伯爵家の御曹司 4
まあ、あるわあるわ。
片付けるために、あらためて室内のグッズを整理していると、とんでもない量が溢れている。
他人の趣味にとやかく文句をつける趣味はないが、ここまでだと呆れてくる。
同じものでも3個ずつあるのはあれか、保存・観賞・布教用だろうか。
きちんと種類別に区分けはされているようだが、なにを基準に区別しているのか判断に苦しんだ。
魔石関連は見た目でわかりやすいので、まずはそこから手を付けることにした。
「あ、申し訳ありません。それは青の鎧シリーズなので、そちらの箱にお願いします」
いきなりダメ出しされた。
「青の鎧シリーズってなに?」
「勇者さまのトレードマークである、青い鎧を纏われた姿を納めた魔石です」
「え? これって映像を記憶してあるんだ?」
「ええ、記録用の魔石ですから。見られます?」
石の上に投射されたのは、確かに叔父の姿だ。
仲間と談笑している様子らしい。現在よりも少し若い。
デラセルジオ大峡谷でデッドさんに見せてもらった立体地図のあれと同じものかもしれない。
そう思うと、見た目や色合いがよく似ている。
ただ、この量――全部が魔石なら、どれほどの金額が動いているのだろう。
少なく見積もっても、引越し用のダンボール10箱分ほどはある。魔石だけに、安いものではないはずだが。
金持ちってやつは……虚しくなる。
「だったら、こういうものがあるけど、フェブも見てみる? 残念ながら、立体じゃなくって平面だけど」
対抗するわけでもなかったが、何気なく思い立ち、スマホの画像を見せてみた。
以前に帰省騒動のもととなった、叔父とツーショットでヘッドロックをかけられている場面のものだ。
なんだかんだで、この写真が個人的には一番気に入っている。
「おおおおお!」
フェブが雄叫びを上げ、スマホに飛び付いてきた。
「これって今現在の勇者さまですか!? 素晴らしい! 是非にも売ってください! 金貨1000枚までなら出します!!」
「いやいや、こっちに金貨の制度はないでしょ? 錯乱しないで。大事なものだから売れないから」
さっとスマホを隠す。
軽いお礼のつもりだったのに、恐ろしいまでの喰いつきだった。
普通の写真でこうなら、実際に叔父とビデオ通話とかしたらどうなるのだろう。
割と本気で、感激と興奮で昇天しかねなさそうな。
「でしたら、録らせてください! だったらいいですよね、ね? ね?」
スマホに画像を映した状態で、フェブが魔石を構えて念じていた。
これで完了らしいが、魔石ひとつに対して画像1枚とは、なんともコスパが悪そうだ。
録ったばかりのものを見せてもらうと、しっかりと映っていた。
叔父がどアップで、隣で一緒にいたはずの俺が見切れていたのは、ご愛嬌だろう。
満足したのか、フェブは魔石を抱き締めて恍惚としていた。
こんなものでも喜んでくれたのなら、なによりだ。
「それにしても、フェブはよっぽど叔父さんが好きなんだね」
「ふふっ。魔王を倒し、人間を救った勇者さまを嫌いな人なんていませんよ。特に、当時のボクのような子供では」
「確かに。紛うことなき英雄だもんね」
「そうですよ! 勇者さまがいらっしゃらなければ、きっと人間は滅ぼされていたでしょう。アールズ家の者としても、領民を救ってもらって感謝しています。ボク個人としても、魔族を倒してくれるだけで、素晴らしい英雄です!」
「? そうなんだ」
最後の言い回しがなにか引っかかったが、本人が平然としていたので気にしないことにした。
引き続き、部屋の整理を行なっていると……グッズとはまた違った趣で、棚の上にぽつんと写真立てが置かれていた。
棚の上には他のものはなく、ただそれだけ。
古そうな写真だが、写っているのは意外にも叔父ではなく、幼子を抱いた男女の写真だった。
「ああ、それはそのままで結構です。それはボクの両親との写真ですので。1枚しかない大事なものなので、ここに一緒に置いてるんですよ」
中央で両脇を両親に抱えられ、嬉しそうにはしゃいでいるのが幼き日のフェブらしい。
今のリオちゃんと同じ5歳くらい。両親はまだ若く、20代半ばかせいぜいその少し上といったところだろう。
こうして見ると、フェブの面立ちはふたりの特徴をバランスよく引き継いでいた。
目鼻立ちは父親似だが、全体から醸し出す柔らかな雰囲気は母親似だろう。
両親共に武装しており、父親は騎士ふうの立派な鎧に身を包み、母親は軽装だが背に薙刀のような長柄を背負っていた。
フェブのわずかな口調の変化から、故人であることは知れた。
だから、あえて問うことはしない。
そうこうしている内に、散らかったものもほとんど片付いて、どうにか一息吐くことができた。
終わってみれば、ふたりだけでやる分には結構な作業量だった。
最初から、家人を呼んで手伝ってもらったほうがよかったのかもしれない。
よくよく考えると、フェブラントは名家の跡継ぎ。
掃除などさせてよかったのだろうかと、今頃になって心配になったり。
「ようやく終わりましたねー。疲れちゃいました!」
当の本人が、清々しい顔で気にもしていないようなので、よしとしよう。