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1.神に抗う者

 ――今から1400年前、ゼメナ大陸、カルディア地方にあるグラフィルナ火山が大噴火を起こした。

 噴煙は空高く舞い上がり、噴石は100キロ以上離れた街にまで届き、火山灰は周囲の辺り一帯の土地を埋め尽くした。

 近くにあった村々は、その時に発生した火砕流に呑まれて全滅をしてしまい、その後溢れ出した膨大な量のマグマは、辺りの森林を死滅させて地形すらも変えてしまった。舞い上がった噴煙はそれから数か月もの間、大空を覆い続けて陽の光を妨げ、その所為で発生した深刻な冷害の影響で、農業は壊滅的な被害を受け、多くの餓死者を出した。

 その大噴火による被害者の総数は、数十万人に及ぶとされ、カルディア地方の人口は約十分の一にまで激減してしまった……

 このあまりにも悲惨な大災害は、現在、ロノア国の国教に指定されているサーングロス教の聖典にもこのように記述されてある。

 

 『偉大なる神は、邪教を信じる悪しき人々に、火山を爆発させて天罰を下されたのだ』

 

 ――なんだそりゃ?

 

 と、私は思う。

 それだけの数の人々が全て悪人であったはずなどないのではないか? それは、単に異なった宗教を信じていただけの人々ではなかったのか?

 その頃、サーングロス教はまだ国教の地位を獲得してはおらず、この地には様々な宗教がひしめいていたらしいのだ。

 そして、

 もし仮に、自分を信じない人々を悪と見做して亡ぼしてしまうような、そんな残酷で無慈悲で傲慢な存在が神だと言うのであれば、確かに、あの人は……、魔王様は、人々が言うように、“神の敵対者”と呼ぶに相応しいのかもしれない、とも私は思う……

 

 ……ある夜のこと。

 凄まじい轟音がロノア国中に響き渡った。それはグラフィルナ火山の方角から聞こえ、その轟音に安眠を妨げれ叩き起こされた人々は、誰もが記録に中にある1400年前の大噴火を思い出して震えあがった。がしかし、その後、地震も起こらなかったし、火山が火を噴く事もなかった。

 静寂。

 人々の多くは、安堵をし、再び眠りに就いた。

 ただし、その時、真夜中まで起きていた人々の何人かは、偶然にも夜の空に浮かび上がる巨大な怪物の影を目撃していたのだった。轟音はあの怪物の所為だろう。何か不吉な事が起きようとしているのではないだろうか?

 一部の人々はそのように不安に思っていたが、国がそれを否定し、世を惑わせる流言飛語の類は口にするなと禁じた為、誰も大きな声では言わなかった。

 ところが、その一か月後、再び似たような轟音が響いたのだ。しかも今度は真昼だった。その為、多くの人が“それ”を目撃した。

 それは巨大な黒い龍の影のように思えた。その黒い龍の影は突然彼方に浮かび上がると、咆哮するような動きを見せた後、上空に向ってまるで蒸発するように消えていった。轟音が街にまで届いたのはそのしばらく後だった。

 その黒い龍の影が現れた場所は、やはりちょうどグラフィルナ火山のある辺りで、人々はその黒い龍を“闇の邪龍”と呼び、恐怖し不安を募らせた。

 やがて調査が行われると、その数か月前に、グラフィルナ火山にある洞窟に怪しい男が棲みつき始めた事が分かった。本人の談を信じるのなら、男は魔法研究を生業にしていて、今は火山の力を魔力に変える研究をしているのだという。

 国はこの男が“闇の邪龍事件”の犯人であると断定すると『神の敵対者・魔王』と認定し、その首に懸賞金をかけた。

 『魔王を退治した者に、1000万マネーの賞金を出す』

 もちろん、それは国民の間に広がる不安を鎮める為で、本当にその男が犯人であるかどうかも分かっていなかったし、その男が神の敵対者なのかどうかも分かっていなかった。或いは、本当は何の罪もないただの魔法研究者なのかもしれなかったが、そんな事は国にとってはどうでも良かった。

 国の人間達は、国民の動揺が、国政に影響を与えないのであれば、その程度の犠牲者など気にも留めないのだ。

 

 ――そして、魔王認定された当の本人は、どうして突然、国中の冒険者や賞金稼ぎ達が自分の命を狙って来るようになったのか分からず、困惑し、酷く傷ついていたのだった。

 

 「どうして、みんなは僕の事を殺しに来るの?」

 

 ああ、魔王様。なんてお可哀想なのでしょう!

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