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異世界の叔父のところに就職します  作者: まはぷる
第三章
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出会えないふたり 1

「あー、なんかもやもやする」


 俺は店のカウンターに突っ伏して、呻いていた。

 もう何度同じ台詞を繰り返しているかは、俺自身も覚えていない。


「テンション低いっすねー」


 そう返すナツメも何度目だろう。


 昨日までずっと崩れ気味だった天候は回復し、今日の表は眩いほどの快晴。ガラス窓から差し込む日差しも明るい。

 外では雨で鬱憤の溜まってた近所の子供たちが、元気よく遊んでいる姿も見える。


 なのに、店内の雰囲気はどんよりと暗い。


「もうそれ、さっきからなんなんすか。朝からギルドに挨拶に行ったんすよね? あそこの爺さまにイジられでもしたっすか? なにかやっちゃったとか?」


「問題なかったと、思う」


 結局、叔父との話し合いの末――シラキ屋の所属ギルドは、最古参で無難な商人ギルドにしておいた。

 正式な書類も揃えて、今朝方提出して受理されてきたところだ。


 商人ギルドのギルド長は、事前情報の通りにたしかに見た目が変わっていて、かなりの高齢なのにサングラスにアロハシャツ姿で、長い白髭を三つ編みにしているファンキーな人だった。

 初対面なのに、なんでか『ブラザー』とか呼ばれて肩を組まれた。


 別のギルドに変えようかな、とも思わなくもなかったが、すでに書類が受理されたあとだったので諦めた。


「だったら、売り上げが落ち込んでいるとかっすか?」


「いいや、それなりだとは思う」


 収益が上がってないということはない。

 当初の思惑通り、利益率は低くても購入しやすく用途も広い素材を用意したことで固定客も付いてきたし、日々安定した売り上げを得ている。


 一番利益率が高いのは、叔父が獲ってくる魔法具素材だが、こちらはなにぶん希少素材だけに高価で買い手を選ぶ。

 最もお得意様は、デジーの『ガトー魔法具店』だが、それでも特別な魔法具の作成依頼が来たときだけ、ひとつふたつ購入していくくらいだ。

 実のところ、売り上げに占める割合としてはまだまだ低い。


 ここいらでそろそろ、少し専門的な素材でも仕入れて、店舗としての質向上を目指したいところではあるが――


「あー、なんかもやもやする」


 今はどうにもやる気が起きない。


「まだ言うっすか……だったら、自分が最近仕入れたナツメ情報の中でもひとつ――取って置きをお聞かせするっす! 名付けて、『怪異、彷徨う呪いの鎧』!」


「……うん?」


 安っぽいネーミングにちょっと興味を引かれたので顔を上げ、聞くだけ聞いてみることにした。


「深夜、家路を急ぐ女性は見た! 血まみれの獣を引きずる甲冑の亡霊が――」


 叔父のことだった。

 やっぱり都市伝説になっていた。


「ああ~、もやもやする」


 再び頭をカウンターに落とす。


「……重症すねー。ダメ、お手上げっす」


 言葉通り、ナツメが両手を挙げた。


 俺自身、このもやもや感の原因はわかっている。妹の春香のことだ。


 あれから叔父一家は、親身になって対応してくれている。

 叔父は勇者として培った伝手を惜しみなく使った上で、叔父自らもほうぼうを駆けずり回っていると聞く。


 リィズさんは家の周辺を中心に捜してくれている。

 獣人族は鼻が利くため、捜索には適していた。先日からの雨がなければ、まだ効果は出ていただろう。


 あのリオちゃんですら、あの異世界と日本を繋ぐ森を連日捜し歩いてくれているそうだ。


 では、俺は――? となったとき、無力さを痛感するしかない。


 当事者の俺と春香は実の兄妹、しかも今回のことは半分以上は俺の失態でもある。

 そんな事態の中心にいながら、事実上は戦力外通告だ。

 土地勘もない、特別な能力もない、足手まといも自覚しているため、こうして店番をして燻っているしかない。


 普段通りに店に出るよう勧めてくれたのは、叔父の優しさだろう。

 なんだかんだふざけることはあるが、叔父はあれでいて人の心の機微には聡い。

 それはこれまでの触れ合いで感じている。


 俺に必要以上に責任を感じさせないためなのだろう。帰宅して夜に顔を合わせると、叔父はいつも通り飄々としていたが、たった1日で靴底を磨り減らしていたのも知っている。


 合理的に考えると、捜索は叔父たちに任せたほうが確実だ。

 ならば俺はその間、一家の生活基盤を守る役目に専念したほうがいい。

 心情的には別としても、現実的にはそれは理解できる。理解できるのだが――


「あー、なんかもやもやする!」


 となるわけだ。


 連日、実家に探りを入れたがやはり妹は帰っておらず、スマホの位置情報も変わらずだ。

 これで妹がこちらに来てしまっているのは、ほぼ確定した。


 危険な目に遭ってないか、泣いてないかと心配になる。

 記憶に残る妹の最後の姿は、まだあどけなさが残る高校に上がったばかりの頃だ。

 それ以降、実物は目にしていない。


 どうしたものか。待つだけの身も辛い。

 情けないことに、無意味な溜め息ばかり出る。



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お気軽?スライムライフのはじまりです

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