勇者と魔王
精霊や神々・異種族が混在する世界『●▲■◆』…この世界の地中深くに存在する超巨大空洞…『地帝国タイタン』
そんな地帝国タイタンのちょうど中央にこの国のシンボル『モスク城』が神々しく聳え立つ。
そして、モスク城をひたすら北東に進むと特殊な石で作られた巨大な扉、『デーモンゲート』が姿を見せる…
『デーモン・ゲート』それは開かずの間…
普段は、特殊な魔法防壁の力でタイタンと外の世界の交通を遮断しているが、地帝国タイタンの王であり魔王でもあるラビタスもしくは、タイタンの大臣『チブー』の権限のみでタイタンと外の世界を結ぶ唯一の扉『デーモン・ゲート』が開かれるのである…
今まさに、そんなデーモンゲートの真下にゴーレム・マスター『魔王ラビタス』と、その側近であるRG・ゴーレムの『セネ』と『カイル』が大臣のチブーによるデーモンゲートの開放を今か今かと待ち侘びていた…
「チブー様!早くゲートを開けてください!私たちには時間がないのです!!」
「そうだよ、おじいちゃん!早くしてよ〜じゃないと!じゃないとぉ〜!」
セネとカイルが妙に焦りながら、チブーの行動をせかしていた。
「焦る気持ちは分かるが、何せよこの『デーモン・ゲート』は特殊な扉…そう簡単に開け閉め出来る物ではないんじゃ!しかも今回は普段より扉の調子が悪くなっておる…」
RG・ゴーレムの二人とチブーの会話を黙って聞いていたラビタスであったが、明らかに彼の立ち振る舞いは普段の彼とは一線を画していた…
『カタカタかた…』
「ふぅ〜…ふぅ〜…」
下を向き、注視しないと分からない程の小刻みな揺れ…呼吸が浅く、肩で息をするラビタス…
焦る『セネ』『カイル』…挙動不審なラビタス…
そんな三人をこの国に住む魔物達が目にしたのなら、彼・彼女らの違和感に一目で気が付くであろう…
そう…彼らの最大の違和感は…
『ヒメ』がこの場に居ないことである!
『ヒメ』とは、魔王ラビタスが自身の欲望を具現化しようと製作した特別なゴーレム…『ラビ・ゴーレムのシス』のことを指す。しかしそんな『ヒメ』には秘密があった…
そんな彼女の秘密はと言うと…彼女が一度消滅していると言うことだ!!
彼女の誕生には『賢者の石』と言う特別な魔石が深く関わっている…ラビ・ゴーレムのシスは『賢者の石』を取り込んだ事によりラビタスの願いでもある『人間に近いゴーレム』として誕生する事が出来た。しかし…強大な魔力と生命力を生み出す『賢者の石』と肉体となる筈だったゴーレムのボディーが長時間適合する事が出来ずに、生命を肉体に宿したのも束の間、すぐさま命を落としてしまった…
魂が消滅し、抜け殻となったシスの体に一つの奇跡が起きた…
それは、異世界転生である!!
死亡したセネの体にこの世界とは別の世界からやってきた17歳の少女の魂が宿ったのであった。
その少女の名は『夢見 姫』通称:ヒメ
何の因果か、彼女の異世界転生に大きく関わる人物であり、このヒメを誕生させた張本人『ゴーレムマスター・魔王ラビタス』もまたヒメと同じ世界線からやってた異世界人なのである。
そんなラビタスとヒメは、出会いこそ最悪であったが時間の経過と共にお互いを理解し・想い合う存在へまで発展していた。
その後、ヒメを取り巻く環境は激変し、新たに誕生した二人の妹達『セネ』と『カイル』を含むタイタンで暮らす全ての魔物達からも愛される存在にまで変化していた。
魔物達は知っていた…
ラビタス・ヒメ・セネ・カイルの4人はいつも一緒に行動していた事を…
喧嘩も多いが芯の部分でお互いを理解し尊敬しあっている、そんな4人を魔物たちは大好きだった!
そして今…あの仲睦まじい4人の姿はこのタイタンから見る事が出来なくなっていた…
ー ラビタス一行がデーモンゲートに到着する1時間前…
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『ギィ……パッタン!』
「爺!ヒメの症状はどうなってる?」
ラビタスはモスク城にあるヒメが眠る寝室の前で大臣のチブーが戻ってくるのを今か今かと待ち構えていた。
「ラビタス様…」
「やれる事はやりましたが、ヒメ様の状況は悪化の一途を辿るばかりですじゃ…」
「…そうか。やっぱり今のこの国の医療技術じゃヒメの『魔石化』を治す事は出来ないのか…」
ヒメの症状悪化をチブーから聞かされたラビタスは、別室で『魔石化』について調べ物をしているセネとカイルの元へ足を運ばせた。
『ヒュー…バッタン!』
「セネ!カイル!魔石化について何かわかった事はあるか?」
「ラー様!ちょうど魔石化についての情報がまとまった所です!」
「本当か!?じゃあ、早速報告を頼むよ!」
寝る間も惜しんで大好きな姉の病気を治す為の情報収集を行ってきたセネとカイル。姉妹を代表して次女のセネが今現在もヒメを苦しめている『魔石化』についての解説をラビタスに始めた。
「まず初めに『魔石化』の基本情報から…魔石化とは人間もしくは人間の血が混ざった種族に発症する代謝性疾患の一つで、自身から生み出せれる魔力と自身の魔力を吸収する生理現象である魔力代謝とのバランスに乱れが生じ、体内に吸収出来なかった魔力一部が毛穴から体外に漏れ出す病気の事です。症状が末期になると漏れ出した魔力結晶が魔石と呼ばれる鉱物へと姿を変え、最終的には魔石に全ての魔力を奪われ、完全な魔石へと成り変わってしまいます… 」
「そして今のヒメお姉様は症状は末期…命の危険が十分あります」
「くそ…」
「…なら、体に出現した魔石を切除出来ればヒメは助かるのか?」
ラビタスのシンプルな答えにセネは重い表情で首を横に振った。
「…初期症状の軽い魔石化ならその方法が適応されるのですが、魔石融合率が50%の今のヒメお姉様の状態ではその方法は自殺行為に等しいです…」
「今のヒメはそんな過酷な状況なのか… ヒメが魔石化と診断されたその日からヒメは俺との面会を拒絶するようになった……ヒメは何でもっと早くに俺に相談してくれなかったんだ?もう少し早く俺を含めた誰かに相談していればここまで症状がひどくならずに済んだのに…」
「……」
焦るあまりにたられば語るラビタスの言動にセネとカイルは共感しつつも、ヒメの意見を尊重する二人はラビタスの主張に返す言葉が見当たらずにいた…
しかし、ひどく落ち込むラビタスの姿を目の当たりカイルが、そっとラビタスの前に近づきヒメから口止めされていた真実をラビタスに告げた。
「ラビ様は何も分かってないよ!!ヒメ姐がラビ様を遠ざけている本当の理由を… 実際はヒメ姐が誰よりもラビ様の事は一番に考えているんだよ!」
「ちょっとカイル!?それは、ヒメお姉様に口止めされているはずじゃ!」
「もういいじゃんセネ姐!!ヒメ姐の事でこんなに苦しむラビ様をこれ以上観たくないよ!!」
「…」
ヒメがラビタスを遠ざける理由を知った上でヒメの意見を尊重していたセネも、カイルの起こした行動に共感する形でヒメに念押しされていたヒメがラビタスを遠ざける本当の理由をカイルが告げる事を許可した。
「ヒメ姐は何よりシス姐から受け継いだ自分の体を大事にしたかったんだ!そして、ラビ様の願いを具現化した自分の体が魔石化によってボコボコになって行く様をラビ様に見せたく無かったんだよ!!」
「何だって!?!?」
ー ヒメは亡くなったシスに対するラビタスの想いをチブーから密かに聞いていた…
自分の命が亡くなったシスの上に成り立っている事やラビタスが必死の思いでシスの体を作り上げた事を…何より自身の体とラビタスのシスへの想いを大切にしたいとヒメは心から願う様になった。
ー ヒメは魔石化により自身の体の形が変化し、元の綺麗な体を保てなくなる事『イコール』ラビタスとシスの思い出を壊す事に繋がると解釈する様になった…結果、ヒメはラビタスを遠ざけるよになった。
「ヒメ……」
『バッタン!』
「ヒメ様は随分変われました!自分の命の短さを知ってか知らずか、モスク城にいる全ての魔物達を自分の部屋へ呼び寄せ、一人一人に『ラビタスを頼んだわよ』っと頭を下げていました…」
『!?!?』
「爺!?いつの間に!」
「すみません…三人の会話をずっと外で聞いていました。そしたら居ても立っても居られなくなってしまいました…いやはや」
「ヒメ…俺の知らない所でそんな事を…」
全ての真実を知り、先ほど以上にヒメを助けたいと願う気持ちが高ぶるラビタスに対して世話係でもあるチブーがとある助言をラビタスに伝えた。
「ラビタス様…ここで爺から提案なのですが、外の世界に行かれたらいかがでしょうか?」
「外の世界だって!?もしや外の世界にヒメの魔石化を治す方法が存在するのか?」
「確信はありませんが…魔物達による噂話によりますと外の世界には有名な魔人族の医者がいるそうで、その医者に面会する事が出来れば迅速にヒメ様の病気も治す事が可能かと。 最悪、魔人族の医者が亡くなっていても医療や薬に詳しい人間を探し出し、その者から魔石化についての話を聞くのもアリかと思われます…人間に起こり得る病気なのなら私達のような魔物よりも人間達の方が魔石化についての知識が豊富なのは明白です」
「魔人族の医者…断定的な話では無いけれど、ヒメを救える可能性が少しでもあるのなら直ちに外の世界へ出発しよう」
チブーから教えられた不確かな情報でも、現在進行形で魔石化が進んでいるヒメを救えるのならラビタスは喜んで噂話に首を突っ込む覚悟であった。
ラビタスは自身の側近である『セネ』と『カイル』を自身の護衛に選び、直ぐ様三人での外の世界への出発を画策した。
そして、1時間後!話は戻る…
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「想定外のトラブルはありましたが、時間も限られているので早速デーモンゲートを開かせて貰います…」
『ハッ』
「………」
『ゴゴゴ…』
天井に広がる巨大な石の扉『デーモンゲート』
…数ヶ月前、強すぎる自身の魔力に意識を奪われ、暴走してしまったヒメがデーモンゲートの破壊を試みた…けれど、扉の破壊はおろか扉を動かすことすら失敗に終わってしまった。結果、扉には小さなヒビ割れだけが残った…
全てを破壊しかねない魔力を秘めたヒメでさえも破壊する事が出来なかったデーモンゲートが、チブーの魔法によりいとも簡単に開こうとしていた。
『ギィ〜………バッタン!!』
「よし!扉が開いたぞ!! セネ!カイル!急いで『魔石化』に関する情報をかき集めに行くぞ!」
「了解しました!」
「待っててねヒメ姐!」
ラビタス・セネ・カイルの三人はお互いの使命を再認識すると、リーダーであるラビタスが地面に手を当て、外の世界への扉が開いたデーモンゲートを越えるべく泥魔法による階段を作ろうとしていた。
と…その時!?
「そうはさせねーよ!」
『!?!?』
「こっからさっきは通す訳には行かないんだなー」
開かれたデーモンゲートの先に持ち受けていたものは広大な青空…では無く、黄色い雲に乗る一人の男性であった。そんな謎の男性が地上にいるラビタス達に向けて警告とも取れる助言を言い放った…そして、とある魔法?をラビタスへ向けて徐に放ってきた。
『ビリビリ…ドッカン!』
男性が乗る黄色い雲から中型の雷攻撃がラビタスの元へ降り注ぐと、ラビタスは思わず泥魔法による階段の生成をとりやめ、雷攻撃を避ける事に意識を切り替えた。
「急に何をするんだ!…お前一体!何者だ!」
ラビタスは間一髪で雷攻撃を回避する事に成功すると、すぐさま攻撃を仕掛けて来た謎の男に対して自身の素性を問いただした。
地帝国タイタンに現れた謎の男は、金髪の坊主頭・色付きのメガネを掛けた色白の美形男性で、拡張した耳たぶに取り付けられた大きなピアスが何よりも目立っていた。そして、全身にゴールドのアクセサリーをジャラジャラと身に付け、胡座をかきながら黄色の雲に優雅に座っていた。
「ん?ここには魔王はいないのか?せっかく復活した魔王を退治する為に2ヶ月以上もお前達の隠れ家を探し回ったって言うのによ〜」
「…何を言ってるんだ!魔王は俺だが?」
『スルスルスル〜』
謎の男とラビタスが思い描く魔王についての認識に食い違いが発生した事により、謎の男は首を傾げながらゆっくりとラビタスの目の前まで近寄ってきた。
「兄ちゃんが魔王?俺が感じ取った闇の波動は兄ちゃんから発せられる波動とは別物だよ。…まぁいいよ!とりあえずアンタたちここから動くんじゃないぞ!そして、これから俺がする質問にだけに答えるんだ!」
ラビタスからの質問に一切答えようとしない謎の男は、一方的に自分の疑問だけをラビタス達にぶつけていた。そして謎の男の標的がチブーに切り替わった時、事件は起きた…
「おい爺!あいつ一体何者なんだ?急に扉の外から現れて一方的に命令だけはして来るけど…ん?どうしたんだ爺!?」
ラビタスは近くに居るチブーへ小声で謎の男について質問をしてみると、いつも平常心を保っているチブーの様子がおかしい事に気が付いた。
『ブルブルブル…』
「何故あやつが生きておる…」
自分の事を睨みつけているラビタス達よりも小刻みに震えるチブーの姿に何かを感じ取った謎の男は、何かを思い出しながらそっとチブーの近くへ歩み寄った。
「あれ!?もしかしてお前…魔王の家臣『チブー』だな!本当!じいちゃんから聞いていた通りのシワクチャなゴーレムだな!」
「じいちゃんだと?やはり…お前もあの忌まわしい一族か?」
「『忌まわしい』ってこっちのセリフだぞ!そもそもお前が未だに人間を攫っているから、お前達ゴーレムと因縁のある俺たち一族が駆り出させるハメになってるんじゃないか!」
『!?!?』
「爺…どう言うことだ!『未だに人間を攫ってる』ってどう言う事だ?」
謎の人物の予期せぬ発言に寝耳に水のラビタスであった。
「……」
ラビタスは直ぐ様、隣にいるチブーに真実を問いただすも、当のチブーはと言うと主人であるラビタスの問いかけに答える事はしなかった…
「この老害ゴーレムが答えないなら俺が教えてやるよ。このゴーレムは仲間を連れて定期的に地上へやって来るんだ!そして、人間を数人さらって来ては、この場所で人間を食ってるんだ」
「嘘だろ…ウソだろ爺!?なんでそんな事を…」
「何だ?兄ちゃん、コイツの仲間なのにコイツがやっている事知らなかったのか?ま!知らなくてもお前達はコイツと同類だから、もちろん全員この場で俺が退治してやるよ」
ラビタスは自身が信頼しているチブーや自分たちの存在を一方的に決めつけている謎の男に無性に腹が立っていた。
「退治するだと?何の権限があってお前に退治されなくちゃいけないんだ?そもそも爺が人間食べている証拠があるのか?半年ぐらいの付き合いだが、爺と一緒に暮らして来たこの国で爺が人間を食べている姿を一度も見た事無いぞ!」
「ワッハッハ」
「何がおかしい?」
「悪い悪い…頭ん中がお花畑過ぎて、ついつい笑っちまった!…どんなに兄ちゃんが面白いやつでも退治するのは変更なしだ!!それじゃあ退治される前に教えてやるよ!このゴーレムが人間を食ってる証拠を!」
「それは…この爺さんの存在とお前達3人だ!!」
謎の男が力説する人間を食べている証拠にラビタスは意味が分からずにただただ混乱する一方であった。
「爺と俺達三人に何の関連性があるんだ…爺はともかく、俺たち三人はこの国で一回も人間に会ってないんだぞ!」
「まーわかんない奴には一生分かんない質問だったな!じゃあ今回は特別に無知なお前に魔物が長生き出来る秘密を講義してやるよ」
「長生きの秘密?」
ラビタスはチブーが長生きしている事に何の懸念も持たなかった…そして、謎の男の説明を聞きながら爺と初めて会った時の事を思い出していた。
「そもそも神以外生物、人間や魔物にも寿命は存在する。だが人間には出来ない魔物だけが寿命を延ばせる方法が存在する…それが人間を喰らう事だ!」
『!?』
「そして、効率よく寿命を延ばす方法も存在する…それは若い人間を喰らう事…その理由は、食べた人間の残った寿命をそのまま自分に還元出来るからだ!」
『……』
ラビタスは俄かに信じられずにいた。本当にあの優しいチブーが罪のない若い人間を食べているなんて…しかし、ラビタスはこの後に謎の男が語る言葉によって自分にも大きな罪が背負わされている事を突きつけられるのであった…
「実際問題このゴーレムは、本来長生きしなくても良いんだ…けどコイツには絶対に成し遂げなくてはならない目的があるんだ!それが”魔王の復活”だ!!」
点と点が線になった…ラビタスは爺が自分の為に人間を喰らい自身の復活の為に長生きをしている事に気付かされた。
「魔王とは神に選ばれた存在…魔王の肉体の一部が存在していれば、いつになるか分からないが魔王は復活する!このゴーレムは、俺の先祖が魔王ラビタスを仕留めた時、魔王の頭蓋骨を戦場からこっそりと持ち出していたんだ。そして、いつか復活するであろう主人の為にコイツは罪のない人間を喰らってその瞬間を待っていたんだ」
「そ…そんな」
ラビタスは自分の復活が、見ず知らずの人間の命で成り立っている事に絶望した…だが絶望はまだ続く…
「何よりコイツは長い年月人攫いを続けられるように、人攫いの規則性を上手くカモフラージュさせていたんだ…場所や攫う人間の年齢・性別をうまくバラつかせて俺たち人間に気づかれないように、工夫しながら長きに渡り人間をさらい続けた…そんな長期間の人攫いには副産物も生まれる…それがお前達が着ている洋服だ!」
『!?』
「俺の目の前にいる男が来ている服も!そこの小綺麗な姉ちゃん達が身に纏っている洋服や小物も全て攫って来た人間の私物なんだよ!!俺たち一族は長きに渡り攫われた人間達の情報を集めていた。直近で言うと、そこのちっこい姉ちゃんが着ている洋服は4年前に行方不明になった村の女の子の私物で間違いない」
突きつけられる現実に、ただただ唖然と立ち尽くすしかなったラビタス・セネ・カイルは、改めて自分達が人間達の敵としてこの世界に存在している事を突きつけられた気がしていた。
「俺たち一族は大きな手応えがないまま、長きに渡り人攫いをしている人物の手がかりを求めていた…そこにある転機を訪れた…そう!それがそこに居るゴーレムとの遭遇だった…」
「……」
「俺のじいさんは昔、一族の連中が魔王ラビタスを討伐した時に魔王の側近だったゴーレムを取り逃した事をずっと悔いていた話を聞かされて育ったらしい。だから自然と側近のゴーレムを討伐する事が自分の使命なのだと考えるようになっていたらしい。
そして数十年後…じいさんがとある村の警備をしていた時、ついに念願だった魔王の側近と遭遇する事が出来たらしい。じいさんはゴーレムに致命傷を与える事が出来たが、肝心なところでゴーレムを見失ってしまった…そして、そのゴーレムは何の変哲も無い洞窟に逃げ隠れて行ったらしい…じいさんがそのゴーレムの後も追いかけるも、その洞窟は行き止まりだったらしい。
じいさんはそのゴーレムを取り逃した事がよっぽど悔しかったのか、5年以上その洞窟近辺でゴーレムの探索を行った…だがしかし、その場所から二度とゴーレムは現れる事は無かった…
あろう事か、じいさんが洞窟近辺でゴーレム探索を行っていた同時刻に遠く離れた他の村で人攫いが発生したとの報告があった。
俺がガキの頃、じいさんはいつも酔っ払うとあの時は、はらわたが煮え繰り返るほど悔しかったと何回も当時の心情を俺に伝えてきた。そして、ゴーレムの移動方法や隠れ家が一向に解明されないまま、じいさんは死んでいった…
時は過ぎ…俺は一族最強の”力”を手にするまで成長していた。その力は魔王を倒した時の俺の子孫と同じ”力”だった…その”力”の一つに闇魔法を感知する能力があった。
そんなある日、俺はとある洞窟から今ままでに感じた事のない強い闇魔法の波動を感じ取った…俺は直ぐにそれが魔王が放った闇魔法だと勘付いた。俺は直ぐにその現場に向かった…しかし、その洞窟はやはり行き止まりだった。だが、その行き止まりには特別な”何か”あった…
それは…”ヒビ割れ”だった!それはただの”ヒビ割れ”ではなく、闇魔法の痕跡が残った”ヒビ割れ”だった。何よりその”ヒビ割れ”の先から魔物の匂いが僅かに流れ込んできた…
よくよく調べてみたらこの洞窟の近くには、そこのちっこい姉ちゃんが着ている洋服の持ち主が暮らす村の近くだった。
そして俺はとある仮説を立てた…洞窟の先に現れたヒビ割れは地上から敵の隠れ家へと続く見えない扉のような物に傷が付いた状態だと俺は睨んだ。そんな扉の移動は、一族の伝承からそう簡単に移動する事が出来ないと予想は立てれた。
その理由は…年数だ!
長年アイツらを追って来た俺たち一族には、ゴーレムの出現に関する規則性をまとめたデーターが存在する。そのデーターによると、大きな出現場所の移動には長くて3年は掛かっている事だ。
直近で発生した人攫いは4年前…その現場近くの洞窟の中に不気味なヒビ割れ…そのヒビ割れの先から魔物気配を感じる…
以上の事から、扉もしくは魔物の隠れ家に何らかのトラブルが発生して扉の移動が行えないと俺は踏んだんだ…
そして俺は、ここで”何か”が起こるまで待ち続ける事は今後の俺の人生の最大のターニングポイントになり得ると俺は直感した。
そして今に至るって訳だ…」
謎の男とその一族の執念が、特殊な魔法防壁に覆われた地底国タイタンと外界を結ぶ開かずの扉を突破するまでに至った。
謎の男のよる初代ラビタスに関わる長年の因縁について聞かされた二代目ラビタスは、とある感情が押し寄せていた…
「心底どうでもいいよ…」
『!?!?』
「ん?お兄ちゃん!今どうでもいいって言わなかったか?」
「…過去の因縁とか、爺が本当はどう言う人物だとか、心底どうでもいい…そんな事より大事な事が俺達には待っているんだ…」
『ブッチん』
ラビタスのどうでもいい発言を聞いた謎の男は、先程までラビタスに対して目もくれず自分の意見だけを押し通していた先程までとは打って変わり、独自の傲慢さを見せつけたラビタスを改めて認知するようになっていた。
「そんな事だと…この老害ゴーレムせいで罪もない一般人が大量に殺されてるんだぞ!それなのにお前は…」
ラビタスは自分の知らない初代ラビタスの人物像や初代にまつわる因縁に一切興味は無かった。あるのは未来に対する不安のみであった。
「爺!セネ!カイル!話さなきゃいけない事は山のようにあるが、今俺たちがやらなきゃいけない事はたった一つ…外の世界に出てヒメの病気を治す事だ!それが済んだらもう一度この国のシステムについてみんなで改善して行こう!だから今の俺たちの旅路を邪魔するコイツを今ここでやっつけるぞ!」
ラビタスなりの正義が彼を外の世界へ突き動かす。そして彼を慕う仲間たちの士気も同時に上げていた。
「ラビタス様!」「ラー様!」「ラビ様!」
「…お前、本当に復活した魔王ラビタスなんだな…」
ラビタスに備わっている王としての器を感じ取った謎の男は、改めて目の前にいる人物が復活を遂げた魔王ラビタスだと認識した。
「そう言えばアンタ!俺に名を名乗れって言っててな…」
「今更何を…」
「悪い悪い…あの時はアンタが魔王に見えな過ぎて小馬鹿にしちゃっただけだよ!!」
『ブッチん!!』
「コイツ…」
「悪い悪い…つい本音が! ゴッホん…じゃあ、改めて名乗らしてもらうよ!俺は…勇者だ!!」
「勇者だと…」
「みんなからは、『大空の勇者』って呼ばれてる!よろしくな!魔王ラビタス!!」
次回、己の正義の為に勇者と魔王が対峙する。