デート
カモミールが出した交換条件。それは、
「私がフィルとデートをする事?」
「そうです。こう見えてもお兄様はメリーさんでしたか? 貴方の事がとても大好きで……」
「で、でも私、同性愛好者ではなくて、それならどうしてドレスを? カモミールのふりをして接触する理由はないですよね?」
私は女子の恰好をしたフィルを見ながら、そうカモミールが問いかけるとカモミールが、
「それは兄の趣味です。そうすると女が告白してこなくていいとかなんとか」
「は、はあ」
「告白して欲しいのは一人だけだそうで」
「そうなのですか」
「……分かっていないようですが、貴方の事ですからね」
半眼でクリスティーヌに言われて私は、え? と思った。
だが私としては、
「で、でも私、フィルに会ったのこの前が初めてで……」
「もっと昔に一緒に遊んでいたですよね」
「でも、こんな美形なら覚えていそうだけれど」
「それはそうでしょう、“記憶消去”されている話ですから」
「え? ど、どういうことですか!?」
私が聞き返すも、カモミールは答えない。
けれどじっとフィルが私の方をじっと見ていてそのまなざしが凄く優しげなのが何とも……そう私が思っているとそこで、
「貴方がフィル兄様と会ってもそれほど抵抗がないのは、無意識のうちに懐かしいと思っているのでしょう。とても仲が良かったですから」
「そう、なのでしょうか」
「ええ、だからデートをお願いしていいですか? その代わり私の特殊能力で貴方の能力を引き出します」
私はそれを聞いて迷った。
デートと言ってもという気持ちもあって、でも、特殊能力は欲しいしそれに、フィルはそれを望んでいるようででも私は昔の記憶なんてなくて、けれどフィルとならという気持ちにもなる。
だから私は……その交換条件をのむことにした。
交換条件を飲む、私がそう答えるとフィルが嬉しそうに私に近づき抱きしめた。
ちなみにフィルは今ドレス姿でカモミールと双子なのもあって女の子に抱きつかれているような感じがする。
な、なんだろう、凄くこう……と私が混乱しているとそこで呆れたようにカモミールが嘆息し、
「お兄様、私のドレスを着て恋人を抱きしめるのは止めてください。ただでさえ私とお兄様はよく似ているのですから」
「ああ、分かった。でもメリーがここまで大人しくなるとは……やはり、ドレスも常備しておくか。以前男の姿で近づいたら少し警戒されたからな」
真剣に考え始めたフィルに私は、今更ながら凍り付きそうになる。
私はきちんとフィルとカモミールを見分けられるだろうか、と思ってカモミールとフィルを見比べる私。
「あれ?」
「どうした? 俺の可愛いメリー」
「え、えっと、似ているには似ている気もするのですが、二人の見分けがつくなと」
「……女性の胸ばかり見ていては駄目だぞ、メリー」
「ち、違う、というかフィルだって今は胸に詰め物をしているじゃないか!」
そう言い返すとそこでフィルは離れて、自分の胸を見て、
「そういえばそうだった。確実にメリーを騙して、気持ちよくなって動けなくなった所で既成事実をという計画だったからな」
「なん……だと……」
予想外の言葉……しかし先ほどの件を考えると、実際にそのような状況に私はあったわけで。
どうしよう私、そう私が思いつつも、先ほどの胸の件を思い出して、
「そ、それに胸は、違うよ! 顔を見ても二人は区別がつくなって不思議に思っただけ」
「……俺達の区別がつくのか?」
「う、うん」
「……昔と同じだな」
そう言ってそこでフィルが私に優し気に微笑んだのだった。
どうやら私は昔もフィルとカモミールの区別がついていたらしい。
それが嬉しかったらしく私をもう一度、フィルが抱きしめようとした所でカモミールが、
「お兄様、嬉しいのは分かりますがこれでは話が進みません」
「そうだな。早くデートを……」
「そうではなくて彼女の特殊能力を目覚めさせましょう。デートの交換条件はそれでしょう。というか早くそれを私は終わらせて、婚約破棄をどう頑張るかについて考えないといけないのですから」
「そうだな、婚約破棄を上手くしないといけないし、よし」
そこでようやく私はフィルに体を放してもらえた。
それが少し寂しい気持ちになってしまいつつも私は、離れてもらった後、すぐにカモミールがやってきて、
「少し“痛い”ですが我慢してくださいね」
「え、痛いの?」
「はい。でもそれほど痛いわけではないですから」
と言われたのでそれほど痛くないならいいかと私が思っていると、
「では目を閉じていてください」
「え?」
「動かれると困るので」
「は、はい」
そう言いながら目をつむる私。
そういえばこのヒロインはどうやって能力を目覚めさせたんだったっけ、と思い出そうとするけれどよく思い出せない。
やがて風をきるような音がして頭に衝撃を感じた。
「! い、痛いっっ!」
「……これで完了です。能力が無くても弱い能力が目覚める場合もありますので、調べてください」
「あれ、カモミールには分からないの?」
「ええ、能力鑑定の才能が私にはありませんから」
言われてみればそうだったと思う。
ゲーム内では即座に能力が表示されるが、ここはゲームのような世界だから。と、
「だったら今から俺と能力を見に行くか? それからデートになるが」
そうフィルが私に言うのだった。
こうして私はフィルと一緒に私の能力を見に行くことになった、のだが。
「あの、一つ聞いていいでしょうか」
「なんだ?」
そこで私は、フィルの手と自分の手が重なっているのを見ながら、
「なんで私達は手を握っているのでしょうか?」
「恋人なんだから当然だろう」
「こ、恋人……」
「それともメリーは恋人でない男とも気軽に手をつなぐのか? そんなに浮気性だったと?」
そうフィルは笑って言うが、目が笑っていない。
だが私としてはその……。
「な、なんとなく恥ずかしい気がする。家族以外とは随分久しぶりだし」
「……可愛いから許してやる」
「え! な、何が」
「何だろうな。ほら、能力の鑑定所が見えてきたぞ」
そう言われてみると青い屋根に看板の掛けられた能力鑑定所が見えてくる。
これでようやく私に特殊能力が、と思った所であることに気付いた。
「いいの? デートよりも先に能力を目覚めさせたのは」
「どういう意味だ?」
「私が約束を破るかもしれない不安はないかなって」
「……俺からメリーが逃げられるとは思えない」
「な! まるで私が、チョロイみたいに聞こえる!」
「……さて、それでどんな能力だろうな?」
「は、話を逸らすないでよ!」
「俺、メリーの能力は戦闘にはあまり関係のない物のような気がするな。メリーは優しいから」
「……そんな事はないと思う」
言い返しつつも私は、フィルに優しいと言われてドキドキしてしまう。
けれどそれが悟られないように私は能力鑑定のお店にいってそこのおじさんにに言われたのは、
「非常に珍しい能力ですね」
「そ、そうなのですか?」
「はい、“魔物に好かれる”能力ですね」
そう、私の能力が告げられたのだった。
“魔物に好かれる”能力。
確かに珍しい能力だし、魔物使いという貴重な職業になれる能力である。
それに凶悪な魔物に襲われても生き残った例が、この才能と言われていたりもするし、他の害をなそうとするものからも魔物達が守ってくれる、こともあるそうだ。
だが、この能力は珍しいしある意味で、モフモフに好かれるような能力なので、よく物語のテーマにもされていたりするのだが、その分問題もよく知れ渡っている。つまり、
「触手に襲われたり、スライムに私は服を溶かされる……もう森とか自然が多い場所に行けない……」
「魔物よけの魔道具を使うか、能力を抑える魔道具を使えばいいだろう」
「それでどうにかなるのかな?」
と私は呟いた。
現在店から出てデートの時間になり、私はフィルと手をつなぎ街を歩いていた。
これから町中の公園に向かう予定だったのだが、そこは自然もそこそこ多いのでつまり、私があれでそれな目に遭う可能性が……。
それにこれからどうしようと思って聞いてみるとフィルはあっさりそう答える。
でもこの能力では、
「公爵家は継げるのかな? そういえば家族全員何らかの属性の攻撃魔法が強かったのに、なんで私はこんなだろう」
「さあ。でも珍しい能力だったわけだし、よかったんじゃないのか?」
「これ、よかったって言えるのかな?」
私が呟くとそこでフィルが、
「俺から全力で逃げられる能力でなくてよかったと思うよ」
「! で、でも私約束を破るつもりは……あ……」
そこでフィルが私を抱きしめた。
な、なんで突然と私が思っているとそこでフィルが私の耳元で、
「愛してる、メリー。だから俺は、メリーが俺の力で捕まえられるような能力でよかったと思う」
「え、えっと……うう……」
私はそれにどうこたえればいいのか分からなくなる。
それからどうしていいのか分からない私は周りの視線に気づき、フィルにはなしてもらうようにお願いして進む。
やがて、目的の公園にやって来たのだった。
目的の公園では丁度、魔物の触れ合うイベントをやっていた。
そして、
「ス、スライムが葉っぱを食べている囲いがある」
「触ってみると意外にぷにぷにして、面白い感触だからそれほど怖がることはないかな」
「で、でも私、スライム責めはちょっと……」
「……メリーがスライムで服を溶かされるのか……」
「い、今何か私で想像したような気がする!」
「気のせいだ。それでどうする? 他にも頭が二つのケルベロスが、このイベントの目玉であるらしいが」
「行く!」
強めの魔物がいると聞いて私は大きく頷いた。
実の所そんな強い魔物とは会った事がないというか貴族なのと女性であるので、裁縫やらなにやらといった淑女のたしなみばかりやらされていたので、そういったものと戦う機会がなかった。
だから危険だったり強かったりする魔物とは会った事がなかった。
というわけで興味があったのだけれど、
「うう、檻の中にいるけれど怖い」
そう言って私は無意識のうちに、フィルの手に抱きつく。
するとフィルが、
「いざ何か危険なことになりそうだったら、俺が守るから」
「わ、私だって特殊能力がなかっただけで自分の身くらい守れるよ! 一応護身用の能力は鍛えられているし」
「そうだな。だったらもう少し近くで見てみようか」
「え?」
フィルがさらに檻に近づいていく。
私は怖くてフィルの腕にさらにしがみついていると、
「きゅうっ」
ケルベロスがそんな声を上げていた。
その甘えるような声に私は、
「まさか、能力のせいで」
「そうだろうな。よかったじゃないか」
「う、うん、でもやけに、きゅう、きゅう、言っているような」
その言葉にウィルは沈黙してから、次に私を見て微笑み、
「よし、魔物ではなく公園内を見て回ろうか。……メリーに求愛していいのは俺だけだ」
「え、いえ、そこまで心を狭くしなくても……」
けれどフィルは聞く耳を持たないようだった。
そこで、悲鳴が聞こえたのだった。
悲鳴をした方を見ると、黒い、けれど大きな牙を持った二足歩行の小さな獣が大量に檻から出てきている。
しかもカギを持っていることから、それを管理するらしい人がその魔物に二匹ほど、噛みつかれている。
周囲には数十匹とそんな魔物が散らばっていくが、私はとっさに叫んだ。
「そこで止まって!」
特殊能力には目覚めたばかりだから上手く使えるか分からないけれど、全てが立ち止まる。
よかった、魔物に好かれる能力持っていて、そう私が思っているとそこで、黒くて大きい怪物が私のすぐそばから飛び上がるように襲ってくる。
どうやら別の所でも魔物が逃げ出したらしい。
そしてその魔物には、私の力はまだ訓練していないからなのかもしれないが通用しないようで、大きな爪が私の眼前に迫り……けれどすぐに細切れになり地面に落ちた。と、
「まったく、こんな時まで邪魔をしなくてもいいのに、しかも、メリーを狙ってくるなんて……やはり本腰を入れて対策を練るか」
「え、え? えっと……」
「すまない、多分俺に関係する出来事だ。幾つか潰したと思ったが、まだあそこが残っていたな。あれでは手ぬるかったようだ」
そうフィルが話すが私にはよく分からずにいた。
目の前では大人しくなった魔物を回収するその魔物の見世物の人がいるも、そちらに気を取られていたからか私に襲い掛かってきた魔物は見向きもしない。
それともこの魔物は別口なのだろうか? そう思っているとフィルが、
「余りここにとどまるのは危険だ。先ほどの魔物はおそらく別口だろうしな」
と、フィルに手を引かれて、私達はその場を後にしたのだった。




