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38.1943年11月5日~ドイツ上空

 アメリカ第8軍のB17の大編隊が、モスキート先導機に従いつつ、8000メートルの高空を進んでいた。第8軍は爆撃成果をあげるため、昼間精密爆撃にこだわっていたが、かなりの護衛戦闘機を連れていたにも関わらず、それ以上の迎撃戦闘機の洗礼を受け、多大の損害を受けた。密集編隊による対空射撃はそれなりの効果があったが、Me262の編隊が、正面から急速に迫って放つ、対空ロケット攻撃には手を焼いた。1機あたり24発のロケットが、密集編隊を襲うと、編隊に穴が開き、対空射撃の密度が落ち、そこにメッサーシュミットやフォッケウルフが付け込むのである。10月後半から3度の昼間爆撃を試み、すでに半数の300機を失っている。しかも、投棄した爆弾が、ロッテルダムの市街地に落ち、多数の市民を殺傷してしまった。亡命オランダ政府から猛烈な抗議を受け、イギリス政府も困惑していた。


 そこで、本国からの増援を受けた今回は、イギリス空軍の主張するドイツ国内に対する夜間都市爆撃に参加することになった。編隊は500機以上で、フランクフルトを目指していた。ベルギー上空で何度か対空砲火を浴びたものの、損失機なく進撃していたが、そろそろドイツにさしかかるころ、夜間戦闘機の迎撃をうけた。レーダー装備のJu88やTa154のほかに、夜戦型Me262が50機ほど現れ、R4Ⅿ対空ロケットを放ってきた。さすがに昼間ほど命中しないが、編隊は動揺した。こちらの対空機銃もなかなか当たるものではない。編隊周辺部の機体が順次削られ、夜間であるため、編隊を組みなおすのが容易ではない。脱落した機体がさらに削られ、フランクフルト手前で爆弾を投棄して、帰還することになった。ドイツ夜間戦闘機部隊は、オランダ上空まで落ち武者狩りを続けた。結局、この攻撃では、220機を失うことになった。


 一方、イギリス爆撃兵団は、アブロランカスターを主力とする約800機でルール工業地帯を目指していた。既に何回か実行した作戦で、夜戦型Me262に痛い目にあわされていたので、約150機の夜戦型モスキート戦闘機も同行していた。しかし、ここにも夜戦型Me262が30機あまり現れ、まずモスキートを狙い始めた。モスキートは、650キロは出る高速戦闘機だが、850キロを誇るMe262から見れば止まっているようなものだ。まだ、ドイツ国内に入る前にモスキート部隊は追い散らされた。そして、裸となったランカスターに、Bf110G型250機が襲い掛かった。1機あたり2発の対空ロケットを、一斉に撃ちかけて、編隊を混乱させると、個別の狩りがはじまった。灯火管制で定かではなかったが、ルール工業地帯上空と思われる地点で、爆撃を実施するころには、2/3ほどになっていた。そして、爆撃後は、もはや密集編隊を組むことはかなわず、個別に敗走していった。参加950機中、450機以上が未帰還となった。


 7日になって、チャーチルは記者会見に臨んでいた。

「ここ3週間で、イギリス空軍爆撃兵団は、800機以上の損害を受け、5000名以上の搭乗員を失っています。米軍も、550機以上で、やはり、5000名以上の損失です。このような攻撃をまだ継続されるのですか。」

「いや。敵の新型機への対策が確立するまでいったん中止とするつもりです。」

「そもそも、ドイツはここ3か月、英本土への攻撃はしておらず、講和を呼び掛けているが、応じるつもりはないのですか。」

「戦争開始以来3年間、我が国の受けた損害は目に余るものがある。それに、日本は我が国の領土を侵略し、占領している。それを回復できない限り、停戦はできない。」

「日本は、海外植民地に自治権を認めるよう要請していると聞いていますが。」

「かれらの侵略を正当化しようとする、まやかしです。今は、国民が一致して耐えねばならないときです。」

 そういい捨てて退席するチャーチルを追うように質問が飛んだ。

「シチリアの無謀な攻撃は本当に必要だったのですか!」

 チャーチルは無言で立ち去るしかなかった。

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