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異世界の叔父のところに就職します  作者: まはぷる
第九章
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勇者と御曹司 4

「こ、これはなんとしたことだ!?」


 別方向から声が上がり、新たな騎士が駆る馬が駆け込んできた。


 俺にも見覚えがある人物――確か、騎士団のもうひとりの副団長、マドルク・メイガーさんだ。

 マドルクさんは、累々と横たわる騎士団の仲間を見下ろし、馬上で絶句していた。


「見ての通りだ、マドルク殿。わしの不手際で、勇者殿の逆鱗に触れてこのざまだ」


 ダナンは肩をすくめて、力なく漏らした。


「ゆ、勇者? なぜ、そこで勇者が絡んでくる?」


 マドルクさんは下馬し、主のフェブの姿を見つけると、慌てて駆け寄っていた。


 まあ、戸惑うのも無理はないかもしれない。

 察するところ、言葉通りダナンの独断だったのだろう。


 地面の至るところに仲間の騎士が死屍累々(死んではないけど)。

 いきなり突きつけられた光景がこれでは。同情してしまう。


(……ん? なんだろ?)


 フェブに寄り添うマドルクさんを見て、なにか妙な感じがした。


「フェ――若、お気をしっかり! こうしてはいられません、一刻も早くガレシア村に向かいませんと――領民が魔族の手に! 我々で魔族を殲滅するのでしょう!?」


「無駄じゃよ。マドルク殿。わしが言うのもなんだが、主力の騎馬隊がこの有様。お主の指揮する歩兵だけでは戦力的に無理がある。怪我人も輸送せんとならんだろ」


「ダナン殿! 貴殿には申していない!」


 マドルクさんは必死の形相だ。

 フェブの両肩を掴み、懸命に説得を試みている。


「……ごめんなさい、マドルク。今回はボクの勇み足が過ぎたようです。ここは撤退しましょう。城に戻り、あらためてお祖父さまの指示を仰ぐことにします」


「そんな――それでは善良なガレシア村の人々が……!」


 マドルクさんの絶望の色が濃い。

 以前に見知っていたように、よほど騎士の義憤に厚い人らしい。


「――ちょっと待った」


 ふたりのやり取りに割って入ったのは叔父だった。


「取り込み中に悪いな。ガレシア村で騒動が起きていると言ったな?」


「え、ええ……そうですが……」


「だがな、そもそもそこが妙なんだよ。俺はここ数日で、そのガレシア村とやらに調査に行ってたんだが――村が魔族に襲われている事実なんてものはなかった。誰が最初にそれを言い出したんだ?」


「え?」


 叔父の台詞に、フェブはきょとんとしている。


(それは確か……)


 城で盗み聞いた話を思い出す。

 それじゃあ、おかしい。あの人も、直接現地に赴いて確認したと言っていたはずだ。


 意図せず、フェブと俺の視線が、同時にその人物に向いた。


「――馬鹿な! そんなはずあるまい!? いい加減なことを言うなっ!」


 その人物――マドルクさんが激昂していた。


 そんな姿を見ていて、俺はなんだか奇妙な感覚に捉われた。


(あれ、また……? なんだこれ、気持ち悪い。違和感というか……あ!)


 不意に、宿屋の双子の顔が脳裏に浮かんだ。


「叔父さん! その人、幻術の類を使ってる!」


 咄嗟に俺は叫んでしまっていた。


 妖精のそれとも少し違う、明確な違和感。

 妖精でなければ、それ以外なのだろう。となれば、少なくとも人ではない。

 精霊と通じた感覚が、脳裏に警戒信号を発していた。


 叔父が落ちていた槍を足の甲で跳ね上げて空中で掴み、そのままマドルクさんに向けて投擲する。


「ぐあっ!?」


 鋭利な穂先が、マドルクさんの肩口に深々と突き刺さった。


「ああ!? マドルク! ……マド、ルク?」


 フェブの悲痛な叫びは最後まで発せられなかった。


 それもそのはずで、肩を押さえて立ち上がるマドルクさんの姿が二重にぶれている。


「まいりましたね……これは」


 騎士団の鎧を纏った姿が消え去り、黒衣が露わになった。

 精悍で若々しかった顔は、頬が落ち窪み、倍ほどに老け……艶やかだった短い黒髪が、茶けた長髪へと変貌する。


「咄嗟だったとはいえ、張った防御壁魔法を意に介さず貫通とは……さすがは勇者。侮れませんなぁ」


 マドルクさん――いや、マドルクさんだったモノは、俯いていた顔をゆっくりと上げた。


 頭部には短い角、そして切れ長の瞳は――銀。

 それこそ、紛うことなき魔族の証だった。


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手違いでスライムとして異世界召喚された訳ですが
お気軽?スライムライフのはじまりです

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