44.1943年12月8日朝~トラック南東海上
サマーヴィル提督は、空母群からの惨憺たる結果の速報に愕然としていた。既に、敵戦艦部隊との距離は、60キロを切っている。艦載機を大きく失った空母群司令官から、イラストリアス、インドミタブルに残る艦載機を集め、ヴィクトリアスとフォーミダブルは返したいと連絡があり、了解した。2隻は軽巡2隻、駆逐艦4隻に守られ、奪還したラバウル経由で戻ることになった。
戦艦群上空は、コルセア12機、シーファイア10機がカバーしていた。北西から迫る敵戦艦部隊に同行戦に持ち込むためやや面舵をとりつつ戦列を整えた。こちらの方が砲数で優っている。9隻の重巡群には、敵巡洋艦を狙いつつ、隙あらば魚雷攻撃するように命じた。1隻あたり8本、全部で72本の魚雷をぶちまければ当たらないわけがない。
さらに駆逐艦隊10隻が、突撃命令を待っていた。旧クレムソン級駆逐艦で3連装魚雷発射管を4基備える。35ノットで突撃し、120本の魚雷を発射する。どんな巨艦でも、魚雷を3本食らえば動けないだろう。
敵との距離が、40キロを切ってきた。敵も緩やかに取り舵をとり、同行戦に持ち込もうとしている。26000メートルからの射撃を命じたその時だった。
キングジョージ5世はいきなり夾叉を受けた。途方もない水柱が両弦に立ち上り、船体が震えた。2番艦のデュークオブヨークは、後部砲塔付近に直撃した。とたんに右に戦列を離れ始めた。レナウンも夾叉を受けた。後続の3艦も夾叉、または直撃弾を受けたようだ。信じられないことだったが、ぐずぐずできない。
「全艦、突撃。」
早く敵を射程に捕えなければならない。
戦艦隊は、取り舵で北に進路を変え、早期に敵との距離を詰めようとした。これが良かったのかキングジョージとレナウンは2斉射目の影響を受けなかった。しかし、デュークオブヨークは今度は前部4連装36センチ砲塔に直撃を受け、大爆発を起こした。後続のリヴェンジ、レゾリューションも2斉射目に直撃弾があり、よろめき始めた。殿のネルソンは、2発の直撃を受け、41センチ3連装砲塔の1つは完全に破壊されたが、まだ行き足は乱れていない。しかし、前の2艦に比べて鈍足であり、徐々に離され始めた。
こうしている間に、重巡艦隊は30ノット、駆逐艦隊は35ノットの全速で敵に向かっていた。
30キロまで迫ったとき、今まで沈黙していた長門、陸奥の、連装砲塔8基が吠え始めた。41センチの巨弾が、重巡艦隊を襲い、カンバーランド、デボンシャー、ノーフォークの3艦が戦列を離れた。やっと20000メートルに迫ったときには、無傷の重巡はいなかった。ケント、サフォークの2艦が主砲を始めて発射したが、次の瞬間には、直撃を受けて2艦ともに大爆発を起こしていた。
キングジョージとレナウンは、28ノットの全速で、やっと26000メートルまで近づき主砲を発射した。1発が超大型艦の舷側に水柱を上げた。しかし、お返しとばかり飛んできた巨弾が、キングジョージの船首と、レナウンの船尾を吹き飛ばした。キングジョージは、つんのめるようになり、間もなく船首から沈み始めた。レナウンは完全に停止したが、38センチ連装砲3基は健在で、懸命の射撃を続けている。後方を見ると、浮いているのはネルソンだけだったが、大爆発を起こし炎上していた。
駆逐艦隊は、全速で10000メートルを切るところまで迫っていた。魚雷を放つなら5000メートル以内まで迫る必要がある。必中を期すなら1500メートルまで迫りたい。しかし、ここで、超巨大戦艦の15.5センチ3連装副砲と長門・陸奥の14センチ単装砲群が火を噴き始めた。巨艦の高角砲群も水平射撃を開始した。5000メートル以内に迫って、魚雷を発射できたのは、味方艦の煙の陰を利用して近づいた2艦だった。放たれた魚雷は24本。敵の高角砲が俯角を取って水面を射撃し始めた。これで破壊されたもの、そもそも届かなかったものが多かったが、それでも1本が超巨艦に1本が長門級に命中した。この海戦で、敵に与えた、最初のそして最後のダメージだった。
護衛戦闘機隊同士の戦闘は早々に決着していた。ゼロ戦3機をなんとか撃墜したが、母艦に帰れたのは、コルセア、シーファイアともに2機であった。
敵戦艦群が北に去ったとき、戦艦ではネルソン、重巡ではロンドンとドーセットシャーの2艦が炎上しながら浮いていた。1万5千人以上が、海上に投げ出され、残された駆逐艦と軽巡は救助に追われた。イギリス艦隊は、空母本体こそ無事だったが、戦闘力のほとんどすべてを失い、撤退するしかなかった。




