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アホの子乙女とアホの子坊ちゃんの直球な恋のお話  作者: コーラルピンクフォレストグリーン
10/14

10 確実に勝てるカードだったはず

 






 すぐ隣で謎の麻袋から生まれてはいけないモノ(機械の手)が生まれ飛び出そうとしているのにマリネ少年は空のことしか目に入っていないようだった。



「先日は助かった!」


「お元気そうで良かったです」


「うむ! 魔女殿は優しいのだな!」


「お仲間さんもお元気ですか?」


「とても元気だ! 魔女殿も息災そうでなによりだ!」



 確かに彼らは門の外で座り込んでだらだらしているので元気なのだろう。



「魔女殿の助言のおかげで我々は無事だったのだ! さすが魔女殿だ!」


「無事でよかったです」


「うむ! 結界にはじかれた奴らは魔の森に詳しいという触れ込みで近付いて来てな。それならばと道案内に雇ったのだがわざと迷わされていたようだ! それにしても魔女殿の結界は素晴らしいな!」


「わざとですか。怖いですね」


「紹介者も身元のはっきりした者だったのだが、悲しいことにそれも他家が我が家を追い落とさんが為の仕込みであり……」



 空はここまで聞いて外の人間とは出来るだけ関わるまいと心に決めた。

 そして部下の男は好意を詰め込んだ褒め言葉を悉く流される上司(坊ちゃん)を不憫に思っていた。本人が全く気付いていないのがより同情を誘う。



「そ、それでな……」



 急にもじもじとし始めたマリネ少年に部下の男が生暖かい目を向けているのが空は少し気になったが、これが馬鹿な子ほど可愛いってやつなのか、で済ませていた。失礼な女である。



 空の失礼な脳内を知ることなくマリネ少年は話を続ける。



「この間説明したが、本来の目的である魔の森の調査、その調査報告として魔女殿の存在をどう扱うか父にまず相談したのだが――」



 マリネ少年の父は軍務長官という地位に就いており、そもそもイルマリネン家は代々後継ぎが軍務長官を務めることが半ば慣例のようになっている。その為それを良く思わない政敵に狙われていた。

 マリネ少年の生国、テッレルヴォは貴族階級は同じ階級でもその中で順位がつけられており、栄華を極めるには順位を上げることが不可欠であった。



「父が是非とも魔女殿に挨拶をしたいと! 本来はこちらから出向くべきところだが事情があり父は自由に出歩けないのだ。それで我が家に来てもらうことになってしまうのだが……。わ、我が家の力があれば魔女殿を安全な場所で保護できるのだぞ! 実は私は豪華なドレスもすぐに用意できるのだ! 宝石の方が好きか!? それに一緒に暮らせば魔法などいくらでも見せてやれるしな! すごいだろう! 楽しそうだろう!」



 実際マリネ少年は『魔の森』なんて危ない場所に派遣される身分の人間ではなかったのだが、ラック(luck)のレベルが突き抜け過ぎている息子を遣わした方が安全に成果を挙げられるとの軍務長官自らの判断だった。だが高度な結界魔法という想像以上の大物を釣り上げて帰って来た息子のことを上官ではなく父親として、うちの子どこまでいくの心配、と妻に漏らしていた。



 幸運の申し子マリネ少年は魔女殿は喜ぶだろうと、普段接する女性、育って来た環境から疑ってもいなかった。

 だがしかし空は現代日本価値観ですくすく育って来たたくましい外見詐欺な日本人形である。



「人と関わるつもりはないので断りたいです。断れますか? 無理矢理言うことを聞かせますか? 無理矢理何かしようとするなら二度と来ないでください」


「…………え」



 思いもよらぬ返答にマリネ少年は驚いた。そして前半の言葉を『二度と来ないでください』ですべて上書きしてしまったため頭が真っ白になってしまった。そこで部下の男は助け舟を出す。



「坊ちゃん、権力とお金で口説くやり方は失敗みたいですよ」


「なっ、く、口説いてなんかいない!」


「魔女殿のこと好きなんでしょ? 違うやり方で攻めないと」


「何を言うか!?」


「あ、そーゆーのいらないです。じゃあ眉目秀麗と名高いお兄様方に知らない間にとられてもいいんですねそうなんですねわかりました」


「良くない!!」


「ではもう少しお互いを知って魔女殿の好みを探りましょう」


「お互いを知る……」



 なお、この会話は魔女殿こと、空には筒抜けである。空の目の前で作戦会議を始めているのだから。



 なぜなら、新人の部下の男はさっさと振られた方が傷は浅くすみ坊ちゃんにとっても幸せだと考えていたからだ。



 彼らのような兵士は誰の下に付くかで人生が大きく変わる。普段は軽口をたたいているが坊ちゃんのような男になら命を預けても良い。が、なにせ政争には向いていない。坊ちゃんは間違いなく向いていない。

 そこを奥方の身分と能力で地位を盤石にして坊ちゃんには更に出世してもらったほうが部下としては助かるのだ。自分達だけではなく他の兵士、国の為でもある。



 それに正体も不確かな魔女を相手に恋をするなど頭がおかしくなったと思われても仕方がない。

 2人に先はない。



「――うむ。お互いを良く知る大切さ……」



 そんな部下の心知らず――空の失礼な脳内も知らず――マリネ少年は意を決した顔で空に質問した。



「魔女殿の好きな食べ物は何だろうか!」



 会話が弾まないこと請け合いな質問だった。空が好きな食べ物を答えたところでこの少年に通じることはないだろうから。



「ハハッ! ナンダイその質問ハ! ツマラナイ質問だネ! ハハッ! 子供デモもっとマシなコト言うヨ! ハハッ!」


「え」

「なっ!?」

「は?」



 突如会話のメンバーが増えた。



 そう、麻袋生命体ロボッティもAIなりにマスター空の幸せを考えていたのであった。

 対象によっては心を的確にえぐる辛辣過ぎるロボットではあるが。







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