掛けた。
『バッチん!!』
『ドカ!ドカ!ドッカーーーン』
「……」
そんなシスとゴーレムの戦いを地上の離れていた所で観察していたラビタスはデーモン・ゲートについてチブーに説明を求めていた。
「なぁ爺!あの馬鹿でかい扉って本当に地上に通じているのか?シスの奴は、直感であの扉の先にこの世界では無い別の世界に通じているって信じていたけど?本当の所、何があるんだ?」
「別の世界…はて?我々は何回もあの扉を通って地上へ偵察に参っていましたから、そのような事は無いと断言出来ますが…広い意味で扉の先の地上の何処かに異世界へ行く扉があるのかもしれませんな?そんなに地上へ行きたいのなら、今度連れて行ってあげたら良いのでは?」
「なるほど…その考えなら、シスの言っている事の辻褄が合うな!」
(よくよく考えてみたら、シスも何でそんなに焦っていたのか…たとえ俺たちが魔物側であったとしても正直に自分の気持ちを伝えれば、理解し合える事だってあるのに…)
『ドッカーーン!』
『!?』
「シス…?」
大きな爆発音の先には、アームドゴーレムの上半身が吹き飛び下半身だけが地上に残されていた。
そして、そのゴーレムと向かい合っていたシスは覚醒した姿が解除させボロボロになりながらヒビが入ったデーモン・ゲートを見上げながらその場で立ち尽くしていた…
傷つき、呆然と立ち尽くすシスを目の当たりにしたラビタスは無意識にシスの元へ足が動いていた…
「ラビタス様!まだ危険ですぞ!」
ラビタスはチブーの助言が耳に入らない程、気づいた時には元の姿に戻ったシスの元へ駆け寄っていった。
「シス!やっと元に戻ったんだな!今日は本当に色々な事があった…そして、戦いは今終わったんだ!だからもう、この国には君の敵は居ないんだ!」
「…」
「…ん!?どうしたシス!?」
「…私は姫…みんな…敵だ!!」
『!?!?』
『ズっバッ!!』
『…ボッロン』
「うぅ…」
気づいた時には、ラビタスの左腕が地面に転がっていた…
シスから放たれた黒い刃でラビタスの左腕を切り落とされ、地面に落ちた左腕がシスの視線に入った瞬間…シスはやっと我に返った…
「私、一体何を…」
『ヒュー…バッタッ!』
全ての魔力を使い切り体力が底を尽きた影響でその場に倒れ込むシス…そんなシスに対して左腕が欠損し大怪我を負ったばかりのラビタスが自身の事は二の次に意識を取り戻したシスをそっと抱き寄せた!
「…わがまま言って、勝手に先走って…結局私がすべて間違っていた…やっぱり出る杭は打たれるのね…」
「ヒメ!…君は間違ってなんか無い!」
「え…?」
「お互いに色々な誤解があったけど、今みたいに本音で話し合えば分かり合える!君が思っているほどこの世界は君に冷たくは無いよ! そして、また現実に振り回せれていっぱいいっぱいになった時…いつでも話を聞かせてくれ!だって俺たちは、現実世界の辛さを共有出来る数少ない異世界人の仲間だから…」
「…」
「ありがとう……」
「…最後に君に謝らないといけない事がある!本当の名前をヒメ!…君はシスじゃなかった…うん!これからよろしくなヒメ!!」
「やっぱりアンタ…ウザいよ…でも…ありがとう」
『バッタン!』
全ての魔力と体力を使い切り涙を流しながらその場で意識を失うヒメ…その後、1ヶ月間ヒメは眼を覚ますことは無かった…
ー 1ヶ月後…ヒメはモスク城の一室で目が覚めた…
目覚めたヒメは、曖昧な記憶の中から自身の身勝手な行動のせいでラビタスの左腕を切り落としてしまった事を思い出した。彼女は真剣にラビタスに謝りたいと願い、すぐさまこの場から飛び出していた…
ヒメは城の廊下をラビタスの事を思いながら走る続けた結果、幾つもある部屋の中からラビタスがいるであろう彼の寝室をすぐさま探し当てた。
「この部屋の中にアイツがいる…この前はちゃんと謝れなかった…でも今は、本当の私の気持ちを伝えられる…」
「…この扉の先に、アイツがいる…よし!いこう!」
ヒメは自身の気持ちを一旦整理し、清々しい気持ちでラビタスに謝罪をしようと彼の部屋へ勇気を振り出して一歩を踏み出した…
がしかし!!
「は!?何これ…」
ヒメが扉を開けたその先には、見知らぬ二人の美女と一緒になってスヤスヤ眠りに着くラビタスの姿があった…
『イッラ!』
「やっぱり…アンタの事を…」
「コロス!!」
『ドッカンーーーーー!!』
朝のモスク城内に豪快にヒメにぶん殴られるラビタスの悲鳴がこだました。
そんな、ラビタスの最愛の嫁探しはまだ始まっていない…