魔王降臨
この世界の地下深くには、とある幻の王国が存在する…その王国の名は『地帝国タイタン』
地帝国タイタンは泥魔法を操る魔王、初代ラビタスが建国した魔物の国である。
地帝国タイタンは同じ場所に存在せず自ら移動することの出来る珍しい国なのでる。その為、魔物達にとっても滅多にお目にかかれない幻の国なのである。
そんな幻の国”タイタン”には大きな秘密がある…
その秘密と言うのは…本来、タイタンという名前は国の名前ではなく初代ラビタスによって生み出された一体のゴーレムの名前なのである!
そう、地帝国”タイタン”の正体は、命を宿した超巨大な移動型要塞のゴーレムの事を指すのである。
そんな”タイタン”も産まれたての時は普通のNゴーレムと殆ど変わらない大きさであった。だが、ある日を境に自然界のマナを制限無しに吸収し続け吸収した分だけ巨大化する変異体のゴーレムに変化していた。
とある日…膨大な力を手に入れたNゴーレム”タイタン”は、自身の生みの親である初代ラビタスと幼少期?から顔見知りであるチブーの言う事しか聞かなくなっていた。
次第にタイタンの膨れ上がる体が魔物の範疇を越え始めた頃、その巨大過ぎるタイタンの体に目を付けた初代ラビタスは、その日を境にタイタンの”改造”に踏み切った…そして、初代ラビタスの泥魔法と闇魔法による改造手術によってNゴーレムのタイタンはその日を境に、『地帝国タイタン』へと生まれ変わったのであった。
初代ラビタスが新たに作り上げた『地帝国タイタン』は、自身の体の中にに大勢の生命体を生きたまま取り込む事が可能になり、尚且つ周囲の地面と同化しながら地中を移動する事も可能になった。
最高で最強の移動要塞を手に入れた初代ラビタスは、王国の頭脳であり側近のチブー・移動要塞タイタンの力が合わさり、当時の世界を征服する程までに勢力を拡大していた。
そして、一度世界征服を成し遂げた初代ラビタスに最大の転機が訪れた…それは、初代大空の勇者の登場である。
初代大空の勇者の自身の特殊能力と仲間の力により、完全消滅とはいかないものの、一般的には勇者に討伐される形で魔王ラビタスの世界征服は幕を閉じた。
この戦いで主人である初代ラビタスを失った”タイタン”はそのショックから自ら自我を封印し、塞ぎ込んでしまった。
その後、移動要塞としての機能は維持していたタイタンは、戦友であるチブーの言う事だけを聴きながら初代ラビタスのいない退屈な日々を永遠と送ることになる…
そんなある日、タイタンの体に異変が起きていた…それは自身の”口”に当たる『デーモン・ゲート』が何者かによって傷つけられた事だ!
久しぶりに感じたその痛みに、タイタンは少しだけ封印していた感情を呼び起こした。その痛みは何処となく主人である初代ラビタスに与えらた『ゲンコツ』のダメージに似ていた為であった…
しかし、それはただ似ているだけ…ただの勘違いだった…大っ嫌いでもあり大好きでもあった初代ラビタスの”それ”とは似て非なるものであった…
タイタンは自身の口の中に出来た潰瘍の痛みをすぐに忘れ、魔王ラビタスの復活を待ち侘びながらもう一度深い眠りについた…
そんな中、地帝国タイタンに存在する『デーモンゲート』と呼ばれる開かずの扉が、今まさに4年ぶりに開かれることになる…
デーモンゲートとは、突然変異体でもあり地帝国タイタンでもある『ゴーレムのタイタン』の口に当たる部分である。そんなタイタンは、口に出来た傷の痛みによって集中力の欠如が生じ、本来出来るはずの地中移動が出来ずにいた…
タイタンは四年前、チブーに指示されたとある山の下に移動した後、そのままこの場所で動かずにいた。そんなタイタンに、自身の体内に隠れているチブーがまたもやめんどくさい命令を与えたきた…初代ラビタスを失ってからのタイタンは、自身が移動する際はいつも寝ぼけ眼の状態で移動していたので、口の痛みがある状態で移動は出来なかった。現時点での移動は、完全に目を覚ました状態でないと行えなかったので、チブーへの返答を『めんどくさい』で突き通した結果…場所の移動をしないまま、元いるこの場所でその口を開けることになった…
その結果…扉の外で待ち構えていた3代目大空の勇者に人間で初めて王国への侵入を許してしまった!!
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「流石に四対一じゃあ俺に分が悪過ぎるよ!だからさ〜!離れ離れになってもらうよ」
たった一人で地帝国タイタンの戦力4人と対峙する大空の勇者であったが、不利であるこの状況も普段通り飄々とこの場を切り抜けようと画策していた。
『シュッ!!』
『!?!?』
次の瞬間!ラビタスの目の前にいたはずの大空の勇者は一瞬で姿を消し、ラビタスの近くにいたはずの『セネ』『カイル』『チブー』も同時に姿を消してしまった。
「セネ!?カイル!?爺!?みんな一体何処に行ったんだ?」
『!?!?』
「爺?」
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場面は変わって、皆と離れ離れになった『カイル』はと言うと…
「…」
「あれ?みんなは?僕は何処にいるの? このモフモフな空間は何…ん?」
今まさに仲間と共に大空の勇者と戦闘を繰り広げようとしていた幼顔のRGゴーレムのカイルは、突然その場から自分がいなくなった事に驚きはしたものの、それが全て大空の勇者の仕業なのだとすぐに気が付いた。
その理由は、先程までカイルの目の前に立ちはだかっていた大空の勇者にそっくりな人物は自分の目の前に立っていたからである…
「おい!お主!ちっこいくせになかなか強そうだな!それにしても一体お前何者だブー!」
「ブー?突然見た事のない場所に連れて来られたと思ったら、太った勇者と二人っきりだなんて、なんか最悪〜」
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一方、カイルと同じく皆と離れ離れになったRGゴーレムの『セネ』はというと、彼女もまたカイルと同じく周り一面が白い雲に覆われた様な不思議な空間で大空の勇者にそっくりな人物と対面していた。
「お前さん…なかなかの美人ではないか?魔王の部下なんか辞めて、我の女にならないカパ?」
「ちょっと何言ってるか分かりかねませんね!なんで私が貴方みたいな得体の知れない生物の女にならなくてはいけませんの?そもそも私はラー様の物!お前達人間もどきのに貰われるほど落ちぶれてませんわ!」
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場面は地帝国タイタンに戻り、デーモンゲートの真下でラビタスが自身のお世話係であるチブーを発見していた。
「ラビタス様すみませぬ!目にも止まらぬスピードで勇者に拘束されてしまいました!」
突然自身の周りから誰もいなくなってしまったラビタスは、今の状況に動揺しつつも居なくなった仲間達を探すべく、自身の周りをぐるっと一周見渡して見ると、先程まで勇者が乗っていた筈の黄色い雲の上に謎の金属によって拘束されているチブーの姿を発見していた。
「とりあえず無事で良かった!けど、あの勇者は何処に行ったんだ?」
『!!』
「ラビタス様!後ろです!」
チブーの掛け声により自身の後ろへ目を向けてみると、猛スピードでラビタスへ向かって突進してくる勇者をかろうじて確認できた。
(ダメだ!早すぎて避け切らない)
『ドッカーーん』
突風の様なスピードでラビタスの元へ急接近してきた勇者は、すぐさま豪快なサイドキックをラビタスのみぞおちへ喰らわした。
『ヒューーーードン!!』
自身の蹴りで吹っ飛ぶラビタスに対して、何故か不満げな表情を浮かべる勇者は、徐に隣にいたチブーに対して自身の疑問を問い掛けた。
「なぁ…人攫いゴーレム?あれ本当に魔王ラビタスか?先祖が残した資料に書かれた魔王の性格と違うんだけど…しかも全然強そうに見えないんだけ?」
正直すぎる勇者の問いかけにラビタスをよく知るはずのチブーでさえも、ハッキリとその問いかけを否定する事が出来ずにいた。
「ラビタス様が復活されたのは確かな事実…だが、今のラビタス様は当時の記憶を無くしておられるのだ。現時点でお前達一族が知るラビタス様も私が知るラビタス様も今のこの世界には存在していないのだ…」
「…」
チブーの解説を聞いた勇者はガッカリしたような表情で、戦いの終焉を予期していた。
「なぁーんだ…通りでアイツの目から殺意が感じられない訳だ…せっかくお前達を分散させて復活したラビタスとタイマン張ろうと思ったのにな〜これじゃあ余裕で俺の勝ちだな!!」
またしてもラビタスを見下したような態度を示した勇者に対して、今までのラビタスを見てきたチブーが国民を代表して勇者に宣戦布告をした。
「おい勇者!」
「あん?なんだ?お前もアイツと一緒で調子乗りなのか?」
「ふふふ…あまりうちの王様を舐めない方が良いぞ!ほれ!地面を見てみよ!」
『ドロドロドロ…』
『!?!?』
「アンルリス!!」
チブーとの会話に意識を向けすぎた結果、勇者は自身の背後にラビタスの泥魔法によって作られた泥沼の存在に気づかなかった。そして、そんな泥沼の中から拳を握った無数の腕が出現し、勢いそのままに無数の拳が勇者に向かって降り注いだ。
『ドカドカドカ!!』
全ての攻撃は勇者には当たらなかったが、流石の勇者も片膝をつく程のダメージを与えることには成功した。不意をついたラビタスの攻撃に苦しそうな表情を浮かべる大空の勇者…
『スタスタスタ…』
片膝をつく勇者の所へ、戦意喪失したかに思われたラビタスが何も無かったかのように軽やか足取りで近付いて来た。
「俺は、自分が弱いって事は百も承知だ。だからこそ爺に課せられた課題を休まず毎日こなして来た。その結果、お前の攻撃を喰らう寸前に俺の腹部に泥の壁を作り出してキックの襲撃を吸収する事が出来た。何よりここ最近はヒメとの実践形式の特訓もこなすようになった事で、体術も飛躍的に向上したんだ。そんな俺は、伸び代の天才だ!
どうだい?俺なりの戦いの狼煙は気に入ってくれたか?」
「上等きってくれるじゃん!!」
先程まで雲の上に乗り、地上のラビタス達を見下げていた大空の勇者であったが、今現在は逆に地帝国タイタンの土をふみ、片膝をつきながらラビタスを見上げる構図に切り替わっていた。
そして、ラビタスが放った戦いの狼煙により、勇者対ラビタス軍の戦いの火蓋が切って落とされた。
ー 場面は戻り、真っ白な雲に覆われた空間でそれぞれ謎の人物と対峙しているセネとカイルの姿があった。カイルは太った勇者・セネはガリガリに痩せた勇者、共に大空の勇者似た人物と戦いを繰り広げていた。
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RGゴーレムのカイルは太った勇者こと『紅牙』と熾烈な肉弾戦を繰り広げていた。
『ドカドカ…ボコボコ…』
「はぁはぁ…アンタよく女の子の命でもある顔を平気で殴れるよね?」
「ふぅふぅ…よく言うブー。お主は女の皮を被った魔物…手加減をした瞬間、逆にオイラが殺されるブー」
「よく分かってんじゃん、太っちょ勇者!」
お互いに猪突猛進のタイプであった二人は、とにかく相手が倒れむまで叩きのめそうと心に誓っていた。そんな激しい殴り合いを重ねる両者に新たな動きが見られた。それはせっかちなカイルが戦いを早く終わらせる為に、自身が得意としている土魔法で製作した武器による斬撃攻撃に切り替えるようとしていた。
「殴り合いをするのはもう飽きたよ。ここはサックっと終わらせてもらうよ…」
カイルは、自身の手のひらを地面に向けた状態で右手を前方に突き出た。すると、カイルの手のひらに吸い寄せられるよに地面から巨大な斧が姿を見せた。
「やっぱりコレが僕の戦い方でしょ!」
巨大な斧を片手で軽々と持ち上げるカイルは、そのまま斧を大きく振り上げると、なんの躊躇いもなくその巨大な斧を目の前の地面に叩きつけた。
「潰れちゃえ〜!『グランドリュー』」
『ゴリゴリゴリ〜』
カイルが放つ地面が割れるほどの衝撃波が『コウガ』目掛けて一直線に突き進んでいった。
『ガッチ!』
「ぐぬぬ…お主なかなか強力な技を取得しているブーね!だが…えぇぇい!」
『バン!!』
コウガは両手で受け止めていた衝撃波を一瞬で粉砕し、カイルの追撃を予測し、防御の姿勢を維持しながら近くにいるはずのカイルを目で追った。
「ん?何処にもいないブー…」
辺りを見渡すコウガは一向に見つからないカイルの姿に一抹の驚異を覚えていた。
「この『黄金都市』が発動したが最後、この中に取り残された者は何人たりともう外に出る事が出来ないはずだブー」
「へーいいこと聞いた!!」
『!?』
何処からともなく聞こえて来たカイルも声に驚かされたコウガは、もう一度辺りを見渡してみた…
「分かった!お主の居場所が分かったブー!」
「いや!もう遅いよ」
『!?!?』
『ガッシ』
カイルは自身が放ったグランドリューで発生した地面の歪みに身を潜め、コウガに気づかれないよに彼の真下まで移動していたのであった。そして、完全に隙ができたコウガの足を掴み、彼を地面の中に引き摺り込んでしまった。
「よし!いっちょ上がりっと」
『!!』
カイルによって地面に引き摺り込まれたコウガは首以外を地面に埋められ、地面に転がる生首のような状態を演出された。
「くそ〜やられたブー」
「最後の言葉はそれでいいの?」
「いい訳ないブー。絶対にお前を…」
「え?聞こえな〜い!じゃあ!さよなら…」
せっかちなカイルは、自身に対抗心を燃やすコウガのセリフを最後まで聞く事なく、巨大な斧を地面に埋めるコウガの頭部目掛けて全力でぶちかました。
「えーーい!!」
『ドッカンん!!』
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一方のRGゴーレムのセネも、カイルと同様に『黄金都市』によって閉じ込められていた…
「なるほどね〜!あなた達は大空の勇者の分身体で、彼の特殊な魔法によって作られた勇者のコピーのような存在なのね」
「ゴボゴボゴボ…ぎゃられだ〜プッは…まさかこんな簡単に…拘束されるとは…」
ガリガリの大空の勇者こと『青刃』はセネの水魔法によって生み出された巨大な水の塊の中に拘束されていた。
「本当は、生意気なアナタをじっくり水責めで苦しめたかったのですが、我々『ヒメお助け隊』はとても急いでいますので、早速ですが消滅してもらいます!」
『グーー』
セネは開いた自身の掌をゆっくり握り締めると、それに同調するようにセイバを閉じ込めていた水塊の体積が小さくなっていた…セネのその握られた拳が最終まで圧迫されると、セイバを閉じ込めていた水塊も同様に極限まだ圧縮された…
『バタバタ……』『シーン……』
極限まだ圧縮された水塊に閉じ込めらたセイバは、押し迫る水の圧力と呼吸困難によりあっという間に動かなくなってしまった…
「意外と呆気なかったですわね」
勝利を確信したセネは、動かなくなったセイバに背を向け『黄金都市』の解除方法を探すため雲のベールの際まで移動しようとした…その時!!
『バッシャン!』
『!?』
セネは自身の背後に存在していた水塊が、何かによって消滅させられた事に気付かされた。
妙な気配を感じ取ったセネはすぐさま後ろを振り返り、機能停止した筈のセイバの現状を確認したその時…
『!?!?』
「あ…アナタ一体何者…ですの?」
『グッサリ』
振り向いたセネの目の前には、謎の青色の鎧を纏ったセイバが日本刀のような武器をセネの腹部に向かって振り抜いていた。
「グッは!」
セイバはセネの腹部から体外へ貫通した刀をすぐに抜き取ると、転がり落ちたセネを見下ろす形で自身の強化された姿を見せつけた。
「素直にワレの嫁になっていれば、死なずに済んだものの…」
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同じ時刻…同じタイミングでカイルは敵であるコウガに強烈な一撃をお見舞いしていた…かに思えたが…
実際は、カイルが振り翳した巨大な斧がコウガの頭にぶつかった瞬間、ボロボロと崩れ落ちていった。
「お主の魔力は頂いた」
『!?』
『ゴリゴリゴリ…』
カイルの一撃により体の全てが地中へ埋まり、先ほどまでコウガが顔を出していた場所に小型の穴が形成されていた。
そんな時、小型の穴からコウガの声が聞こえた瞬間!その小型の穴を中心に大きなヒビ割れが生じた。そのひび割れの中から炎を纏ったカギ爪が地面の下から姿を現した!
カギ爪を駆使して、ゆっくりとヒビ割れた地面から這い上がってきたコウガは、炎のように真っ赤に染まる鎧と両手にカギ爪のような武器を備えた状態で地上に舞い戻ってきた。
「何よこれ?聞いてないんだけど?」
「オイラ達、勇者によって生み出された『身外身』は敵の魔力を吸収出来るんだ!」
「吸収だって…でも、そんな筈ない…さっきお前は僕の攻撃で完全に死んだはず…」
「ふふふ…わからないのは無理もない。だったら冥土の土産に教えてやろう。オイラ達の正体を…
オイラ達の正体はこの空間そのもの!!」
「……………」
「お主達は、我らの本体によって編み出されたこの『黄金都市』に閉じ込められたのだ。この空間では、お主達が我らを殺せば殺す程、お主達の魔力を吸収した我らが復活を遂げてお主らの目の前に現れる…そしてお主達は我々に殺されるまで我々と戦わなくてはならないのだ!!
そう!お主達は決して我ら『身外身』を倒す事もこの場から逃げ出す事も出来ないのだ」
「……うん…うん…」
勝利が見えない絶望的な状況に落ち込んでいるかの?下を向きながら独り言を呟くカイル…
そんなカイルを観察していたコウガは、自身の勝利を確信し、戦意喪失している様に見えるカイルのトドメを指すべく新たに手にした武器をカイルに向けた。
「絶望的な状況に落ち込んでいるのか?死なない我々を倒すことは不可能。ここは大人しく我々に殺されるのを待つのが得策だ」
「……よし……うん」
相変わらず俯きながらブツクサと独り言を話すカイルを見たコウガは、一見意味の無いカイルの独り言にとある規則性を見出した。
「…お主もしや、独り言を喋っている訳では無いのか…」
「…」
俯くカイルは、コウガの問いかけに答える様に俯いていた顔を勢いよく振り上げた。
「せいかーーい!!」
『!!!』
「僕は独り言なんか喋ってないよーーん!近くにいるセネ姐とお前達を倒す為の作戦を練っていたんだよ!」
「何?作戦だと?でもどうやって?お前達が近くにいる事を何故わかった?しかもこの『黄金都市』の中から、外に対しての魔法は全て遮断されているはず…」
「教えて欲しいんだ?どうしよっかな〜どうせアンタらは僕ら姉妹にやられちゃうから、僕ら姉妹の秘密を聞いたところで、意味ないよね〜
まっ!冥土の土産に教えてしんぜよう!僕達姉妹は魔法を使わずに意識を共有する事が出来るんだよ!その理由は……」
『ジャカジャカ……じゃん!!』
「僕達はこう見えて双子なんです!!」
『!?』
「そうだよね!そうだよね!僕達全然似てないよね?でも、れっきとした双子なんです!だから魔法を使わなくても交信出来るんだよん!交信方法は簡単!お互いが2メートル圏内いる状態でお互いの事を意識すれば交信が可能なんだよ!セネ姐が言ったけど、多分僕達は何か小さい”何か”にでも封印された状態でそれぞれが同じ勇者のポケットにでも入ってるんじゃないかって!だから、お互いに交信が出来たんじゃないか!って」
「……ふふふ」
「お主ら最高だな!そう…正解だ!だが…それが分かったところで我々を倒す事は出来ない!何より意識を共有出来るのはお主らだけでは無い。お主の姉はセイバによって致命傷を負わされている。お主の姉はもうすぐ死ぬ…そして、お主もな…」
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『ムック』
「私が何ですって」
『!?』
カイルとは別の『黄金都市』内でセイバの刀によって腹部を突き刺され、倒れ込んでいた筈のセネが徐に立ち上がった。
何より先程セイバに傷つけられた腹部の傷がすでに塞がっていた。
「腹部の傷が治っている事、気になりましたか?低脳なあなた方にも分かりやすくお教えいたしましょう!
私たち姉妹はとある事件がきっかけである特別な力に目覚めていたのです。それは…我が親愛なるヒメお姉様の闇魔法に触れた事です。
私達RGゴーレムの姉妹は主人であるラー様の泥魔法を引き継いでいます。泥魔法は闇魔法・水魔法・土魔法の3種類の魔法が合体して完成した魔法。そのため元になった3種類の魔法も原理的には扱える筈なのです…しかし闇魔法は神に選ばれし存在のみが扱える特別な魔法。ちょっとやそっとの訓練じゃ扱う事は出来ません。しかし、ヒメお姉様を怒らせた時に私達姉妹はヒメお姉様の闇魔法により小型且つキュートな魔物に変化させられてしまったのです…
そう!その闇魔法と接触した時の副産物として私達姉妹に眠る闇魔法の力が開花したのです」
「闇魔法だと…」
「その表情だと闇魔法の能力をご存知みたいですね!そう!私は闇魔法の力を使ってアナタな武器による攻撃を吸収したのです。でも私もまだまだ未熟ゆえ、完全にアナタの攻撃を吸収出来なかった…多少傷ついたは私は、得意な水魔法の回復魔法で傷を修復しました。
そもそもアナタのその鎧もその武器も水魔法によって作られた物…実際、水魔法と水魔法は親和性がある為、水魔法によって傷つけられた傷は治りが早いのです。そう!ただの水魔法使いのアナタと闇魔法を習得した私とでは戦う相手の相性が悪かったですね!」
ー 敵の情報・自分達が置かれている立場・自分達の新しい力…セネとカイルの姉妹は自分達の勝利を確信し、目の前には居ないが、確かに隣にいるであろう互いの魔力をシンクロさせた。
二人に備わった闇魔法はまだ、芽が出たばかりの蕾の様な状態。しかし、共鳴した姉妹がひとたび力をシンクロさせたのならその闇魔法の蕾は一気に満開になる!!
「行くわよカイル!」
「了解!セネ姐!」
『着飾る姫娘!!《ブラックドレス》』
『キラキラキラ…』
セネとカイルの姉妹は特撮ヒーローの様に華麗な変身姿をお互いの敵に見せ付けていた。
姉のセネは全身黒を基調としたエナメル素材の様なテカリのある衣装。妹のカイルは黒とオレンジを併用した軽装の闇の鎧を見に纏った。
それぞれの個性が光る闇魔法の鎧を自身の身に纏い、それぞれが別々の場所で対面しているお互いの敵を威嚇していた。
セネは一見薄手に見える鎧を身に纏っているが、その『着飾る姫娘!!《ブラックドレス》』は強大な力とエロスを秘めていた。
エナメル風の帽子・紫のリップ・ノースリーブかつハイレッグカットのエナメル風ボディースーツ・あみタイツにピンヒール。そして漆黒の鞭。
そして、セネと対立しているセイバは自身の魔力をタイガーブレードと呼ばれる日本刀に集中させ、セネの攻撃に備えていた。
「例え一時的に闇魔法を扱えたとしても、ワレの全力の一撃には敵うまい!喰らえ…”神速切り”」
『グルグルグル…』
「悪いけど、全然遅いわよ!楽死め《たのしめ》!『木馬に乗る王子様』」
セイバは一瞬でセネの漆黒の鞭によって拘束された。次の瞬間!黒い煙がセイバを包み込んだ。そして、気づいた時には歪な拘束具を身に纏いながら黒い魔力を秘めた三角木馬に跨ったセイバが姿を現した。
「何だこれは〜全く身動きが取れない」
セネは高揚しながら自慢の鞭で身動きの取れないセイバをなぶり続けた。
「エクスタシ〜」
すると、鞭で叩かれた部分が次第に削られて行き、セイバは忽ち姿を消してしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一方のカイルは、炎を放出する事の出来るカギ爪『牙突』を装備したコウガと激しく殴り合っていた。
カイルはコウガの炎攻撃により火傷を負いながら、我慢比べの様な接近戦でコウガを追い込んでいた。
『ドカドカドカ!』
一見、接近戦のダメージとヤケドのダメージの両方を貰っているカイルの方が劣勢に立たされていると思いきや、損傷の少ないコウガの方がカイルよりも苦しそうであった。
「あれあれ〜さっきの威勢は何処行っちゃたのかな〜」
黒とオレンジが印象的な闇魔法で出来た鎧と両手に巨大なガントレットを新たに装備したカイルは、無邪気な笑顔を振り撒きながら、ひたすらにコウガの顔面を殴りつけていた。
そして、数分間殴り合いを繰り広げていた両者に圧倒的な違いを見出す事になる…
『ピッタ!』
二人は突如、殴り合いを辞めた…
笑顔のカイル…片膝をつき、息切れを起こすコウガ…カイルは、肉体的ダメージと火傷のダメージを負っていたはずの体が綺麗に修復されていた。
一方のコウガは目立った傷は無いが、見た目が最初の頃に比べると痩せ細っていた…
「目には目を歯には歯を…吸収に吸収だ!」
カイルは先程、姉のセネと作戦会議を行った結果…倒しても倒しても自分達の魔力を吸収して復活を遂げる敵を倒すためには、敵の吸収能力ごと吸収出来る闇魔法が最適だと結論付いた。
普段せっかちなカイルもこの時だけは自分の本質を一旦飲み込み、じっくりと時間かけて敵の体力・能力を吸収した上で、吸収した魔力を自身の損傷した傷の回復に回すなど、戦闘偏差値を高さを証明する事にも成功していた。
「僕はお前を殺さない…その代わりに僕の栄養になってもらうよ!いただきます!」
「叱咤激励」
『ジュルジュルジュル……ポン!』
カイルの突進からの右ストレートがコウガの顔面に炸裂すると!カイルの右手に吸い込まれる様にコウガはゆっくりと姿を消していった!
「正義は勝つ!…なんてね!てっへ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『パッリン!パッリン!』
大空の勇者のズボンのポケットに入っていた二つの金色の玉が割れ、玉の割れ目から白い煙に囲まれたセネとカイルが玉の中から飛び出してきた。
『ドローーん!』
「おう…お前…達か!悪いが…戦いは…もう終わったぞ!」
セネとカイルは煙の外から消えくる途切れ途切れの声が、自分達の主人であるラビタスの物だと信じて疑わなかった。
「ラー様?そちらも戦いの決着が付かれたのですね?」
「…」
「ん?違う違う…今度はお前達の番だって話…」
『!!!』
煙が晴れ、あたり一面が見渡しやすくなったその時、セネとカイルの目の前に最も恐れていた光景が広がっていた…
謎の赤い棒を携えた大空の勇者と思われる人物が、その赤い棒を左腕が消失したラビタスの腹部に突き刺していた。
「ラビ様ーーー!?」
「いやーーーーーー」
『ビリ…ビリビリ………』
普段、雲など一切存在しない地帝国タイタン。そんなタイタン上空に無数の乱層雲が出現していた…
『ボッタン…ボッタン…』
最初に確認した時と違う容姿をした大空の勇者が謎の赤い棒でラビタスの腹部に突き刺した事により、ラビタスの腹部に大きな風穴が開き、ラビタスは上半身と下半身が分離する程の大怪我を負わされてしまっていた。
すると…
「ぐぅ………グッは」
『!?!?』
「ラー様?良かった…まだ息があるのですね?」
ヒメによって切り落とされた左腕の代わりに製作した義手が消失し、尚且つ新たに腹部から下もラビタスからこぼれ落ちて行った…しかし、魔王としての生存本能が二代目ラビタスを死の寸前で食い止めてくれていた。
「チッ!流石に凄い生命力だな…先代大空の勇者を手こずらせて事はある…」
「ラビ様!すぐに助けるからね!」
カイルは致命傷を負っているラビタスを助ける為に、無意識に体がラビタスの元へ動いていた。
「カイル!危ない!!」
『ガッシャン!』
『!?!?』
無防備な状態で動いてしまったカイルは大空の勇者が所持していた特殊な金属によって拘束されてしまった。カイルは拘束された瞬間、纏っていた闇魔法の鎧が解除されたと同時に体の自由も奪われてしまった。
「良くも俺の可愛い分身を倒してくれたな!しかし、そのお陰アイツらが取得したお前達の情報はアイツらが消滅した瞬間、俺に還元された。それによってお前達の行動パターンは手に取るように分かってしまうのさ!」
親愛なるラビタス・カイルが次々と大空の勇者の前に倒れていく光景にセネはこの場にいる誰よりも焦っていた…
(ラー様は何とか命を取り留めているけれど、あと、ほんの一撃でもダメージをくけてしまったらこの先どうなってしまうか分からない。頼りだったカイルも勇者によって拘束されてしまった…この最悪の状況で一体私に何が出来るの…こんな時にヒメお姉様がいれば…)
セネは自分達の危機状況に、心の中で本来自分達が助けなくていけないはずの『ヒメ』に助けを求めてしまった…
闇魔法に力に目覚め、一時的であるが闇魔法を扱えるまでに成長していたセネは、闇魔法が起こした一つの奇跡を目の当たりにする!
『……』
『セネ?…セネ?私…に助けを…求めて…今、この瞬間を覆せるのは貴方だけなの…そう!その”願い”を強く願って!』
『!?』
(何か聞こる…誰かの声が私の中に…誰?一体誰の声なの…)
セネは懐かしくもあり、暖かいその謎の声に導かれる様にその声の主の言うことを自然と実行していた。
(助けて…助けてください…カイルを…そしてラビタス様を…)
「助けてーーー!!ヒメお姉様ーーーー!!」
『!?!?』
突然大声で見知らぬ女性の名前を叫ぶRGゴーレムの女性に大空の勇者は、状況が掴めずにいた。
「この後に及んで神頼みか?ラビタスもちっこい姉ちゃんもゴーレムの爺さんも、奴らの命は全て俺の手の中いる。残っているのは、そこのセクシーな姉ちゃんだけ…大人しく俺に捕まれば悪いようにはしないぞ!」
『バリ…』
『バリバリバリ…』
『!?!?』
勇者は突如、次元の歪みを感じ取った。
「!? 何かがこっちに来る?」
『バリバリバリーーー』
突然、デーモンゲートの真下に黒いモヤが出現し、そのモヤの中から悪魔の様な姿をした『ヒメ』が突如姿を現した。
『ドン!!』
『!?!?』
「ヒメお姉様…なんでこの場所に?」
2本の鋭いツノ・黒い羽・長い尻尾…既に魔人化しているヒメは、魔石化により自身の体に漆黒の魔石が無数に生えおり、特に右目に生えた魔石が彼女の視野を狭くしていた。
「助けに来たよ…みんな」
魔人化したヒメの登場に、敵であるはずの勇者は一瞬で歓喜していた。
「魔石化した女性がこんな所に…いや、そんな事より、俺をこの場所に呼んでいたのはお姉ちゃんだったのか?…この禍々しい波動は俺をこの場所を俺に教えてくれた波動と同じ…そしてこの漆黒の魔力は…」
「そうか…お姉ちゃんも!1000年ぶり誕生した新たなる魔王の一人…新世代魔王だったのか!!」
ヒメが魔王に覚醒したこの日、この世界の秩序は崩壊した。
そして、新たな魔王の誕生がこの世界に眠っていた各世代の魔王達の力を呼び起こすきっかけとなった…
次回、最終話 ラビタスは最愛を知り、ラビタスは新たな夢を見る!!