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 月が綺麗な夜だった。

 こんな夜には、得体の知れない存在によく出会う。



 月夜の散歩は心地が良い。

 朝日や夕暮れの太陽よりも、夜の満月の方が美しい。

 むしろ、私は昼の世界が何処か居心地が悪かった。


 夜の公園だった。

 静まりかえっている。

 昼間には噴水から水が出るが、夜は池が静まり返っているだけだ。

 私はベンチに腰掛けながら、水の出ない噴水を眺めていた。

 彫像のようなものが噴水には彫られている。


 ふと、私はある人物に気が付いた。

 噴水の近くで、何か地面を這いずっている少女がいた。

 どうやら、彼女は、手に白いチョークを握り締めているみたいだ。

 熱心にチョークで地面に何か絵を描いている。


 私はベンチから立ち上がり、彼女の近くへと寄る。

 大きな円の中に、禍々しい記号が記されている。

 どうやら、彼女は月の光と街灯を頼りに、魔方陣を描いているみたいだった。

 

「お嬢さん。何をやっているんだい?」

 私は少女に声を掛ける。


「お兄さんこそ、こんな時間に何をしているのかな?」

 彼女はくすくすと微笑する。


「散歩だよ。夜の散歩は心地いいからね」

 私は微笑を返す。


「お嬢さんは、地面に絵を描いているのかな?」

「うん、そうだよ。カミサマの唄がこちらに来たいんだって」

 そう言うと彼女は、魔方陣を再び、描き続ける。


 しばらくすると、魔方陣から、何者かが頭と腕を出していた。

 少女は薄笑いを浮かべている。


 黒い(カラス)の頭がクチバシを鳴らしながら、幾つも幾つも地面から這い上がってくる。おそらくは、地獄や魔界といった類の場所から現れたものだろう。


「お兄さん。私の儀式を見たからには覚悟は出来ているよね?」

 少女は悪意いっぱいに唇を歪める。

 

「それはおかしな事だね。それは出来ないよ。何故なら、私は死神だから」

 私はそう少女に善意の笑みを返した。



 公園の近くには共同墓地が並んでいた。

 少女はよく墓地の中で寝泊まりするらしい。


 彼女は時折、何も無い空間に向かって笑い掛ける。

 話を聞くと、どうやら空想の友達とお話をしているらしい。


 地下墓地は迷宮のようになっていた。


「お兄さん。暑くないのかしら?」

 少女は言う。

 彼女は両肩を露出させたオフショルダーの白いトップスを身に付けていた。

 確かに私は全身、黒尽くめの服を纏っている。

「私は死と夜の申し子だから、このような服装しか着ないんだよ」

 私は自分のファッションの事を説明する。

 そうやって、地下階段を歩いていく。


「お兄さん。私はある生き物を甦らせたいの」

 少女はとてもはしゃいでいた。

 まるで、自分の秘密基地を見せる子供みたいだ。

 そして、その場所に辿り着く。

 辺りには、黄色とオレンジ色の薔薇が咲き誇っていた。

 地下世界に咲く薔薇だ。


そして、その部屋の中央には巨大な鳥の骨が展示されていた。


「それは一体、なんだい?」

 私は訊ねる。

「フェニックス。不死鳥の骨よ。私はフェニックスを甦らせたいの」

 闇の魔術を研究する少女は、そう告げた。


「ねえ、お兄さん。私は美しいものが見たい」

 少女は笑う。

 踊るように笑う。


 闇の中に光り輝く巨大な鳥の骨は、今にも動き、はばたきそうだった。


「フェニックスの復活には沢山の人間の生き血が必要なの」

 少女は巨大鳥の骨の脚下を撫でる。


 ふと、私は気付いた。

 部屋全体に咲いている薔薇の下にあるものに。

 それは無数の人間の骨だった。

 人間の血肉を吸って、この美しい薔薇達は花開き咲いているのだ。


「もっと、生き血が欲しい。私は不死鳥の飛び立つ姿が見たいから」

 少女は美しい程、不気味に笑った。

 ごりっ、と、人間の頭蓋骨を踏み砕く音が聞こえた。

 死体の上に咲く花が、何処か艶めかしい肉の色に見えた。

「ねえ、お兄さん。貴方、手伝ってくれないかしら?」

 私は静かに首を横に振った。


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