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3

 金船号は、ちょうど牧草地の真ん中にだらしなく身を投げて背中の痒いところを地面に擦り付けている最中であった。タロヒコ少年は大きな声で金船号を呼ぶ。

「キン!」

 仲の良い少年の声にも、金船号は身も起こさなかった。だらりとだらしなく身を投げたまま、歯を剥き出した戯け顔を見せる。

 タロヒコ少年はこうした金船号の奇行には慣れっこだ。彼は子供らしい無邪気さでゲラゲラ笑って金船号に駆け寄った。

「なんだよ、もっとシャッキリしろよ、お前はもうすぐ、大将の馬になるんだぞ」

 いくら賢いとは言っても金船号は馬だ、人間の言葉の細かな意味など解らない。それでも自分と仲のいい少年が得意そうに胸を張って、弾むような早口で話す様子は馬の目から見ても好ましいものだった。

「それにな、おら、大将から直々にお前を頼むって言われたんだ、これはすごいことなんだぞ、おらみたいな小僧を、一人前の馬取りと認めてくれたってことだでな」

 この少年にめでたいことがあったのだな、と金船は理解した。ならばと、金船は首を立てて、少年を自分の背に誘った。

「なんだい、おらを乗せてくれるっていうのかい」

 タロヒコ少年が喜んで背に這い上がると、金船は四肢を張ってざっと立ち上がった。そのまま、胸を張って得意げな騎手を背に、ポクポクと放牧地の中を歩き回る。気分はウイニングランだ。

 たっぷりと草の香りを含んだ野風が長い耳の間を通ってゆく感覚は心地よくて、できればもう少しだけ歩速をあげたくなる。しかし馬具もつけずに小さな少年を乗せている今はこれ以上の早駆けは出来ない。

 ーーもっと早く、身が焼けるほどに、ただ早く……走りたい!

 賢い金船号は、もうじき自分の願いが叶うことを感じていた。だから、彼自身も背上の少年と同じく浮かれた気分であった。

「よぉし、キン! 走れ!」

 金船は少年の声に応えてほんの少し、首が振れない程度に速度を早める。脚元が疼くような、そんな感覚があった。

 そう、誰よりも早く……金星号は鼻先を撫でる風に目を細めて、そう願っていた。

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