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WORLD HAND  作者: 9
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第5話:進化の園へ

早朝


 オカルト部の部室に寝袋が2つ転がっていた。

 雄輝と銀河が寝ている寝袋である。

 それを、リリアはオカルト部のベットの上から見下ろしていた。

 

 馬鹿面をさらして熟睡している雄輝は、とても有能そうには見えない。凡人のようにリリアには思えた。雰囲気がないと言えば良いのだろうか、一般人にしか見えなかった。

 それに引き換えると、隣で寝ている黒木銀河は流石というしかない。纏っている雰囲気が常人とは違うようにリリアには見えた。


「何?」

 リリアの視線に気づき、銀河が目を覚ます。それに驚きリリアの体が驚きで震える。


「流石ですね。気配を感じましたか」

「仕事がら敏感なもんで……こいつは幸せそうに寝てるな」

 銀河は雄輝を見て呟く。


「あの1つ聞いて良いですか」

「何?」

「どうして、あなたほどの人が、その人に仕えてるんです」

「はあ」

 銀河は、あり得ないと言う顔をしてため息を漏らした。


「仕えてない。俺はこいつの部下じゃないぞ」

「そうなんですか」

「当たり前だ。そいつから金を毟り取られても、貰ったことは一度もない。俺たちは持ちつ持たれずのギブ・アンド・テイクの関係だ……そのはずなんだが、割を食うのはいつも俺だ」

 最後の言葉に哀愁が漂っていたのを、リリアは感じた。


「……こいつの言葉は心に響くだろ。実現するかはともかく、馬鹿なことでも本気で言って、迷いが一切ないからだ。そんな人間は稀だ。……俺も昔こいつに騙されて、今でも馬鹿な夢を見せられている」

「信頼できる人ですか」

「まさか、自分勝手に突っ走ていって後ろを見ないんだ。付いていく人間は常に苦労させられる。……だが、良くも悪くも決断を下し、その責任を他に転化したりはしない。それに仲間のために体を張れるやつだ。そこだけは信頼して良い」

「……あなたからの信頼を勝ち得ているのは分かりました」

その言葉に、銀河が真っ赤になる。


「馬鹿、違う」

「あなたほどの人にそこまで信頼されているなら、それなりの人間なのでしょうね」


 リリアには、また三門雄輝と言う人間が良く分からなくなった。どれだけの人間を仲間にしているかは、その人間を見定めのに非常に重要なものの一つである。

 日本で起きた大規模テロ事件を治め、一躍他国にも名前を知らしめた、黒木銀河が味方についているというのは、評価できるポイントではあるが、上下関係で縛っているわけではなく、あくまで対等な関係を築いているというのは、上下関係しか知らないリリアにとっては評価しようがなかった。


「リリアも、別にこいつの部下じゃないんだ。意に返さない無茶苦茶言い出したら、従う必要ないんだぞ」

 また、リリアにとっては難しいことを銀河が伝えた。本当に上下関係しかしらない女なのである。


「ああ、良く寝た」

 そうこうしていると、雄輝が目を覚ました。


「……銀河、モーニングコーヒーが飲みたい」

「……自分で淹れろ」

 銀河が青筋を立てながら、雄輝の意見を真っ向から却下していた。本当に上下関係にないことが、リリアには良く分かった。


「はい、リリアの分」

 雄輝は全員分のコーヒーを作って、振る舞っていた。

 日本で出会った奇妙な関係に、リリアが笑みを漏らしたが、その意味を雄輝には理解できなかった。


銀河の手配した車に乗って進化の園がある樹海まで向かう。

車の中には様々な武器が用意されていた。普通に銃刀法違反である。

 しかし、それらが活かされることはあまりなく、最小限の武器だけ持って、進化の園の入り口まで向かうことになった。

 ミサイルランチャーなんてものもあったが、そんなもの持ち運びできないし、進化の園は車では入って行けない樹海の深い所にあった。


樹海

 

 その奥に、進化の園入り口があった。

 入り口と言っても、見た目がそれとは決してわからない。実際リリアが樹海の中から選んだのは、何の変哲もない木である。


 その木を3回ノックすると、木の表面に扉が現れたのだ。

 それだけで、未知の現象と言って良い。

 雄輝にとっては、夢のような光景に心が躍っていた。


「……お前は本当に楽しそうだな」

銀河は雄輝の顔を見てそう呟く。


「こんな楽しいことが起きているんだ。楽しまないと損だろ」

「……私は怖いです」

「それが普通の感覚だ」

 リリアの言葉に銀河が同意する。


「まあ、人間は未知のことに恐怖するものだからな。俺はそういう感覚が壊れているから、気にならないんだけどさ」

 同意を得られないことを察して、雄輝は少し寂しそうにつぶやく。


「なあ、雄輝、ここはやはり作戦を考えて」

「俺の人生には前進しかないんだよ」

そう言って、雄輝は木に出来た扉を開けて一歩踏み出した。


「あの……」

 リリアが何か言って伝える暇もなかった。


「あああああああ」

 雄輝は絶叫を上げた。無策で扉をあけた雄輝は、木の中に吸い込まれ落ちていった。


「だから、言ったのに……いい気味」

 銀河がニヤリと笑ったので、リリアは驚いて銀河の方を見た。


「心配じゃないんですか」

「全然、殺す方が難しい男だよ、あいつは……。そして、いつも何も考えずに無茶ばかりして迷惑ばかりかけられるんだ。少しは痛い目にあって学ぶと良いんだよ」

 銀河はため息を吐いた。


「あいつと一緒にやっていくなら、覚えておくと良い、心配するだけ無駄だ。しょうがないなと言って、付いて行ってやるしかないんだよ」

 そう言いながら、銀河は雄輝に続いて木の中に入って行く。


 本当に、どうしてあんな人間を信じたのかと、しばし後悔しながらリリアも後に続いた。 


 木の幹に出来た扉の中に入って行くと、まるで滑り台でも下るように下に下に落ちて行っていた。雄輝の場合は、顔から落ちていったので恐怖が半端じゃなかった。


 落ちていった雄輝は、大きなキノコの上に落ちた。柔らかいキノコはクッションになって、落下のスピードを殺してくれて、雄輝は無傷だった。 


 木の中の世界。そこで綺麗が見たのは綺麗な……ため息がでるほど綺麗な光景だった。

 雄輝でさえ目を疑いたくなった。そこには生態系が出来上がっていたのだ。鳥が飛んでいて川があって魚が泳いでいる。どこに光源があるのか、辺りは明るく草木がのびのびと育っていた。木の中とは思えない。そこには確かに小さな世界があったのだ。それも神聖的な雰囲気をもつ世界だ。 


「おったまげたな」

 銀河が、着いて早々に感想を漏らす。


「…………」

 リリアは再びの来訪に複雑そうな表情を見せた。


 「お客様とは珍しい」

 そんな2人の前に1人のフード付きのマントで全身を覆った小柄な女性が現れる。顔はフードで見えないが、声で女性だと分かった。

 

 「これが噂のリリアの妹か?」

 銀河がリリアに質問する。

 「違いますよ」

 それに対して、リリアが確信をもって答えた。


 「私はマイと申します。あなた方はどういったご用件でやってきましたか」

 「…………」

 2人は回答に迷って沈黙した。目的ははっきりしていたがそれを正直に言って良いか迷ったのだ。2人は雄輝を探して視線を泳がせる。


「しゅごい」

 2人が見たのは、自分たちのことを放っておいて一心不乱に写メをとって、楽しんでいる雄輝だった。


「あの人は、本当に私の妹を救う気があるのでしょうか」

「イラッと来るだろ。あいつはいつもああだぞ。人と合わせることをしないんだ」

 2人は、雄輝を見てひそひそと話す。出会ってまもない2人だったが、少しずつ一体感をもつようになってきていた。


 フードの女性は、2人の視線に気づき雄輝を見ていた。

「あの方は、変わった人ですね。呼んできてくれませんか」

 そう言われると、銀河とリリアは猛烈に恥ずかしかった。


「おい、雄輝」

 銀河が雄輝の方に向かって、雄輝を無理やり引っ張ってくる。

「どうしたんだ銀河……おっ、こんにちは」

 雄輝は、銀河の連れていく方に人がいるのに気づいてそう挨拶をした。


「こんにちは、あなたがリーダーですか」

「そうだよ」

 銀河とリリアは非難の目を雄輝に向けたが、空気を読んで言葉に出さずに留めた。


「私はマイと申します。あなたたちの用件は何でしょうか」

 マイは雄輝がリーダーと知ると、再度、銀河たちにした質問をする。


「教祖に会って話をしに来たんだ」

 その質問に、雄輝はストレートに返した。

 含みも何ももたせない雄輝の回答に、銀河は頭を抱えた。


「教祖様とお知り合い何ですか」

「全然知らない。でも、会って話をしてみたくってさ」


「…………」

 マイは雄輝のことをフードで半分以上隠れた瞳で、射貫くように見つめていた。そして口を開く。

「お聞かせください。何故、武装してるんですか」


 銀河は多くの武器を持ってきていたが、こういうこともあるかと思い、3人とも隠せるだけの最小限しか持ってきていなかった。しかし、その努力は無駄だったようで一瞬で見抜かれてしまったことに、銀河とリリアは戦慄した。


「武器持っていたら、駄目なの?」

「ばっ……」

 これまた、ストレートな雄輝の言葉に銀河が声を漏らす。


「構いませんよ」

 しかし、返ってきたのは意外な答えだった。


「そんなおもちゃで、教祖様はどうなったりしませんしね。着いてきてください。会わせてさしあげます。」

「それは楽しみだな」

 銀河は人の気も知らずに、楽しそうに笑っている雄輝に腹が立ってきた。自分が心配しているのが馬鹿らしかった。

「気持ち、凄くわかりますよ」

 

 しかし、今の銀河には理解者がいたのだ。それが銀河には嬉しかった。銀河・雄輝・俊太郎の3人でいても、割を食うのはいつも銀河で、今はいない俊太郎も飄々としていて雄輝と大差がなかったのだ。


「ねえねえ、教祖ってどうな人なの?」

 雄輝は、マイを追いながら質問を投げかける。

「素晴らしい方です」


「……ふーん。ところで何でマントで全身も覆っているの」

「……知りたいですか」

「うん」

マイの言葉に雄輝が笑顔で返事をする。


「こういうことですよ」

 彼女は人ではなかった……否、普通の人間ではないというのが正しいのかもしれない。少なからず、得体のしれないものだった。言ってしまえば、木で出来た人形が人の皮を被っているようなぞんな存在である。ところどころが人間で、ところどころが木なのである。どういう経緯でそうなったかは、想像もできなかった。


 マイは、奇異の視線を送る銀河とリリアを見つつ、雄輝から全く別の視線を感じていた。喜びの感情である。


 そこは今までの常識が何も通用しない場所であったが、三門雄輝にはワンダーランドのように思えた。

 


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