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異世界の叔父のところに就職します  作者: まはぷる
第六章
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お披露目、疾風丸 1

 俺たちが家に戻ると、リィズさんとリオちゃんが出迎えてくれた。


 朝の早いうちに実家を出たが、なんだかんだでもう昼をとっくに回っている。

 街に行くのは明日とし、今日は家でのんびりとすることになった。


 俺が異世界に来てから1ヵ月余り過ごした家だが、叔父の昔語りを聞いたあとでは、どうにも特別に思えてくる。


 平屋でもしっかりとした造りで、外装も内装も立派なもの。

 5人で住んでも充分な広さと部屋数があり、隣接された多用途の小屋をはじめ、整地された田畑まで完備と、一戸建てとしては申し分ない。

 これが当初はただのボロい掘っ立て小屋だったというのだから、叔父の腕前はやはり卓越したものと言わざるを得ないだろう。


 その叔父はさっそくバギーを改造するらしく、ホームセンターで購入してあった工具を持って、さっさと裏庭のほうに行ってしまった。


 俺と春香は、とりあえずリィズさんがおやつを用意してくれていたので、居間でティータイムと相成った。


 部屋に入ると、すでにお茶の芳醇な香りと、焼き菓子の甘い匂いが立ち昇っていた。

 いつもながらの家事の匠っぷりは健在らしい。

 これで、以前は家事がまったくダメだったとは信じ難いことだ。

 どれほどの修業を積んだのか興味は湧くが、直球で聞くと(叔父が)怒られそうなので、やめておく。


「準備ができましたから、席に着いてくださいね」


 リィズさんがトレイにティーポットとお菓子を載せて、キッチンから顔を覗かせた。


 俺は定位置となったいつもの席に着き、春香がその隣に腰を下ろした。

 リオちゃんは俺が椅子に座ったのを見計らい、即座にその膝の上に乗っかってきた。


「あー、いいなー、にいちゃん。ぶうぶう。リオちゃん、おねーちゃんの膝も空いてるよ?」


「きょうは、にーたんなきぶんー」


 足をぶらぶらとして、リオちゃんはご機嫌だ。


「えー、残念」


 対して春香はご不満だ。

 テーブルに突っ伏して、じと目でこちらを睨んでいる。


 テーブルの下で脛を蹴られた。

 地味に痛い。


 テーブルの上では、妹と従姉妹がにこやかにじゃれあっている。

 そんな微笑ましい様子を眺めていると――ふとテーブルの上に1枚の紙が放置されているのに気づいた。

 紙はきれいに折り畳まれている。


(手紙……書置き?)


 何気なく手を伸ばすと、指先が触れる寸前にものすごい勢いで手紙がかっさらわれた。


 リィズさんだった。

 ティーセットの載ったトレイを片手で器用に支え、もう片方の手はスカートのポケットに捻じ込まれている。


 リィズさんは「なにか?」とばかりに、にこやかな表情を崩さない。

 無言の威圧感のようなものを感じたので、追及はしないことにした。


 平然とカップやお皿を並べはじめたリィズさんを横目に、部屋の片隅を見やると、大きめの旅行カバンが置かれていた。

 半分ほど開いて中身が半端に見えており、まるで荷造りしたものを慌てて荷解きしたような、そんな感じだ。


 カバンを見つめていると、その視線に気づいたリオちゃんが、


「ままー。『いざというときのかくご』って、もういいのー?」


 唐突に切り出した。


「それは大丈夫よ、リオ」


 やはり、にこやかなリィズさん。


 どうやら、急いで今日帰ってきてよかったみたいだね、叔父さん。

 一家離散の危機は回避されたみたいだよ?


 さすがは夫婦だけに、叔父の予想は当たっていたようだ。

 その叔父はというと、いろいろと楽しく悪戦苦闘しているらしく、裏手のほうから爆発音や「わははー」という笑い声が時折聞こえてきている。

 なにやってんだか。


 4人でテーブルを囲み、賑やかなお茶の時間を過ごしていると、やがて叔父が足音を響かせて戻ってきた。


「できたぞ、秋人! 来い来い、さっそく試運転だ!」


 叔父を先頭に、5人ぞろぞろと裏庭に移動する。


「轢殺号のお披露目だ!」


 バックにファンファーレが鳴ってそうな勢いで4輪バギー、もとい轢殺号を紹介された。


「いやいや。だから、なんで『殺』を付けたがるのさ?」


「かっこいいからだ! はっはっ!」


 叔父は本気だった。


 上機嫌の叔父に隠れるように、春香がしゃがみ込んで隣のリオちゃんに耳打ちしている。

 リオちゃんはふんふんと頷いてから、発表でもするように手を挙げて言った。


「ぱぱー! りお、『しっぷうまる』って、おなまえがいいー」


「じゃあ、『轢殺号』改め、『疾風丸』ということで決まりな」


 叔父はあっさりと意見を翻した。


(でかした、春香!)


 こっそりと親指を立てると、春香も返してきた。

 以心伝心、よくできた妹ではある。


 難を逃れて安心したところで、あらためて疾風丸を観察した。


 バイクのようなハンドルに、オフロードタイヤを装着した4輪バギー。

 そこは変わらないが、ボディーの部分がかなりスリムに見える。


 なんというか……いろいろとなくなって、風通しがよくなったような。


「いやあ。電動だから、雷系の魔法石で充電できるかと思ったんだけどよ。バッテリーが破裂してモーターがショートしちまったんで、いっそ全部、取っ払ってみた!」


 なるほど、どうりでフレームの内部にあるべきものがない、スケルトン仕様なわけだ。

 軽量化は素晴らしいが、駆動部がなくなるのは、乗り物として如何なものだろう。


 そんな俺の不安も、続いた叔父の一言で払拭された。


「んで、代わりの動力に、風の魔法石を2個ほど取りつけてみた」


(おおおー!)


 胸中で喝采する。


 なんと現代文明と魔法のコラボ! さすがは異世界、素晴らしい!


 にわかにテンションが上がってきた。


 叔父に促されて、さっそく疾風丸に跨ってみる。

 バギーは初体験だったが、サイズがさほど大きくないので、座り心地は原付スクーターに近い。

 ただ4輪だけあって、2輪に比べてバランスがかなり安定しているように思える。


 具合を確かめていると、当然とばかりに春香が座席の後部に腰掛けてきた。


「…………」


「どったの、にいちゃん?」


「別に」


 なにか言っても結果は変わらなさそうだったので、早々に諦めた。



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◇こちらもどうぞよろしく!◇
手違いでスライムとして異世界召喚された訳ですが
お気軽?スライムライフのはじまりです

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