過去の記憶
私は乙女ゲームの悪役に転生したらしい。
「前世の記憶はあまりないけれど乙女ゲームの事は覚えているってどんな展開だろう。しかも突然思い出したし。どうするんだこの状況……一応日本人だったらしいことは覚えているけれど、う~ん。それで今の“私”はゲーム内でヒロインの邪魔をする悪役である令嬢、つまり悪役令嬢だったよね」
首をひねるけれど、答えは出ない。
確かゲーム内では、公爵家の娘で、他者の能力を覚醒させる特殊能力持ちのヒロインを虐めて最終的に、この国の王子から婚約破棄を言い渡される……はずだった。
ちなみに一番の正規ルートだったりする。
王子とヒロインが相思相愛でそれはもう、見ている私も幸せになった記憶がある。
とはいえここでは私はそれを邪魔する令嬢のはずだが、でも私、
「他の人の男を寝取る趣味は私にはないし。というか好きでもない男を寝取るってどんな“性癖”何だろう……ないわ~」
そう私は呟いて、そんな特殊性癖持ちではない私は、邪魔はできるかぎりしないようにしようと決めた。
だから別に王子様をヒロインから奪い去る必要はない。
しかも公爵家なので、権力的にもモテるはず! と思ったのだけれど……。
「私、貴族なのに弱い特殊能力にも目覚めていないんだよね」
なので、この公爵家を受け継ぐことすら危うい状態である。
だがここで私は、何故かはわからないというか、
「金髪の……確か、ヒロインのお兄さんだったかな、その人に、願いのかなう切っ掛けが手に入るという石を前に貰ったんだよね。ゲーム内では接触の記憶はなかった気がするけれど、やっぱりゲームに似た世界だからこういった差異があるのかな?」
そう呟いて私はあの人とはどういうイベントがあるだろうと考えながら、、
「私と同い年の……あまり会った事はないけれと、というか以前は事情があってヒロインもそのお兄さんと一緒に伯爵家ではなくて他で暮らしていたんだよね。彼にたまたまこの前会って石を貰ったんだ」
確か、彼の名前ははフィル。
双子の兄と言うだけあって、ヒロインととてもよく似ていた。
たまたま、この前の舞踏会で会った時に妙に話が合って、その時、私が特殊能力について愚痴をこぼすとその石をくれたのだ。
「それのおかげかな? そして私はそのおかげで乙女ゲームの内容を思い出して、特殊能力を目覚めさせる方法を思いついたと。よし」
私はそう小さく呟いて、行動に移したのだった。
まずは、特殊能力を目覚めさせるために、ヒロインのいる屋敷に向かった。
ただ確か私は彼女と面識がなかったので、彼女の兄であるフィルに会いに来た、という事にした。
「あの石をくれたお礼もあるしね。お菓子を持っていこう」
というわけで、有名店の焼き菓子の入ったものを購入して伯爵家に向かう。
ちなみにこのお菓子は、ヒロインが大好物の物だ。
きっとお兄さんのフィルにも喜んでもらえるだろう。
そう思いながら親切なあのフィルには、次に会ったらどう言おうかな? と考えているうちに伯爵家に着いた。
そして事情を門番の人にお話しして、私の身の上についても明かすと慌てたように屋敷に入っていきすぐに通してもらえた。
それから執事の人に客室に案内されて、待つことに。
待っている間に美味しい紅茶を出されて、楽しませてもらった。
そうしているとドアがノックされてから開かれる。
フィルが来たのだろうかと思うも、現れたのはピンク色のドレスの少女。
ヒロイン、カモミールだ。
金色の髪に飾った真珠がとても綺麗で、似合っていてつい見惚れてしまう。
でも目鼻立ちは、双子なのでこの前あった彼女の兄であるフィルに似ている。
そう思っているとそこで彼女が微笑み、
「今日はどうされたのですか?」
「あ、あの、今日は貴方のお兄さんにお礼を言いに来て、そしてそのお願いがあって」
「お願い、ですか?」
「は、はい、あの、貴方には他人の能力を増幅する能力があると知りまして、それでその、私の能力を目覚めさせて欲しくて、お願いに来ました」
直視できないヒロインの美貌に私がついうつむいてしまうとそこで、彼女がクスリと笑う声が聞こえた。
「ええ、私にはできます。……目覚めさせて欲しいですか?」
そう、彼女が言ったのだった。
私はすぐに頷いた。
すると彼女は微笑み、
「では、これから何をされても大人しくしていてくださいね?」
「? は、はい」
よく分からないが大人しくしていないといけないらしい。
特殊能力のためならばその程度はたやすいと思う、のだけれど、
「い、痛かったりしませんよね?」
「うーん、どちらかというと気持ちがいい、かな?」
それならいいかなとカモミールに言われて私は頷いた。
すると彼女が壁をさして、
「そこに立ってもらえますか?」
「あ、はい」
言われた通りに私が壁際に立つと、カモミールが私の前にやってくる。
そこで気づいたのは、カモミールの背が私よりも高いという事実。
それこそ、カモミールの兄のフィスと同じくらいの背丈だった。
私の方が身長が低いんだ、もう少し高い方がドレスも綺麗に着れるかな? と、そう私が劣等感に苛まれているとそこで、
「これからすることは、目をつむっていないといけません」
「そうなのですか?」
「はい、どんなことをされても、目をつむっていてくださいね」
と言われたので私は目を閉じる。
周りが暗闇で満たされると、感覚が鋭くなるな、と私が思っているとそこで……耳に何か柔らかいものが当たった。
「ふあっ」
「……耳が敏感なのですね。でも目は閉じていてくださいね」
「は、はいっ」
私は耳に何があ鷹ったのかを考えないようにした。
でもすぐに、頬を撫でられ、唇を指でなぞられる。
その刺激が何となく変な感じがする。
けれど言われた通りにしないといけないので目を閉じていると、
「ふえっ」
そこで首筋をなぞった指が、私の服の上をすべる。
ぞくりと奇妙な快感が体に走って、私は変な声がでてしまう。と、
「目は閉じていてくださいね」
また囁かれて、でもその声にはどこか“熱”がこもっている気がする。
するとそこで、私のドレスを着るためのリボンが一部はずされるのを感じる。
そしてそのまま私の肌の手触りを確かめるように指が下に降りて、
「あ、だ、だめっ……そこ……」
私はそう声を上げるけれどそこで、部屋のドアが大きく開く音がして、
「ちょっと、お兄様! 私のドレスまた勝手に借りて行って……失礼しました」
去っていくヒロイン、カモミール。
でもカモミールはここにいるわけで、さっきお兄様と……と思って目の前の人物を見ると、
「残念、時間切れだったみたいだな」
そう、目の前の人物が……ヒロインの兄であり私に石をくれた彼が、ドレスを着たまま嗤ったのだった。
なんという事でしょう、私は騙されてしまいました。
「ひ、酷い、私は真剣に悩んでそれで、藁にでもすがる思いでここに来たのに!」
「……別に、石をあげただろう。あれ、貴重品なんだ。というかあれで特殊能力が発現しないのか?」
「……発言しませんでした」
「それは、よっぽど発現しにくいか、もしくは無能力なのかもしれない」
「そんな!」
フィルの容赦のない言葉に、私は凍り付いた。
確かに、私には能力がないかもしれない、そんな不安はありはしたのだけれど、
「でも特殊能力がないと公爵継げないし」
「え? そうだったのか? だったらあの石は渡さなかったのにな」
「な、何でそんなひどい事を言うんですか!」
私が悩んでいるのにそう答えるフィル。
こんな人だとは思わなかった、そう私が思っているとそこで、
「継げなかったら、メリーを俺の“嫁”に出来るし?」
「……え?」
「初めて会った時から気になっていたんだよな。だから貴重な石を渡して、この屋敷に来るように仕向けて、本当ならそのまま気づかれないうちに頂いてしまおうと思ったのにな」
「え、ええ!」
「そもそもメリーだって、この国の王子と婚約しているだろう? だったら無能力の方が婚約破棄して“嫁”にしやすいだろうし……俺の手を打つのが少し遅かったからな」
そうフィルが言うが私としては寝耳に水の出来事で、
「な、何の話ですか? 王子と婚約?」
「……二日前の話だぞ。どうして知らないんだ?」
不思議そうにフィルに言われて私は、聞いていないよと思った。
そもそも婚約破棄予定なのだけれどゲームの新工場既に婚約していないとおかしいから、この世界線では王子と婚約しないのだろうと余裕をもっていたら……と思っているとそこで、フィルが頷く。
「なるほど、特殊能力がないから継げないので、王子と婚約、といった話になったと」
そう、衝撃的な推測を口にしたのだった。
私がこの国の王子様と婚約していたことが発覚!
だが、私としてはそんな話を聞いていない。そもそも、
「私、そんなの突然言われても、恋愛感情もないし……」
「メリーは夢見がちだな。だから話していないんだろうな」
それ以上私は何も言えなかった。
あまりにも絶望的な話に私は頭を抱えていると、そこでフィルが、
「だが、特殊能力に目覚めれば、話は変わるだろうな」
「! 公爵家が継げる!」
「いや……そうなると、目覚めさせない方がいいかな?」
「なんで!?」
「だって俺、メリーが好きだし」
なんでもない事のように告げたその言葉に私は……私は……。
「でも私フィルにはあったばかり……」
「メリーはそんなに俺の事が嫌いなのか?」
そこでフィルが私の手を握る。
不安そうにじっと見つめるフィルはとても綺麗で、私は断り切れないようなそんな気持ちになる。
どうしようと思っているとそこで、
「お兄様、そこにいる彼女が王子との婚約者、なのですか」
「そうだぞ、カモミール。それがどうかしたのか?」
そこでカモミールが少し黙ってから、
「私、この国の王子レファス様が好きなのです」
私がゲーム内で知っていた知識を告げた。
するとフィルが、
「カモミールはあの王子が好きなのか。だったら兄としても、可愛い恋人を手に入れたい俺としても婚約破棄は好都合だな」
頷きながらそう告げるのを聞きながら私は、はっと気づいた。
「そ、それは私が特殊能力が目覚めれば取り消しに!」
「でもそうなると公爵家を継ごうとするから俺の嫁にはなれないな。さてどうしようか」
「う、うう……」
どうやらこのフィルは本気で私を嫁にしたいらしい。
どうしよう、でも完全に嫌かというと……と私が悩んでいるとそこでカモミールが手をあげた。
「お兄様、こういう交換条件はいかがでしょうか」
それは驚くべき内容だったのだった。
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