表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

マホロバ

デーモンゲートから2キロ離れた『名もなき荒野』では真の力を解放した大空の勇者と魔王へと覚醒したヒメが自身を苦しめる魔石化を患いながら、大空の勇者をこの場所で食い止めていた…



「流石の『斉天憑依スカイ・ハイ』でも魔王相手だと苦しいな…」



大空の勇者は、独自で編み出した特別な魔法『空魔法』を自身の体に纏った魔装と呼ばれる鎧、『斉天憑依スカイ・ハイ』を駆使し魔王へと覚醒したヒメの猛攻を掻い潜っていた。



「お姉ちゃんさぁ〜!なんか生き急いでないか?俺が魔法の詠唱を行えない様にずっと闇魔法で攻撃してくるけど、そんなに魔法を使い続ければ、魔石化の進行を促進するだけだよ?」


勇者の指摘通り、魔法を使い続けているヒメの魔石化は以前よりも進行しており、体の至る所から漆黒の魔石が体外から露出していた。



「ふん!敵であるアンタに心配されちゃう様じゃ、私って終わってるわね!…でも、この際そんなことはどうでもいいの…そう!私の攻撃の手が緩んだ瞬間、アンタはこの場所から逃げ出して、元いた場所にいるラビタス達を殺しに行くでしょ!そんな事、私が絶対にさせないんだから!」


現在進行形でヒメの脅威に晒されている勇者は、自身の標的をラビタスから完全にヒメに切り替えていた。



「今の俺はお姉ちゃんから逃げ出したりしないよ!俺の目的は魔王の討伐!魔王へと覚醒していないラビタスには悪いけど、今はそんなラビタスよりも魔王になったお姉ちゃんの方が俺の瞳には魅力的に写ってるんだ!」


「アンタさぁ…何でそこまで魔王にこだわるの?」


魔王への異常な執着を見せる勇者に対してヒメは、彼が魔王の誕生に喜びを感じているの様に思えた。



「何でだって?そんなの決まってるじゃないか?それは勇者の使命が魔王の討伐に決まってるからだろ!お前に魔王が存在せずに、ただただ死んでいく勇者の気持ちが分かるわけ無いけどな!」



「なんかプログラムされてるみたいで嫌…理由を聞いた私がバカだったわ!戦う相手がいなくて暇だなんて願ったり叶ったりじゃない?その暇な時間に趣味でも見つけて人生を謳歌したらいいのよ!!」


「ふん!そういった甘っちょろい考えの勇者が地上にも沢山いるよ!地上ではお姉ちゃんの様な新世代魔王の誕生や旧世代魔王の復活が複数確認されている。結果、平和ボケしていた他の勇者達のせいで大量発生した魔王達を止める事が出来ずに今や地上波は大混乱だよ」



分かり合えぬ二人の思想は平行線を辿る一方であった…兎にも角にも戦う事でしか互いの主張を表現すること出来ずにいた両者は、互いの正義を拳に乗せてお互いの心を折るために全力を尽くしていた。



そして二人の戦いは、一区切りを迎えることになる。



「なぁ姉ちゃん!アンタはこのまま俺と戦えば本当に魔石になっちまうよ!どうだい?ラビタスの所を離れて、俺の下につかないか?そうすればアンタの魔石化を治せる奴を紹介するぜ?」


勇者の巧みな交渉術により一瞬心が揺らいでしまったヒメは、そんな自分の心の弱さを後悔し、その上で自分がこの世界に転生してから今に至るまでのラビタスや仲間の存在が頭の中を駆け巡った。



「悪い話じゃ無いけど、お断りするわ!」



「何でだい?アンタにとっても悪い話じゃ無いだろ?自分の命は大切にしたほうがいいぞ!」



「私は自分の命の尊さを誰よりも理解しているつもりよ!だから、その上で私の命をラビタス達に託したいの!だって私の命はラビタスとシスのお陰で成立してるのだから」


「…言ってる意味がよく分からないな…まあいい。アンタが俺の商談を断るなら、俺は勇者の責務を全うするのみ!」



ヒメとの会話の途中でヒメの攻撃が弱まった瞬間を大空の勇者は見逃さなかった。


勇者とヒメの交渉が決裂した瞬間、一瞬の隙で練り上げた魔力を使い、勇者はその魔力を強力な空魔法へと変換した。



「魔王と戦えて俺は報われたよ!ありがとな!そして…さよならだ。ヒメ様!」





「惚れろ!虹の架けレインボー・レイン!」


『シャーー…』




大空の勇者は空魔法で七色の虹の橋を出現させた。そんな虹の橋は、縦方向に拡張しながらヒメに向かって一直線に突き進んでいった。


(どど…どうしよう!?攻撃は得意だけど、防御は全然自信ないんだけど!?しかもあんな広範囲の攻撃、どう避けれないの…だ…ダメ…避けきれない…助けて…)



(助けて!ラビタス!!)



勇者の大規模攻撃を回避する事に間に合わなかったヒメは、自身に生えている大きな翼を器用にたたみ、自身の盾として体全体を包み込んだ。


『スルスルスル…』


「………ん?」



攻撃を貰う恐怖から、無意識に防御の寸前で目を瞑ってしまったヒメは、勇者の攻撃が謎に自身の翼に当たっていなことに気が付いた…ヒメは、自身の体を包み込んでいた翼の盾を一旦解除し、目の前で何が起きている現実を確認してみる事にした。


『!?』


「ウソ…ラビタス!?」


ヒメのピンチに駆け付けたのは、他でもないラビタスその人であった。



「俺のヒメは絶対に死なせない!」



左腕は損失させたままであったが、それ以外の下半身は見事に復活させ、ヒメが待つ戦場へとラビタスが舞い戻ってきた。


ラビタスは、新たに製作した泥バイクに跨り、ピンチに陥っていたヒメの元へ駆け付けたのであった。



「あの瀕死だったラビタスがもう復活している!?…それよりも、どうやってあの虹の橋を破壊したの?」



ヒメがラビタスの生存を確認した後、その勇者が放った大規模な空魔法がラビタスの力によって消滅させられたのだとすぐさま理解出来た。


「実際、俺にもよく分からないんだ…右手であの虹を触れた途端、虹の橋が俺の掌に吸い込まれていったんだ…」


「不思議なこともあるものね…ま!何はともわれ助けてくれてありとう…何より、久しぶりだね…」



ヒメはとある理由で、自分に魔石化が発症してから一度もラビタスと面会をしてこなかったのである。



「ヒメが俺を遠ざけていた理由…聞いたよ…ありがとう!セネの事…大事に思ってくれて…きっとセネと喜んでるよ…」


ラビタスはヒメが自分を避けていた本当の理由を知った上で、ヒメの優しさに感謝していた。


ラビタスの感謝の気持ちを恥ずかしそうに聞いていたヒメは、照れる顔をラビタスに見せまいとすぐに別の話にすり替えた。


「そうだ!ところで足大丈夫?ついさっきまで上半身と下半身がバラバラだったけど?」


「その事なんだけど…」



ラビタスは、記憶を失ってから今に至るまでの経緯をヒメに説明し始めた…





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「セネ!私の事はいいから、早くラビタスを助けてあげて!」




魔王へと覚醒したヒメは、これから始まる自身と大空の勇者との大規模な戦いを予期し、この場にいた大空の勇者と重傷を負っているラビタスを遠ざけるために、自身が習得した特殊な闇魔法を用いて大空の勇者を別の場所に移動させていた。


「分かりました。けれど…無茶だけはなさらない様にしてくだい…ヒメお姉様のお身体は……」


「うん!心配ありがと!でも…今はそんな甘えた事言ってられないの!奴がこの場所に戻ってくる前に私がアイツを倒して見せるわ!あと、カイルと爺を助けてあげられなくてゴメンね…」



ヒメは負傷したラビタスを回復出来る唯一の存在、セネに自身と勇者の戦いの援護よりもラビタスの回復を優先する様に指示を出し、すぐさま勇者を飛ばした『名もなき荒野』へ飛び立っていった…




ヒメを見送ったセネは、直ちに気を失っているラビタスの回復を実行した。


そんなセネの元へ、大空の勇者が持ち出した特殊な金属によって魔法の使用を制限させられたカイルとチブーがラビタスの元へと歩み寄ってきた。


「ラビ様…どうか死なないで」


「カイル!そんな物騒な事言わないで、ラー様は私が必ず助けて見せるから!」


「それよりも…チブー様!私とカイルが閉じ込められている間にこの場所で何が起きていたのですか?」




セネとカイルは勇者の特殊なアイテムによって、とある空間に閉じ込められていた。セネとカイルの二人は自身が新たに身につけた闇魔法によってその空間からの脱出に成功した。しかし、その空間から脱出した直後に大空の勇者によって倒されたラビタスを目撃することになる…




「あんなにもお強いラー様がこんな致命傷を負わされるなんて想像出来ません。あの大空の勇者とは何者なのですか?」



セネの問いかけに、沈黙を続けていたチブーがその重い口をそっと開いた。



「…あの大空の勇者を名乗る人間があれほどの才能を秘めているなどとは想像もつかなかった…ラビタス様もアームドゴーレムや自身の上級泥魔法を駆使し、普段のポテンシャル以上の力を披露していたのに…奴の力は当時の大空の勇者を遥かに凌駕するものであった…」


チブーはその昔、世界の命運を賭けた初代ラビタスと初代大空の勇者の戦いをその場で目撃した唯一の生き残りである。そんな当時の戦いを目撃したチブーで現在の勇者の力が当時の大空の勇者を越える存在だと断言した。



そんな熾烈を極めた二人の戦いに終止符を打ったのが他でも無い…あの大空の勇者の見た目を変化させた『空魔法』にあった。




「大空の勇者があの風変わりな見た目に変化したキッカケは、ラビタス様がNゴーレムを三体同時に召喚した事が1番の要因だと私は考えておる。勇者はゴーレム一体から生み出される脅威を知っておったに違いない…そんなゴーレムが同時に三体…勇者は自分に備わっている”例の力”解放しなければラビタス様に敵わないと瞬時に悟ったに違いない」




「次の瞬間!大空の勇者は眩いばかりの白い光を放ち、空中に浮き上がった…その後、近付けぬ程の眩しい光が徐々に薄れると共に、光の中から以前の勇者とは別人の様な魔力と見た目を兼ね備えた大空の勇者が姿を現したのじゃ!」



ー 『空魔法』それは、勇者と認めらたものだけが扱える”光魔法”と火魔法・水魔法を合成させて作り出される”雲魔法”を掛けわせた三代目大空の勇者が編み出した独自の魔法である。そんな空魔法を自身の体に纏わす『魔装』によって大空の勇者は見た目・能力に変化を激変させたのであった。



大空の勇者は、自身の体に空魔法を纏わせる事により人間の領域を超える、神に近い力を得ることが可能になった。その影響により見た目を大幅に変化し、身体中に散りばめられた魔力の籠ったゴールドの装飾品を頭部の金色の輪っかに凝縮され、顔には猿を模したフェイスペイントが施されていた。その他に、虎柄の羽織を腰に巻くなど軽装は変わらないものの、目には見えない魔力の鎧を纏っていた。



「新しい魔力を手に入れた勇者は自身が乗っていた黄色い雲に、見た事のない特殊な魔法を与える事で、黄色い雲に生命を宿す事に成功したのじゃ。まさにアレは、”雲の精霊”と呼ぶに相応しい生命体じゃった。

雲の精霊はみるみるうちにその体を巨大化させ、ゴーレムの2倍以上に膨れ上がったその巨体をゴーレム達に見せ付けたのじゃ」



ー ラビタスには得意な戦闘陣形があった。それは、自身の仲間を戦いの前線に投入し、自分は後衛で仲間の支援を行う戦い方であった。ラビタスは、アイテムや泥人形を生成し仲間を援護する戦闘スタイルが自分に合っていると思っていた…しかし、今回はその戦闘スタイルが全て裏目に出てしまった…





「ラビタス様は、三体のNゴーレムへ変身した勇者・雲の精霊と前線で戦う様に指示を出したのじゃ!その後は、自分が後方で勇者達の戦いを観察しながら敵の情報を収集しようとしていたはず…そして、未知なる敵の情報が得られた際にに、アームドゴーレムと自分自身が勇者達を倒しに行く…そういった予定だったはず…」



「しかし、変身した勇者と雲の精霊は必要最低限の魔法を駆使し、特定の情報をラビタスに探られる前にNゴーレム三体を倒してしまったのじゃ…焦ったラビタス様は、予定よりも早い段階で切り札であるアームドゴーレムを召喚してしまうのじゃった…アームドゴーレムと雲の精霊の力は五分五分でお互い相打ちという形で2体は消滅してしまった…」



「戦場に残されたのは、覚醒した勇者とラビタス様の二人だけ…勇者は別空間から謎の赤い棒を召喚し、何の躊躇もなくその赤い棒を拡張させた…その後は、お前達も知っている通りじゃ…」



「くっ…」



戦場を見渡すと激しかった戦いを想起させるいくつもの要因が目に留まった…バラバラになったNゴーレムの体のパーツ…アームドゴーレムの肩に装備された大砲…そして、ラビタスの下半身…


セネとカイルは無惨な現実を直視する事が出来ずいた…



「勇者の攻撃によって意識を失ったラビタス様は、左腕の義手へ送る魔力が途絶えた、ラビタス様の体から泥の義手がこぼれ落ちてしまった…幸いにラビタス様の意識はかろうじて残されておる…私とカイルはこの特殊な金属によって魔法の使用を断たれている…今のラビタス様を救えるのは、セネ!お主だけじゃぞ!」




「はい!勿論です。私の全てを掛けてラー様をお救いします」




瀕死状態のラビタスを救う為、高度な回復魔法を取得しているセネが自身の魔力をラビタスに分け与える形でラビタスの意識回復と欠損した身体修復する作業を開始した…




ー セネがラビタスの治療を開始して10分が経過した頃…ようやく意識を失っていたラビタスが目を覚ました。



(アタタカイ…暖かい何かが俺の中に流れ込んでいる…とても居心地がいい…いっそ、このままずっとこうしていたい…)



(…? …何かが俺の周りで動き回っている… 白と黒…光と闇…不思議と黒い方が俺の周りから離れない…これは一体…?)



「うぅ…俺は一体…」



『!?!?』



「やったーー!!ラビ様が目を覚ました」



「ラー様…ご無事で…何よりです…」




ラビタスは横になったまま、ゆっくりと辺りを見渡す事にした。すると…闇魔法で出来た鎧が解除され普段の姿に戻っているセネが、窶れながらも懸命に自分の体の手当てを行ってくれていた。


「セネ…お前が俺を直してくれたのか?」


セネの必死の介抱により一命を取り留めたラビタスは、欠損した下半身の代用をセネの泥魔法によって作られた義足を当てがう事で歩行可能な状態まで蘇生させてもらっていた。



「魔力が足りなくて左腕の義手までは間に合いませんでした…ラー様の見様見真似ではありますが、下半身までは何とか作り変える事に成功しました…後は、その義足にラー様の魔力を流し込めば歩行は可能かと思われます…」



「十分だよ…良くここまで俺を導いてくれた!」


目覚めたばかりのラビタスは、次第にクリアになって行く視界に映る他の仲間達を確認する事ができた。


勇者にやられる前に目視していた謎の金属で体を拘束されているチブーとカイル…カイルは涙ながらに自分の復活を喜んでくれていた。同じく謎の金属で拘束されるチブーは申し訳なさそうにラビタスを見つめていた。



「みんな無事でよかった……ぐぅ!」


「!? 大丈夫ですか?ラビタス様」



完全に意識を取り戻したラビタスは先ほど勇者によって削られた腹部の傷が疼き出した。



「ウッ…そう言えば勇者はどうした?」



『………』



ラビタスの発した言葉によって自分の周りに居る3人が揃って浮かない顔をし出した時に、ラビタスは自身が眠っている時に感じ取った『光と闇』について思い出していた。



「…もしかしてヒメが勇者と戦っているのか?」



『!?』



本来この場所にいる筈のない『ヒメ』の存在を一瞬で感じ取ったラビタスに、彼以外の3人はラビタスとヒメの強い繋がりに魅せられていた。



(やっぱりあの二人は本当の意味で通じ合っているんだ…羨ましい…)



「一体、何故ヒメがこの場所に?」


「その説明は私からさせて貰います!」


自身の魔力を全て使い切りラビタスの回復をひと段落させたセネは、ラビタスの回復を一旦中止し、自身が呼び寄せたと言っても過言ではないヒメの召喚をラビタスに説明し始めた。





「あの時の私は、全てに絶望していました…ラー様は勇者に倒され、ラー様の代わりに勇者討伐の頼みの綱であったカイルはまたしても勇者によって拘束されてしまいました…なすすべが無くなった私は、あの方の幻影に縋るしかなかった…その後、私達は奇跡を目撃する事になるのです…

私の願いは、ヒメお姉様から受け継いだ闇魔法を通して遠く離れた本来の闇魔法の持ち主であるヒメお姉様の元に届いたのです…

ヒメお姉様は自身の闇魔法と私の闇魔法をリンクさせる事で、次元のトンネルを開通させたのです。結果として、良くも悪くも一番助けたいと願っていたヒメお姉様を次元のトンネルを介してこの地に呼び寄せてしまった…

そして今まさに、ヒメお姉様は私達を助ける為に今も勇者と戦っています…」




「俺が倒れている間にそんか事が…クソ…俺に…俺にもっと力があれば…」



ラビタスは自分の不甲斐なさが原因でヒメを巻き込んでしまった事に対しての後悔の念が押し寄せていた…


ヒメを救わなくてはならい存在のはずのラビタス一行が逆にヒメによって命を救われる形になってしまった事に、誰よりもヒメの生存を望んでいるラビタスは、ヒメの命を危険に晒してしまった事を悔いていた…


そんな落ち込むラビタスを激励したのは他でもない、彼の最初の理解者でもあるチブーであった。





「ラビタス様!落ち込んでいる暇はありませんよ!貴方には絶対に成し遂げなくはならない目的があるはず…クヨクヨしている時間などありませぬ!」





「おい!お爺ちゃん!誰が誰に物申してるんだよ!今まさに、お爺ちゃんがやって来た悪事のつけが全部ラビ様に回って来てるんだよ」



カイルからチブーへ発せられたごもっとも意見も、当の本人であるラビタスはチブーの意見を素直に受け入れてた。



「カイルもういいんだ…確かに爺の言う通りだ…俺の願いは俺が叶えるから意味があるんだ…」


「ラー様…」


「今の俺も含めてラビタスという存在は爺の助け無くしては成り立っていないんだ…」



「寛大なお言葉に感謝しかありませぬ…その一言で私は救われております…」



良くも悪くも自身の責務を全うしているチブーは、ラビタスの感謝の言葉に何処となく嬉し涙を流している様に見えた。



どんな時でも自分の背中を押してくれるチブーの存在にラビタスは、唐突に自身の正体をチブーに明かし始めた…




「こんなタイミングで申し訳ないんだが、実は爺に秘密にしている事があるんだ!」


「秘密ですと…」




「あぁ…実は俺…本当はラビタスじゃないんだ!!」




『!?!?』




「オレの正体は、別世界の世界からラビタスに転生した異世界人なんだ!」



「ラビ様!」「ラー様!」


ラビタスのカミングアウトにその場にいたセネとカイルは大いに慌てていた。しかし、一番驚かなくてはならないチブーが誰よりも落ち着いていた。



「やはりそうでしたか…」


「気づいてたんだな…」


「はい…うすうすですが…」


「何処らへんで気付き始めてんだ?」


「確証はありませんでしたが、一番はその瞳の色です」


「瞳の色かぁ…流石に自分が元々どんな瞳の色をしているかなんて、元を知らない俺には分かりっこないな…」


「私が知るラビタス様は、セネやカイルと同じ銀色の瞳をしておりました…私は人間だった時のラビタス様を存じておりません。なので、貴方様と一番最初に出会ったあの時の私は、瞳の色の違いから人間だった頃のラビタス様に戻られたのかと私の中で一旦飲み込んでみました…

しかし、とある人物達の登場により私の知るラビタス様の像に一抹の違和感が芽生えさせたのです…」


「その違和感の元になったのはシスとヒメ様の誕生です…そんな違和感の正体は、シスとヒメ様の瞳色の違いです…シスが誕生した時、彼女の瞳の色は銀色でした…しかし、ヒメ様として私の前に現れたシスの瞳の色はラビタス様と同じ真紅の瞳でした…

ラビタス様とヒメ様に共通する真紅の瞳を認識した私は、その時からラビタス様とヒメ様が何か特別な存在なのだと認識すると同時にラビタス様への違和感を覚える様にもなったのです…」



「それじゃあ、今までずっと俺を疑っていたのか…」



チブーが心に秘めていた本当の気持ちを知ったラビタスは、これまでチブーが自分に対して与えてくれていた愛情が偽りだったのではないのかと一瞬頭をよぎった…しかし、チブーから帰って来た言葉は意外であった。


「疑いの感情はとっくに捨て去りました!」


『!?』

「爺…」



「私は時々思い出すのです…生前初代ラビタス様が私に聞かせてくれた言葉を…それが…」




<なぁ爺…俺が死んでも、もう一度俺と仲良くしてくれるか? どういう意味かって? 俺は生まれ変わる事出来るんだ。 まだ試したことはないけどな…ははは… けど、きっと俺は生まれ変われる! 俺たち魔王と呼ばれる存在は、『欲』のそのものなんだ!そして魔力が籠った欲は、言葉に変換される事で現実になる…欲をかき続ける俺は本当の意味で死ぬ事はない…

ん?生まれ変わっても世界征服をするかって?さすが爺!面白い事を聞くな!そうだな…もう世界征服はもうしない!変な人間から付け狙われるし、良い事無いしな!ハハッ…

じゃあ生まれ変わったら何をするかって? そうだな…『誰にも縛られずに自由に生きる』かな! ん?今と変わらないって! そうだな! ハハッ…>




「初代ラビタス様は、生前『誰にも縛られずに自由に生きたい』と仰っておりました。その自由を求める思想は今の貴方様と同じでした。貴方様を信用するには、それで十分でした…

今となってはラビタス様の中身が違ったとしても、私は今のラビタス様も初代ラビタス様も同じ様に尊敬しているのです。その感情は共に過ごした時間の長さとは関係ありません。二人のラビタス様が共通して自由に生きたいと願うのであればそれを導くのが貴方様の爺である私目の勤めなのです…」



「異世界人…いや、二代目ラビタス様!!貴方の思う様に…願いのまま!自由に生きてくだされ」



チブーはラビタスと共に生活する中で、ラビタスの中身である『山科勝』に惚れ込んでいた。内面の違いはあれど、初代と二代目に共通する、自由を求める『純粋な欲望』に感銘を受けていた。



「爺…俺を信用してくれてありがとう! …俺、決めたよ!これから俺は、我慢する事をやめるよ!そして欲しいものは全て手に入れる。俺の明るい未来も!最愛の女性であるヒメの事も!」



「ラー様!!」「ラビ様!!」


「ラビタス様…やっと答えに辿り着いたのですね」


この場にいる皆が照れるほどに、ヒメに対する本当の気持ちに整理がついたラビタスは、とても清々しい表情をしていた。



「ああ!やっと自分の本当の気持ちが分かったよ!だから本当の俺の気持ちをヒメ本人に伝えに行ってくる!」



自分自身の気持ちに正直に生きる事を宣言したラビタスは、ヒメと大空の勇者が戦いを繰り広げている最終決戦の地へと足を運ぶことを決断した。


「ラー様!後悔のないように」

「ラビ様!勇者をとっとと倒して、ヒメ姐に告っちゃえーー」

「ラビタス様、どうかご無事で」



それぞれが全ての力を出し切り、優柔不断であったラビタスの背中を大きく押した。その結果、皆の思いを背負ったラビタスは、自身の欲望を叶える為にヒメの元へ全力で向かった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

話は現在に戻り…



「そんな事があったのね!とりあえず無事でよかったね!ラビタス!」



ラビタスは、ヒメに対しての心の変化意外の出来事をヒメに伝え、自分がどうやって復活出来たのかを説明した…


そんな中、二人の会話を黙った聞いていたある男が二人に対して静かな怒りを露わにした。



「お二人さん!盛り上がってる所悪いんだけど、俺がいる事を忘れてもらっちゃー困るよ!!」



「大空の勇者…別に無視していた訳じゃないんだけど、俺たちの再会には必要なかっただけだよ」


「…その皮肉を素で言える憎たらしさは魔王級だな!…国王ラビタス…もう二度目は無いぞ!お前達を倒すための隠し玉の準備はすでに整っているからな!」



「隠し玉だって?」



「ああ。弱っていると言っても魔王と魔王予備軍が二人もいれば、流石の俺でも生きて帰れる保証は無い…だから、仲間を召喚させてもらうよ!」


「仲間?また雲の精霊でも出すのか?」


「アイツはもう、役目を終えたんだ…それよりも、もっと強力な助っ人だ!…早速、当登場させてやるよ!滅多にお目にかかれないぞ…ハハハァ…いでよ!召喚獣!」




「召喚獣だって!?」




大空の勇者は左手に隠し持っていた特別な魔石をラビタス達に向けると、その特別な魔石が眩い光を放ち、神々しいその姿を垣間見せた。



「その美しくもあり凶暴な鱗を見せつけてやれ!出てこい…」



『白龍!!』



『ゴゴゴゴ…』



『白龍』と呼ばれるその召喚獣は、自身の頭部に大空の勇者を乗せ、威風堂々とした立ち振る舞いをラビタスとヒメに見せ付けていた。


『モクモクモク…』


白龍が姿を現した事より、『名もなき荒野』全体に無数の雲が出現した。白龍はそんな無数の雲に掴まるように、上空でその巨体を浮遊させながら地上にいるラビタス達に睨みを利かせていた。



「凄い敵が現れちゃったわね…で、どうする?いつも通り私が前衛で敵の意識を集中させて、ラビタスが後衛で敵の隙を突いて行く作戦?」



ヒメはラビタスが好んで使用する作戦を理解して上で、普段通りの戦い方をラビタスに勧めた。



「いや…その作戦はもうしない!俺もヒメと一緒に善戦で戦うよ」


ヒメは、普段から自分の身の丈に合った行動を取る事が多く決して無茶をしないラビタスが下した行動の変化に驚きを見せた


「もしかして、私と一緒に戦うつもり?大丈夫?私について来れるの?」


身体能力に関しては、ヒメはおろか攻撃タイプではないセネよりも劣っているラビタスの前線への投入は、死に等しいとヒメは結論付けていた…しかし、進化したラビタスの考えは違った。


「もちろん突っ込みはしない!」


「え!?どういう事?」


「一緒に守りながら攻めるんだ!」


『??』


一向にラビタスの考えに理解が追いつかなかったヒメであった、自信に満ち溢れるラビタスの顔を見るうちに不思議とヒメ自身にも自信が湧き上がってきていた。


「分かったわ!ラビタスについて行く!」


迷いが晴れ、ラビタスに命を預ける覚悟を決めたヒメのその笑顔に、ラビタスはより一層ヒメを救いたいと願う様になった。




「じゃあ俺と手お繋いでくれ!」


「え!?どういう事?」




ラビタスと初めて手を繋ぐという行為に、この場が戦場である事を一旦忘れ、ヒメは恥ずかしさの余り頬を赤く染めていた。


「いいから早く!この方法はヒメが教えてくれたんだ」


「え?私が?そんな事した覚えないんだけど?」


身に覚えがないその手段に混乱するヒメはとりあえず自信満々のラビタスを信用する事にした。


『スッ……』


『ギュッ!』


何も言わず左手を差し出すヒメのその掌を、ラビタスは自身に右手で優しく握った。



(…あったかい…ラビタスの手ってこんなに暖かかったんだ…やさしくて居心地がいい…)






『ゴゴゴ…ドドド……』






ヒメがラビタスの掌の暖かさに心地良さを感じていると、手を握る二人を取り囲む様に、巨大な泥岩が『名もなき荒野』に出現した。



『!?!?』



「なんだこの巨大な岩は!?」


白龍の頭部に立ち乗りをしている大空の勇者は、突如出現した超巨大な泥岩に度肝を抜かさせていた。


「ラビタスはあの岩の中にでも隠れたつもりか?なら、ラビタスごとこの巨大な岩を沈めてやる…やれ!白龍!!」



『ブシュン!』



白龍はその大きな口から大規模な水鉄砲の様な水魔法をラビタスが出現させた巨大な泥岩に目掛けて放って見せた。


『カン!』

『!?』


白龍の大規模水魔法も泥岩が放つ特殊な防御壁によってその攻撃を無傷で防ぎ切ってしまった。


「攻撃が通じない?何が起きたの言うのだ…」


当然現れた謎の泥岩に混乱しつつも、大空の勇者は攻撃の手を緩める事はしなかった。


「それなら、これはどうだ!『雷光波』続けて『風滅刃』『水殺槍』」


勇者の号令と共に白龍の周りに点在していた複数の雲から雷魔法攻撃・風魔法攻撃・水魔法攻撃が同時に泥岩へ向かって降り注いだ。


「そうはさせない!」


『!?!?』


『迎え撃て!ジブラルタル』


『ドーン!ドーン』


謎の号令と共に巨大な泥岩から無数の扉が開放され、その扉の中から無数の大砲が顔を出した。次の瞬間!敵の攻撃を迎撃す為の無数の砲撃が敵の魔法攻撃に全弾命中させることに成功した。



「…やはりラビタスの仕業か!」


「その通り!これは俺とヒメが作り上げた競作!『愛のジブラルタル』だ!」



ジブラルタルと名付けられたその巨大泥岩はみるみるうちに姿を変化させ、巨大な要塞へと変貌と遂げた。



「やっと本性を現したな…先ほど白龍が放った攻撃を迎撃したって事は、この要塞の防御壁にも欠点が存在しる…着実にに攻撃を繰り返せば何処かで歪みが生じるはず!こっからは総力戦だ!姿を隠しその箱の中に隠れた事を後悔させてやる」



大空の勇者と白龍によるジブラルタルへの総攻撃が開始され、とてつもない数の魔法攻撃がジブラルタルへと降り注いだ。そんな中、ただの泥岩と思われたいたジブラルタルは、その場その場の戦況に適応する様に姿形を変化させ、大空の勇者を翻弄していった…




ジブラルタルの変化その1:要塞の底にキャタピラが付属され、移動しながら戦術が可能になった。


ジブラルタルの変化その2:勇者達の攻撃により破損した外装を自ら剥ぎ落とし、軽量化したと同時に本体に羽が生え、飛行が可能になる。


ジブラルタルの変化その3:飛行形態の後部に形成されたハッチが開き、その中から羽の生えた泥兵士が複数飛び立ち、勇者がのる白龍目掛けて突撃を開始した…



お互いに一進一退の攻防が繰り広げられる中、中距離攻撃を続けていた勇者達は、思いのほかダメージ喰らいすぎてしまい、戦いを長引かせる事が自分達の敗戦に繋がると考えた結果、白龍をジブラルタルへと突撃させる様に命令を出した。


白龍はその蛇の様な柔軟な体を活かし、すぐさまジブラルタルへ巻き付いてみせた。


『ガッシ』


「これで身動きは取れまい!これまでの戦いで雷魔法が一番嫌がっている事が判明した…弱点は雷魔法…これで終わりだ!!」



「消し去れ!雷撃猛攻弾!!」



白龍の口から膨大な雷エネルギーが放出する寸前、ジブラルタルは最後の変身を遂げようとしていた…



白龍に締め付けられ一見身動きが取れていないと思われたが、とぐろの様にジブラルタルを締め付けるていた体と体の間に存在する隙間から、本来のジブラルタルと思われる体の一部がぬるりと飛び出して来た。そして…飛び出して来た巨大な腕が、白龍の攻撃よりも先に白龍の顔面に強烈な一撃を喰らわすことになった。



『ゴッツン!!』



ジブラルタルの本当の姿は新型のNノーマルゴーレム…『フォートレス・ゴーレム』であった。そんなフォートレス・ゴーレムはラビタスとヒメの魔力を常に与える事で瞬時に自身の体の形態変化を行う事が可能になっていた。




『ヒューー………ドッスン!!』



白龍は何とかジブラルタルの攻撃を耐えきった。しかし、ダメージは大きく空中で浮遊する事は困難になり、締め付けていたジブラルタルもろとも地面へ向かって落下していった…地面へと激突してしまった両者であったが、両者の命運はすでに明白で合った。



ジブラルタル最終形態:見た目は他のNゴーレム達とさほどの変化は無いが、飛行形態でも使用したジェットエンジンが搭載されている事によりその規格外の巨体を感じさせない軽やかな動きが可能になっていた。



二足歩行形態への変形が完了していたジブラルタルは、宿敵である白龍よりも素早く渾身の一撃を相手に喰らわすことに成功した。



『魂の一撃<パウンド・フォー・パウンド>』



『ドッカン!!』


ジブラルタルの強力な鉄拳攻撃により地上に倒れ込む白龍はその全ての体力を使い果たし、ゆっくりとその姿を消していった。





『何とか白い龍を倒す事が出来たぞ!』



一方、姿を隠していたラビタスとヒメは、ジブラルタル内に造られた船長室で自分達の魔力をジブラルタルに注ぎ込んでいた。


「私達には不可能を可能にする想像力がある。その想像力は世界を変える力になる…」


白龍を倒すことに成功したラビタス達は喜びも束の間、とある違和感に気づくことになる。


「いや待てよ…アイツがいない」


『!?』


「勇者がいないぞ」


ラビタスの言葉通り、地上には白龍と一緒に倒した筈の勇者の姿は無かった…




「馬鹿野郎!俺は最強の勇者!こんな所でやられる訳ないだろ!」




『!?!?』


何と!姿を消していた大空の勇者はジブラルタルが最終形態になる前には、既にジブラルタル内に潜入していたのであった。


「驚いたよ!こいつの正体がゴーレムだったなんてな!しかも、お前達の魔力を与え続ける事で姿や装備を常に変更されちまう。今までこんなに苦戦した敵はお前達が初めてだよ!けど…そんな戦いはもう終わりでいい…」




「極大魔法…『狭間の世界オゾン・ホール』」



『ゴゴゴ…』


大空の勇者が放った”それ”はラビタスとヒメの真上に突如出現した。それはネズミ色をした不気味なの空間で、”それ”はゆっくりとラビタス達に向かって下降してきた。


「ヒメ!これに触れちゃいけない!!」


『ドン!』


ラビタスは”それ”が放つ異様な魔力に、咄嗟の判断で自身の隣にいたヒメを突き飛ばした。



『バッタン』



”それ”を直撃してしまったラビタスは、一瞬で意識を失ってしまった…突如倒れ込むラビタスを目の当たりにしたヒメは、まず自分が行わなくてはならない優先順位を瞬時に理解し行動に移した。


「ジブ!勇者を拘束して」


『ゴゴ…ギギ…』


”それ”を使用した事で自身の魔力を使い切ったのか、俊敏な動きが出来なくなっていた大空の勇者を主人の一人であるヒメの命令によりジブラルタルは、自身の体内に特注の牢屋を製作し牢屋内に勇者を閉じ込められる事に成功していた。



「アンタ一体、ラビタスに何をしたの?」


勇者の攻撃により一切動かなくなってしまったラビタスの容態を心配したヒメは、ジブラルタルの体内に製作した牢屋へ収容したばかりの勇者にラビタスに与えた魔法の正体を問いただしていた。



「ラビタスはもう助からない…空魔法の最終奥義『オゾン・ホール』は猛毒だ!これ喰らった最後、被験者は体力が尽きるまで魔力を吸われる。これは俺が覚えた魔法の中で唯一の残虐な魔法だ…」



「助かる方法はないの?」


「それ、敵の俺に聞くかね?お前達、本当に魔物か?まるで人間と話してるみたいだ…」



意識不明で倒れ込むラビタスを魔石化が進行しているヒメが心配そうに抱き抱える…本来は自分の命の方を優先してもおかしくないヒメは、自分のことよりも恩人でもあるラビタスの命を優先する事を心に決めた。



「私決めたわ!絶対にラビタスを助けてみせる…私の命に変えても!」



「簡単に言ってくれるね。俺の『オゾン・ホール』を破った者は今までいない…それを死にかけのアンタが攻略出来るなんて到底不可能だ!」



「うるさい!やってみないと分からないわ!何より私が納得しない!!」


『……』


ヒメが見せた強い信念が敵であるはずの勇者の心動かす形になった。


「分かったよ…答えを教えてやる」


「え!本当!?アンタ意外といい奴ね!」


「あぁ…俺は嘘が嫌いなんだ。よく聞けよ!『ラビタスの体力を満タンにしろ!』それだけだ」


「どう言うこと?アンタさっき、体力は減っていくって言ってなかった?」



「ふん…これ以上は教えられないな。しかも、お前に回復魔法が備わっているとは到底思えない…だから、ラビタスの死は覆らない」



「私、決めつけられるのが一番嫌いなの!決めつけられると、どうしても抗いたくなっちゃう性分なの!」


「生き物には、生まれ持った定めが存在する…それを覆せるのは神のみ…」


不毛な会話を繰り広げる両雄であったが、そんな中、ヒメが一つの答えを導き出した。



「魔王って神に認められた存在なんでしょ?だったら私に不可能ないわ!だって私、魔王でしょ!!」



『!!』


「ふん…好きにしろ」


ヒメの並々ならぬ自信に、敵である勇者ですら彼女が不可能を可能する所を見てみたいと思わせる存在にまで変化していた。



「ラビタス…どうか生き返って!この国にはあなたが必要なの…そして私にも…」





ー ヒメがラビタスの蘇生を開始する事10分…



(なんて事だ!…あの攻撃に全振りしたような戦闘タイプの姉ちゃんが、回復魔法を取得しやがった!しかも、順調にラビタスは体力を回復している。ラビタスは俺の空魔法によって確実が減っている筈なのにそれを上回る回復量を発生させている…一体コイツは何者なんだ?)



目を疑うような奇跡的な光景に、勇者はとある言い伝えを思い出した。



「もしかして、幻の闇魔法よる回復呪文なのか!?」


「…本来闇魔法は奪う力に特化した魔法。そのため扱える魔法は、攻撃魔法と補助魔法のみの筈…信じられに本当に奇跡は起きるのか…」


『ピッキ…ピッキ』


ヒメによるラビタスの回復作業が順調に行われているかの様に思われていたが、そんなヒメに魔石化の呪いが襲いかかっていた。


「おい魔王の姉ちゃん!回復魔法を扱えた事は褒めてやる…けれど、これ以上自分の魔力を消費したら、アンタの方がラビタスより先に消滅しちまうぞ!」


勇者の助言通り、ヒメの体から露出していた魔石の数が明らかに増加していた…


『………』



「ダメだ…俺の話を聞いちゃくれない…」


気づいた頃には、一心不乱にラビタスの蘇生を行うヒメの体は90%以上が魔石に覆われていた。



(戻ってきて!ラビタス!まだ私の気持ちを伝えてないの…だから…お願い!戻って来て!!)


『………………』



ー 蘇生開始から20分後…





『……………ドックン』




『!?!?』




「本当に復活しやがった!!」


魔法の使用者である勇者ですら不可能だと思われていたラビタスの蘇生…それがヒメの回復魔法と信念によって成し遂げられる事になった。


オゾン・ホールによる体力消耗を上回る回復魔法を与え続けた結果、体力が満タンになりラビタスはオゾン・ホールの猛毒を裏返す事に成功したのであった。



「………ヒメ…俺は一体?」


復活したラビタスは、自分の横で仰向けで倒れ込むヒメの姿に驚愕する事になる…


「!?!?…そんな…そんなバカな」


ヒメは左手と口以外が全て魔石化しており、自分一人の力では動くことも困難な状態にまで悪化していた…




「ラビタス…きっと復活したのね…よかった…でも、ごめんね!前が見えないし、耳も聞こえないの。けど、私の隣にラビタスいる事ぐらいは判断出来るわ…」




『……クッ』


「おいラビタス!そこにいる姉ちゃんは、毒に侵されたお前を救う為に自分の命を犠牲にしてまでお前の命を救ってくれたんだ!」



ジブラルタル内の併設された特注の牢屋の中で大空の勇者が、喋る事が困難なヒメの代わりにラビタスに今までの状況を説明した。


「ヒメ…そんな…俺は君に生きて欲しかったんだ…俺にとっては自分の命より未来がある君に生きて欲しかったんだ…なのに俺なんかの為に…」



ヒメは、ラビタスの心の底から湧き上がるヒメへの想いを聞くことが出来ずに、ただその場で自分の命が尽きるのも待つしかなかった。



「ねぇ!聞こえるラビタス?貴方のその右手にはまっている指輪を私に譲ってくれない?」



「指輪だって!?」


ラビタスは自身の右薬指に光る指輪について思い出していた…


その指輪のラビタスが以前行った『ラビ・フェス』内のビンゴ大会の景品にあった『祝福の指輪』であった。



「俺が主催したフェスに出展されたその指輪を、誰よりも欲しがっていたヒメだった…ヒメは、自分より俺が先に手に入れた事にヒメはずっと『八百長だ』って言い続けてたっけ?そっか…本当にこれが欲しかったんだな…分かった…ヒメにやるよ」


ラビタスはヒメにそう告げると、自身の右薬指にはまっている祝福の指輪を口で器用に外し、右手でそれを持ち替えると、ヒメの魔石化していない左薬指に祝福の指輪をはめてあげた…



「ありがとう…やっと願いが叶った…私のもう一つの夢…ラビタスのお嫁さんになる事…これでやっと眠れそう…」



『!?!?』



「そんな事言うな!まだ始まったばかりだぞ!ヒメの本当の夢も絶対俺が叶えてやる!だから…まだ寝るのは早いよ…」






「ありがとう…ラビタス…愛してる…」





『…………………』


『パキパキ………パッリン…………』



『!?!?!?』


ヒメの魔石化が完全に完成し、全身が魔石に追われたヒメの体が一瞬で砕け散っていった…



「ヒメ!おいヒメ…嘘だろ…なんでお前だけ…俺の言葉を聞いてくれないんだ…俺にも言わしてくれよ…」





「誰よも愛してるって………」





ジブラルタルの体内で無情に響き渡るラビタスの愛の言葉…床に散らばる無数の漆黒の魔石のカケラ…主人を無くした祝福の指輪…


「なんでだよ…ヒメ…君がいないこの世界に俺の場所は無いよ…」



ラビタスが伝えたかったその愛の言葉も、それを一番伝えたかったヒメはもうこの世界にいない…彼女の命を犠牲にしてまで手に入れた自分の命がラビタスは何よりも憎かった…




1分後…この世界の全てに落胆するラビタスは徐に立ち上がり、牢屋の管理を担当しているジブラルタルに拘束していた勇者を解放するように命令した。


『ガッシャン』




「帰ってくれないか…ここは魔物の国…人間がいていい場所じゃ無い。今後この国に住む魔物は一切人間を襲わない!国王である俺が断言する…だからもう帰ってくれ…俺たちは誰にも迷惑をかけずにひっそりと地底で暮らしていくから…」





決して撤退する条件としては悪くない提案だったとしても、あまりも覇気のないラビタスの言動に勇者はラビタスの存在自体を否定した。



「お前、本当にあの魔王ラビタスか?俺の一族に伝わるお前の性格は、残忍かく冷徹…なのにお前と言ったら、一人の女が亡くなったくらいでメソメソする…しかも、魔王の敵である勇者を逃すだと…そんな事、前代未聞だ!そして、お前を生かしておめおめと地上に戻った俺は笑いものだ。

そんな事、俺もお前たちに殺された人間も誰も望まない。拘束を解いてくれた事は感謝するが、この場でお前を倒して、一族と魔王との因縁にも終止符を打つ!それが俺の全てだ!」


「悲しいやつ…」



「何だと?」



「他に生き甲斐はないのか?魔王を倒す以外にお前の生きる道はないのか?アイドルを目指すとか…メジャデビューを目指さすとか…」



「似た様な説教を魔王の姉ちゃん聞かされたよ…本当にお前達は似たもの同士だな…ん?…待てよ…」


本来、異世界人でない勇者にとってはトンチンカンなラビタスの回答も、今地上で起きている出来事を加味した上で勇者はとある結論に結びついた。



「その真紅の瞳…聞き馴染みない用語…もしかしてお前もヒメも例の”アレ”か?」


「アレ?」



「今地上では、真紅の瞳を持った魔物や人間が大量発生している。そして、少数ではあるが意味不明な用語を話す人間が出現してるのだ」



(もしかして、俺たちと同じ異世界人が外の世界にたくさんいるのか?)



「お前を討伐するのは辞めた!」


『!?』


「話は変わった!お前をこのまま生け捕りにする。そして、俺がこの世界の異変を解明してやる」



新たな決断を心に誓った勇者は、ラビタスを討伐するのではなく生け捕りにして地上へ持ち帰る事を宣言した。しかし、そんな決断を一蹴するかのようにラビタスは、改めて勇者の退場を彼に促した。



「アンタをこの場所に解き放った瞬間、俺は勝利を確信していたんだ。そう…もうアンタには勝ち目が無いだ…とっととお家へ帰った方が身のためだ。それに、アンタは俺を助ける為のヒントをヒメに教えてくれた…そのおかげで今の俺がいる…アンタを逃すのはその借りを返す為のもの…生きるチャンスは大事にした方が賢明だぞ」



大空の勇者はラビタスが語る自身を牢屋から解放した理由に違和感を覚えた…


「なぜ俺とあの姉ちゃんとの会話を知ってる…」


そんな勇者の問いかけに、ラビタスは平然と自分がヒメ達のような人間にそっくりな魔物を製作した事を告げた。




「元々ヒメは俺の体の一部から出来ている…セネやカイルもしかりだ…彼女達を作った時に預けていた魔力が俺に戻っただけの事、その時の副産物がヒメの思考だった」



ラビタスから告げられた、ヒメ達の正体に勇者は驚愕した。



「本当の脅威はあの魔王のお姉ちゃんじゃなかった…真の脅威はお前だったんだな…そもそも魔王が魔王を作るなんて聞いた事ない…お前のような規格外な思考や能力を秘めた存在は、絶対に見過ごせない」




「もう独り言は済んだか…俺はもうお前と関わりたくないんだ…だから本気で行く」



「本気だと…強がりはよせよ。魔装を纏った俺に瞬殺された分際で本気を出すだと…笑わせるな!体力は減っているが一対一でお前に負けるほど、俺は弱っちゃいない」




度重なる強気な勇者の発言に飽き飽きとした態度を取るラビタスは、自身が押し殺していた欲望を解放する事にした。




「力を解放する為の準備は整った…俺からヒメ…ヒメからセネ…そしてセネとヒメから俺へ…全ての闇は俺に集まった。もう何も失うものは無い…全てが壊れても構わない…絶望を喰らい俺は欲望そのものになる…今、真の魔王へと目覚めの時」



『ゴゴゴゴゴ…』



ラビタスから解放されるドス黒い魔力が、ジブラルタルを飛び越えて地帝国タイタン全体に響き渡った…


「何!?見た目が変わっていく」


『ニュキニュキ…』『バッサ…』『ゴリゴリゴリ…』



力と心を解放したラビタスは、泥魔法で作った下半身がボロボロと崩れ落ち、その中から新しい下半身が復活した。何より長らく欠損したままであった左腕も一瞬で再生してみせた。


その他の見た目の変化しており、身体中の筋肉も隆起し、筋骨隆々の見た目に変化した。さらに銀色だったその髪の色が、漆黒かつモヤの様な独特な頭髪へと変化を遂げた。




「…ふぅ」


『ドン!!!』



別人へと変化を遂げたラビタスの容姿を確認した大空の勇者は、先ほどまでの強気の姿勢とは裏腹に小刻みに震えていた。



「言い伝え通りだ。そのモヤのかかった漆黒の髪は、一族の伝承にあった魔王ラビタスそのものだ」




真なる魔王へと覚醒したラビタスは、一瞬で大空の勇者の周りに特殊な魔法陣を出現させた。




「遊びは終わりだ…極大魔法『玩具箱をひっくり返した世界<ワールド・オブ・トイボックス>』!!」




「まずい!先手を取られた」


大空の勇者が気付かないほどの圧倒的なスピードで魔法の詠唱を終えたラビタスは、勇者に背を向けるとその場から立ち去ってしまった…



魔法陣の中に閉じ込められた勇者は、あっという間に別の空間に引き摺り込まれてしまった…





ー 真っ暗な暗闇に引き摺り込まれた勇者は、次第に視界が明るくなる事に逆に恐怖を覚えていた。



「一体これから何が始まるんだ…」


得体の知れない恐怖が襲ってくる前に物事は加速した!



『!?』


何かに足を引っ張られる感覚が自分の足にある事を知った勇者はそっと自分の右足を覗いて見た。


「ねぇおじさん!一緒に遊ぼ!」


『!?』



勇者が自身の足元に目線を向けると、そこには自分の足を引っ張る小型のブリキの兵隊が居た。


「何だこいつは?」


「僕はコイツじゃないよ!ブリキの兵隊だよ!ねぇおじさん!一緒に遊ぼう」


「ズルよ!僕とも遊ぼうよ!おじさん!」


『!?!?』


無数に増殖する喋る人形に勇者は驚く暇もなく、ただただおもちゃ達に恐怖を覚えていた。




勇者は自身の視界が良好になるに連れて、自分が大勢のおもちゃ達に取り囲まれている事に気づかさる事になる



おもちゃの戦車・兵隊・飛行機・車・巨大なロボット。総勢1万の多種多様のおもちゃ達に勇者は取り囲まれていた。





「なーんだ!遊んでくれないのか…じゃあ!遊びは終わりだね…ザーンねん!じゃあみんな、行くよ!!」



『ドドド………」



一体のブリキのおもちゃの号令により約一万のおもちゃ達が一斉に勇者目掛けて攻撃を開始した。



「グァーーー」




体感時間で約3時間はおもちゃ達の攻撃を喰らいつづけた大空の勇者は、目が覚めると地帝国タイタンにあるデーモンゲートの真下に寝そべっていた。



『………………うぅ…』



「ここは現実か…」



目覚めた勇者は自身の魔装が解けており、一切の魔力が放出できなくなっていた。



「お前は今後魔法が使えない体になったのだ!そう…お前に備わる全ての力はラビタス様によって封印されたのだ」


静かに起き上がる勇者の前にこの国大臣であるチブーが声を掛けてきた。


「アンタはゴーレムのじいさん!」


チブーの説明によるとラビタスによって魔法が封印された事により、勇者の魔法によって拘束されていたチブー達が逆に解放されたのであった。



魔力を失い戦意喪失するかに思えた大空の勇者はゆっくりと立ち上がり戦闘体制を取った。



「お前さんは本当に、戦いが好きじゃのう…周りをよく見てみよ」



『!?!?』


「悪夢は続いたままなのか…」



チブーの助言通り辺りを見渡してみると…



そこには、真なる魔王へと覚醒したラビタスに導かれる様にタイタンに暮らす全ての魔物達が、デーモンゲートの真下に集合し、大空の勇者を取り囲んでいた。



「そんなバカな…」



全ての魔物達が鼻息を荒らして勇者を威嚇していると、大空勇者の元へ覚醒したラビタスが姿を現した。



『スタスタ…』


『サッと!!』




覚醒ラビタスの登場によりタイタンに暮らす全ての魔物達は体制を低くし、ラビタスに敬意を払っていた。


真の魔王の復活を喜ぶタイタン中の魔物は、ラビタスに触発される様にみるみるうちに正気が増していった。


「どうじゃ!これでも戦うというのか?」


圧倒的な戦力差を見せつけられ、自分の死を悟った大空の勇者は、その場で胡座をかき自分の処刑をラビタスに命令した。



するとラビタスは勇者に対して意外な言葉を掛けた。



「改めて言う…やっはりお前を殺さない!もう誰も死んでほしくない…それが先ほどまで互いの命を懸けて戦った敵だったとしも。外の世界にはお前が死んで悲しむ人も大勢いるだろう。だからもう誰の涙も見たく無いんだ…」



ラビタスの説得により大空の勇者は心を大きく揺さぶられていた。大空の勇者は元々人間であったラビタスとヒメを関わるうちに、自分達と心を通わせる事の出来る魔物も存在しているのだと気付かされたのであった。



「ありがとう…」



「!?…分かってくれるのか?」



「やっぱり俺は俺の言ってきた事を曲げるつもりは無い!俺は逃げない!」



「……」



一向に自分の信念を曲げない大空の勇者に、流石のラビタスも頭に来たのか、とある魔物に勇者の追放を命令した。



『プッチ!』


「あ〜この分からず屋!!もういい!タイタン〜!聞こえるか?強情っ張りなコイツを外につまみ出してくれ!そして、扉の位置をコイツらに探られない様に移動してくれ!」




『ウォォオオン!!』



「何ですと!?タイタンが完全に目を覚ましたですと!?」


チブーが驚くのも無理はなく、初代ラビタスが亡くなってから一切目を覚ます事のなかったあのタイタンが真なる魔王へと覚醒したラビタスを初代とは別のラビタスと認めた上で彼の言う事を受け入れたのだった。




本来の力を取り戻したタイタンは、胡座をかく大空の勇者を地面ごと飲み込み、唾を吐くようにデーモンゲートの外へ大空の勇者を吐き出したのであった。



「やっと終わったんだな」


「…ヒメ…ありがとう…俺はもう…疲れたよ…」



『どっさ!』



「ラビタス様!!ラビタス様〜」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ラビタスは勇者との戦いで、今までに類を見ない強大な魔力を消費した…全ての力を使い切った影響で、次第に意識が薄れていった。そんな薄れゆく意識の中で、ラビタスは『ラビ・フェス』内で行われたヒメの幻のソロ曲を思い出していた…



ー ヒメのソロ曲『シークレット・レター』は、ラビタスがヒメのデビュー曲の音源をヒメの脳内から探り当てた時に、ヒメの記憶の片隅に存在したデビュー曲のカップリング曲…いわゆるB面の曲を発掘していたのだ。

フェスでヒメのデビュー曲をヒメ・シス・カイルの3人で披露した直後、鳴り止まないアンコールに対して『シークレット・レター』の音源も用意しておいたラビタスがサプライズで『シークレット・レター』の音源のコピーを会場に流したのであった。

ヒメはラビタスのサプライズに驚きつつも、この曲を作詞作曲したのがヒメ自身と言う事もあり、練習無しの一発本番で熱狂する魔物達が集まるライブ会場で披露する事になったのであった…




<シークレット・レター>


嘘をつく女は嫌い? あなたには私の嘘の愛して欲しいだけなの

ねえ?また会えるよね? 長電話でもしましょ? 今度こそ分かり合えるから…


ヒロインなんかになりたいんじゃ無い 私がなりたいのは主人公 だって 強い女は素敵でしょ!

淡々と流れる時間の中で あなたに項垂れる私が好き 赤でもない 青でもない 黄色の私を愛してほしい


私の耳や背中が寝返りを打つ度に 貴方の元へ行ったり来たり 私と貴方の隙間に風が吹く

まだ誰の物でもないその場所は 今も未来も私の居場所 指先からこぼれ落ちない様に抱きしめて


恥ずかしいよ!愛の言葉 ラブソングでなら伝えらる 

また会えるから! ラストソングは歌わない

直接読ませてよ ラブレター




(あぁ…なんて懐かしいんだ…またあの時みたいに笑ったり・怒ったり、同じ時間を共有したい…また、会えるよね…ヒメ…)




ラビタスは勇者との壮絶な戦いを制し、無事に生き延びることができた。しかし、戦いの代償は大きくヒメという特別な存在を失う事になる。


地帝国タイタンの住人はヒメを失ったラビタスは生きる気力を失っていると思っていた…しかし、当の本人は逆に生きる気力に満ち溢れていた…






ー ヒメが消失して半年後…


場所はデーモンゲートの真下。大きな荷物を背負うラビタスとメイド服を着た見知らぬ女性…そんな二人へシワクチャの老人が話しかけていた。


「本当に旅立ってしまうのですね」


「見送り感謝するよ爺!短いようで長い時間を俺達と過ごしてくれてありがとう!感謝の言葉しか出てこないよ」


「何をおっしゃいますやら、感謝したいのはこちらの方ですじゃ!」


外の世界へ旅立とうとするラビタスと謎のメイド女性に新たにタイタンの王を任されたチブーが手向け言葉を送っていると、遠くの方から二人の少年少女がラビタス達の元へ駆け寄ってきた。



「お父様!忘れ物見つかりました!」

「パパ!本当にごめんなさい!この人形が無いと私寝れないの?」



遅れて来たラビタスを父と呼ぶ13歳前後の見た目をした双子の兄弟は、ラビタスと謎のメイドと共に外の世界へ旅立つメンバーであった。


「やっと私達、ママを助けに行けるのね!」


「あぁ!真の魔王へと覚醒した俺の記憶に初代ラビタスの記憶が流れ込んで来た…その記憶の中に、初代の古い友人の一人に死者を蘇らせる人物が存在する事が分かった…これから俺たち四人でその古い友人を探しに行くんだ!」



『ゴゴゴ…』



ラビタスは、タイタンが作り出したデーモンゲートまでの螺旋階段をゆっくり噛み締める様に登っていた。



(待っててくれヒメ!俺達が必ずお前の夢を叶えてやるからな!)




ー 最愛を知ったらラビタスは、最愛のその先を求める為に外の世界へ飛び出す事を決断した。見知らぬ世界の先に何が待ち受けているのかラビタスにはまだ解らない…だが自分には、困難に立ち向かうだけの力が備わっている。ラビタスは自分と仲間を信じて突き進む。答えの先を見届けるために…



「さぁ!マホロバへ出発だ!!」


ラビタスは歩みを止めない。自分の信念のままに!



<ゴーレムマスターに転生した俺!!最愛の嫁を作る!> 完

最後まで追ってくださり、感謝しかありません。この先はどうなるか未定ですが、私が作り上げたキャラクターは生きています。今後キャラクター達が転職するのか・昇進するのか、楽しみにして頂ければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 『最愛を知ったラビタスは、最愛のその先を求める為に外の世界へ飛び出す事を決断した。』  最初の目的である『最愛』を得たうえで、更にその先を求める……  ラビタスさんの魔王としての、すなわ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ