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43.トラック諸島南東海上

 1943年12月8日未明、まだ暗い海をぼんらりと見るでもなく、サマーヴィル提督は、旗艦キングジョージ5世の艦橋の椅子で、転寝していた。そういえば、日本がハワイを襲ってから丁度2年になるな。しかし、この1年、まともに戦争をしていない。やっと、戦闘できる戦力を与えられた。戦艦部隊はキングジョージ5世、デュークオブヨーク、レナウン、リヴェンジ、レゾリューション、ネルソンの順に単縦陣を組んで進んでいた。ふと目が覚めて、まえの3隻は28ノットの最高速を持つが、後ろの3隻は23ノットがやっとである。戦闘が開始されると、2つに分かれて闘うことになる可能性がある。敵の戦艦の巨大さを考えると、できるだけ火力を集中させるため、この陣形を維持したい。などど考えはじめて眠れなくなり、起きだして艦橋にきた。


「北西より、航空機の反応!単機と思われる。」

 レーダー室より連絡があった。まずいことに晴れで半月がまだ残っていた。

「対空砲火用意。」

 当直士官が、対空砲座に連絡する。前を行く巡洋艦の高角砲と、キングジョージ5世の両用砲が打ち上げられ始めるが、敵機は旋回しながら、やがて艦隊の後方に飛び去った。


「…戦艦6、巡洋艦6、駆逐艦12。さらに後方を確認する。」

 16機放たれたうちの1機の彩雲が、戦艦部隊を発見、通報した。幸いにも、雲量が少ないので高度を上げながら、後方にいるはずの空母群を探した。既に、電探に捕えられ戦闘機を上げている可能性がある。逃げ切れる自信はあるが、まずは発見しなければならない。

「右前方にレーキ!」

 全速で向かってみると、空母4隻が、周辺に巡洋艦、駆逐艦を従えている。空母4、巡洋艦8と数えたところに、こちらに向かってくる戦闘機に気づいた。

「牧田!母艦に連絡!」

 叫ぶように通信士に命令すると、全速のまま旋回し、北西に向かった。まだ暗い中、敵空母から続々発艦しているのが確認できた。上昇しつつ、ちらりと後方を確認すると、コルセアらしき敵機数機が、母艦群のほうに引き返す影が見えた。


 連合艦隊は、先行する戦艦4、重巡4、駆逐艦8の戦艦群と、その後方150キロで従う空母5、軽巡4、駆逐艦8の空母群の二つに分かれていた。既に戦艦群の電探は約120キロ南東に、敵戦艦群をとらえており、25ノットでその方向に向かっていた。間もなく、空が白んでくるころだ。

「すぐに、敵攻撃機が来る。護衛戦闘機を発進させろ。」

 空母群からは、ゼロ戦99型55機は戦艦群の前方に、紫電改48機が戦艦群と空母群の間を埋めるように続々発進した。


 英機動部隊の攻撃機は3群に分かれて進撃していた。900キロ爆弾を抱いたバラクーダ24機は2500メートルの高度で先行し、魚雷を抱いたバラクーダ24機は、500メートル以下の低空を進んでいた。それぞれコルセア18機が護衛している。インドミタブルのアルバコア15機は魚雷を抱いて、やはり低空を進撃していたが、バラクーダ隊にはかなり遅れていた。護衛はシーファイア16機である。バラクーダは巡航速度300キロ、複葉のアルバコアに至っては230キロと低速なので、戦闘機部隊は同行するのに苦労していた。


 コルセアの1機が前方やや上空に敵機を発見し、戦闘機群は高度を上げ始めた。イラストリアス戦闘機部隊長ホートン大尉は、前方の戦闘機がゼロ戦であることを確認し、部下に伝え、さらに上昇した。ゼロ戦は、一撃離脱に限る。12.7ミリ6丁の弾幕を浴びせて、一撃離脱をくりかえせば、ゼロ戦はついてこれないはずだ。と繰り返し教わっていた。2100馬力のエンジンがうなりを上げる。


 36機のコルセアとほぼ同数のゼロ戦が交差した。旋回性能は明らかにゼロ戦が上で、交差後に後ろをとられたコルセアは多かった。後ろをとられたコルセアは、急降下で逃れようとした。1500メートルを一気に降下し、そろそろ機首をあげようとしながら振り返ると、なぜかヤツがいた。20ミリが機体に食い込み、もはや機首を上げることはかなわなかった。

 そうしている間にもバラクーダ隊は戦艦群に接近していたが、10機ほどのゼロ戦が接近してきた。必死に進路変更しながら、戦艦に向かおうとするバラクーダ隊だったが、繰り返し銃撃を浴びせるゼロ戦に次々に打ち取られていった。

 雷装したバラクーダ隊は、さらに海面近くに高度をおとし、進撃していた。このため、ゼロ戦10機ほどに襲われたものの、最初の一撃をかわすと、9機がなんとか戦艦まで3000メートルほどに近づいた。もう少し近づいたら、攻撃だ。その時、戦艦の高角砲群は初めて射撃を開始した。先行していた5機があっという間に撃墜され、残る4機は魚雷を投棄して離脱していった。


 完全に夜が明けたとき、コルセア、アルバコアとの戦いで、ゼロ戦の多くが、2000メートル以下に高度を落としていたところに、シーファイア16機が3000メートルの高度から襲ってきた。20ミリ2丁、12.7ミリ2丁の全力射撃である。これにはたまらず3機のゼロ戦が海面に墜落していった。しかし、格闘戦にはいるとやはりゼロ戦が上だった。被弾し、引き返した3機以外のシーファイアは全て撃墜された。

 アルバコア雷撃隊は、ほとんど海面すれすれを進撃していた。ゼロ戦を何とかかわし、戦艦群に近づいたが、やはり対空射撃によりあっという間に数を減らした。6機が魚雷を放って離脱しようとしたが、うち3機はゼロ戦の餌食となった。この6発の魚雷のうち1発が戦艦群の護衛駆逐艦に命中し、中破脱落となった。


 結局、この空戦で生き残ったコルセアは、小破して帰還したものが3機だけだった。バラクーダが5機、アルバコアは3機、シーファイアは3機。一方、被弾墜落したゼロ戦は、6機。海面に激突するように墜落したものが3機あり、死者も4名出た。しかし、機体はしばらく浮いており、後続の空母群の軽巡に拾われた。

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