幸せって何?
地帝国タイタンに聳えるこの国のシンボル…モスク城。
そんなモスク城の目の前に最大100人は収容出来る、”飛翔の間”と呼ばれる野外コンサート会場が建設されていた。
そんな”飛翔の間”の特設ステージにSOSと名乗る謎の女性3人組のアイドルユニットが自身の持ち曲をこの飛翔の間に集まった大勢の魔物達の目の前で披露しようとしていた!
そんなアイドルユニットの正体は…『SOS』
地帝国タイタンの国王である魔王ラビタスが作り出したゴーレムの三姉妹からなるアイドルユニットである。リーダーでありユニットのセンターでもある三姉妹の長女『ヒメ』。脇を固めるのは、次女の『セネ』・末っ子の『カイル』。ヒメ以外の二人はダンスも歌も全くの初心者の集まりであった。
今回のお話は、この3人がどうしてアイドルユニットを結成し、飛翔の間で自信の持ち曲を披露するに至ったのかを掘り下げるエピソード回である!!
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ヒメがこの異世界に転生して3ヶ月が経過した頃、ヒメはこの地帝国タイタンの生活に飽きていた…
「あ〜イライラする!いつもいつも修行ばっかりだし!気分転換する娯楽も殆ど無いし! 嗚〜呼!胸踊るイベントの一つでもあれば、気分がブチ上がって魔力コントロールが上達するのにな〜」
ヒメは自身の体を作り出した魔王兼ゴーレムマスターのラビタスとの約束により、自身が身に付けている『闇魔法』のコントロールを上達せさる修行を毎日のように繰り返していた。
そんな地道な修行を繰り返すヒメは明らかに煮詰まっていた。
ヒメはこの世界に転生する前は、ピチピチの17歳、毎日のように刺激的な出来事で溢れかえっている生活を送っていた。そんな、現代人にカテゴライズされていたヒメにとって魔法が使える以外でこの世界で自身の胸が高鳴るエンターテイメントが見当たらなかった。
何よりヒメ自身が元々そんな刺激を提供する『アイドル』という職業に就ていた事もあり、生半可なエンタメじゃ満足出来ない体になっていたのであった。
「ね〜!この国にはカフェとか映画館とかないの?最低でもスタバとネトフリを用意してくれないと話にならないんだけど!」
ヒメのわがままは、この世界の範疇を超えるものばかりであった…
ー 修行のストレスから明らかに無理難題を提示し始めたヒメに対して、彼女と同じ異世界人であり彼女の良き理解者でもあるラビタスはそんな彼女の対応に悩んでいた。
(ちょっと前まで現実世界の暮らしを満喫していた女の子に、急に修行漬けの毎日を与えるなんて流石に酷だったかな〜 …でも、気分転換するにもネット環境が当たり前だったヒメの心を高揚させることなんて可能なのか?)
悩めるラビタスは、ふと”とあるイベント”が脳裏の浮かんだ。
「そうだ!祭りを開こう!!」
「モスク城をバックに国民がそれぞれ多種多様なお店を出店するんだ!!そうすれば、ヒメだけじゃんなくてタイタン国民全員も楽しめるフェスのようなイベントになるはずだ!!」
地帝国タイタンの国王でもあるラビタスの何気ない”お祭り”発言によりこの国に暮らす魔物達全員を巻き込んだ『ラビ・フェス』と名付けられたお祭りの開催が決定した。
そんな『ラビ・フェス』の為に、この国に暮らす魔物達は自分達がこなさなくてはいけない仕事を一旦停止させ、2週間後に行われる大規模なお祭りを成功させるの為にそれぞれが尽力する事になった…
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ー ラビタスが『ラビ・フェス』を宣言する12時間前…ラビタスはヒメ・セネ・カイルの三姉妹をモスク城の併設された温泉施設『赤裸々の湯』に呼び出し、お互いの秘密を共有する四人だけが行う『秘密会議』を執り行っていた。
「ねぇラビタス!また私を温泉に呼び出してどう言うつもり?…もしかして扉の外へ旅立つ日程が決定したの?わーい!」
ヒメは扉の外へ旅立つ為の辛い修行が終わりを告げたのだと勘違いし、両手を上げながら喜びを表現をした。しかし、修行終了の合否の決定権を持つラビタスは、ヒメの修行が上達してい無いの事を理解した上で自身の首を横に振りながら、ヒメをこの場所に呼び出した本当の理由を説明した。
「残念…違うんだ!ヒメの修行はまだまだ続くよ!」
「はぁ!?だる〜!」
現実を突きつけるラビタスの発言に明らかにトーンダウンするヒメは、口をとんがらせながら『プイッと』ラビタスからそっぽを向いたしまった。
「悪い悪い!なんか妙に期待せさちゃったみたいだな!…今回は修行についての話じゃ無いんだ!」
「じゃあ何の話よ!勿体ぶらずに説明してよね!」
「分かった!わかった!実は…明日から2週間後にこの地帝国タイタンでフェスを開催しようと思ってるんだ!」
「フェスかぁ…いいね! 面白そうじゃん!」
ラビタスからのフェス開催の説明を受け、仲良く横並びで温泉に浸かっていたラビタス三姉妹の3人はそれぞれ三者三様の表情で『フェス』についてのイメージを膨らませた…
「フェスとは一体?」
「フェスって何!?新しい食べ物!?」
『フェス』についての認識が同じであり、共に異世界人であるラビタスとヒメは『フェス』についての知識が無いセネとカイルに『フェス』についての説明を彼女達にも分かるように説明してあげた。
「まっ!簡単に説明すると大規模なお祭りだよ!で!このお祭りに是非三人も参加して欲しんだよ」
「三人で参加?私は別に構わないけど、一体何をすればいいの?」
フェスへの参加自体には前向きであったヒメに、ラビタスはお節介だと思いつつもヒメが封印していたであろう
アイドルへの想いを汲んだ提案を彼女に提示してみた。
「ヒメをリーダーに据えて『セネ』と『カイル』の2人と一緒にヒメのデビュー曲を国民達の目の前で披露してくれないか?」
『………………』
「うざ…」
『ビリビリビリ…』
「ラビタスあんた…私に喧嘩売ってるわけ?私は元の世界に戻ってメジャーデビューがしたいの!この異世界でデビュー曲を披露したい訳じゃないの!そもそも、この世界の住人達に私達の世界で流行ってるアイドルソングが理解される訳ないわ」
ラビタスの発言がキッカケで、またもやヒメから怒りに満ちた闇魔法の波動が放たれる事になった。
しかし、威圧を向けられた張本人であるラビタスはと言うと、ヒメの波動に臆する事なく自分が感じたヒメへの想いを語らずにはいられなかった…
「君は何も分かってない…」
「はぃー?分かってない?私が私の事を!?アンタ本当に喧嘩売ってるでしょ?」
ラビタスは自身が胸に秘めていたとあるエピソードを強がるヒメに向けて解き放った。
「君はずっと口ずさんでいたんだ…毎日の様に同じ曲を何回も…俺はいつしかその曲の正体が無性に知りたくなっていたんだ…そして偶然か必然か、修行中にヒメの頭と俺の頭がぶつかる事故が起きたんだ…その時ちょうどヒメが口ずさんでいたその『小悪魔的なILOVEYOU』が俺の頭の中に流れ込んで来たんだ…」
「…」
ラビタスは自身の魔力を元に製作されたヒメの潜在意識を自身の脳内に投影する事が出来るのである。その結果、ヒメが口ずさんでいた楽曲の正体が彼女の幻となったデビュー曲である事や子供の頃から歌って踊る事が大好きで母親の前で当時はやっていたアイドルの曲を楽しそうに披露している姿を…
何よりデビュー曲に対するヒメの熱い思いがラビタスのオタク心に新たな息吹を芽生えさせ、『小悪魔的なILOVEYOU』をどうにか披露させてあげたいと願う様になっていた。
その後、二人の意見交換は温泉を出た後も続いていた…そして、日を跨ぐ頃にはラビタスから提案されたライブ案をヒメが快諾する形で全ての蟠りは解消された。
結果、ラビタスの説得によりヒメは塞ぎ込んでいた自分自身の本当の気持ちを解放し、純粋に歌とダンスを楽しむ気持ちをもう一度呼び起こす事になった…
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ー SOS結成当日…事件は起きた!
「ぜ〜んぜんダメ!あなた達、アイドル舐めすぎでしょ!?そんなんじゃみんなの前でパフォーマンス出来ないよ!!」
元々の世界でメジャーデビュー寸前まで辿り着いた実績のあるヒメは、毎日続けていた魔力コントロールの修行を一旦中断させ、一旦封印していたアイドルとしてのプロ意識を解放させ、自身に身についていたアイドルとしてのテクニックをダンスと歌の初心者であるセネとカイルに熱心に伝授していた。
「ひえ〜!ヒメ姐厳しすぎ〜 体が一つじゃ足りないよ〜」
「はぁはぁ…カイルの言う通り、ヒメお姉様はだいぶスパルタね!…でもすごく楽しそう…」
ヒメが講師を務めるダンスと歌のレッスンを軽い気持ちで快諾したセネとカイルは、ヒメのアイドルに対する迸る情熱にただだた圧倒されるしかなかった…
ヒメは、最初にラビタスからパフォーマンスの依頼を聞かされた時、そもそもこの国に現実世界の音楽を再現出来る技術力が無い事を加味した上でパフォーマンスの披露の件を渋っていたのであった。
しかし、ヒメにパフォーマンスの依頼を断られた数時間後には、ラビタスがヒメが現実世界で発売する筈であったデビュー曲の音源や楽曲披露に最低限必要な音響設備を自身の魔法により再現する事が出来てしまったのだ。
そして、それがキッカケでヒメの重い腰が上がった結果…今現在の様に水を得た魚の如く、自身と一緒にパフォーマンスをする事になった妹達にスパルタ特訓をするまでに至ったのである…
ー ダンスレッスンの休憩中…ヒメは改めてラビタスが作り出した音楽機材の仕組みについて二人の妹達に素朴な疑問をぶつけていた…
「それにそしてもラビタスの奴、私の頭を触っただけで私のデビュー曲『小悪魔的な愛羅舞遊』の音源を再現出来るなんて…しかも、マイクやスピーカーまで!一体どんな魔法を使ったの!?」
ヒメから湧き上がる素朴な疑問に対していつも通り、人一倍知識量が豊富な妹シスがヒメの疑問をささっと解決してくれた。
「その件なのですが…実はラー様は意外とそこまで魔法を使っていないんです!」
「え!?あれ全て魔法で作っていないの?もしかしてこの国って意外と高度な文明だったの?」
ヒメは地帝国タイタンで生活していく中で、この国にはハイテクな機械などは一切ない『素朴な国』のイメージが植え付けらていた。
「実は、この国の外には高度な機械技術が発達した国が存在する様で、この国の大臣でもあるチブー様が趣味であるガラクタ集めの一環で外の世界で収集していた”壊れた車”をラー様が譲る受けて、その車のパーツと泥魔法を融合させ特別製のスピーカーシステム作り上げたらしいです!」
「イヤイヤ…それでも十分凄い事よ!最低限の知識が無いと改造なんて出来ないわよ普通!! 改めて、バイクを作ったり戦車を作ったり…ラビタスってほんと物知りよね!」
「確かラー様は若い頃、コウギョウ・ダイガク?で色んな知識を学んだらしいです!あと…あのバイクはラー様がこの世界にやってきて一番最初に作ったモノらしく、それも壊れた車の一部から製作されたと聞きました!」
ヒメとセネが雑談に花を咲かせている時、二人の隣で黙々とダンスの振り付けを練習していた三姉妹の末っ子『カイル』がダンスに関する疑問をダンスの振り付けを考えたヒメに投げかけた。
「そう言えばヒメ姐?このダンスってヒメ姐が全部考えたの?」
「あ〜これ?そうね…考えたと言うか、アレンジした…的な!」
「アレンジ?そもそも『小悪魔的なILOVEYOU』って何人でパフォーマンスする為の曲なの?」
「……」
ヒメは、カイルの質問に対して『コイツ本当に痛い所ついてくるな〜』っと言わんばかりの苦い表情を浮かべていた。
「あ!こ…この曲はね…うん…そう!実は一人用なの!!」
「一人用?確か僕達が披露する曲ってヒメ姐が加入していたSOSっていうアイドルグループの楽曲じゃなかったの?もしかしてコレってカバー曲なの?」
「カバー曲じゃないわよ…私のオリジナル曲よ…ま!簡単に説明すると私一人でSOSなの!」
カイルは、ヒメの回答を聞いた上で一人でSOSを名乗るヒメの真意が理解出来ずにいた…そんな中、現実逃避を続けていたヒメが自身の罪を認めるかの様に、まっさらな気持ちで一人でSOSと名乗る本当に理由を二人の妹達の前で語ってくれた。
「しょうがない…正直に話すわ!」
「気づいていると思うけど、私…すっごく性格悪いの!だからせっかくメジャーデビューが決まっても、ずっと一緒にやってきたSOSのメンバーに『デビュー出来るのは私のお陰なのよ』って正直に言っちゃったの! 実際に私が猫かぶっていた自分を辞めて、本当の自分を曝け出して事がキッカケで有名プロデューサーの目に留まってメジャーデビューを勝ち取ることが出来たの! だから、つい…言い過ぎちゃったの! 勿論、今は反省しているわ!でも当時は自分の傲慢さを認めたくなかったの…」
「だから、気づいた時には私の周りには誰も居なくなっちゃった…プロデューサーさんはそれも含めて面白いんじゃ無いかって言ってくれて、SOSの名前は残したまま一人でメジャーデビューする事になったの…だから、アイドルグループを名乗っているのにダンスも歌も一人用なの!」
「…」
ヒメの話を静かに聞いていたセネとカイルはほぼ同じタイミングでヒメの自己否定を否定した。
「ヒメ姐は全然性格悪くないよ!」
「え?」
「正直なのが”悪”だなんて異世界の秩序はどうかしてますね!」
『!!!』
ヒメは、予想だにしなかったセネとカイルの擁護発言に彼女は一瞬で救われた。
当時のヒメは誰かの救いの言葉に飢えていた…自身の言葉が正解なのか間違いか…その答えは彼女にとってはどちらでもよかった。
ヒメはただ、頑張る自分にエールを送って欲しいだけだった…
ヒメは、改めてセネ・カイル…そしてラビタスと出会えた事が今の自分にとってとても大事な出来事であったと思える様にになった。
彼女の信念は時に誰かを傷つけ、自分自身も傷つけてしまう…信念を突き通した先には、なぜか満たされない心の闇が彼女を包み込んでいた。
しかし、いつしか異世界での運命的な出会いが彼女の心の闇を払拭させ、彼女の心の隙間を愛で満たすまでに至った。
ヒメは、セネとカイルの発言が涙が溢れるほど嬉しかった。しかし、彼女はそんな涙を流す自分を拒否し、もう一度二人の妹達に叱咤激励を始めた…
それもこれも、恩人であるラビタスが発案した『ラビ・フェス』を成功させる為である。
ヒメは改めて心を鬼にし、ダンスも歌も素人である二人を鼓舞し続けた…
「さぁ!休憩はもう終わりよ!コレからもビシバシ行くよ!!」
「ヒッ!ひぇ〜!!」
紆余曲折ありながらもお互いの長所・短所を理解した上で3人はより絆を深めていった。
そして、最終的には本当の三姉妹の様に多くを語らずに互いのことを理解し、お互いを心の底から信頼するまでに至った。
ー そして時間は過ぎ、いよいよ『ラビ・フェス』本番当日…
『ドー〜ん!ドー〜ん!!』
ラビ・フェスの開幕宣言を兼ねた花火『昼玉』が高らかに地帝国タイタン上空に打ち上がった。
そんなラビ・フェスは、タイタンの中央に聳えるモスク城の正面玄関から南に300メートルほどの距離に出店・休憩スペース・イベントブースなどをバランス良く配置した大型イベントで、タイタンに住む多くの魔物達がこのイベント目当てに集まって来た。
「予想以上の数の魔物達がこのラビ・ファスに集まって来ておりますね!ラビタス様!」
ラビ・フェスの主催者であるラビタスの隣で、同じくフェスの運営に携わっているタイタンの大臣であるチブーがモスク城の頂上にある展望台から双眼鏡を覗きながらフェスの来場者数を計測していた。
「普段凶暴そうな魔物でも、話させ通じてしまえば人間とほぼ変わらないんだな!」
「その通りですじゃ!しかも命令する側が力を持っていれば尚更。魔物同士の関係は意外と縦社会なのですじゃ」
「シンプルで分かりやすいな!実力社会は嫌いじゃないよ!」
大臣権、自身のお世話係でもあるチブーと雑談をしながらフェスの順調な滑り出しを確認したラビタスは、今回のフェスの目玉でもあるラビタス三姉妹の催し物の出来栄えを知るチブーに、3人の現状を聞いてみた。
「所で爺!ヒメ達、SOSの出来はどうだ?」
「その件なのですが…」
SOSの出し物の話になった途端、フェスの運営に関わるチブーが浮かない表情を見せた。
「私が昨日、彼女達をした視察した時の話なのですが…私自身は良い出来だと認識しました。しかし、リーダーであるヒメ様だけが何やら納得していないらしいのです。上昇至高の高いヒメ様の言動に他の二人は困惑している様に見受けられました」
「なるほどな〜」
「…どうでしょう?ここはヒメ様の主人でもあるラビタス様からヒメ様にこれ以上パフォーマンスの向上を目指すのを諦めていただく様に説得してみてはいかがでしょうか?これ以上、セネとカイルに無理をさせるのは同じG・ゴーレムとして心が痛いのです」
セネとカイルの種族であるRG・ゴーレムとチブーの種族、G・ゴーレムは同じ種類のゴーレムに属している為、本来歌や踊りをこなす為の設計が施されていない為、同族のチブーの目にはセネとカイルがキャパオーバーを起こしていないかと心配になっていたのであった。
「爺…爺の気持ちはよく分かった…でも俺もセネもカイルもヒメの情熱を止める事もクオリティを下げ指す命令もしないと決めているだ…」
「なぜ…何故そこまでヒメ様に肩入れを…」
「きっと俺達3人はヒメに恋してるんだと思う!恋は時に人を狂わす…」
「恋ですか…やはり純粋な魔物の私には理解出来ませんな〜 でも…そんな人間ぽい所もお三人らしくてよろしいですね」
「悪いな爺…迷惑をかけるよ」
「いえいえ…それはそれで楽しいですじゃ」
ラビタスとチブーのヒメに対する対応は、最後までヒメのやりたい様にやらすと言う事で話がまとまった。
ラビ・フェス開始から2時間後…フェスを楽しむ魔物達の熱気が最高潮に達した時、このフェス最後の催し物…SOSによる歌とダンスのパフォーマンスのみとなった…
特設ステージ『飛翔の間』には、この国のアイドルとして一躍有名になっていたSOSの登場を今か今かと待ち侘びる魔物達で埋め尽くされていた。
「意外だったな…魔物達がこう言うコンサートが好きだなんて」
「ご存知なかったですか?魔物達の中には歌や踊りを戦闘に生かす者も多く存在し、歌や踊りに理解のある魔物も多く存在します。勿論、歌や踊りに全く興味の無い魔物も存在しておりますが… しかし今回は極上の魔力を秘めたラビタス三姉妹が登壇すると言うこともあり、歌や踊りに興味の無い魔物達も三人が発する魔力に惹きつけられて集まっている様です」
「アイツらってそんな人気あるのか?」
「えぇ!私の見解によると、お三人から発せられる極上の魔力はフェロモンに似た効果を持つ様で、魔物達の感情を促進させているのでは無いかと踏んでいます」
「フェロモンか…なるほどな〜魔物の世界って本当に面白いな〜」
『ガッシャン』
ラビタスが魔物の体質について学びが増えた瞬間、『飛翔の間』内の特設ステージの照明だけが暗転した。
「さぁ!始まるぞ!!」
「……」
『ガッシャン!』
暗転していた特設ステージの照明が再び点灯した瞬間!誰も居なかった特設ステージ上には、俯いたまま特設ステージに立ち尽くすSOSの三人が既に登壇していた。
『ウォーー』『ぎゃーー』
彼女達の登場を待ち望んだ魔物達がそれぞれ声を荒げながら、彼女達の登場に歓迎していた。
「……」
「みんな〜!今日は私たちのデビューイベントにわざわざ足を運んでくれて、どうもありがと〜」
魔物達の声援が一通り落ち着いた時、横に一列に並んでいたSOSの真ん中、リーダーのヒメが三人を代表して会場に集まってくれたファンに対して感謝の言葉を述べた。
「早速なんですが、みんなに謝らないといけない事があります。それは…私たちの持ち曲が一曲しかない事です。 ですが私達は、この瞬間!この場所で!今の私たちに出来る最高のパフォーマンスを皆様にお見せします。短い時間ではありますが、最後まで楽しんでってねーーー」
いつになく真剣で、それでいて無邪気なヒメの言動に会場に誰もが一瞬で彼女の虜になっていた。
「それでは聴いてください!『小悪魔的なILOVEYOU』…」
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それはきっと恋だよ!!
イイね!いいね! すっごく良いね イイね!いいね! すっごく良いね
〜♪♪♪
貴方は私 私は貴方 応援しよう!そうしよう!
そばに居るから いつも居るから 応援してね! そうしましょ!
タスクに追われる毎日に リブート宣言 バグってる 私の影が私の主導権を狙ってる
揺れるNeo音 プライオリティ継続中
Neo音が響く ミスティック作動中
あっけらかんとした君の態度も 夢中にさせちゃう私の魔法!
タイムパフォーマンスでご機嫌ななめ 無限に言うよ! 愛してる!!
〜♪
それはきっと恋だよ! 会いたくなったら探してみて 私はいつもポケットの中
それもきっと恋だよ! あーあ! 幸せになりたい 青い鳥が見つけた四葉のクローバー
私ってアイドル出来てる? 悪くないでしょ? 最高じゃん!!
イイね!いいね! すっごく良いね イイね!いいね! すっごく良いね
……………
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『わーーー』『ピューーピューーー』
初めて目にする異世界のアイドル文化に、パフォーマンスの意味を理解出来ずにいた魔物達も彼女達から放たれる汗や熱気を目の当たりにするにつれ、言語や文化を超越したそのパフォーマンスの虜になっていた。
そう…彼もその一人である。
「これがヒメの本来の姿…それだけじゃないセネもカイルも、なんて楽しそうにパフォーマンスをしているんだ。これも全てヒメのカリスマ性が成せる技…そして、みんなSOSの虜になってる…」
見知らぬ音楽…意味が分からない言葉達…見たこともない音響機材…そして、ヒメの闇魔法を使用して作られた小悪魔を意識した衣装…
その全てがSOSのパフォーマンス引き立て、言語や種族の壁を難なく突破してみせた。
(人間だとか…魔物だとか…異世界人とかは関係ないんだ…そこに素晴らしいものがアレば声を挙げて喜ぶ…それが全てなんだ。…本当に彼女達にこのフェスの大トリを任せてよかった)
最初は、ヒメの修行に対するモチベーションを上げるために開催した『ラビ・フェス』も、気づいた時にはヒメも含めた全ての国民のモチベーションを上げることに繋がっていた。
色味の無かった地帝国タイタンの日常に、様々な感情と言う色彩を与えたラビ・フェスは、その後のタイタンの国際色を180度変える出来事として後世に語り継がれることになった…
渾身のパフォーマンスを見せたSOSのライブが終了したタイミングで、ラビ・フェス実行委員会の本部でもあるモスク城の展望台からSOSのパフォーマンスが終了した様子を双眼鏡を覗きながら確認した大臣のチブーは、自身の魔法を使いモスク城の後方で待機していた部下の魔物にとある指示を送った…
すると…
『ヒューーーー』『ドッカーーん』
ラビ・フェスのフィナーレを飾る、色鮮やかな打ち上げ花火がタイタンの上空に数十発打ち上げられた。
「わー!キレーーい」
「こんな綺麗な火花、初めて見ます」
「まさか、異世界に来てまで打ち上げ花火を見れるなんて想像もしなかったわ!」
たった一曲…されど一曲…彼女達が持てる全てを出し切ったSOSの三人は、体育座りをしながら打ち上げられた花火を観客の魔物達と共に味わい、フェスのフィナーレを見届けた。
ー 無事ライブを終えたヒメは、特設ステージを降りた途端に緊張の糸が切れたのか?立ちくらみの様な症状か?急にその場に倒れ込んでしまった。するとライブを見終わったラビタスがステージ裏で座り込むヒメの元へ駆け寄ってきた。
「大丈夫かヒメ?動けそうか?」
「ラビタス…うん!ちょっと頑張りすぎちゃったみたい…でも大丈夫!少し休めば普段通り動ける様になるはず」
「それなら良かった…あのさ…」
「ん?どうかした?」
「うん…ヒメ…パフォーマンス、最高にカッコ良かったよ!」
少し照れながらも、ラビタス自身が直感で頭に浮かんだパフォーマンスの感想をストレートにヒメに伝えた。
「本当!?喜んでもらえて良かったわ!…実は、コンサートが始まる前、不安で武者震いが止まらなかったの!心の整理が付かないまま曲のイントロが私達をステージへと後押ししてくれた…その後のファンのみんなの声援が私の不安を解消してくれた!ステージに立つと隣には信頼出来る二人の妹達!最前列にはラビタスと爺の姿が見えた…私には仲間が居るんだってその時、強く実感出来た。
誰にだって後悔する事はある…でもその殆どの後悔を引き摺ったまま皆生活していく…けど私は、みんなの協力もあって後悔へのチャレンジが許された…仲間の応援を私は忘れない!だから私はリベンジする!後悔を後悔のままに終わられないために…」
ヒメも少し照れながら、ラビタス達への感謝の気持ちを伝えた。そんなヒメは、パフォーマンス中に一生懸命SOSを応援しているラビタスの姿を何度も確認していた為、誰よりもラビタスが喜んでくれている事が嬉しかった。
そしてラビタスはフェスを盛り上げる為、誰よりも努力したヒメに感謝の気持ちを込め、握手を求めた。
『ニッコリ!』
ヒメはラビタスから求められた握手の意味をすぐさま理解し、満面の笑みでそれに応えようとした…
次の瞬間!!
『バッタン』
ヒメはラビタスに右手を差し出した瞬間…その場に倒れ込んでしまった…
「ヒメ?……」
「ヒメーーー!?!?」
次回…ヒメの体に異変が!?意識を失うヒメを救う為、ラビタスは外の世界を目指す!!