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2.火山を根城にする魔王と、お礼が言いたいヒーラー

 「止めてください! わたくしは、“魔王を倒してくれ”などと頼んではいません!」

 

 グラフィルナ火山の洞窟の奥の奥。

 おっとりとしていそうな外見の女性。いかにも回復系の魔法が得意そうだが、実際に彼女はヒーラーだった。

 彼女は一人ではなく、武装した恐らくは賞金稼ぎだろう一団と一緒にいた。ただ、どうやら仲間という訳ではないようだった。

 その賞金稼ぎ達は、洞窟の奥にいる男と対峙している。その男は腕を組み、不遜な表情を浮かべてはいるが、賞金稼ぎ達を見てはいない。その先にいるヒーラーの彼女を見つめている。

 「あそこまでしてやったのに、まさか再びこの洞窟までやって来るとはな……

 そこの女、ここがどれだけ危険な場所か分かっているのか? 豊富な魔石で健やかに育った魔法系の動植物達が多数生息しているのだぞ!?」

 男は赤と黒とを基調とした衣装を纏っていた。ケレン味たっぷり。その姿はまるで自分が魔王であることを誇示しているかのようだった。

 ヒーラーの女は返す。

 「違います! 誤解なのです! わたくしは、ただあなたにお礼がしたくて……」

 そう言うと、彼女は賞金稼ぎ達に視線を向けた。

 「あなた達。わたくしは、この魔王さんのいる場所まで守ってくれるように頼んだだけです!

 “魔王を倒してくれ”とは言っていません! 何をしているのですか?」

 賞金稼ぎ達のリーダーだろう無骨な男は、振り返るとその疑問に返した。

 「ああ、分かっているさ。確かにあんたの依頼内容にはない。だから、これは俺らが勝手にやっているんだよ。あんたに頼まれたからじゃない。

 あの魔王は1000万マネーの賞金首だぞ? 狙わないはずがないだろうが! あんたがこの魔王の居場所を知っていて助かったよ。お陰で迷わずにここまで来られた」

 それに魔法使いだろう姿をしている別の賞金稼ぎがこう続ける。

 「魔王の居場所にまで案内してくれる上に、ボディーガードのお金まで貰える。とっても、おいしい仕事だったわぁ」

 それから魔王に持っている杖を向けると彼女はこう言った。

 「さぁ、覚悟なさい! 魔王! 私達がお前をやっつけてあげるわ!」

 しかし、魔王はそれをまるで相手にしない。腕を組み、じっとヒーラーの女を見据えている。

 「この洞窟がどれだけ危険な場所なのか分かっているのか? にも拘らず、再び足を踏み入れるなどまったく信じられん! 何を考えているのだ!?」

 その魔王の言葉にヒーラーの女は怯える。

 「ですから、それは誤解なのです。わたくしには、あなたを倒そうなどという気はまったくありませんでした!」

 魔王はその言葉に目を剥く。

 「そんな事などまったく関係ない! 現にお前はここにいるではないかぁ!」

 賞金稼ぎ達は自分達の存在を無視して行われるそのやり取りに、多少苛立ちを覚えているようだった。

 「俺らを無視するんじゃねぇ!」

 一人がそう叫ぶと、懐から爆弾を取り出してそれを魔王に向って投げる。

 洞窟内で爆発物を使うとは狂気の沙汰だ。下手すれば全員生き埋めになる。だがしかし、魔王はそれでもまったく動じる様子を見せなかった。

 「お前らは、そろそろ邪魔だ! 退場しろ!」

 そう言って、手で薙ぎ払うような仕草をする。すると、洞窟内に風が吹き、豪速で回転、あっと言う間に賞金稼ぎ達を呑み込んでしまった。そして、洞窟の外に向って吹き飛んでいく。

 

 「退場しろ!」

 という反響する魔王の声が、急速に遠ざかっていくのを賞金稼ぎ達は聞いていた。

 

 風に呑まれた賞金稼ぎ達の視界は、有り得ないほどの速度で回転していた。洞窟の堅い壁が頭をかする。しかし、決して当たりはしなかった。光が見える。恐らくは洞窟の出入り口だ。そこから外に吐き出される。突然の光に目をやられ、とても眩しい。太陽が近くにあるような気がする。空だ。空を飛んでいる。彼らはそう自覚した。

 ――そして、そう自覚した次の瞬間、気が付くと賞金稼ぎ達はグラフィルナ火山の最も近くにある街の出入り口に座り込んでいたのだった。

 「へ?」

 賞金稼ぎ達の頭は混乱していた。何が起こったのか理解できない。互いに目を合わせ、それで夢ではないと悟る。洞窟に入る為に用意した武具を装備している。目の前に広がる街の光景が、幻術の類で生み出された偽物でないのなら、自分達は何らかの魔法でここまで吹き飛ばされたのだ。

 それでも彼らはまだ信じられないといった表情を浮かべていたが、やがて一人がおずおずと口を開く。

 「……聞いた事があるぞ、グラフィルナ火山の魔王は、侵入者達を洞窟の外にまで吹き飛ばすって」

 別の一人が尋ねる。

 「……洞窟の外って、ここ、あの洞窟からけっこー離れているぞ?」

 “グラフィルナ火山の最も近くにある街”と言っても、数キロはあるのだ。

 「ああ」と、それに先の男は返す。

 「噂では、遠くの南の島にまで飛ばされた連中もいるっていう話だ。ただの噂だと思っていたんだが、マジだったんだな……」

 魔法使いの姿をした賞金稼ぎが口を開く。

 「冗談じゃないわ。あそこまで行くのに、どれだけ苦労したと思っているのよ。一瞬で街まで戻されるなんて」

 それに別の一人がツッコミを入れる。

 「いや、そんな問題じゃないだろ。あいつ、強さの次元が違い過ぎねぇか?」

 そのやり取りを受けて、一人が言った。

 「念の為、魔石を持って来ておいて良かったな……

 あの魔王の1000万マネーは、諦めた方が良い」

 グラフィルナ火山の洞窟には、魔石がたくさん転がっている。魔石は人間社会を動かす貴重なエネルギー資源だ。高値で売れる。彼らはそれを拾って持って来ていたのだ。

 「はぁぁぁぁ」

 それから、そう彼らは大きく溜息を洩らした。

 “一攫千金だと思っていたのになぁ”

 と、いった感じだろうか?

 

 ……賞金稼ぎ達が消え、洞窟内でたった一人になったヒーラーの女は、魔王の前で竦んでいた。

 彼女は名をノーローン・マイライフという。

 「あの…… 本当に誤解で。わたくしは、あなたにお礼がしたいがために、ここまでやって来ただけで」

 涙目でそう訴える。

 魔王は腕を組んで返す。

 「だから、そんな事は関係ないと言っているだろう?!」

 そして、ゆっくりと彼女に向って近付いて行く。

 「お前には、分からせてやらねばなるまい。ここがどれほど危険な場所なのかを」

 凶悪そうな表情で、魔王はそう言って笑った。

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