表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/14

共鳴

『ボボボボーーん』『ジュルジュルジュル〜』


地帝国タイタンに新設された温泉浴場『赤裸々の湯』、今まさにこの温泉浴場から謎の黒い火柱が立ち昇っていた。


そんな謎の火柱の勢いが弱まった頃に、火柱の中から黒いモヤの様な水着?を着飾る女性とその女性の隣に黒い羽根の生えた小型の魔物?が2体、この地帝国タイタンの王『ラビタス』の前に突如姿を現したのであった…



遡る事、5分前…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「本当!ヒメ姐のお肌ってツルツルでモチモチだよね!僕達の肌はモチモチっていうよりはカチカチだから羨ましいよ〜」


赤褐色の天然温泉『赤裸々の湯』を満喫している幼い顔立ちの女性『カイル』が同じ温泉に浸かる完璧なスタイルを持つヒメと呼ばれる女性に自身の肌に関する悩みを打ち明けていた。



「そうかな?私の肌感では、元の世界にいた時とほとんど変わらない気がするけどね!…所でアンタ達って元々は泥人形だったんでしょ?なのに水やお湯に浸かって大丈夫なの?溶けたり・ふやけたりしないの?」


「あ〜確かに!けど、考えたこないや〜はははぁ!」


「はぁ…カイルに深い質問した私が悪かったわ…ねぇセネ?アナタなら私の疑問にどう答えてくれる?」


ヒメは自身の妹でもある『カイル』の無知さに大した失望をする事はなかった。何故ならもう一人温泉を満喫していたヒメのもう一人の妹『セネ』なら自身の疑問を解決してくれると確信していたからである。



「その答えは簡単ですね。私とカイルを含めた『Gグー・ゴーレム』達は、生みの親であるラビタス様の泥魔法で出来ています。そんな泥魔法は、闇魔法・土魔法・水魔法の三つを合成した珍しい魔法であり、この泥魔法を使用して誕生した我々RG・ゴーレムやGゴーレムはラー様と同じ泥魔法を使用出来るのと同時に、泥魔法の元となった闇魔法・土魔法・水魔法の耐性も同時に備えているのです」



「なるほどね!泥魔法で出来ている生物は、その泥魔法の元になった魔法の属性にも強いって事ね!」


「その通りです。ちなみに私が水魔法を扱えるのもの泥魔法に水魔法が用いられているためです」


「流石セネ!頼りになるわね!…それに比べてカイル!あなたって本当に知識系の話は全く頼りにならないのね!まっ!そんな所もカイルの魅力よね!」




実は…ヒメという女性は別の世界から来た異世界人である。


そんな異世界人であるヒメはこの世界の秩序に疎い為、この世界の常識を丁寧に教えてくれる2番目の妹のセネの存在がいつしか心の拠り所になっていた。しかし…もう一方の3番目の妹カイルはと言うと無邪気すぎる性格が災いし、度々長女であるヒメに対して行き過ぎたスキンシップを行いヒメの怒りを買う事も度々見受けられるのであった…


そして、今回の悪ふざけはいつもの悪ふざけの結末とは大きく違う結果を生む事になった…そう!それはまさに”事件”であった。


そんな”事件”の被害者でもあり当事者であるヒメは世界を崩壊させる程の”力”が秘めていた。しかし、その”力”はと言うと彼女の1ヶ月間に及ぶ深い眠りの影響により、現時点ではその”力”自体も眠りについたままであった…そんな彼女の眠れる力がカイルの悪ふざけによって彼女の力の源でもある『魔力』を覚醒させるキッカケになってしまった。そして、この”事件”が今後起こる大事件の序章になるとはこの場にいる誰も想定していなかった…





「ウェーーん!またヒメ姐に怒られた〜!」


明らかに嘘泣きをするカイルに呆れ果たヒメは、気が立った自分の心を落ち着かせる為に一旦カイルのそばから離れる選択を見出した。そんなヒメは、一時的にカイルと距離を取る為に彼女に背を向けた…


そんなヒメが見せた一瞬隙を悪ふざけが大好きなカイルは見逃さなかった…


そして次の瞬間!


無防備になったヒメの背中を横目で確認したカイルはとあるイタズラを決行した…




「ふふふ…やっと隙を見せてくれたね!えーーい!喰らえ!モミモミ攻撃〜!!」



『むにゅ!ムニュムニュ…………!!』



『!?!?!?』



完全に無防備であったヒメの背後へ自慢の素早い動きを活かして一瞬で間合いを詰めたカイルは、ヒメのその二つのたわわな胸を両手で鷲掴みにすると、四方八方へその胸を揉みしだいてしまった。



「ヒメ姐の胸って本当に柔らかいね!もしかして胸の中がスライムが2体入ってるんじゃないの…それくらい柔らかいよ!キャハハ!」


「ちょっとカイル!!いい加減にしなさいよ!本当に怒るよ!!」


ヒメの胸を揉みしだきながら高笑いをするカイルの声とそんなカイルを大声で叱りつけるヒメの怒鳴り声に、3人より一足先に脱衣所で着替えを行っていたラビタスが浴場で発生したトラブルを察知し、もう一度浴場へ戻ってきた…



『ガラガラガラ……』


「一体何の騒ぎだ!これ以上の揉め事は御免だからな!?」


「…ん?何だ!」


脱衣所から浴場へ舞い戻ったラビタスは自身の想像を遥かに超える光景を目の当たりにする事になる…


『!?!?』


それは、満面の笑みを浮かべるカイルがはち切れんばかりのヒメのたわわな胸を揉みしだいている姿であった。



目の前に飛び込んで来た極上のスケベな光景に元の世界ではある程度人生経験を積み、動揺する事がなくなっていたラビタスでも今起きている現実が本当に現実なのかを受け止める事が出来ずにいた。


『………』


唖然と立ち尽くすラビタスにとある人物が強い殺意を向けていた…


『!?』


そんな殺意を一瞬で感じ取ったラビタスはゆっくりとその殺意が感じられる方角へ首を傾けた。そしてその強い殺意を放つ人物の表情を確認する為に、恐る恐るその殺意を放つ人物を凝視した…


「やっぱりそうなるよな…」


ラビタスへ向けられたその鋭く鋭利な視線の正体は、怒りと悲しみと羞恥心が入り混じった混沌としたヒメの真紅の視線であった。


『ゴゴゴゴゴ…』


「い…いや待ってくれヒメ!!いたん落ち着こう!こ…これは事故だ!だから話せば分かる!なぁ!だからその黒い魔力を一旦しまうんだ!」



ラビタスはデジャヴを見ている様だった…



ー 約1ヶ月前にもヒメの感情の昂りに影響された彼女が持つ闇魔法が暴走し、この地帝国タイタンを消滅させる程の魔力暴走を発生させた事を…




「いや〜ーーー!!」




ヒメは、自身のあられも無い姿を事もあろうに男性であるラビタスに見られた事のショックにより、彼女の中で眠っていたはずの闇魔法が再度彼女の感情の昂りにより復活を遂げてしまった…



『ボボボボーーん』


ヒメの体内から解き放たらた闇魔法は、黒いモヤの様な物体に形態変化を行い、裸であった彼女自身を包み込むと彼女の胸と局部に目掛けて集中的に集まっていった。



モヤに包まれたヒメの姿が水着を纏った様な状態に変化したと同時に、彼女の周りから強烈な黒い火柱が立ち昇った。



『ジュルジュルジュル〜』



次の瞬間!ヒメから放たれた黒い火柱が彼女の近くにいたセネとカイル諸共、ヒメを含めた3人を飲み込んでしまった…



「う…ウソだろ」


「ヒメがセネとカイルを攻撃した?や…やっと3人が仲良くなったばかりなのに…こんな…こんな事あっていいのか?」



火柱が発生してから数秒が経過した頃…ヒメから放たれた黒い火柱の魔力が弱まり、火柱の中から一人の女性の姿が目視できるまでになっていた。


火柱の影響により目一杯あった温泉のお湯が全て干からび、空の浴槽の中央に水着?を着たヒメが一人、天を仰ぎながら立ち尽くしていた…



「私っていつもこう…感情をコントロール出来ないただのガキね…そんな自分が大っ嫌い」


「ひ…ヒメ?意識があるのか?良かった!」


ヒメの無事と意識がある事を認識したラビタスは、空の浴槽にヒメ以外の人物が居ないか目で追っていた。



「いない…セネ…カイル…二人ともどこにも居ないぞ」



朦朧と立ち尽くすヒメは、何とか自我を保ったまま自分が起こしてしまった現実にただただ後悔するしか無かった…


「二人ともごめんなさい…」


ヒメの口からこぼれ落ちる謝罪の言葉から全てを悟ったラビタスは、起きてしまった現実を直視することが出来ずにいた…





そんな酷く落ち込むラビタスを他所にヒメの背中に隠れていた手のひらサイズの2体の魔物?がニヤニヤしながら、ヒメの背中からひょっこり顔を出し、落ち込むラビタスへ視線を向けていた!


「クスクス…ラビちゃまったら僕達が消滅したと思って落ち込んでるよ!かわいいっ!」

「クスクス…本当ね!私達には闇魔法の耐性が備わっている事をラーちゃまはご存知ないのかしらね?」



次の瞬間!




「あんた達〜!!趣味悪過ぎよ!」




ヒメが突然、自身の後ろに隠れていたセネとカイルの首根っこを掴み、自身の顔を彼女らに思いっきり近づけると、修羅のような形相でセネとカイルを睨み付けるのであった。


ラビタスは姿の変わったセネとカイルの登場に驚きつつも、彼女らに揶揄われた事がそっちのけになる程、二人が生存していた事実にただただ歓喜するのであった。


「二人とも無事だったのか!?良かった!本当によかった…」


セネとカイルが生きていた現実をすぐに飲み込み、すぐさま冷静さを取り戻したラビタスは水着姿になったヒメ。手のひらサイズまで縮小し小悪魔の様な姿に変貌と遂げたセネとカイルにとある共通点を見出していた。


「所でその黒い羽…悪魔の様な尻尾…モヤの様な黒い水着…まるでヒメだな!…もしかしてお前達二人は、ヒメによって姿を作り替えられたのか?」


ラビタスは、自身がこの世界の魔法についての知識が不足している事を理解した上で小型化した張本人であり魔法の知識力が高いセネに自身の疑問を投げかけてみた。



「もしかしてこれも闇魔法の一種なのか?セネ?お前はどう思う?」



ラビタスは、セネとカイルの容姿の変化が魔力を解放した時のヒメの姿と酷似している事から、ヒメの魔法によって姿を変えられたのではないのかと推測していた。


ラビタスの推測を聞いた上で、ヒメの攻撃を直に食らったセネが自身の体験談も踏まえて自分達の容姿の変化の要因についてラビタスに説明を始めた。


「はい!ラーちゃま!実際にヒメお姉様の魔法を受けた私からの意見を述べさせて貰います。これは、闇魔法による吸収の効果とヒメお姉様が新たに習得した状態変化の魔法が重なり合ったものだと考えられます」



「状態変化?闇魔法の吸収効果については爺から聞いて理解したつもりでいたけど、その状態変化については爺から教えてもらった状態変化の効果と少し違う気がするけど…?」


「チブーちゃまから教わった状態異常の説明は、”毒”や”麻痺”といった対象者の見た目を変化させない状態異常の事。今の私たちの様に見た目を変化させる現象も立派な状態異常なのです。例えば、見た目も体質もカエルそのものに変化する魔法や時間魔法を用いて対象者の年齢を上げたり下げたりする魔法も状態異常の一種なのです」


セネの説明を受けたラビタスは、子供の頃ハマっていたゲームに『そんなような魔法を敵が使ってきたな〜』と解釈した時にセネの説明がすんなり身体の中に溶け込んでいった。


「…なるほどな〜この世界には色々な魔法が存在するんだな!あっ、そうだ!…所でヒメ!早くこの二人を元に戻してあがてくれ!今までの行き過ぎた二人の行動はこの後に俺からキツく説教させて貰うから、とりあえず一旦元の姿に戻したやってくれ!今の可愛らしい見た目のこの二人を説教するはなんか忍びなくてさ!」


『……』


「ん?どうしたヒメ?」


ラビタスからの筋の通った提案も、何故か明後日の方向を眺めながらラビタスに対して驚きの回答を送った。


「はははぁ…無理!」


「へ?…ムリ!?」


「だ…だって無理なものは無理なのよ!あの時は、この子達が少しでも大人しくなる様に願っただけなの!だから、何かを生み出す事は出来ても元に戻す事は今の私には出来ないし、イメージが湧かないの!」


「そ…そんな〜もしかしてコイツらは一生この”ぬいぐるみ”みたいな見た目のままなのか!?」


ラビタスは自身が練りに練り、時間と労力を注ぎ込んだセネとカイルの見た目の造形が一瞬でマスコットキャラクターの様に様変わりしてしまった事に落胆してしまっていた。


そんな中、ラビタスとヒメの深刻な表情をあっけらかんとした態度で眺めていた小型化したカイルが自身の背中から生えた黒い翼を羽ばたかせ、落ち込むラビタスの頭の上にちょこんと乗っかってみせた。


「ラビちゃま〜その事ならきっと大丈夫だよ!」


「どうゆう事だ…一体どうゆう事なんだ!?」


「きっと今の僕たちは、一時的に魔力をヒメねぇに吸収されただけなんだよ!」


「一時的だって!?」


「そうそう!セネ姐も言ってたけど、今の僕たちがこうなった要因はヒメ姐の闇魔法による魔力の吸収と状態変化が並行して作用した結果なんだ!簡単に説明すると、先に魔力が吸収される…次に弱った僕達に状態変化が付与される…って感じかな!」


「ふむふむ…なるほど…」


「そう!だから僕達の魔力が回復した時に状態異常の効果が解除されるって訳!」



現実を受け止めきれずに放心状態であったラビタスは予想外の説得力を発揮したカイルの説明により正気を取り戻す事に成功したのであった。


「ちなみに肌感で悪いんだけど、だいぶヒメねぇに魔力を吸われちゃったから元の体に戻るまで3日はかかるかな?ね!セネねぇ!?」


「そうね!カイルの言う通り3日ほどで魔力は回復しますので、ヒメお姉ちゃまもラーちゃまもご心配なく!!」


常識人であるセネの一言も相まって、時間が経てばセネとカイルが元の姿に戻る事が出来るのだ聞かされ、やっと肩を撫で下ろす事が出来たラビタスとヒメの二人であった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(……そうだ!ヒメに聞いておかないといけない事があったんだ!)


大浴場で発生したトラブルがひと段落した時…ラビタスは何かを思い立った様に水着姿のヒメにとある質問をぶつけた。


「なぁヒメ?色々とゴタゴタしてる所悪いんだけど、ヒメはこれからどうしたいんだ?」


ヒメは、神妙な面持ちで自身に語り掛けてきたラビタスの表情から、自分達の今後に関わる重要な質問なのだとすぐに理解出来た…





「何よ改まって!そうね……やっぱり、あの扉の向こうに行ってみたい」




「やっぱりそうか…」



ー ヒメはこの世界に転生してすぐに、自身に流れ込んだ直感を頼りにこの地帝国タイタンから外の世界へ通じる扉『デーモンゲート』が自身が生まれ育った現実世界に直結しているの扉なのだと思い込んでしまった。ヒメは自身の直感を信じ無理やりにデーモンゲートをこじ開け、外の世界へ旅立とうと行動を開始した。

そんなヒメの前に、彼女の転生の大きく関わったラビタスがヒメとの対話を望んだ。しかし、二人に意見は平行線を辿り、結果二人は拳を交える事になってしまった…

その後戦いは収束し、ヒメは自身やろうとしていた行為やデーモンロードの先には現実世界が直結していないと言う現実を受け止め、ラビタスと和解する事に成功した…




ヒメはラビタスと問いかけにより一旦封印していた自身の本当の気持ちをもう一度解き放つ事にした…


「あの扉の先に、私とアンタが暮らしていた現実世界が存在しない…けど、あの扉の先の先には現実世界に戻るヒントが存在すって私の魂がそういってるの!だから私は…扉の先に行ってみたい!!そして、自分の目で真実を確認して自分自身を納得させたいの!!」



「現実世界に戻りたい気持ちは最初にあった時とのままなんだな…なぁ…もしも現実世界に戻る方法が見つからなかったらどうする?」


ラビタスは心苦しさはあるものの、一人の大人の人間としてまだ幼さが残るヒメに、厳しい現実も存在するのだと教える為にもあえて意地悪な質問を投げかけてみた。




「そうね…その時は帰りたい気持ちを綺麗さっぱり忘れるわ!そして、気持ちよくこの世界の住人になるわ!…でも、普通にこの世界の住人になるなんてつまらないはよね?…」




「そうだ!どうせなら私をアンタのお嫁さんにしてよ!だってアンタ、お嫁さん探してるんでしょ?」




『!?』



予想だにしなかったヒメの回答にラビタスは頭が真っ白になり数秒間、固まって動けなくなってしまった。


「おーい!大丈夫?」


「ハッ!?俺…どうなってた?」


「私が嫁になるっていったら、アンタ固まっちゃんたんだよ!本当、面白いよねアンタって人は。ははは!」


「…」


「なんだ冗談か…一瞬ドキドキした自分が情けないよ…」


冗談とも取れるヒメの言動に対して自身の嫁作りに真摯に向き合っていたラビタスは、自分自身とヒメが思い描く夫婦の条件に対するの認識の差にただただ落ち込むしかなかった。



(ヒメにとっては、俺の嫁になるなんて簡単な事なんだな…きっと…)




ヒメが発した言葉の真意を勝手に決めつけ、勝手に落ちもむラビタス。そんなラビタスの表情から、ヒメは自身が発した言葉が無意識にラビタスを傷つけてしまった事に気付かされた。


(また私、無意識に人を傷つけてしまった…しかも、私の事を誰よりも大事にしてくれる人の事を…)


そんな中ヒメは、ラビタスがいつも自分に対していつも真摯に向きあってくれている事を素直に認める事にした。そして今!自分自身もラビタスのようにラビタスと真剣に向き合わなくてはならないのだと心に誓った…


そんなヒメは、自分自身を守る為に発していた威圧感を解き放ち、本来の素直な自分でラビタスに本当に自分の気持ちをぶつける事にした。




「ラビタスのお嫁さんになる事、冗談じゃないよ!」



「え?」



「私、今すごく楽しいの! もしアイドルとしてデビューした後にこの世界に来ていたら、きっとは私!現実世界に戻ろうだなんて思わなかったと思うの! この世界には、変わり者だけどいつも真面目なラビタス・可愛らしい妹二人・シワクチャだけど意外と見た目が可愛い、爺! みんな、本当の私を愛してくれている…しかもラビタスは私と同じ世界人!それにラビタスとは何か特別な運命を感じるの!だからもし、今以上に長い時間一緒に過ごせたら、将来私達は最愛のパートナーになれると思うの!!」



「最愛…」



ラビタスは、初めて見せる本来の威圧感のないヒメの表情に、幼かったヒメの心の成長を垣間見ることが出来た。



今までの取り繕う自分の捨て、今想うそのまま言葉をラビタスに向けたヒメ。しかし、そんな彼女も自身が果たさなくてはならない夢があった…



「けどごめん…私にはこの世界に残るよりも、現実世界に戻って成し遂げなくてはいけない本当の夢がある…」


「本当の夢?」



「それはつい最近亡くなったママの夢…『私がアイドルとしてメジャーデビューする事』を叶える事…それを叶えるまでは、私は本当の意味で死ねないの!」



「……」


ヒメから告げられた真実と決意を聞いたラビタスは一つの答えに辿り着いた。



「よし!決めた!俺、ヒメが現実世界に戻る為に力になるよ」


「え!?いいの?嫁探しはどうするの?もし私が現実世界に帰っちゃたら嫁候補の一人がいなくなっちゃうんだよ?」




「嫁探しはもういいんだ!それよりも大事なものも今見つけたんだ…」


「それはヒメの夢を叶える事だよ」



「私の夢を叶える?え!?…嬉しいけど何で?何でそこまでしてくれるの?」



「実は俺にも本当の夢があるんだ!それは、嫁を探す事じゃないんだ!」


「嫁探しがいちばんの目的じゃなかったの?じゃあラビタスの夢って何?」



ラビタスは少し畏まりながら、濁りのないその瞳でヒメに語りかけた。




「俺の夢は、愛を知ることだ!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ラビタスは愛に飢えてた…


夢を語るヒメの存在は、ラビタスを長年苦しめていた『愛と何か?』の答えの一部を導き出してくれた!

今までのラビタスは、自分しか愛せない”自愛”の人間であった。そんなラビタスは他人には一切興味はなく、自分のスキルアップや自分が楽しいと思える事以外、何の興味も無かった…


他人の感情は自分の判断や感情を揺るがす”敵”のような存在だと思い込んでいた。そして、とある心境の変化により他人との距離を一定に保つ生活を送るようになる。


その結果…彼は一人ぼっちになっていた…


そんな『お一人様』生活を送るラビタスは突然、『人を愛する事』に興味を持った…自分に足りない”愛”を探す旅がその時はじまったのであった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うまく説明出来ないけど、今のヒメに対して芽生えた感情が俺が探し求めていた答えかも知れない!だからその答え合わせをさせて欲しい。それがヒメの夢を叶えた時に見つかると思うんだ!」



互いに歳も叶えたい夢を違えど何処か似た者同士の二人。そんな二人は互いに妙なシンパシーを感じ合い、気づいた時いはお互いの事が無性に気になる存在に変わっていた。二人の言っている事・やっている事が正しいのか?正しくないのか?その答えは他人が決める事はできない…その答えは本人達にしか解決出来ないのである。



今、互いの夢を語る二人はこれ以上多くの言葉を語らなかった…


ヒメはラビタスの問いかけに小さく頷くと、それを確認したラビタスはニコリと微笑んだ…



二人の中で何かが交わり、二人は真の意味で心が通じ合った気がしていた。その後ラビタスは気持ちを切り替え、普段通りにヒメに接し始めた。


「よし!そうと決まれば、外の世界へ旅立つ前に特訓だ!」


「はぁ?特訓?何でそんなめんどくさい事しないといけないの?」


先程までの穏やかなヒメから一変、ラビタスから告げられた一言により本来の口が悪いヒメに舞い戻ってしまった。


「イヤイヤ…さっきセネとカイルの姿を変えた魔法も、その魔法の解除方法も理解出来なかった人間をすぐに外の世界へ連れて行くなんて外の人間達が可哀想だよ!これから爺にも協力して貰ってヒメの魔力コントロールを徹底的に鍛えるぞ!もしそれがクリア出来なければ、ヒメを一生この国から出さないよ!」


『うぅ!』


淡々とヒメの弱点を突くラビタスの言動に心が折れそうになるヒメであったが、自身の叶えたい夢の為に彼女は世界で一番苦手な努力を行う事を渋々快諾した。




何はともあれ、異世界で初めての温泉を味わうことが出来た四人は、順々に着替えを済ますと各々自身の部屋へ散らばっていった。




次回、ヒメの歓迎会

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ