たわいなくも時は過ぎるのだ
フンフン〜フン〜フン
鼻歌だろうか?
不思議な旋律の優しい音楽が部屋に響いていた。
気づけば俺はベットに横たわっている。
久々のマットレスとシーツのフカフカ。
枕の柔らかい感触を後頭部に感じる。
まぁホクトのモフモフには遠く及ばないけど。
でもあの巨体で、蚤とか湧かないんだろうか?
今度リンネさんにケアの仕方でも聞いてみようかな。
首を動かし部屋を見渡す。
木造の小さい部屋、小さめのキャビネットの上に花瓶の大きさの割には小さめの花が飾られている。
ヒュ〜っと吹く風の音とカーテンがハタハタと揺らめく音がする。
そちらを向くと窓辺にはリンネさんが立っており、肘をかけその美しい黒髪を心地良い風になびかせていた。
「起こしちゃったかい?」
こちらは向かず、風景を眺めるかのように遠い目をしながらリンネさんは言う。
ダボダボだった服装は、白シャツと黒いスラックスというすっきりとしたものに変わっていた。
見れば俺の服もボロボロだったワンピースから、黒いワンピースに変わっていた。
喪服っぽいなこれ。
「ああ、これ?、あの子の親に貰ったの、似合う?」
リンネさんはこちらを振り向くと、可愛くクルッと一周して見せた。
「似合ってますよ、でも女の子らしい格好したリンネさんも見てみたい気がします。」
「ふふ〜ありがと。
でも、ボクあまりヒラヒラした格好って好みじゃ無いんだよねぇ〜マリアちゃんがどうしても見たいっていうんだったらご披露するけど。」
「じゃあ、どうしても見てみたいです。」
「・・・・うん、わかったよ」
モジモジとキャラにない赤い顔をしながら答えるとリンネさんはベットの横に来て腰掛けた。
俺も腰を上げ壁にもたれかかる。
身体からは痛みを感じない。
あれだけの戦闘で受けたダメージが綺麗さっぱり抜けていた。
自動回復恐るべし。
いや・・・・あの新しいスキルのせいかもしれない。
「マリアちゃんは、白よりも黒の方が似合ってるよね、やっぱり」
「ん〜、それって褒められてるんですか?」
「もちろん褒めてるさ」
この服装にゴスロリメイクでも施したらリンネさんなら泣いて喜ぶかもしれない。
「あの、リンネさん」
「ん?」
「また私、魔力枯渇を」
「そうだね」
「・・・・・・」
「でも気に病む事は無いさ、ただのゾンビ相手に一々魔力枯渇を起こされてたらお話にならないけど、相手が相手だったからね。」
「そういえば、あのガイコツ最後に妙な行動してましたけど、あれって?」
「前にも言ったかもね、、、、。
特定以上のモンスターには意思がある。
厄介なことに人間と同じく感情もある。
上級になればなるほど、一般の人間なんて問題にならない程豊かな知識と知力を持った者も存在する。
今回戦った死霊騎士は尺度でいえばその中間位かなぁ、人間だった頃の記憶が一時的に蘇って恐らく刀礼の時の記憶と混濁したんじゃ無いかな?」
「とーれい?」
「騎士叙任式で主君が剣で首筋をトントンするやつ」
「あ〜RPGとかのムービーでよくある」
「ムービー?アールピージー?」
「うん?
あ、、、。
勇者候補だった時の断片的な記憶かな?」
「ふ〜ん、マリアちゃんの事を主君かなんかと勘違いしたんでしょ、多分。」
「なるほど・・・勘違いですか。」
「ふ〜、、、。
単純なアンデットとの戦闘は首と胴体を切り離せばそこで終了、でも死霊騎士、上級アンデットモンスターには心臓ではなく身体のどこかにコアが存在する。
それを破壊しない限り奴らは再生を続ける。
運良く今回は身をもってそれを体験できた訳だね。」
あの時感じた違和感は杞憂なのかもしれない。
ただ単に仕留めきれなかった死霊騎士をリンネさんが俺の代わりに仕留めただけ。
それだけの事。
違和感を感じたのはアラケニアさんやアラーニェさんと言った上級の魔人に接したから・・・。
あああああ、どちらによ、今ごちゃごちゃ考えたからって、俺は目の前にいるこの人に師事するって決めたんだから、信じなくてどうする。
それに、あのガイコツが俺を主君として受け入れてあんな行動をしたなんて、それこそ、、、、考えにくい。
「そういえば、ルリさんとホクトは?」
「ホクトは周囲を見回ってるんじゃないかな?
粗方ゾンビ共は片付けたとはいっても、あいつらはいつどこで湧いても不思議じゃ無いからね。
ルリさんはお嬢様に合わせる顔が無いって、下にいるよ」
合わせる顔が無いって、、、。
いつの時代の話だよ。
いつもなら、ちょこんと俺のベットの横に座ってるだろ、、。
いつもなら。
「使用人じゃなくて、魔剣士ルリさんのキョウジってやつかもね。」
「魔剣士のルリさんですか」
「まぁ、あれだけの戦闘を見せられれば、良かれ悪かれ、戦う者だったら、影響を受けない方が嘘ってものでしょ。」
「・・・・それにしたって。」
「ここにいたのがボクで不満だった?」
「いえ、、不満とかじゃないです。」
「ふ〜ん、ボク寂しいなぁ、せっかくマリアちゃんの為に
」
コンコン
ノックがリンネさんの言葉を遮る。
「はい?」
ギーーーっという音と共に、赤髪の女の子が後ろ姿を見せながらドアをお尻で押しつつ入ってくる、両手にはお盆を持っていて、お盆には湯気のたったカップが乗っていた。
確か、メルちゃん?
あのお母さんが叫んでたの聞いただけだけだから定かでは無いけど。
年齢は7〜8歳だろうか?
ソバカスがチャームポイントであろうその顔は幼いが、やはり将来美人さんになりそうな可愛い顔をしている。
どうりでロリコンゾンビ共が俺には目もくれない訳だ。
そのメルちゃんがぎこちない足取りで、飲み物が溢れないように慎重にゆっくりと俺の方に向かって歩いてくる。
「お話し中の所申し訳ありません、娘がどうしてもときかなかったもので」
少し遅れてお母さんが丁寧に頭を下げながら部屋に入ってきた。
「いえ、大丈夫ですよ」
俺がそう答えると、お母さんは頭を上げメルちゃんの後ろにつきワナワナ心配そうにメルちゃんを見つめる。
当のメルちゃんはお母さんの心配を他所におぼつかない手つきでベットにお盆を下ろすと。
「熱いから気をつけてね」
と俺にカップを差し出した。
「ありがとう、美味しそうだね」
「フーフーする?」
「こらメルっ、失礼でしょ」
「大丈夫ですよお母さん、じゃあメルちゃんフーフーして下さい。」
俺が微笑むと。
「うん」
とメルちゃんはカップを口元に持っていき息を吹きかける。
はぁ、目覚めちゃうよ、色んな意味で。
「はい、お姉ちゃんもう大丈夫だよ」
「ありがとう」
俺はカップを受け取り、液体を口に含む。
ああ〜乾いた身体に染み渡る、ホットミルクの自然の甘み。
身体に優しすぎてこのまま二度寝でもしちゃいそうだよ。
「とっても美味しいね」
「うん、うちの牛さんが、いっぱい頑張ってくれるから、いっぱい取れるの」
満面の笑顔で答えてくれるメルちゃん。
俺にはそういった嗜好は無いが、無意識にメルちゃんの頭に手が伸び撫でてしまう。
「えへへ」
はにかんだ笑顔のメルちゃん。
魅了耐性が発動しない分、アラケニアさんの魅了よりもよっぽど危険だよー。
「この度は本当にありがとうございました。
本当に一時はどうなることかと、まさかこの土地にモンスターが出現するだなんて、、、。
思ってもいなかったものですから。」
「何事にも完全に安全なんて物はないでしょ普通。
モンスターは出ないとしても、猛獣が出ないとも限らなかったんじゃない?
こんな田舎なんだし。」
リンネさんは座りながら厳しい視線でお母さんを見つめる。
「そうですね、私達もここに移り住んできた当初は集落の皆んなで協力して、柵等を作り警戒していたんですが、本当にこの土地にはモンスターが出現する事が無くて。
その、、、奇跡に、、、甘え過ぎていたんでしょうね。」
「奇跡ねぇ、、、。」
この話題になると、リンネさんはちょっと不機嫌そうな顔をする。
「そういえば、ご主人は?」
俺がそう尋ねると、更にお母さんの顔が深く落ち込み闇色に染まる。
「はい、収穫物を納めにエスパルに、、2日前位から家を出ています。」
「2日前ですか、、、心配ですね。」
「狼煙もエスパル迄伸びていたから、どこの集落でも同じ事が起こっているだろうね。
エスパルの対応が迅速ならいいけど。
最悪の場合。」
「リンネさん」
少し強めに言葉が出てしまった、、、。
「うん。」
少ししょんぼりしたリンネさんの頭をポンポンとメルちゃんが優しく撫でる。
「お姉ちゃん泣かないで」
「ボクは平気さ、君はお母さんのそばにいてあげなよ」
てっきり天使!とか言い出してぎゅっとするかもと思ったけど、以外と冷静だなリンネさん。
そうだよなぁ、よくよく今の状況を考えたら、こんな所でゆっくりとなんてしてられないよなぁ。
まぁ誰に依頼されたでも無いけど今のメルちゃんの笑顔を守る為にも、お母さんのような顔をしている人を一人でも多く作らないようにしないといけない。
幸い俺には、その力がある。
力を持った者にはその義務がある。
ばあちゃんの教えの一つ。
今までだって、亡くなった人相手にユラユラの中で同じ事をしていた、
それが生きている人相手になっただけの話。
マリアのように英雄になれる訳じゃ無いけど、ちっぽけでも俺がやれる事をやりたい。
ばあちゃんのおかげで人助けが身体に染み付いてるのかも
「リンネさん」
「ん?」
「行きましょう」
「うん」
そう答えるとリンネさんはヒョイっと身体を浮かせ床に着地する
「あ〜そうだ、お嬢ちゃん、」
「メルだよ」
「んじゃメルちゃん、お花ありがとうね、精霊が喜んでたよ」
「セーレー?」
「うん、ボクの見えないお友達がありがとうって言ってたよ」
「うん」
「あの」
お母さんが不安そうな顔で俺に声をかける。
「安心してくださいとは言いません。
私は私に、、、私達に出来る事をするだけです。
もしご主人に何かがあったとしても。」
「はい、、、覚悟はしています。」
幾分かお母さんの顔に明るさが戻ったかもしれない。
リンネさんはウンウンと頷いている。
こっちもこっちで何か納得しているらしい。
グウウウウ
不意に俺のお腹が轟音を立てた。
「・・・・・すいません」
お母さんとメルちゃんは顔を見合わせると。
「本当だね」
「本当ね」
と声を合わせてクスクスとする。
「え?」
「ルリお姉ちゃんが言ってたの、お嬢様がきっとお腹を空かせて降りてくるから、私は食事の用意をしておきますって、それが私の務めですからって」
「それってボクの分もあるのかなぁ?」
「それはどうでしょうか?」
「無かったら、マリアちゃんの分けてね」
「嫌です。」
「えええ、ひどいーーー」
うやむやになった感は否めないけど、、、。
リンネさんは、リンネさんだよな。




