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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ズッ友

作者: や

「式はあげないのよ!

 お互いもうトシだしねぇ! 新郎は腰悪いし。

 でも小さいパーティーみたいなのはして、配信っていうの? 孫がしてくれるの!

 そうすれば、みんなお家から参加できるんですって!

 でも昭子ちゃんは会場にきて、スピーチしてくれない?」


「勿論! まかせて、上級小学校からの親友ですもの! それで? スピーチで町子ちゃんの離婚回数は披露していいわけ?

 いやだ、冗談よ!」


 ほがらかに通話を終えた。

 どんと泣いた。


 この気持ちと一緒に私が墓に入るのと、スピーチ原稿が完成するの、どっちが先かしら。


 ああ、でも、どうか幸せになって、町子ちゃん!


 私はこたつに入って、テーブルで所在無げにしてたペン、こないだ本屋さんの初売りでもらったボールペンを握ると、紙ごみに出すつもりで溜めているチラシやなんかから一枚引っ張りだした。

 スピーチを考えなくっちゃ。

 紙はてらっとしてきらきらして、色に溢れてて、あら、ぶりがお買い得。

 裏返したら、トイレットペーパーがお買い得。でも色はせぴあになってた。

 スーパーの言いたいことで埋まってて、私の気持ちはどこにも落とし込めそうにない。


 そうよね。最近のちらしはこういうものよね。


 今度はざらざらした手触りの紙を選んで、引っ張り出す。

 裏はまっさらで、これなら大丈夫。

 書き上げたらきれいな帳面に清書するつもりで、最初の一行を考える。


 まずは定番、ご挨拶よね。本日は御日柄もよく、新郎新婦におかれましては。

 お天気の話は、雨だったり曇りだったりしたら、臨機応変に変えていきましょう。


 本日、は……。


 文字は次第にかすれて、紙には傷だけが残った。

 ボールペンは、インク切れなのか乾いてしまったのか、もう私の気持ちは落とし込めそうになかった。


「なによ! もう!」


 私は苛立ちのまま、ペン先をぐしゃぐしゃに運んだ。

 まっさらな紙に、見えるようで見えない傷だけ走る。


 傷だけ走って、なにひとつ思い通りにならない。


 私はどんと泣いた。

 歳をとると感情を抑えきれなくなって、嫌だわ。涙も鼻水も、溢れる。

 その内すこしはティッシュや手の甲に受け止められて、その内ほとんどは誰にも受け止められないまま、こぼれた。


 今、私を配信できたら、ゲートボールくらぶのみんなや、和食教室のみんなが受け止めてくれたかしら。どっちも町子ちゃんが誘ってくれた、私と町子ちゃんの共有世界。

 町子ちゃんはいつも、私を未知の方に引いていってくれる。

 上級小学校、防空壕から飛び出すこと、幼い恋。

 配信、老いらくの恋、そして結婚。


 私の時代にはなかったのよ。

 老いた未亡人が恋して、それを知り合いにばらまくなんて、いけないことみたいに言われたの。

 女のひとは男のひとを好きになるものだった。

(妬ましいわ)


 上級小学校に女があがるのも、いけないみたいに見られた。

(世界じゅうが妬ましいわ)


 携帯がメール着信を告げて、ひらけば婦人会の広報だった。

 携帯電話も、町子ちゃんが教えてくれたんだっけ。


 紙も、ペンも、ティッシュも、自分の掌すら、この気持ちを受け止められなくても、何に受け止めてもらえなくったってね。



 町子ちゃん。



 新しい世界をみんなみんな、ありがとうね。




 幸せになって ね。


 鉛筆はどこかになかったかしら。

 貴女を言祝ぐ文章を、かんがえなくっちゃ。

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