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異世界の叔父のところに就職します  作者: まはぷる
第十二章
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悪魔からの招待状 2

 いったん叔父たちと別れ、カルディナへと進路を取った俺は、その足でデジーのいるガトー魔法具店へと向かうことにした。


 本当は、シラキ屋でひとり店番を任せているフェブに戻った報告だけでもしたかったところだが、ただでも今は状況が状況。

 最近はなにかと店を留守にしがちで、フェブに頼り切りなのは心苦しかったけども、カードの正体を探ることが先決のため、シラキ屋に戻るのは後回しとするしかない。


 シラキ屋へ続く大通りから脇道に逸れ、少し行ったところからさらに小道に入った通りに目的の店はある。

 この通りは主に工芸品を取り扱う店が多い区画だが、その中で一種独特の風采を放っているのが、デジーが住み込みで働いているガトー魔法具店だった。


 一見すると、魔法具店というよりは、”魔法使いの庵”といった趣がある。

 少なくとも、一見さんが足を踏み入れるのを躊躇するほどには怪しい雰囲気満載だ。

 師弟共に形から入るのを信条としているため、自然とこんな店構えとなったのだろうが……商店としてそれはどうかと思わなくもない。


 おどろおどろしい扉を開けると、薄暗い店内に立ち込めたお香らしき紫色の煙が、むわっと溢れ出てきた。


「デジー、いるかな?」


 眼前の煙を払い除けながら、店内に足を踏み入れる。

 例のごとく店奥のカウンターに座っているであろう、デジーに声をかけた。


「ちょっとした依頼があってきたんだけど」


「依頼ってなに?」


「おおぅ!?」


 予想に反して真横から声がしたので、思わず変な声を出して反対側に飛び退いていた。

 危うくそこに立ててあった奇妙なポールを倒しそうになったが、そこは上手いことシルフィが対処してくれた。


 店の暗がりからぬっと姿を現わしたのは、もはや見慣れたとんがり帽に黒ローブ姿のデジーだった。


「……心臓に悪いから、驚かすのはやめてくれるとありがたいんだけど」


「そんなつもりはない。単に陳列棚の掃除をしていただけ」


 平常通りの無愛想な表情で、デジーは淡々と言う。

 確かにいつもの節くれ立った杖ではなく、手にはハタキを持っていた。


「あ、そうなんだ。ごめん」


「窓からアキトが見えたから、隅に隠れてはいたけれど」


「……それって驚かす気満々だったってことだよね?」


 謝って損した。


「それで、依頼ってなに?」


 悪びれたふうもないのは、さすがデジーといったところか。

 って、今はそんなことを言っている場合でもなかった。


「鑑定を依頼したいんだけど……これなんだけどね」


 封筒に入れていたカードを取り出して、デジーに見せる。


「……メッセージカード?」


「みたいなものかな? よくわからないけど。それを調べてもらおうと思って持ってきたんだけどね。元は魔族の持ち物で――」


 言い終わる前に、カードはデジーに奪取された。


「ふんふん。うん、確かに魔力の残滓を感じる」


 デジーはカードをくんかくんか匂ってから、そう断言した。


 匂いでわかるものなのか不明だったが、専門家である魔法具技師がそういうのだから、きっとそうなのだろう。

 門外漢が口を出すものではない。


「おそらく、特定の魔法系統に反応して文字が浮かび上がるタイプ。どんな系統までかは、今すぐには判別できないけど」


「特定の魔法系統……」


 そう聞いて、閃くものがあった。

 こんなものをわざわざ贈ってくるのだ、贈り主に内容がわからないようにしているはずがない。

 となると、該当するものはひとつだけ。


 リシェラルクトゥは俺が常に精霊と共にいる事を知っているはず。

 ならば。


「シルフィ、頼めるかな?」


 頼みに応じて、風精霊のシルフィが舞い踊る。

 シルフィがカードをくるりと一周すると、その表面に淡い光の文字が浮かび上がった。


「街の南東、一本杉の下」


 一緒にカードを覗き込んでいたデジーが淡々と読み上げる。


 俺も何度か確認したが、カードにはそれしか書かれていなかった。


 その場所というと――あれだ。

 以前のたまごろー騒動のとき、竜人やドワーフと待ち合わせて、酒盛りをした場所になる。


 罠ということも今更ないだろう。

 こんな手の込んだことをして、わざわざ俺を罠にかける意味がない。


「ここで考えても仕方ないか……行ってみるかな」


 文面から受ける印象としては、まるでゲームのイベント開始フラグのようだった。

 なにせ、遊戯好きのリシェラルクトゥだ。

 これからお使いイベントが始まったとしても不思議はない。


 どちらにせよ、危惧はあるものの、実際に行ってみないことに始まらないだろう。


「待って、アキト。わたしも行く」


 そそくさとデジーが店の奥へ引っ込み、いつもの杖を持って戻ってきた。


「でも、店はどうするの?」


「こうする」


 デジーが何事か念じて杖の先で床を叩くと、窓の戸が閉まり、壁のランタンの灯りがいっせいに落ちた。

 ただでも薄暗かった店内が真っ暗になる。


 店の外に出ると、ドアにかけられた開店札が、ご丁寧に閉店札に代わっていた。

 デジーの服装同様、こんなところにも魔法具店ならではの拘りがあるらしい。


「じゃあ、行こっか?」


「実に興味深い。楽しみ」


 気の重いこちらに対して、デジーは言葉通りに実に楽しそうだ。

 魔法大好きっ子のデジーのこと、仕方ないかもしれないが。


 あの魔族襲撃以来の久々のコンビで、俺たちふたりは、一本杉へ向かうことになった。


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