小さな村が滅んだ日
一人の少女がいた。
少女は重い病を患っていた。
少女に触るとその病気が移ってしまうと言う。
少女はただ一人、病院の一室にある小さな窓から外を見ていた。
隔絶された狭い病室とこの小さな窓から切り取った景色だけが少女の世界の総てだった。
ある日、いつも通り少女が窓の外を眺めていると一人の少年が見えた。
少年は窓から外を見つめる少女が気になっていた。
少女も少年が気になった。
毎日のように、少年は少女を見るために病院へ通った。
少女も毎日のように、少年を窓から探した。
そんな日々が何日も何ヵ月も続いた。
やがてある晩、少年はこっそりと病院へ忍び込んで少女に会いに来た。
少女も最初は戸惑ったが少年に言われるままに少年の手を取った。
楽しい時間はあっという間にすぎ、太陽が顔を覗かせる頃には二人は次会う約束を交わして別れた。
少女は次に会えるのを楽しみにしながら、少年と過ごした夜を思い出し笑顔で眠に着いた。
しかし、その日から少年は病院へは来なくなった。
少女は幾度となく窓の外を探したが少年は現れない、約束の日に成っても少年は現れない。
そんな日々の中で少女の少年に会いたいという思いは日に日に大きくなっていった。
ある日、少年の両親と名乗る夫婦が怖い顔で少女の部屋へやって来た。
激しく怒鳴り散らす声に怯えた少女は、ただ夫婦が出ていくのをベッドの隅で静かに待った。
少女はその晩病院を抜け出した。
夫婦が話していた場所へと走って向かう。
石で造られた十字の下に土が山のように盛られていた。
少女は土を掘った。
爪が割れ指からは血が滲み白い顔を黒い土で染ながら……
どれくらいたっただろうか、少女は闇の中で目が覚めた。
闇は深く一切の光がないことを語っていた。
手を伸ばすとなにか冷たいものが少女の手に触れた。
嗚呼、やっと会えたね。
約束の日はとっくに過ぎたけど、また二人一緒になれた……
少女は冷たい何かを大切そうに抱きしめると深い闇へと意識を沈めた。
その後、その村は数日の間に無くなった。
少女の小さな世界を残して……