欲望は最大の原動力
ー ここは、とある異世界に存在する地上の底の底…地帝国『タイタン』 ここに一人の中年男性が『とある魔人』として現実世界から転生を遂げようとしていた…
『…ゴ…ゴゴ……ゴゴゴ…………!!』
「…………」
『パッチリ!!』
「…ん?」
「…ここは?…俺?ミキサーに挟まれて死んだはずじゃ?」
ー 男性の名前は、山科 勝精肉店に勤める42歳独身。彼は、仕事中の不慮の事故により13時8分に死亡が確認された。そんな彼が今まさに、魔人族の一人として異世界に転生される事になった…
『ドドドド…』
ものすごい足音と共に、1体の年老いた人形の様な生物が目覚めたばかりの『山科 勝』に駆け寄ってきた!
「ラビタス様〜!!」
「やっとお目覚めになられたのですね?爺は嬉しくて嬉しくて…」
人間では無い不気味な生物が、石で出来たベッドの上で寝そべる『山科 勝』に泣きついてきた。
(…コイツ俺に対して泣いているのか?…それにしてもここは一体?)
自分自身がつい先程死んだ事は理解出来たが、今自分が寝そべるこの場所に『山科 勝』は全く見当も付かなかった。
そんな彼は、今自分が置かれている状況の情報を取集するために自分の膝の上で泣き崩れるこの生物に恐る恐る質問を投げかけた…
「あの〜すみません?アナタは一体?そして、ここは何処ですか?」
「…」
「そんな〜!爺の事をお忘れになられたのですか?」
自身の事を爺と呼ぶその生物は、山科の不自然な言動に一瞬理解が追いつかなかったが、すぐに頭を捻らせ自身の見解を山科に解説した。
「…なるほど!理解出来ました!長い年月、お眠りになっていた影響で記憶を欠如せれているのですね!?」
「まぁ…そんな感じです…」
「なるほどなるほど…それならば、私に貴方様に関する説明をする時間を設けさせて貰ってもよろしいですか!?」
「はぁ…じゃあお願いします…」
爺は焦る気持ちを一旦落ち着かせ、山科が何者なのかを説明してくれた。
「ゴッホん!では、改めて説明させて頂きます…貴方様が今いるこの場所は、何を隠そう貴方様が建国した国家…地帝国タイタンなのですじゃ!そんな貴方様はタイタンの国王でもあり、全てのゴーレムを統べる王…
「ゴーレムマスター・ラビタス様!その人なのですじゃ!!」
「ちょ…ちょっと待って!俺が王様!?しかもゴーレムマスター!?」
なんと!山科勝は現実世界で命を落とした後に、異世界にてゴーレムを操る王として転生を遂げてしまったのであった!!
「…」
「やはり、たった一つの頭蓋骨から完全復活を遂げたラビタス様でも、100%元通りとは行かなかったのですね!!」
(ヤバい!?よく分かんないけど、今の所はコイツの話に乗っかるのが無難そうだな!)
「…あぁ!その通り!今の俺は何もかも思い出せないんだ!…だから、もっとこの世界について教えてくれ!」
「…やはりそうでしたか…500年前に一度、地上で勇者に殺された事が原因で記憶をなくされているでしょう」
(俺が勇者に殺された?俺ってそんなに悪い国王だったのか…)
「ちょっと待ってくれ!何で俺が勇者に殺されなくちゃいけないんだ!俺はただの国王じゃ無いのか?」
爺はラビタスの返答を聞いた上で、ラビタスの素性に関する補足説明をした。
「すみませぬ!私としたことが、大事な事を言い忘れておりました!無駄に年を重ねた報いですな!ははは…」
『……』
「ゴッホん!すみません!出しゃばりました!…貴方様は国王でもあり、ゴーレムマスターでもある…しかし、一番大事なのはラビタス様がこの世界を征服した魔王様のお一人なのです」
(えぇーーー!俺が魔王!?!?待てよ…俺って…ファンタジーの世界に転生したのか!?しかも勇者じゃなくて魔王!?俺の人生って本当に恵まれないな〜トホホ)
「……うぅーん…うぅーんん……」
魔王ラビタスに転生した山科勝は、爺の問いかけが耳に入らない程に、絶賛混乱中であった。
「ダメじゃ…ワシの話に一切耳を貸してくださらぬ…一体どうしたら良いのか…」
「…………!」
「そうじゃ!ラビタス様がお好きもの…それを差し出せば、昔の記憶が蘇るかもしれん!」
爺が思い立った様に部屋の外へ向かって大きな声を上げ、何かを呼び込み出した。
「おーい!お前達!こちらに来てラビタス様を癒すのじゃ!」
『スタスタスタ…』
爺に呼びかけに寄り、5人?ほどの人影?がラビタスと爺のいる部屋へと入ってきた。
「ラビタス様!今、女子を5人ほど用意させました!全員この国の最上級の美人ですぞ!」
「…美人だって!?」
爺が発した『美人』という言葉に先程まで現実が受け止められずに、しどろもどろであったラビタスが一気に冷静さを取り戻した。
「ははは…やはりワシの見立ては間違ってはいなかった!記憶を無くしてもラビタス様はラビタス様!!女好きは相変わらずでしたかな!?」
何の因果か!二代目ラビタスの中の人格『山科勝』も初代ラビタスと同じく面食いであった。
しかし、山科勝とラビタスの決定的違いは、山科勝は圧倒的に美人にモテなかった…そして、美人好きが自身の足を引っ張り、現実世界では全く結婚する事が出来ずにいた…
『ドン!!』
ラビタスは一瞬のうちに気持ちを切り替え、目の前に現れた5人の人影?に意識を集中させた。
そして、その5人の全貌を目の当たりにした瞬間!
ラビタスは落胆した…
「…いや!いや!…そうじゃ無いんだよ!」
「あら?好みが変わられましたか?500年前はヨダレを垂らしながら飛びついて行ったのに!」
落胆するラビタスの目の前に現れたのは、何と!スタイル抜群でのっぺらぼうのマネキンの様な5体の魔物であった。
(何だこれ!ま…魔物?人形?しかも顔が無いから表情が一切わからない…)
「い…いやー…できれば人間の女性が良いだけど…この国にはいないの?人間の女性?」
ラビタスの返答に少し困った様な表情を見せた爺は、一瞬考えるが直ぐに主人の無茶振りに答えを出した。
「………」
「お言葉を返す様ですが、ラビタス様が一体何を考えているか理解に苦しみますな…本来、人間は我らの敵ではありますから…」
「……」
「そうだ…良いことを思いつきましたぞ!!ラビタス様のご命令であれば人間の一人や二人、攫ってくる事は可能です」
「イヤ!イヤ!イヤ…攫うとか物騒の事はやめてくれよ!」
「確かにラビタス様は魔王になる前は元々は人間だったとか…その影響もあり随分昔には人間の女を好いていたとお聞きしておりましたが…私が尊敬する貴方様は人間を殺す事など何の感情も無くやって退けていたのに…本当に自分の事を覚えておられたいのですね…」
『攫う』というワードに動揺を見せたラビタスに、爺は昔のラビタスとは全く別のラビタスに変わってしまったのだと落胆してしまった。
「人間の女性の話はもういいから、俺の事やこの国についてもっと詳しく教えてくれないか?」
明らかに爺が自分に対して不信感を持った事に気づいたラビタスは、話を一旦すり替えて爺の不信感を取り除こうと試みた。
「…今の所は、昔のラビタス様と今のラビタス様は全く別人… しかし…ラビタス様の体から発せられる黒い魔力は紛れも無く私の知るラビタス様と同じ… 分かりました!私!ラビタス様の第一ゴーレムの『チブー』が責任を持って貴方様を完全復活させて見せましょう」
「第一ゴーレムって何だ?」
「はい!言葉の通りです。何を隠そう私は、ゴーレムマスターで有らせられる貴方様が一番最初にお造りになられたゴーレムなのです」
「俺…ゴーレムを作れるの!?」
「勿論、ゴーレムマスターですからね!…何より地底に作られたこの空間・この国・この城も全て貴方様の魔法によって製作されたのです」
「俺ってそんなに凄かったのか…」
「左様でございます。ラビタス様はこの世界の節目節目に現れるとされる伝説の魔王のお一人なのです!」
「…俺…そんな凄い魔王だったの!?」
「はい!魔王を名乗る方の特徴の一つである自身の眷属となる魔物を生成することの出来る特殊能力をお持ちなのです。そんな貴方様は、同じく生命体を誕生させることの出来る神に最も近い存在なのです」
(現実世界で何の役にも立たなかったこの俺が…神と同じ存在…)
爺であるチブーから自身の衝撃的な素性を説明されたラビタスは、現実世界と異世界でも自分の立ち位置の違いに状況を飲み込めずにいた…
しかし…
その迷いは、一瞬で彼の欲望に侵食された…
「…なぁ…爺…」
「はい!何でしょう…ラビタス様!」
「俺!決めたよ…ゴーレム作りたい」
「…ほぅ!早速ゴーレム作りですか!…可能ですが!一体どういった心境の変化で!?」
「俺…女性型のゴーレムを作りたいんだ!」
「女性型ですか?…いやはや…先程連れて参った5体は貴方様が昔お造りになられたゴーレムですぞ… 」
「違うんだ!俺は…今の俺自身が求める最高の女性型のゴーレムを作りたい…そうだ…決めたよ爺…俺は最も人間に近いゴーレム…そう…名付けて『ラビ・ゴーレム』を制作する事をここに宣言するよ!!」
ラビタスの突拍子も無い発言に、最初は理解に苦しんだ爺であったが、ラビタスの欲望に塗れたその真紅の瞳に魅了された爺はラビタスが提唱した『ラビ・ゴーレム』作りを承認した。
「…分かりました!本当に貴方様ときたら、今も昔も欲望に忠実な方だ…所で、何故急に女性型のゴーレムを制作しようとお考えに!?」
爺のラビタスの核心をついて質問に一瞬『ニヤリ』と笑い、すぐさま真顔でこう答えた…
「俺の嫁を作る!!」
「はぃーー??よ…嫁ですか?」
驚きのあまり腰を抜かす爺に一切の曇りの無い表情でラビタスが話を続けた。
「俺は、俺自身の為による、俺だけの嫁!!俺の我儘と理想を具現化した最高の嫁を俺の手で誕生させる!!」
「それは俺が長年心に秘めていた俺の闇の夢!!俺の魂の計画!」
「遂に…遂に実行に移す時が今やって来たのだ!!
「ははははっは………」
ゴーレムマスター・ラビタスは今まさに、自身の心に秘めていた欲望を爆発させた瞬間であった!!
そして今から、ラビタスの最愛の嫁を求めた旅の物語が始まったのであった!!