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第一章プロローグ 暗い空の記憶
覚えているのは、繋いだ手に伝わる温もり。
それに、少し痛いくらいの力。
その手は少し震えていて、でも絶対に離さないという想いが伝わってきた。
それから――
『こちらは、アーク第六シェルターです……』
「おい、本当にこっちで合ってるのか!?」
「こっちってどっちだよ!」
「ママ、どこにいるの!?」
飛び交うたくさんの声と、サイレンの音。
そのどれもが混乱と悲痛に満ちていた。
本当は耳を塞ぎたかったけど、手を離すのも怖くて、あぁ手がもう二本あったらいいのに、なんてことをルナは思っていた。
思い出せる。
感触も温度も声も音も、すべて。
あの日の出来事は強烈に脳裏に刻み付けられ、ルナはそれをいつだって鮮明に思い出すことができた。
思い出したいことなど、ほとんどないけれど。
しかし、その記憶の中に――目に見えるものは、一切なかった。
暗闇。
右を見ても、左を見ても――空を見上げても。
一分の光さえない、完全なる暗闇。
それが、あの日人類が経験した『大災厄』のすべてだった。