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アホの子乙女とアホの子坊ちゃんの直球な恋のお話  作者: コーラルピンクフォレストグリーン
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5 おかえ……誰だ

 






 昔を思い返すのはやめ、空はぽつぽつ群れでログハウス近くに居つくようになった茶色玉を眺める。未だに接触はない。変な病気を持っていたら怖いので。

 ドラッグストアがあり調剤薬局もあるがなにせ処方できる知識がない。やることが無くなったらその辺の書籍にも手を出してみようとは考えているが今ではない。

 向こうもこちらに近付いてこないので空は都会の隣人だと思って付き合っていた。



 聖域(おそらく確定)はピンク芝生と連動してまだ広がっているようだが大木の後退はいつの間にか止まっているようなので、広大なピンク芝生に草食動物王国が出来上がる未来は阻止できた。

 さすがに戻って来た家主にどう説明していいのかわからない。牧場主になりたい人ならばいいのだが。


 安全地帯は広がっているのだろうが、森に分け入るつもりは全くなかったのでもしかしたら茶色玉の他にも聖域仲間の隣人がいるのかもしれない、空はそう考えている。


 実際、フェンスの向こう側の聖域(森)に住みついている隣(生物)がいるのだが空は気が付いていなかった。








 日課にしているソーラーセンサーライト設置を終え空はログハウスに向かって歩き出す。


 センサーライトはまさかのソーラーが反応したので防犯になるのかどうかわからないがフェンスに設置することにしているのだ。数の暴力である。

 そして、もっと聖域が広がったあたりで倉庫にある自動点灯タイプのオシャレソーラーライトでログハウスをデコレーションしようと空は密かに燃えていた。今はまだ敵対生物にこちらの居場所を知らせそうで実行できずにいるが。



 突然、上空がぐわんと歪んだように見えた。そして久しぶりに自分以外が発する驚いたような叫び声が耳に――



「…………さて」



 空はもしかして聖域って半球なのかー歪むのかー言葉の問題はないかもーと足は止めずログハウス内に退避、扉にしっかり鍵をかける。そのまま声が聞こえてきた方向に近い窓を少しだけ開け、バイポッドとパッケージに書かれてあった2脚を窓枠に設置、それにライフルをのせ窓の隙間からスコープを覗く。



 空はいつの間にか見た目だけは立派なスナイパーに成長していた。人間やればできるものである。見た目だけだが。



「家主さんかなー」



 かなーとは言いながらもライフルはいつでも火を噴く準備は出来ている。たくましい。ちなみに手入れは欠かさないが撃ったことはまだない。



 家主に対しての謝罪の言葉を考えながらしばらく警戒していると、森から人が――あれはどう見ても堅気じゃない。しかも1人2人じゃない。



「……7人」



 武装した、おそらく男達、が驚いた様子でこの家を見ていた。


「な、なんだここは……」

「家……? 人が住んでいるはずがない」

「あの日以降こちらに移り住んだ可能性も」

「この障壁はなんだ!?」

「この森の植生か……?」

「うわっ光った!?」



 空は警戒レベルを少し下げた。

 なぜなら彼らの言葉はきちんと理解できたしそれよりも何よりも彼らが万全の状態では無さそうだったから。

 彼らはそう、野生の臭いがたっぷりしそうな出で立ちなのだ。ぼろぼろといった表現がふさわしいかもしれない。しかもその中の1人は仲間の肩を借りてようやくといった様子で立っている。



「おい! お前達は勝手に乗り越えようとするな! あそこに門があるではないか!」


「門~? あれが~? それに坊ちゃんそんなこと言ってる場合ですか~?」


「坊ちゃんと呼ぶでない! 指揮官と呼べ!」


「指揮官、門から入るんでしょうか」


「うむ! 勝手わからぬ訪問先ゆえ失礼の無いようにしなければな!」


「ここ怪しすぎますよ~俺嫌ですよ~坊ちゃんだけ門から訪問してくださいよ~」


「お前坊ちゃんと行けよ」


「やだよ」


「俺はここで待ってる。子守は任せた新人」


「横暴!」


「坊ちゃんではない指揮官だ!」


「はいはい指揮官」


「うむ!」



 あ、あいつ馬鹿だな。馬鹿が指揮官だ。指揮官が馬鹿だ。ウム指揮官だ。



 空は警戒レベルをさらに下げた。

 そして窓をしっかりと施錠し走って倉庫に“ある”ものを取りに行く。

 あるものとは変声用のヘリウムガスと拡声器、そして目出し帽。これは万が一のセットとして用意していたものだ。



 急いで戻り今度は扉を少し開け隙間から外を確認すると、野生の男達は結局全員が門までぐるっと回って来ていたようだった。ここで空はまた警戒レベルをひとつ下げた。無理に押し入るつもりはないらしい。そもそも聖域に入って来られる時点で悪意はないようだ。



 しかし門の所でウム(指揮官)が、呼び鈴がどうだの部下に先触れをしてこい、坊ちゃんここまで来といて何考えてんですか馬鹿なんですか、やらごちゃごちゃ言い合っていて中々入ってこようとはしない。



「俺ら坊ちゃんに脅されて仕方なく門開けま~す。俺らの意思じゃないで~す」


「指揮官だ! 私が命じた!」



 リンゴジュース(1L)の紙パックにストローを豪快にさしジュウジュウ飲んでいた空はやっと来たかと思った。若干飽きていた。


 こふっと軽い咳をした後、空は拡声器を手に取る。ご丁寧にハンズフリーの拡声器を用意しているのでライフルを構えたままだ。そして彼ら全員が()()()に入ったと判断した瞬間ヘリウムガスを吸い込み叫んだ。



「止まれ!!」



 遊びのようなふざけた声が響き渡ったが、あんなに騒いでいた男達が一斉に静まり動きを止めた。

 続けて空は叫ぶ。



「武器はこちらに投げろ! うつ伏せになって両手は頭に! 抵抗する者は撃つ!」



 ――そう、彼女は昨日の夜アクション映画を見ていたのである。彼女の中では今の自分はアクションスターだ。フィクションに影響され過ぎである。ちなみに服も戦闘服である。形から入る女である。

 しかしヘリウムガスのせいで台無しであった。



 男達はどこか困惑した様子で指揮官の男性に視線をやり、その視線を受けて指揮官自ら腰に携えていた剣を遠くに放り投げると率先して地面にうつ伏せになり空の指示に従った。


 残りの男達もやれやれといった様子でそれに続く。



「貴様らはなんっ……やっべガス」



 何の用だと勇ましく叫ぼうとしたところでヘリウムガスの効果が切れただの女性の声が響き渡ってしまった。



『ヤッベガス』という野生の男達からしたら謎の呪文としか思えない言葉として。







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