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49.1943年12月9日~日本

 正午に、大本営発表のラジオ放送があった。アナウンサーは淡々と、トラック諸島東方沖海戦の結果を述べた。荘重な君が代演奏の後、

「…イギリス戦艦5隻撃沈、1隻大破、重巡洋艦7隻撃沈、2隻大破、航空機多数撃墜。アメリカ戦艦7隻撃沈、2隻大破、巡洋艦、駆逐艦多数撃沈。航空母艦10隻以上撃沈確実。航空機700機以上撃墜。…尚、わが方の損害は、巡洋艦愛宕沈没、駆逐艦杉中破、戦艦大和、武蔵、陸奥小破、巡洋艦鳥海小破、航空機72機喪失。この海戦で亡くなられた方々に、改めて哀悼の意を捧げます。」

 放送の後、「海ゆかば」が流れて終わった。


「なんじゃこりゃ?」

 大阪で鮮魚店「さかな一番」を営む中村太一は、ラジオを聞いて、魚をさばいている嫁のきよに話しかけた。

「聞く限り、日本海海戦並み、いや途方もない大勝利やろ?なんでこんな辛気臭い。」

「そやかて大勢なくなったんは、ほんまのこっちゃ。気の毒やなあ。それよりこれで戦争はおわるんやろか。」

「そらアメさん次第やな。それより、今日は宴会やるやつがようけおるはずや。刺身が出るでぇ。」

 最近、市場に新鮮な魚が多く出回るようになった。こんなことならもっと仕込んどくんやった。太一は後悔した。


 東京では、臨時閣議が開かれ、東條国防相が海戦の結果報告をしていた。

「戦死者は81名、行方不明者は8名。戦傷者数は、まだ集計中ですが200名以上となっています。」

「そうですか。連合艦隊の諸君には、大いに感謝したい。慰労のほうはよろしくお願いします。」

 鈴木総理はそう、東條国防相に言うと、続けた。

「これで少しは、英米は軟化するでしょうか。」

「なかなかそうはいきますまい。両国の世論次第です。しかし、当面、太平洋に手は出しますまい。」

 東郷外相が言うと、東條国防相が発言した。

「山本長官によると、ゼロ戦99型を41機失い、愛宕を失い、特殊魚雷を使い切ったので、もし同規模の敵がくるとしたら、戦力を倍増しないと無理だろうとのことです。」

「まあ、あれだけの戦力を回復するには、さすがのアメリカも半年やそこらかかるでしょう。【彼】が戻ってくるでしょうから、相談しましょう。」

 鈴木首相が言った。しばらく沈黙が続いたが、東郷外相が発言した。

「とりあえず、もう一度講和を申し入れましょう。その時、例の核爆弾の使用については、日本政府は人道の面から絶対に容認できないと、付け加えてみてはどうでしょうか。」


 彼らは、1月1日の「夢会議」で核爆弾の使用の場面を見せられていた。それが間もなく完成するであろうことも知っていた。東條は、その時、皇居にそれが落とされる場面を想像して、背筋が凍り付いたことを思い出した。核兵器こそ、アメリカの切り札に違いない。


「非人道性を強く訴えた声明文を作り、早急に計画を中止しない場合、連合艦隊による西海岸攻撃も辞さないと付け加える。そうした文章を、アメリカの新聞、放送関係に、郵送してはどうでしょう。その程度の工作はできるのではないでしょうか。」

 米内軍需相が発言した。

「それは良い考えですな。東郷さん、可能でしょうか。」

 鈴木首相が言うと、東郷外相が答えた。

「そうですね。ヨーロッパが落ち着いているので、スペイン経由で可能かもしれません。やってみましょう。それはそうと、宣統帝のことは陛下はなんとおっしゃっていましたか。」

 木戸内大臣が答えた。

「宮家に準じた存在とするか、侯爵家として迎え入れることはできないか。とおっしゃっていました。」

「貴族制度は、新憲法で廃止になる予定です。宮家に準ずる存在にするには、皇室典範の改定が必要です。」

 岩村司法大臣が発言した。

「わかりました。皇位継承権をもたない存在としての宮家ならば、皇室典範の改定を検討しましょう。」

 鈴木首相がまとめた。

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