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異世界の叔父のところに就職します  作者: まはぷる
第十一章
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獣人の郷 2

(叔父さんたちは……)


 余裕が出たのでふたりのほうに目を向けると、あちらも既に終わっていた。

 当然かもしれないが、叔父とリィズさんに怪我らしきものはなく、襲ってきた獣人たちと何事かをにこやかに話している。


 ただ、ひとりだけ。

 男性と思しき獣人のひとりが、叔父の傍で頭から地面に突き刺さって呻いていた。


「てめぇ、セージ! 俺だけ扱いが酷くねえか!?」


 その獣人がどうにか頭を引き抜いて、叔父に食ってかかっている。

 鼻先の長い、狼のような顔をした獣人だ。いかにも硬そうな剛毛は全体的に青っぽい。その強靭そうな肉体と相まって、実にワイルドな風体をしている。


「馬鹿抜かせ。てめーは毎度毎度、懲りずに本気で殺りにきやがって……躊躇なく急所狙ってくるような輩に、手加減なんかするかよ」


 そう毒づきつつも、叔父の表情は穏やかだ。

 以前に実家で見た、旧友と再会したときの雰囲気によく似ている。

 きっとふたりは旧知の仲なのだろう。


 その狼の男獣人と、俺に襲いかかった豹の女獣人を残して、他の獣人たちは立ち去ってしまった。

 残ったふたりが案内役ということらしい。


「よっ。あんた、新顔だな。俺は青狼族のラッシ。セージとは親友で宿命のライバルの間柄だ」


「いつから宿命のライバルになった?」


「あたいは森豹族のリムね。セージの昔の愛人よん」


「誰がだ……おめーらは相変わらず軽いなあ、今更だけどよ。秋人、こいつらは昔リィズの所属していた部隊の連中でな。俺とも10年来の付き合いになる。んで、こっちが俺の甥の秋人だ」


「秋人です。よろしくお願いします」


 頭を下げて挨拶すると、ラッシさんの眼の色が変わった。


「ほお~、セージの血縁ねえ! ってこたー、あんちゃんもヤルほうかい?」


 狼だけに鋭く大きな牙を剥き、楽しげに手の平に拳を打ちつけている。


「ええ、あたいの見立てじゃあ、かなりヤルと見たね。このあたいの攻撃がかすりもしなかったし!」


 今度はリムさんが自信たっぷりに断言した。


「いえいえ! 俺自身は非力ですから!」


 怪しげな雲行きに、即座に両手と首を振って否定する。


(実際に攻撃を避けれたのはシルフィのおかげだし!)


 この場でシルフィが見える者がいないだけに、簡単には説明のしようがない。

 強さを身上とする獣人の集う郷で、実力が過大評価されるなんてもってのほかだ。

 知らないところであらぬ噂がひとり歩きでもしたら、大いに困る。


 腕試しなんて挑まれたら、どーすんの……碌なことにならない気配だけはひしひしとする。


「お嬢ちゃんも久しぶりだねー。リオちゃんだったね。おねーさんを覚えてる?」


「うん。えろかっこいいおねーたん!」


「そうそう。エロかっこいいお姉さんだよー」


 リオちゃんの返事に、リムさんは満足そうに頭を撫でていた。


 子供になにを教えてるんですか、あんたは。


「お? 嬢ちゃん、いいもん持ってんな! 気が利くな、セージ。土産か? よく育ってて美味そうだ」


 リオちゃんの抱えるたまごろーを凝視して、ラッシさんが涎を拭いていた。


 好かれてるね、たまごろー。でも、やめてあげて。


「隊長も1年ぶり、おひさ!」


 次にリムさんは、豹というより兎のように飛び跳ねながら、リィズさんのもとに移動していた。

 なんとも人懐こくて落ち着きのない人――もとい、獣人ではある。

 最初に襲い掛かってきたときの緊迫感はなんだったのだろうと、首を捻りたくなったり。


「おひさしぶりです。ですけど、いい加減に隊長はやめてくださいね」


 リィズさんは若干困り顔だ。

 でも、決して嫌がっているふうではない。


「えー。いいでしょ別に。それよりもさ、最近どう? 毎晩ヤッてる? にしし」


「なにをですか。というこのやり取りも相変わらずですね。おふたりともお元気そうで」


「おおよ。ま、最近は実戦もご無沙汰だし、俺たちも子孫繁栄くらいしか楽しみねーけどな」


 ラッシさんが軽口を叩いた途端、リムさんから後頭部を引っ叩かれていた。


「え? 今、俺なんで叩かれたの? おんなじ下ネタの流れだったろ? むしろ、俺のほうが上品な表現だったはず――」


 問答無用で放たれたリムさんのハイキックが、ラッシさんの延髄に炸裂した。

 軸足から腰、腰から蹴り足の爪先までが真っ直ぐに伸びた、素晴らしい芸術的な蹴りだった。


「あんたが言うと必要以上にいやらしいの!」


「ひ、ひでえ……」


 ラッシさんはあえなく大地に沈んだ。


「おおぅ。おねーたん、つおいねー」


「そだよー。獣人の雌は強かじゃないとねー!」


 リムさんはリオちゃんを軽々と担ぎ上げ、頭上でプロペラのように旋回させた。


 リオちゃんは、声を上げてきゃっきゃとはしゃいでいる。


「この子もだいぶ大きくなったね~。そろそろ”成長期”になるんじゃない?」


「ええ、そろそろだとは思うんですけど……」


(……成長期?)


 第二次性徴期のこと? リオちゃんには年齢的にまだ早い気がするけど。


 放っておくといつまでも続きそうな状況に、叔父がぱんぱんと拍手を打った。


「おいおい、話し込むのは後でもいいだろ。まずは長老のところに案内してくれ」


「そうね。積もる話と腕試しは後にしましょ。ほら、なに呑気にいつまでも寝てんの?」


 リムさんが倒れているラッシさんの尻を無造作に蹴り上げていた。


「「「ひどすぎる」」」


 男性陣の呟きが一致した瞬間だった。


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