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矛盾の魔王と狂人  作者: 春告鳥
2,平和を乱す不穏
5/7

2-2

ウィリアムは教会で天使に回復魔法をかけられ、傷は一つ残らず一瞬で治っていた。色々教会で聴取されて夜も更ける時間になったアッカーソン家に、ヴェリルはお邪魔をしている。ウィリアムの隣にはシンディが、向かい側には左からツェザーリとヴェリルが座り、料理上手なシンディのカレーを頬張っている。

「う~ん、美味しい!久しぶりにシンディのカレー食べたけどやっぱ格別!」

「はっはっは!そうだろうそうだろう!」

「もう、照れるわ。」


リビングに魔王が椅子に座って父と母と談笑する光景を見るなんて誰が予想できただろうか。頭が追い付かないでいると、母が横から肩を優しくポンと叩くのが身に染みる。そして全員食べ終わるとそういえば、とツェザーリは何気ない言い方で話を切り出した。


「今回の操り事件は人間界で起こった事件だ。そのため術者は教会の牢に入れてある。」

「だろうね。事件の証言は僕でもいいけど、あんまり歓迎されないから、代わりにグリミアに行かせてるよ。」

「あぁ、いつも君にくっついてる女の子かね?」

「そ。それに教会は聖水を建物に油汚れみたいにべったり染み込ませてるから、低級の悪魔は近づいただけでグロッキーなわけ。だから元々低級で悪魔として格が低かった僕は、あそこに行くとあまり気分がよろしくないの。グリミアは全然平気で本当に助かったよ。」


操られた連中である悪魔は保護をして話を聞いてるが、すぐに解放されるらしい。だが人外が関わっているため警察の手に追えない。そのため事情の知ってる警察官と、警官になっている魔導師連中にだけ見てもらって引き上げてもらった。今回の被害者は幸いにもウィリアムだから口止めもしなくて済むという。そうは言っても悪魔に襲われたと吹聴しても、狂人扱いされるだけだから元々心配はないが。


「・・・頭が追い付かない。」

ウィリアムは頭を抱えた。人生で今一番頭が働いていると言っても過言ではない。その姿にツェザーリは心底驚いたように目を見開いた。

「信じるのか!?」

「あははっ!そんなに信用されてなかったんだ!」

ヴェリルが笑ったことに少しムッとしたが、すぐに切り換えてもう傷が治っている腕を見る。

「あんな物を見たし、戦った時の殺意は試合と違って本物だった。なにより腕に受けた傷と痛み、それが一瞬で治されたのが証拠だ。・・・つか、聞いた限り人間を守っているまっとうな仕事なら、なんでカルト宗教団体って言われてまでこそこそしているんだ。」

視線をツェザーリに移動する。するとツェザーリは言いにくそうに目を泳がせていた。何か複雑な理由があるのか、もしくは後ろ暗いなにかがあるのかと、ごくりと唾を飲む。


「・・・言うタイミングを逃したのだ。」


ピキリ、と何かが割れたような音が聞こえたような気がした。

「あー、言っちゃった!恥ずかしい!本当に恥ずかしい!」

ツェザーリは顔を赤くしてそれを両手で隠しながらも話を続ける。


〔ツェザーリいわく宗教ってのは敏感で壊れやすいもので、宗教がらみで戦争が起こることだってあるため余計な血を流したくなかったこと。時代によっては魔女狩りだの言われたりして普通ではない存在は忌避されていたこと。公にしたら裏組織やら犯罪組織にその力を使われる可能性があること。歴代の国のお偉方にだけ公開して色んな権力にコネを持っているため、昔は影で暗躍するだけで十分だという結論になっていたとのことだった。〕


「それでも現代社会色んなものが発達したこの時代に隠すのも面倒になってきたので、全部ぶちまけようぜという意見も出始めたのだが・・・。」

「いんじゃね?なんでやんねーの?」

「・・・大昔から自分達しかない力で、人間を陰ながら悪魔や天使から守ってたんだぜ!いきなりで悪いけどこれからはよろしくな!って今更言えるかい?恥ずかしくない?今までずっと隠してたのにいきなりしゃしゃり出て来て、非凡な能力使ってるってなんかひけらかしているみたいじゃないかい?」

「・・・それでズルッズルタイミングを逃したと。」

「ぐふぅ─!」


羞恥に耐えられなくなったのか、ツェザーリは机に突っ伏した。ただでさえイギリスは監視カメラ社会で、ロンドンを1日歩けば三百回は撮られると言われている。色々とキツいだろうとウィリアムは哀れみ気持ちを視線を注ぐしかない。すると見かねたのか、ツェザーリの横でヴェリルが顔を出した。


「ツェザーリが悪いというよりは、昔の人が秘密をクソ真面目に貫き通そうとしたことが原因だし、誰も悪くないからその辺にしといて。」

「・・・いや、別に悪いとは思ってない。ただなんか、嘘を撤回できなくなって嘘を重ねる小学生かよとか思ったけどよ。」

「ごふぅ─!」

「あ、悪い・・・。」

無自覚に追い討ちをかけたことに少し罪悪感を持ったウィリアムであった。


***


シンディが紅茶を入れたため、ツェザーリは放って置いて本題に入る。


〔操り事件はつい最近、一ヶ月くらい前から起こり始めた。今回のように悪魔が人間、悪魔、天使を操って無差別に襲ったのが事の発端。悪魔界は侵略でも始めたのかと教会と天使界から袋叩きにあった。悪魔は元々その性質上相性の悪い天使と天使を好んでいる人間に嫌われているが・・・。〕


呪術などを専門にしている悪魔代表としてヴェリルはコホン、と咳払いした。


「操りの術なんて今まで無かったから余計に叩かれてるの。世界征服のために術を編み出したんじゃないかって。」

「え?今まで無かったのか?そういうの得意なイメージなんだが。」

「ありそうで無かったよ。操りの術は文字通り相手の心を乗っ取って操り人形にする術。しかもこの術、魔力の素養があれば誰でも使えるの。実際にこれを使った魔導師や天使がいて、お縄になっているからね。」

「!」


逮捕はしているけど一向に収まらない。それどころか逮捕の頻度と被害者が増えてることから、術者と操られている者は増え続けていることになる。

「しかもこの事件、人間界だけじゃなくて天使界と悪魔界にも起こってる世界規模の問題になってきてる。だから今のうちにこの迷惑な術を撒き散らしてる元凶を止めないと、逮捕が追い付かなくなって・・・─最悪操り事件の元凶と魔導師教会で戦争が起こる可能性がある。」

「な・・・!?」

「目的はわかんないけど、意思を奪う操りの術なんか使ってる時点でもうお察しでしょ。これだけの規模、しかも世界を跨いで問題が起こってるなら、悪魔・天使・人間の全ての世界にこの畜生どもがいてもおかしくない。」


それと、とヴェリルは溜め息を吐く。

「なんでか教会の幹部は、これも蒼芭の仕業だと証拠もないのにやたらと決めつけてるよね。無いわー。」

「私もそれだけは無いと思うね。有能な方々はほとんど殺されているから、そこは申し訳ない。」

二人の一致した意見にウィリアムは首を傾げる。

「・・・やけに確信しているな。」


その言葉に二人は顔を見合わせて気まずそうにしていた。ヴェリルは「あー」とか、「うー」とか言って口ごもっていたが、非常に言いづらそうに口を開いた。


「・・・水無瀬蒼芭という人間を知れば嫌でもそうなるよ。容姿端麗・文武両道で何もかも完璧、頑張れば当然のように良い結果が帰ってくる人生だった。でも誰もが羨むそれは蒼芭にとっては挫折も苦労も無い平坦で代わり映えのしない人生で、とても退屈でつまらなかった。日本人離れした外見でいじめられていたので、その思いはなおさら世界がつまらなかったらしいよ。そしてある日、耐えきれなくなった彼女はいじめっ子を恐怖のどん底に叩き落とした。そしていじめられているという逆境から勝ったことに、とてもスリルがあって面白かったのよ。乱暴だけど逆境を打ち勝ったという体験は、生まれて初めて蒼芭が快感を覚えた瞬間だった。以来蒼芭は進んで逆境の状況に陥り、それを乗り越えたり逆転勝ちをすることを頻繁に行うようになったってわけ。これが狂人生誕のキッカケよ。」


「・・・タチの悪いドMかよ。」


ウィリアムの素直な感想にヴェリルは頭を抱えて溜め息を吐いた。魔王と教皇のこの姿だけで、あらゆる存在をこうして悩ませる問題人物なのだろうと手に取るようにわかってしまう。


「だからね、富も地位も名誉も権力も笑いながら踏み潰して粉々にして、狂人と書いてバカって読める子が、操りの術を使って世界をどうこうしようなんて面倒なこと考えるわけ無いんだよ。だってあの子は自分の性癖を満たすために敢えて逆境に突っ込んで、楽しく好きなように生きることしか考えてない自分本意なクズなんだから。」

「めっちゃボロクソ言ってる!」

「好きなように生きて抗えとは言ったけど、どうしてこうなったのよ!」

「あんたも狂人化に関わってんのかい!」

そこで、ふと疑問に思う。

「じゃあなんで天使との契約を勝手に破棄して、禁止されている悪魔との契約をしたんだ?」

やや間があって、ツェザーリは思い出したくも無さそうな様子で語りだした。


「契約を破棄された相棒天使いわく、悪魔が自分と契約したら不老長寿にしてあげると言って蒼芭をそそのかした。そしてそれにまんまと乗ってしまったのだ。不老長寿にするって言って契約させて、色々貢がせるのはタチの悪い悪魔の常套手段だ。よくある話なんだが、なんだがな・・・。」

ちら、とツェザーリは疲れた様子でヴェリルを見る。ヴェリルも仕方ないとばかりに頭を掻いてぽつぽつと話し出す。

「あの子を探す際に色んな悪魔から聞き込みしたんだけど、話を聞いた限り実際に貢いでいるのは悪魔の方なんだよ。溺れさせる予定が、悪魔側が逆に溺れ堕ちちゃった。で、不老長寿のお願いも喜んで聞いたから契約した五年前から蒼芭の外見は変わってないと思う。」


不老長寿、人間にとって夢のような言葉にウィリアムは一瞬聞き間違いかと思った。

「え?不老長寿って本当にある話なのか?」

「うん。僕の直属の幹部兼ナンバーⅢが昔、自分のために編み出してる。」

「欲望の力すげぇな。」

「んで五年前、蒼芭が契約した悪魔に不老長寿の術を教えてたのも確認済み。ちなみに今回の操りの術を解除する術を編み出したのも、先程と同じご褒美に釣られて頑張った当店のナンバーⅢでございます。」

「天才かよ、なんなんだあんたの部下。」

欲望が正しい方向に使われると凄いのだと感心していると、ヴェリルが遠い目をしていた。

「・・・名前も顔も公開されてる一千万ドルの賞金首兼国際指名手配犯が、悪魔落として不老長寿の状態で五年も捕まらずにヒャッホウしてるのも天才的だと思うよ。これだけ好き勝手しても破滅しないから、【矛盾の狂人】っていうわけわからん名前で呼ばれてるくらいだしね。」

「うっわ、名前のセンスねぇな・・・。」


ヴェリルがプッと吹き出して確かに!と笑う。すると少し吹っ切れたような明るい顔になった。

「─まぁ色々話したけど事実がどうあれ、水無瀬蒼芭が悪魔と契約してから教会の幹部や一般人が変な死に方で死んでるのは確か。何か知っているか私個人としても聞いておきたい。」

「・・・まるで水無瀬蒼芭が殺人犯でないと思っているみたいだな。」

するとヴェリルとツェザーリはお互い顔を見合わせて頷く。そしてここからが特に大事だと、ツェザーリが今まで見たことがないくらい真剣な目で見てきたため、ウィリアムは少したじろいでしまうほどだった。

「死んでいた幹部は皆、彼女を次期大魔導師にすることを推していた者達だ。逆に生き残っているのは彼女が大魔導師にすることを猛反対していた者達である。─おかしいとは思わんかね?」

「・・・まるで生き残った幹部が、自分達が気に入らない邪魔者を教会から消したみたいだ。」

ツェザーリはその通り、と深く頷く。

「残念なことに証拠は無いがね。むしろ彼女の兄の方が怪しい。」

「兄貴もいんのかよ!?」

同じようなのがもう一人いるのかと震えたら、話は最後まで聞いておくれとツェザーリが続ける。

「兄、水無瀬伊織(ミナセ イオリ)は至ってまともだ。まともゆえに人並みに出世欲があって、生き残った幹部と元々懇意にしている。」

「怪しさ2000%じゃねぇか!」

それに、とヴェリルが沈痛な面持ちでウィリアムに訴えかける。

「彼女が子供の頃から知ってるけど、根は悪い子じゃないの。─良くもないけど。確かに人を殺したと聞いたときはついにやったかって一瞬思ったけど、人を殺しても何も思わないような子では無い筈。今はとにかく情報が欲しいし、色々と聞きたくて蒼芭を探しているんだけど・・・─あの子って会いたくない時に会うのに、会いたい時に限って会えないのよ。」

「迷惑な生息の仕方してんな、オイ。」


─すると突然シューベルトの魔王が着メロとして流れてくる。そして当然のようにヴェリルが水色のスマホを取り出した。

「魔王ってスマホ持ってんの!?」

「中身はうちのナンバーⅢが魔改造してるから、魔力さえあれば悪魔界や天使界でも使えるよ。あ、神からだ。」

「神からの着メロ魔王にすんな!ややこしいわ!─って、え?!神もスマホ持ってんの!?」

「そりゃ僕が神と君のパパさんにあげたから持ってるよ。今時神と魔王だってスマホくらい持ってなきゃ。」

「そういう問題なのか!?なんか釈然としないのは俺だけか!?」


はい、こちら魔王。とボタンを押してスピーカーモードにする。通った声質の若い男の声が聞こえてきた。

『ワシじゃ!無念じゃが、やはり今日はそちらに来れん!すまんのぅ。』

「─声若いのに喋り方が思いの外ジジィ!」


ヴェリルが確かに、とケタケタと笑う。だがすぐに『魔王』の顔になった。

「取り敢えず、引き続き水無瀬蒼芭の捜索と操りの術を防御する魔法の開発を続けるよ。あと、世界の平和を乱す元凶探しもね。」

どうぞ、とヴェリルはツェザーリに手を向ける。

「私の方も引き続き調査を続けます。教会内部の可能性も大いにありますので・・・。」

『ワシも調査を続ける。身内を疑いたくはないが、無実を証明するためと割り切るないのう。ヴェリルの方ばかり負担がかかるのも申し訳ないぞい。』

心底そう思っている声に、ヴェリルは何か思うところがあるような、泣きそうな笑みを浮かべていた。

「・・・それに関しては別にいいよ。術の開発はうちの部下の得意分野だし、蒼芭と一番面識あるのは僕だしね。」

『・・そうか、スマン。ところでそこにもう一人居るな?』

すると急にツェザーリが晴れ晴れとした顔になったため、ヴェリルがにやにやとした顔でツェザーリにスマホを渡した。

「私の息子です。苦節二十五年、ついに信じました。」

『おおぉお!?ついにか!?人間の二十五年は長いのだろう?これでバカ息子呼ばわりされなくて済むのぅ!ほっほっほ!これから頑張るんじゃぞ!』

「お望みのままに!」


そのやり取りを見て、ウィリアムはだんだんと顔を赤くしていた。ヴェリルは見逃さずににやにやして話しかけてくる。

「ねぇねぇどうしたの?」

「神様にまで俺のこと知られてたのかと改めて思うと、なんか恥ずくて・・・。」

「あぁ、この界隈で知らないやつはいないよ。教皇の息子が天使と悪魔と魔導師全否定して、有名ボクシング選手として表舞台で輝いてるなんてさ、魔導師の正反対を行ってるわけだからね。代々魔導師の家系だから尚更末代までの赤っ恥って言われる案件だよ。」

「そこまで!?」


自分はそんなとんでもないことをしていたのかとサッと顔を青くした。

「話は最後まで聞きなさんな。人間の魔力の素養ってのは、ほぼ血筋で決まる。素養がある人の子供は、大抵子供も素養があるよ。」

「・・・じゃあ殆どの魔導師は代々魔導師の家系なのか?」

「うん。たまに魔導師の家系じゃなくても素養がある人はいるけど、それはほんとに突然変異だから稀。だからただでさえ数少ない魔導師なのに、教皇の息子が魔導師を信じないのは中々恥ずかしい案件なの。信じた上で別の道を選んでいたなら話は違うけどね。今まで耐えてきたパパさんに感謝しな。」

「・・・・・・・・。」

ウィリアムはうつむいて考え込んだ。そしてある程度話し込んでツェザーリが、神との会話を終えるとスマホをヴェリルに返す。そのままツェザーリがさてと、と姿勢を正した。するとやり取りを見ていなかったツェザーリが、ウィリアムの様子を見て首を傾げる。が、意を決したようにがばりとウィリアムは顔を上げた。

「・・・今まですまなかった。」


そうすぐに頭を下げるウィリアムにツェザーリは目を丸くしたが、すぐに優しく微笑んだ。

「気にするな、お前が悪かったわけじゃない。これから協力してくれると助かる。」

その言葉に救われたような気持ちになったウィリアムは、笑って手を出した。

「勿論だ、よろしく頼む。」

ツェザーリも手を出して、お互い固い握手をした。

「・・・・・。」

ヴェリルは、何故かそれを訝しげな目で見ていた。すると沈黙を守っていたシンディが、ついにそれを破る。

「どうされました?」

「いや・・・。今更なんだけどさ、あの二人っていうか、君も含めて似てないなと思って。特にあの青い目と。」

確かにウィリアムが青い碧眼に対し、シンディとツェザーリはブラウンとグリーンが混じったヘーゼルという瞳の色だ。だが、シンディは全く動揺せず紅茶を飲んでいる。

「今更といえば今更ですね。けど、確かに夫の親戚から私の不倫を疑われたことがありますわ。」

「あ、やっぱり?それでどうなったの?」


するとシンディはカップをそっと置いて、ヴェリルを貫きそうなほど意志の強い目を向けた。

「もちろんDNA鑑定をして、書類を叩きつけましたわ。あの子は百パーセント私の自慢の息子です。祖母が見事な金髪碧眼だったそうなので、私には出ていないだけで確実に私の遺伝ですわ。」


するとヴェリルがブルッと怯えたように震えた。何か気に触ることを言ってしまったのかとシンディは焦ったが、ヴェリルは慌てて首を横に振った。

「金髪碧眼にあまり良い思い出が無かったせいで、ついね。最近だと蒼芭とか。」

「・・・魔王を震え上がらせるなんて、逆に会ってみたいですわ。」

好奇心が先行してそう言ったが、ヴェリルは試しに会ったら二度と会いたくなくなるよと首を緩慢に振った。すると話が終わったのか、ツェザーリが嬉々として体ごと乗り込んできた。

「あの時のシンディは控えめに言ってムラムラした!」

「人前でやめろエロ親父!」

「やだ、もう。今日、二人目作る?」

「ブルータス!」

「あっははは!」

「他人事だと思って笑うな!」


一度火が点いたら止まらない。ヴェリルは微笑ましいものを見て懐かしい気持ちになった。


『ベリーに出会わせてくれたこの世界が大好きなんだよ!魔王を倒して良くなった平和な世界でベリーと幸せに暮らすこと、それが実現したらこれ以上幸せなことはないよ!くっふふふ!』


今でも思い出す腐った世界で唯一真っ直ぐだった、敬愛してやまなかった師匠の言葉。自分にとって悪魔界を照らす光だったお師匠様。先代魔王を倒すだけで自分が魔王になる予定はなかったけど、その権力を正しく使って世界を平和にするという師匠の願いを叶えるために生きてきた。だがら折角平和にした世界を乱そうとする輩がいるのなら、必ず根絶やしにして見せる。そのために、まず一つ成し遂げてみせよう。


「(─蒼芭、必ず捕まえてみせるよ。人を殺してようと殺してなかろうと、無理にでも味方にして元凶を滅ぼすためにきっちり働いてもらおっか。)」


ヴェリルは胸元で拳を強く握りしめ、心の中で強く誓ったのだった。

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