13 それフラグやで
「し、しかし……」
ここでようやく正気に戻ったマリネ少年が食い下がってきた。
「魔女殿、すっきりきっぱり振ってやってください」
「可哀想だから期待させないで」
未練を残さぬよう空にお願いする男達。
「すっきり……」
空は考えた。よりすっきりきっぱりと納得してもらう理由を。
「――マリネさん」
空は真剣な顔でマリネ少年に向き直った。タオルを被ったまま。
「う、うむ」
「実は私、結婚しているんです」
「う、む!?」
「子供が5人います」
「そんなにか!?」
「上は12歳下は2歳です」
「随分と大きいのだな……!」
「男の子4人に女の子1人です」
「1人……それはそれは姫のように大切にされているのであろう」
「とてつもなく可愛らしいです」
「魔女殿の娘ならばとてつもなく可愛らしいはずだ!」
見学していた男達は魔女の結婚発言に「嘘じゃね?」と全員思ったが、魔女と坊ちゃんが実は似た者同士のお似合いな2人なのではないかとも思い始めていた。特に知能が。何故あんな会話が続けられるのか理解に苦しむ。
「……今まで押しかけてすまなかった。謝罪をしたいのだが御亭主はどちらに?」
「えーと。秘薬を求めて子供達と冒険に行きました」
「下手かよ」
めちゃくちゃだった。
男達がついツッコんでしまうほど空の流れはめちゃくちゃだった。
「そうか……魔女殿は寂しい思いをしているのか」
「あの人馬鹿なんですかね?」
「お優しいんだ。きっと」
男達の元々なかった遠慮が更になくなってきた。
「そうだマリネさん、私を親だと刷り込ませられる年齢の子供いませんか? 男の子だと教えてあげられないことも多そうなので女の子がいいかも」
「子供?」
「魔女殿子供をどうするんですか~?」
「やばい用途だとさすがに困ります」
2人に会話を任せているとおかしな方向に行くことがわかったので男達は会話に参加することにした。
「育てます。1人だと寂しい」
「魔女殿が!?」
「育てる?」
「弟子ですか?」
「子供が巣立って寂しいので子供が欲しいです。生活に困っている子は知り合いにいますか? 弟子いいですね」
嘘をつき通す気がないにもほどがある発言に男達は魔女の正気を疑ったが、魔女のダサい姿からはダサいとしか伝わってこなかった。
「魔女の弟子……。魔女殿その問題はいったん持ち帰っても構わないだろうか」
部下の男達は持ち帰るな持ち帰るなと念を送ったが無駄だった。
「親の記憶がなく親族がめんどくさくない子供希望です。小さすぎてもすぐ体調を崩しそうなんである程度育った健康な子供がいいです」
「うむ!」
既婚5人の子持ちと下手な嘘宣告されたのにもかかわらず意気揚々と帰還の途に就いている坊ちゃんの背中を見ながら部下の男達は話し合う。
「やはり魔女は魔女だな」
「な~」
「幼子をみすみす渡すことは出来まい」
「俺ら魔女のこと何も知らないですもんね」
「怒らせたらどうします?」
「そこは坊ちゃんに」
「うん……坊ちゃんならまあ死にはしないだろう」
「ですね」
「俺、坊ちゃんと魔女に先は無いって思ってたんですけどー」
「みんな思ってるぞ」
「――なんか、俺らが上位貴族の娘さんもらうよりかはありえそうじゃないですか?」
ややあって、男達は心の奥底からの同意、「あ゛~」を発した。