叔父は異世界の勇者で〇〇でした 2
「ずいぶん駆けつけるのが早かったね。こっちはそれのおかげで助かったけど」
「なに、姪っ子捜しをしてるときに、魔族の不穏な動向を掴んでな、先んじて――ん?」
言いかけた叔父がふと首を捻る。
「……叔父さん?」
「んんん~、なーんか、こう……なんだろうな、これ? なにか引っかかるような、もどかしいような……なあ?」
「ごめん。全然わかんない」
「だろうな。俺もよくわからん。まあいいか、ははっ!」
こんな状況でも、叔父はマイペースだった。
「それにしても、すごい格好だね、それ」
叔父の装備がどうしても目を引く。
青く輝くメタリック系の全身鎧はまだしも、肩に担いでいるのは巨大な鉄塊とくる。
武器と呼ぶのも憚られそうな、長さ2メートル、幅1メートルほどもありそうな巨大な鉈だった。
「だろ? 俺の相棒、惨殺丸だ」
うわぁ。勇者の武器にあるまじき名称だった。
まあ、たしかに伝説の剣とかいうよりは、見た目でしっくりくるかもしれない。
「さて。お喋りはこれくらいにして――」
叔父が振り向きざま、惨殺丸を真一文字に振り抜く。
ただそれだけで、いつの間にか詰めかけてきていたレッドグリズリー3体の首が宙を舞った。
「人の甥っ子に手出しした礼をしてやらんとなあ!」
叔父は大鉈を振った勢いそのままに、門の前に殺到する敵集団に単身で突貫した。
瞬く間に斬り裂かれた魔物や魔獣の死骸が正門広場に撒き散らされる。
叔父の勢いは留まらず、なおも加速して敵の大群に突き刺さる楔となった。
「いくら叔父さんでも、あの数じゃあ!」
「問題ない」
冷静に断じたのは、ローブ姿の男だった。
「そなたとは以前にも会ったな。その節はろくに挨拶もせず失敬した。わたしはラスクラウドゥ。そなたはセージの血族だな?」
なんか大層に呼ばれた。
「血族……そ、そうなりますね。征司の甥で、秋人です」
「ふむ」
「「…………」」
会話が終了した。
ふたりで肩を並べて、叔父の突き進む様を無言で眺める。
「わははー」と呑気な笑い声が遠ざかり、敵の大群がモーゼのごとく割れていくのが見えた。
「いやいや、ではなくてですね!」
「ふむ?」
「いくら叔父が強くても、あれだけの多勢に無勢なんですから危ないかもしれないじゃないですか!? 魔法だって使ってくるんですし、遠距離から攻撃でもされたら!」
「だから問題ないと言っている」
あくまでも断じる。
ラスクラウドゥさんは無表情のまま、もうかなり距離の離れつつある叔父を指差した。
「セージの剣技は螺旋。破壊を生みだす嵐だ。セージの膂力にあの超重量の得物、さらには遠心力も加わり、止まらない螺旋の中で一撃ごとに威力を増していく攻撃に、耐えうる生物はいるまいよ」
たしかに、そう言われてみると叔父の動きには終わりがない。攻撃の始点と終点が連続している。
横薙ぎから反転して袈裟懸け、独楽のように回って斬り上げ、次いで勢いのままに唐竹割りと、縦横無尽の斬撃が周囲の敵を襲う。まさに螺旋の動きだ。
もっとも脅威なのは、それを継続できるスタミナだろう。
余裕の笑い声は、いまだに聞こえてきている。
「それにセージに魔法はほぼ通用しない。見ろ」
叔父のそばで、ぱっとなにかが光った。
近くにいた魔族が魔法攻撃を仕掛けたのかもしれないが、次の瞬間には斬撃の餌食となっていた。
「セージは複数の防御専用の魔法石を用いている。セージは並列思考の持ち主でな。その類い稀な動体視力を以って、相手の魔法を見極めた上で瞬時にその系統を判別し、同属性の魔法壁・反属性の魔法壁・通常の魔法壁と最低3つの防御魔法を同時展開する。いかに強力な魔法でも、それだけの魔法壁の突破は容易ではない」
「それって、並列魔法……ですか?」
喉がごくりと鳴るのを感じる。
「5つくらいまでは使えるそうだ。魔法の判別と攻撃も同時に行なっているから、限界は知れんがな」
頭がくらくらする思いだった。
向こうで警備兵に介抱されているデジーを見る。
たったふたつの並列魔法を数回使ってあの消耗具合だ。きっと、ああなってしまうのが普通なのだろう。
しかもそれすらデジーという幼き天才だからこそ出来たことで、凡人には不可能に違いない。叔父がどれだけ規格外なのかということになる。
「遠距離戦では通じず、近接戦では無双。まったく、アレに勝てるとは到底思えん」
ラスクラウドゥさんは叔父を遠くに眺めながら、感慨深げに呟いていた。