マネキンと警備員
プルルルル、プルルルル
唐突と非常連絡の電話が鳴り響く。その音は時刻は2時を周り夜勤特有の疲労感に苛まれる頭によく響いた。
もう客は誰一人として残っていないのに鳴り出したこの電話を奇妙に思いながらも、取らない訳にも行かないので恐る恐る受話器に耳を当てる。
その受話器から聞こえてくる音は、金属同士を打ち付けたような音と、なにか水のようなものが流れる音。
「もしもし?大丈夫ですか?」
と声をかけるも返事は無い。たっぷりと1分ほどその音を聞き続けるも、流石に恐怖に負け電話を切る。
「冗談はよせよ、ほんとに笑い事じゃねぇぞ」
と恐怖を紛らわすかのように悪態をつく。
この非常電話には掛けた場所を教えてくれる様な機能は付いていないため、どうすることも出来ずその場に待機する。腰に掛けた警棒の重みが今はかつてなく心強い。しかし、少し老朽化してきたように見えるこの警備員室の切れかかった電気が更に恐怖を煽る。
「一応、防犯ランプは気にかけておこう」
そこから10数分程いつもの様にネットサーフィンを楽しんでいた所、防犯ランプが赤色に変わる瞬間を見てしまう。そこは今は使われていない倉庫であり、頻繁に防犯ランプが反応する場所として警備員仲間の間では有名な場所であり、そのため客はもちろん警備員ですら近ずかない。
その倉庫には数年前に撤退した服屋が置いていった大量のマネキンが置かれている。あまりにも頻繁に何かしら問題が発生するために、オーナーがお祓いをしたが効果は無かった。更に噂としてマネキンの数が増えるなどという眉唾物なとのもあった。
「まじかよ、マネキン倉庫とか行きたくねぇ。何で今日に限って1人なんだよ」
またも悪態をつきながら、渋々歩き始める。階段を2階ほど上り、例の倉庫の前に辿り着く。
重厚な金属扉のロックを解除し、しっかりと体重をかけて開くと
ゴトッ
っと何かが倒れる音が聞こえる。電気を付け辺りを照らすと、そこにはマネキンが1つ倒れていた。
「あー、防犯ランプはこいつが扉に倒れた拍子に付いたのか。でもなんで突然倒れたんだ?」
誰に言うでもなく呟いた独り言は倉庫の闇に飲み込まれて消えていった。
バチッ
突然倉庫の電気が消え、周囲は本物の闇に飲み込まれる。とりあえずここから出ようとカードキーを通すが、これも電気で動いていたために反応しない。
「まじかよ、ここで電気が復旧するのを1人で待つのか。付いてねぇなぁ」
ズズズズ、ズズズズ
突然後ろから何かを引きずるような音が聞こえる。パニックになり、扉の横に設置された非常電話を取り手に持ってきた警棒で扉を叩く。何故か声は出せず、思考は恐怖に支配されていく。
何かを引きずるような音はどんどんと近づき、恐怖はさらに加速する。
狂ったように扉を叩きながらその音を聞く。
後ろを振り返ると、そこには一体のマネキンが立っていた。暗闇に慣れてきたその目にはハッキリと映る。
プルルルル、プルルルル。