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異世界の叔父のところに就職します  作者: まはぷる
第七章
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ただ今、絶賛彷徨中です 1

 落下先の空洞は、これまでに比べてもより深い場所に位置しているようで、光源がないと足元すら見えない有様だった。

 頭上に空いた崩落後の大穴からはわずかばかりの光が漏れているが、30メートルも離れていると深夜の部屋での豆電球の灯りに等しい。


 あの穴の上まで戻れるとよかったのだが、拙い精霊魔法をどんなに駆使しても、まともな足場もなくこの距離を跳べるわけがない。


「はぁ……」


 頭上を仰ぐも、もう溜め息しか出なかった。


 この分では、最初に墜落した階層よりも確実に下層にいる。

 3日間をかけて費やした行程が、一瞬でふいになったわけだ。

 無慈悲な『ふりだしにもどる』どころかマイナスなので、ふりだしに戻ってさらに1回休み的な。


 泣く泣く上層へ戻ることは諦めて、横穴を進むこと1時間ほど。

 幸いにして脅威となる生物と出会うことこそなかったものの、事態は逼迫している。


 まずは魔法石関連。

 洞窟の深度によるものなのか、どうやらここいら一帯は魔素に乏しいらしく、魔法石の魔力がほとんど回復する兆しを見せなかった。


 地竜との戦闘で消費した炎の魔法石、特に炎のレイピアは魔力を多く消費する。

 魔石に蓄積された魔力は、ガラス瓶に入った液体のように外見で判別できるのだが、普段なら分単位で溜まっていく魔力が、先ほどからまったく量が変わっていない。

 この分では、通常の炎の壁1回分もあるかないか、といったところだ。

 下層に落ちてから、寒さも次第に増してきた。攻撃手段よりも、いざというときに暖を取るための炎を出せないことが厳しい。


 身体強化の魔石の魔力も、常時発動型だけあって目減りする一方だ。

 普段は使用量と回復量が拮抗しているため、減っているところを見たことはなかったのだが、ここにきて残量が3割を切っている。

 これだけの長丁場だけに、地味にというか堅実に行動をサポートしてくれていたはずだが、それが失われるのはぞっとしない。


 さらには、スマホの充電がついに20%を割り込んだ。

 ここには光源がないだけに、移動にライト機能を多用しているせいもある。

 これでスマホの電源が切れでもすれば、ここからの生還など絶望的だろう。お先ともども真っ暗闇というわけだ。


 さらのさらには地竜との戦闘のどさくさで、食料の入った保温バッグのひとつを失っていた。

 あの凶悪なブレスの余波が掠っていたらしく、保温バッグの肩かけの留め具から先がきれいさっぱり無くなっていた。

 痛恨なのは、節約して中身の食料を丸々残していたほうがやられたことだ。残るは、もうひとつのバッグに1/4ばかりの食料。2食分あるかどうか。


 武器もなければ食料もない。光源すら怪しい。まったく、ないものばかりで笑えてくる。

 これまで自分では運がいいほうだと思っていたのだが、これまでの不運のツケがまとめて押し寄せてきたようだった。


 いっそ諦めようかとの馬鹿な思いも浮かんだが、どう考えてもそちらのほうが楽とは思えない。


 暗闇の中でじっとする? ――そんな恐怖は耐えられない。まっぴらごめんだ。

 飢え死にを待つ? ――極限の飢えとは想像を絶して辛いと聞く。とても無理だろう。

 捕食される? ――生きながら喰われるなど、それこそ冗談ではない。


 だから、一番楽をするために必死で前に進むことにした。

 矛盾している気もするが、楽になるために今は苦労しよう。


 もう上りか下りかもわからない道を、光度を最低限まで下げたスマホの明かりを頼りに突き進む。


 途中で何度か小型の生物とのすれ違いはあったが、大型生物との遭遇はついぞなかった。

 幸運というより、ここはそういう場所なのかもしれない。かなり寒いので、変温動物の爬虫類系は活動しにくいだろうし、それを獲物とする生き物も少ない、そんなところだろう。


 ただ、人間にとっても長居できる場所ではないのはたしか。まともに暖も取れない状況では、そのうち動けなくなってしまう。

 その前に、なにかしら上層へ戻る手段なり道なりを見つけないと、本気でヤバい。


 かじかむ手を擦り合わせ、時にはほんの少し炎の魔法石に頼りながらも先へ先へと進んでいくと、不思議な空間に出た。


 天井から光の筋が、一点に向けて一直線に降り注いでいる。

 外界からの日光だ。あまりの久しぶりの光に、拡張していた瞳孔が急激に収縮したのか、眩しいよりも痛いくらいだった。


 灯りに誘われる虫の気分で、ふらつく足取りで転びそうになりながらも、光に照らされる地点へと駆け寄ってみた。


「なんだ、これ……卵? やけにでっかいけど……」


 そこには、バスケットボール大くらいの楕円形の卵が据えられていた。

 天井を見上げると、分厚い岩盤を貫いて亀裂による穴が開いており、それが遥か地上まで続いているようだった。

 残念ながら、穴は人が通り抜けられるほど大きくなく、ここから脱出できる見込みはなさそうだ。


 おそらく亀裂は天然のもので、差し込む日光の温暖を利用する形で、卵を暖めて孵化させようとしているのだろう。

 親がなにかは知らないが、野生本能の知恵といったところか。


 ともかく、これはありがたい。


 卵から一時的に席を譲ってもらい、日光の下に身をさらした。

 冷えた身体に日の暖かみがじんわりと染み入る。


 スマホにソーラー充電器をセットすると、残りの充電量が5%を割っていた。危ないところだった。

 充電マークが表示されたのを確認してから、彼方の小さな空を見上げて大の字で横になった。


 卵の表面が温かかったので、試しに抱きしめてみるとこれが意外に気持ちいい。

 幼き頃に祖父母宅で使った湯たんぽを思い出した。

 ちょっと休憩のつもりで寝そべっていたが……いつしか意識は闇に溶け込んでいった。


文体を完全な一人称に変えています。


過去投稿分も、順次書き直す予定です。(第二章までは済)

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