似たもの同士
巨大な山脈の地下に秘密裏に存在している巨大な空洞…それが地帝国『タイタン』
そんな魔物の国、タイタンを建国した初代ラビタスに転生した『山科勝』が二代目ラビタスは、今まさに…一人に女性を必死に追いかけていた…
『ドドド……』
そんな中ラビタスは、自身で作り上げた泥のバイクに跨り、舗装された道路を速度などを一才気にせず爆進していた。
「制限速度を一切無視して道路を突っ走るのは生まれて初めてだ…本当、良くも悪くも自由な世界だな…ここは…」
「それより…150キロくらいスピードを出してるのシスとの距離が一向に埋まらない…本当にアイツは何者なんだ…」
ー ラビタスがバイクを走らせて20分ほど経過した頃、突如天井に大きな扉が出現した!!
「ここがデーモンゲートか!」
『!?』
「もしかしてシスか?」
バイクに跨るラビタスの前方に、天井に聳えるデーモンゲートを眺めるシスが姿を発見した…
「おいシス!!迎えに来たぞ!一緒に帰ろう!」
「……」
「…ウソでしょ!?まさかここまで追いかけて来たの?…ほっん…とうに…ウザいし、キモいね!」
「…それにしても、あんた!本当にしつこいね…はぁ……何よりこの夢!いい加減醒めてほしいよ…この後に大事なイベントが控えているのにさぁ…」
「夢?イベント?」
(シスは一体何を言っているんだ…まるでこの世界の住人じゃないみたいな口ぶりだ…)
「シス!君はこの世界に誕生してまだ日が経っていない。今の状況に混乱するのも分かる!俺もそうだった…だから、一旦落ち着こう!そして、俺たちの城に戻ってゆっくり状況を整理しよう!」
シスの心底から滲み出たような言葉にかなり面を食らってしまったラビタスであったが、今の彼女とは対話が必要だと判断し、優しい口調で逃げる彼女の説得を試みた。
「は?一旦落ち着こうだ?…」
「あんた私の言ってる事理解できてる!!私には時間がないの!化け物みたいなアンタに構ってるほど売れっ子アイドルは暇じゃないんだから!」
『!?』
(アイドル?…魔物が存在するこの世界にアイドルが活躍する状況が整っているのか?」
「この世界でアイドル?君は本当にこの世界の転生者なのか?」
シスのこの世界では不釣り合いのアイドルというワードにラビタスの脳裏に一つの真実が導き出された…
「あ〜イライラする。でも…本当にイライラするのは、私自身…」
「はぁ…アニメも漫画も全然好きじゃないのに、こんなオタクみたいな夢を見るなんて…今の私どうかしてるよ…」
混乱するシスに対してとある結論を導き出したラビタスは、その答えをシスにぶつけた!
「もしかして君…現実世界から転生した異世界人?」
「…」
ラビタスが放ったその一言で先程まで天井を見上げていたシスが、怒りを露わにしラビタスを一気に睨み付けた
『ビリビリビリィ…』
「アンタさぁ…これ以上私が嫌いなファンタジー的な言葉を私に押し付けたら…夢であろうとアンタを殺すわよ!!」
『ドバドバドバ…』
怒りに震えるシスは、自分から溢れ出す怒りの感情を解放する事を心に決めた。
「今…何となく理解出来た!」
「私!忙しすぎたんだ…だからこんな訳の分からない夢を見るようになったんだ!」
「けど…夢の中だとしても、自由に飛んだり・物を破壊するのも意外と悪くないかも…」
「まぁ…アンタには何の恨みもないけど、私のこのイライラの吐口になってもらうわ…」
怒りの中にも冷静さを保ち、自身のモヤモヤする気持ちをラビタスにぶつける事を宣言したシスは、その怒りと右腕をラビタスに向けた…
「死んじゃえ…」
『ドカドカドカ〜!!』
シスの右手から放たれた複数の闇魔法がバイクに跨るラビタスに一斉に襲いかかった!
「うぁーーー!?」
『ドンドン!!』
他人を攻撃する事に慣れていないせいなのか全ての攻撃はラビタスに直撃する事はなかったが、ラビタスが跨ってしたバイクはその闇魔法の効果により元の泥に戻ってしまった…
「まずい…まずいぞ〜」
「今の所攻撃の精度は高くないけれど、あんだけ魔法を連射したらいつか当たるぞ!そして、俺はあの強力な闇魔法に耐えられる自信はないぞ…」
シスの潜在能力の前に怯えるしかない新人魔王のラビタスは、シスの攻撃を間一髪でかわしながらこの戦闘中に使えそうな泥魔法を思い出していた…
「とりあえず、あの連続攻撃をどうにかしないと……よし!あれしか無い!」
シスの連続攻撃から逃げるしか無かったラビタスは逃げながらも手のひらに魔力を集中させていた。そして、シスの攻撃が一瞬弱まった隙にその魔力を地面に流し込んだ!
「今度こそ捕まえてみせる!」
『アンルリス!!』
ラビタスが放ったその泥魔法により、ラビタスの周辺の地面が一瞬で泥沼へと変貌を遂げ、その沼の中から無数の泥の腕が出現した。
その無数の泥の腕達は、泥沼と一体化している自身の泥を拡張させ攻撃を仕掛けて来るシスに向かって襲いかかった!
『ヒュン!ヒュン!』
シスは、一斉に襲いかかってくる泥の腕の突進攻撃を避ける為、一旦攻撃を仕掛けるのをやめ、ラビタスの泥魔法を避ける事に集中した。だがしかし…
『ガシ!ガシ!ガシ!』
ラビタスの攻撃を避けようと試みたシスであったが、戦闘経験の無さが浮き彫りになり直ぐに無数の泥の腕達に捕縛されてしまった…
「よし!拘束成功だ!! シス…君は、攻撃センスは突出しているが、回避能力にはまだまだ穴だらけだ!…悪いけどこのまま拘束させてもらうぞ!勿論、悪いようにはしないからこのまま大人しくしておくれ!俺は君と争いたく無いんだ…」
「…」
『ブツブツブツ…』
ラビタスの泥も魔法によりあっさり捕まってしまったシスは、俯いた状態で何やら独り言呟き始めた…
「…誰も私の邪魔はさせない」
「…」
『バーン!…グルグル…』
「え!?」
突如!シスの体から黒い魔法が放出され、シスを拘束していた無数の泥の腕ごとシスを包み込んだ…
『バッサーー!!』
次の瞬間!シスを包み込んだ黒い魔法が弾け、複数の泥の腕も一緒に弾け飛んだ。
そして、黒い翼を携えたシスがラビタスの目の前に現れ、力に溢れ尚且つ妖艶な姿を爆誕させた…
『バサバサバサ…』
羽の生えたシスは、徐に黒い翼を羽ばたかせ上空へと浮上した。
「…」
「黒い翼…真紅の瞳…まるで悪魔だ…」
そのすらっとした細身の背中から眩い黒い翼を靡かせ、その真紅の瞳で地上にいるラビタスを激しく睨みつけるシスの姿は、堕天した天使ように不気味さと美しさを兼ね備えていた。
「…そうか!シスは、あの黒い翼でここまでやってきたのか…通りで移動速度は異常だった訳だ…」
「…このカラスみたいな黒い羽根も…手から飛び出す訳の分からない力も…全ての私への嫌がらせだよ…」
先ほどの怒りを滲ませていた態度から一変し、弱気な発言をするシスに対してラビタスは、彼女の心の浮き沈みを垣間見た。
「私は姫だよ…可愛くて、可愛くて…子供の頃からみんなに『現世に天使降臨!!』なんて言われてたのに…」
「今の私は、悪魔みたい…勿論性格が悪い事は認めるよ…けど、それは正直に生きているだけ…」
「夢の中だけど、私を天使にさせてよ…」
現実と理想の自分との葛藤がそのまま態度と言動に集約されていた今のシスは、自分で自分を傷つけるハリネズミのようであった…
そんな落ち込むシスに対して、彼女に寄り添うように主人であるラビタスは優しく話しかけた…
「…俺の本当の名前は、山科勝。42歳」
「現実世界から転生した異世界人だ!君の本当の名前を教えてくれないか!?」
『!?!?』
「…」
「あんたも…日本人なの?」
突如素性を明かしたラビタスに対して、シスは一瞬考え込むと…自身の本当の名前と素性を語り出した…
「私の名前は…姫…夢見 姫17歳………」
ー シスと呼ばれたその新種のゴーレムの正体は、『夢見 姫』17歳。現実世界で多くのファンを抱えて活動する若きカリスマアイドル。そんな彼女は、自身がこの世界に転生した原因に心当たりは無くずっと夢の中だと勘違いしていたのであった…
「なるほど…転生した原因は不明か…」
(俺は、現実世界で死んでこの世界にやってきたけど、その他のパターンも存在するのか?今はまだ、混乱する彼女の前で死んで転生した確率が高いなんて告げない方が良さそうだ…それは若い彼女のメンタルを崩壊しかねない出来事だから…今はそっとしておこう…)
「今、君に言えることは一つ! この世界は夢なんかじゃない…俺もそう信じたいけど、これは現実だよ」
「異世界に転生?…これが現実?…」
「うそ…これから大事なCDデビューイベントが控えているのに…やっとここまで辿り着いたのに…」
「信じたくない気持ちは分かるけど…」
「嫌!」
『!?!?』
「やっぱり認めたくない…認められないよ…うん!…やっぱり早くこの夢から抜け出して、私の夢だったCDデビューを実現させるんだ!!」
『ドドドド…』
一旦冷静さを取り戻したかに見えたシスであったが、彼女の不安定な心と自身の夢に対する想いが連動するかのように彼女から発せられる闇魔法の勢いを増幅し彼女から放出された。
「私はこの扉の先に現実世界が待っていると信じたい…そう!頭の中にそれが流れてきたから…私は私を信じてこの扉を破壊する!!そして、この夢から解放されるの!」
シスの純粋で真っ直ぐすぎるその答えにラビタスはなぜか共感していた。
「私は私を信じるか…なんか君と俺は似てる気がする…」
「性別も年齢も性格も全く違うけど、その頑固な所…すごく共感出来る!俺も自分の信念を曲げれずに苦労している…けど…その扉の先には現実世界はないよ…あるのはこの世界の地上だけ…」
「ここは一旦休戦して、もうすぐこの場所に物知りな俺の爺がやって来る。 その後で爺の話を踏まえてこの先の事を一緒に考えないか?」
ラビタスの冷静な大人の対応に、一瞬心が揺らいだが彼女は自分の信念を曲げる事を拒み、ラビタスの手を振り解く決意をラビタスに告げた。
「悪いけど、私は私以外を信じない…例えあんたが正しくても、私は私の目でこの天井の先を見届ける…」
「はぁ〜君は本当に頑固だな…でも嫌いじゃない…」
「…キモ…やっぱキモいよあんた…」
シスは、ラビタスの発言に一瞬ニヤッと笑いラビタスとの対話を改めて拒否した。
「キモくて結構!おじさんはキモいのが当たり前だかね…」
「はぁ〜何それ!本当ウザいんですけど!」
似たもの同士の二人は、お互いがお互いの意地をぶつけ合う事を理解したうえで、相手をねじ伏せる事を心に決めた。
「俺は君を拘束する…」
「私はアンタを振り切って、この扉の先へ向かう…」
似たもの同士の意地と意地のぶつかり合いが今、幕をあける!!