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異世界の叔父のところに就職します  作者: まはぷる
第九章
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ベルデン騎士 1

 ただならぬ雰囲気を察して、店内の客はそそくさと逃げ出してしまった。


 相手の狙いはあくまで俺だけらしく、悠然と流し目で見送っている。


(ナツメは――)


 と、来店者用のテーブルを盗み見ると、さっきの弾みで倒れた椅子が転がるばかりで、すでにナツメの姿はない。

 ……素早い。


「人違い……ってわけじゃありませんよね?」


「まさか。この状況でそんな酔狂な真似はしまいよ。貴殿はアキト殿で相違あるまい?」


 ダナンと名乗った騎士は、深い皺の刻まれた相貌を歪めた。

 笑ったのだと、少し遅れて気づいた。


「のう、勇者殿の甥御のアキト殿……?」


「……なんのことでしょう、と言っても無駄なんですよね、多分」


 身構えたまま、じりっ……と後ずさりすると、包囲網も同じだけ動いた。

 3者共に寸分違わぬ身のこなしからして、やはり只者ではない。


「同行って、どこへ? 理由を訊いても?」


「……ほう。一般人に毛の生えた程度と聞いてはいたが、なかなかに肝が据わっておる。なに、手荒な真似はするつもりはない。あくまで素直に従った場合ではあるが。我らを勇者殿のところまで案内して頂きたい。簡単なことであろう?」


 狙いは叔父か。


 先手を打たれた気分だった。

 決行は明日と、悠長に構えすぎたのかもしれない。

 あちらから動いてくるとは、正直、考えてはいなかった。


 いずれにしても、この状況は非常にまずい。

 相手の意図がわからないまま、調査に出ている叔父の所在を明かすわけにもいかない。


 このまま家に連れて行くのも論外だ。

 リィズさんはともかくリオちゃんがいる。危険に晒すわけにはいかない。

 まして、このまま人質扱いともなれば、叔父との計画の前提が崩れる。

 個人的な心情からも、それはご免被りたい。


 どうにかして逃げ出す。

 もしくはやり過ごすしかないだろう。


「ベルデン騎士団の副団長とうかがいましたが、それは本当ですか? 俺の知る限り、副団長はマドルクっていう人だったと記憶してるんですが」


 マドルクの名を耳にすると、ダナンは若干不愉快そうに目を細めた。

 癖なのか、しきりに顎髭をさすっている。


「副団長は2席ある。わしのほうが先任となる。疑っておるなら、この胸のエンブレムを見るとよい。これこそ、栄えあるベルデン騎士団の副団長の証よ」


 白い盾の意匠のエンブレム。

 たしかに以前にフェブの部屋で見かけたのと同じ物だ。


「問答はもうよかろう? 時間稼ぎのつもりなら、これ以上は遺憾ながら力尽くで協力を仰ぐことになるが?」


 力尽くだったら、協力じゃなくて強要でしょうに。

 胸中でツッコミつつも、隙を窺う。


 3人は街中だけあってかさすがに非武装で、無手ならば攻撃を受けても即致命傷とはならないだろう。掴まれさえしなければ、組み敷かれることもない。

 ただ、それが一番難しそうだ。

 相手は戦闘のプロ。非武装だが、身に纏う重石がない分、身軽そうだ。

 先ほどの洗練された身のこなしから、スピードでは確実に劣る。腕力も、腕の太さや体躯を比べただけで一目瞭然。しかも、相手のほうが人数が多く、包囲済み。有利な点が一切ない。


 強いて言うなら、その圧倒的優位で、こうして話に応じてくれるくらいの余裕というか油断がある。

 それだけだろう。


 炎の魔法石は懐にある。

 あるにはあるが、この状況で大人しく使わせてくれるだろうか。


「じゃあ、最後にふたつだけ質問。これはフェブの指示ですか? それと、騎士団の到着は明日だと思ってましたが、ずいぶん早かったですね?」


「ふむ。若さまを愛称で呼ぶ不敬は見逃そう。此度のことは、若さまはご存じない。わしの独断と言っていい。後者については、ずいぶんと耳聡いようだが……我ら騎士団の騎馬隊の騎士数名で先行したまで。これで満足かな?」


 なるほど。騎馬だったら、この日数でもお釣りがくる。

 団だけに、常にひとまとめで行動するものだと固定観念に捉われすぎていた。


「そうですね。フェブとは約束があるので別ですが、そういうことでしたら残念ですけどお断りします」


 きっぱりと拒絶する。


「……ほほう? では、やはり。力尽くがお望みか?」


 ダナンを始めとして、3人の気配が剣呑なものに変わった。


 断固とした態度で言い切ったものの、正直、服の下では全身冷や汗だらだらだ。

 完全なノープラン。なんとかできそうな予感の欠片もない。

 地竜の口の中を覗いたときよりはマシだろうと、自棄っぱち染みた気持ちだけだ。


(うわー、どーしよー!)


 相手が判断を下す前に、とりあえずダメ元で突っ込んでみようかと身構えると――


 ごんっ!


 鈍い音と共に、カウンター側の通路を押さえていた騎士のひとりが頭頂部を抱えて蹲った。


 見れば、騎士の足元の床にたまごろーが転がっている。

 状況的に、棚の上に鎮座していたはずのたまごろーが、棚からぼた餅ならぬ棚から卵で、落っこちて奇跡的に脳天を直撃したのだろう。

 たまごろーは、重量としてはボウリングの球くらいはある。

 意識外からの脳天への不意の一撃――あれはかなり強烈に痛いはず。


 なんにせよ。


(これはチャーンス! 炎よ!)



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