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7.ユアの種族

 「うむ。美味である」

 

 ノーローンとユアが作った料理を食べると、魔王はそう言った。

 「ありがとうございます」

 と、それにノーローンはニコニコしながら返す。実を言うのなら、台所の勝手が分からず、ユアがメインで作った料理なのだが、それは言わなかった。

 ただ、ユアはそれを咎めることはしなかった。その代わりに小声でこんな事を言う。

 「魔王様は、作ってくれた料理なら、決して悪くは言いません。仮に泥のような味がしたとしても“美味”と言うでしょう」

 それに彼女は小声で返す。

 「ええ、そうなのでしょうね。予想はついていましたわ。パターンが読めて来ましたから」

 魔王はそういう人間なのだ。

 ただユアは、もぐもぐと料理を食べながら、その少しの間の後に、「まぁ、この料理は美味しいですが」と続けたのだが。

 もしかしたら、ユアはノーローンに対して多少は嫉妬しているのかもしれない。どうしてなのかは分からないが。

 

 晩御飯を食べ終える。片付けは魔王がやると言うので任せ、ノーローンとユアの二人はリビング(のような場所)で寛いでいた。

 「あの……、」

 と、ノーローンは口を開く。

 「あなたは魔王さんとどういったご関係なのでしょう? 従者ではないのですよね?」

 「ええ。私が従者を名乗ったりすれば、魔王様は悲しみます」

 「では、恋人……?」

 その“恋人”という言葉に、ノーローンの勘違いでなければ、ユアは微かに反応したように思えた。しかし、彼女はこう返す。

 「いいえ、違います。私と魔王様はそのような軽薄な言葉で表現できるような関係ではありません。そんな関係よりももっと深く、崇高な関係です。この世に、私達二人の関係を形容できる言葉など存在しません」

 ノーローンはそれに軽く首を傾げる。

 「よく分かりません。

 しかし、では、どうしてわたくしを助けてくれたのです? 魔王さんのお傍にいられるよう配慮してくださったでしょう?」

 そのノーローンの質問を受けると、ユアはしばし固まった。無表情なので分からないがどう返すべきなのか、迷っているのかもしれない。

 「正直に言うのなら、多少の嫉妬はあります。魔王様は、あなたのその乳袋を気にされていたようなので……」

 それを聞いて、ノーローンは自分の胸を見た。自分の胸の大きさが、男性を魅了する自覚はあったが、自分は魔王のそんな素振りには気が付いていなかった。

 そしてそれからユアの胸を見る。確かに、自分に比べれば随分と心もとない。彼女がこういった事にコンプレックスを抱いている事実が、少しノーローンには意外だった。

 ユアは続ける。

 「ですが、それ以上に嬉しかったのです」

 「嬉しい? なにがです?」

 「私以外に魔王様を分かってくれた人が現れてくれたことに、です。不器用な方ですから、まだまだ戸惑われていますし緊張して上手く接する事もできていませんが、それでも魔王様は喜んでいます」

 その説明を聞いてノーローンは思う。確かに、魔王の“恋人”という表現は、この少女には相応しくないのかもしれない。

 ただ、もちろん、保護者でもなければ友人でもない。魔王に対して深い愛情を抱いている点だけは間違いなさそうだったが。

 「あなたは、一体、何者なのですか? どうして、あそこまで臆病な魔王さんが、怖がらずにあなたにだけは普通に接していられるのです?」

 その質問に、またユアはしばし固まった。多分、今度も悩んでいる。それから「いいでしょう。あなたには教えてあげます」と言うと、その途端、彼女の肌の色がみるみる変わり始める。色がより白く。まるで透き通ってしまいそうなほどに。よく見ると目の色も朱色に変わっている。

 「ミニア族……」

 その変わった彼女の姿を見て、ノーローンはそう呟いた。ミニア族は魔法に対し、不思議な耐性を持つ種族で、その特異な姿形の所為もあって蔑視されている。

 ユアは言う。

 「前にも言いましたが、私も魔王様に助けていただいたのです。二度も。しかも、一度目は、私だけではなく、種族ごと助けていただきました。

 もっとも、私達は、それをまったく知らなかったのですが」

 それを聞いてノーローンは思い出していた。

 「ミザネラ病……」と、そう呟く。ユアはそれに頷いた。

 ノーローン自身が調べた“闇の邪龍事件”以前に魔王が現れたと噂される事件、“ミザネラ病特効薬医師殺傷事件”。ユアが言う種族ごと助けられたというのは、その事件のことだろう。

 この地域一帯に流行していたミザネラ病。その最初の被害者はミニア族だったと言われている。いや、実は当初から他の種族にも被害者はいたのだが、何故か都合良く無視をされてしまっていた。

 「病に苦しむ私達を見て、世間の人々は何と言ったと思います?

 “完全なる神が間違われるはずがない。罪深き種族であるミニア族に罰を与えられたのだ!”

 ところが、ミニア族以外にも犠牲者がいると分かり、感染が広がっていると分かると、今度はこう言ったのです。

 “神は我々に試練をお与えになったのだ!”

 私達の場合は“罰”で、自分達の場合は“試練”。随分とご都合主義な解釈です」

 ユアはそう言い終えた。皮肉たっぷりの表現だったが、口調は淡々としている。

 「なるほど。魔王さんが、治療薬を開発して広めてくれたお陰で、あなた達は助かったのですわね」

 ノーローンの言葉にユアは頷く。

 「はい。ミニア族は虐げられていて、貧乏ですから、高いお薬は買えません。魔王様が治療薬を安くしてくれたお陰で私達は助かったのです。

 私も、私の父も母も姉も友人達も。

 感謝をしないはずがありません」

 一度、ユアは言葉を止める。そこで、何かを思い出したのか、「ただし、少し訂正しておきます」と言うと、こう続けた。

 「魔王様が薬の製法を教えたヘレグラード医師は、あなたの予想通り、魔王様との約束を反故にし、薬の製法を独り占めにして利益を得ていましたが、魔王様は彼を懲らしめたりはしていません。

 そんな事ができるお方ではないと、あなたにももう分かっているとは思いますが」

 それにノーローンは不思議な顔を見せる。

 「では、どうしてヘレグラード医師は、薬の特許を手放したのです?」

 「魔王様は、“心を繋げた”と言っていました。原理などはよく分かりませんが、苦しんでいる人々の心を、直接、ヘレグラード医師に分かるようにしたのだそうです……

 鈍感で“共感”という機能が麻痺してしまっている人でも、そこまでやれば自分の行いを反省できたのでしょう……

 まぁ、もしかしたら、それも“懲らしめる”という表現で間違ってはいないのかもしれませんが」

 そのユアの説明を聞き終えると、ノーローンはこう言った。

 「あなたに魔王さんに深く感謝をするだけの理由がある事は分かりました。ですが、それだけでは、どうして魔王さんがあなたにだけは普通に接する事ができているのかがまだ分かりません」

 彼女にとって、それこそが最も必要な情報なのだ。

 「はい」

 と、それにユア。

 「私は魔王様に直接助けられてもいるのです。そして、それが原因で、魔王様は私には感情が半分ないと思い込んでいるのです。

 だから、あの方は私を怖がる事はありません」

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