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アホの子乙女とアホの子坊ちゃんの直球な恋のお話  作者: コーラルピンクフォレストグリーン
3/14

3 推理込みの状況把握まで1時間

 






 廊下の先、行き止まりには見慣れたものがあった。



「なるほどー」



 それはコンビニやスーパーでよく見る自動ドアだった。しかもご丁寧にタッチ式の。このログハウスらしき建物の内装からは浮き過ぎているその扉。



「24時間営業なのか」



 その自動ドアには確かに24時間営業の表記があるのだが、今この場においてはどうでもいいことに意識が向いてしまうのも空らしかった。

 しかし空はしっかりと現状を悟っていた。



 日本での『大海空』はおそらく死んでいる。それでここにいるのはニューゲームの『大海空』なのだと。

 理由はわからないが私は今見知らぬこの場所に立っていて、呼吸をして、歩いて、考えている。それが現実だ。

 それにこの先には私がこれから生きていく為に必要なものがある、とも。



 なぜならその透明な自動ドアの向こうには目に眩しいほどの照明を備えた、家族で海外旅行の際に立ち寄った、巨大な倉庫型マーケットのような店内が見えていたから。

 そしてどう考えても外から見たログハウスのサイズに収まるはずもないおかしな巨大空間に、日本、いや、地球とは違う世界に自分がいるんだろうと空なりに推理した。



 そう、空は可憐な弱々しい日本人形のような外見からは想像もつかない程たくましかった――



「すげえなしかし広そう」



 そして年の近い兄がいたので少々口が悪かった。



「兄さんとカートに乗って遊んでたら怒られたよなー」



 遊んでいたというよりは巨大倉庫で迷子になっていたと言った方が正しいが。



 2つ上の兄は妹である空をとても可愛がっていた。そして落ち着いていて頭は良いが中身は小学4年生のまま成長したといっても過言ではない無邪気さも併せ持っていた。落ち着きながらも精神年齢小4の知恵をつけた奇跡の猿のようなものである。

 つまり、奇跡の猿とアホの子、2人が揃うと何をするかわからない恐ろしさがあったのだ。



「あんなカートあるかなー。ここなら思う存分乗り回せるぞー」



 どうでもいいことを考えながら空は自動ドアの『押して下さい』に逆らうことなく押した。そして開くドア。



「細かいな」



 何が細かいのかというと、店内に入った瞬間耳に飛び込んできたのはどこかで聞いたことがあるような無いような、しかしながら馴染みのある安っぽい店内BGMであった。

 一気に巨大倉庫が身近なものに感じられた。



「カート見つけた!」



 この不思議な場所にやって来てから1番の大声が出た。それがショッピングカートを見つけたことによる興奮なのが空らしかった。



 そのままにこにこと大きなカートを押しうろうろと目的もなく店内を歩き回る。



「水あった」



 よしよしと水の入ったペットボトルがひとまとめにパッキングされているものをずるずると引きずりカートの下段に載せる。すぐ隣に2Lサイズのものや500mlサイズのものが個別に売られているのだが空の目には入っていなかった。しかしすぐ近くに陳列されてあった紙パックのリンゴジュースはしっかり目に入っておりそっと2本カートに追加した。



 その後もうろうろと店内を彷徨い、好きなものを好きなだけカートに放り込みひとまず食料は手に入れた空。

 店内には冷蔵も冷凍のコーナーもあったので電気は確実に使えると空は判断した。



 そして空は見てしまった。見つけてしまった。カートに入れた商品が再度通りかかった時に補充されているのを。



「ほんとなんだここ」



 消費期限の概念があれば農業でもするかと考えていたのがその心配はなさそうだ。


 ふと、この特性を活かした役割が何かあるのではないかと脳裏を過ったが、考えても答えがどこかに書かれてあるわけでもないので空はその可能性について考えるのを止めた。しばらく生活するのに必要なものは揃っている、それだけわかっていればいい。

 先のことまで見越して対策をとれるような頭脳でも性格でもなかったから。



 その後マッサージチェアコーナーで休憩を入れつつ店内をざっと確認した後空はテーブルセットがあった場所まで戻ってきた。



「……これはやべえ」



 外はすでに日が暮れていたようで真っ暗だった。

 ログハウス用に倉庫から持って来たランタン型懐中電灯のスイッチを急いで入れ窓を閉めに行く。

 空の野生の本能がピリピリしていた。()()()()()()()()()()()()()()()()と。



 何かに突き動かされるような流れるような動きで窓を閉め内鍵をかけ――厚みのある木の板をスライドさせ外から開けないようはめ込むだけだが――最後に自分が不法侵入してきた扉の鍵をかける。



「…………ふぅ」



 つい前髪をかき上げた時に気が付いた。知らぬ間に汗をかいていたようだ。

 そのまま扉を背にずるずると座り込む。心臓が今になってバクバクしてきた。



「……暗くなるとやばいのか。なるほどー」



 なるほどーとのんきな気の抜けた声で呟いてはみるが、あと少しここに戻るのが遅ければもしかして――



「……リフォームのコーナーに浴槽があったな。お湯が出ればお風呂入れるかな?」



 終わったことは考えない。何がどうなってこうなっているのか、考えても仕方のないことは考えない。

 ここで過ごすことで見えてくるものがあるだろう。その時に考えればいい。



 空は倉庫内のホームセンターのような区画を思い浮かべながら、自分なりの防犯対策を考えながら倉庫にゆっくりと戻って行った。



 そして、「そういや家主はどこにもいなかったな……」とぽつり呟いた。







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