初めての人助け、頑張ろうと思うよ。
7匹!8匹!
グシャリ
「かっっ!」
ぬかるんだ地面が嫌な音をたて俺の足をあらぬ方向に持っていく。
「つっ!!くっそっがっ!」
無理な体勢から放った棒切れの一撃がゾンビの頭を形容しがたい音をあげ粉砕する。
その代償としてよじれた腹筋が悲鳴を上げた。
「はぁ〜、はぁ〜、、、9」
痛覚耐性スキルのおかげで横っ腹の痛みは感じないが、、、。
変な方向に曲がっている足を見るのは寒気と身震いを感じる。
流石に痛覚耐性スキルを持っていてもこれだけの怪我には対応仕切れないらしく多少の痛みを感じる。
だが、それでもこの怪我で多少だ、ばあちゃんのゲンコツよりも痛くはない。
「はは、俺の体も大概ファンタジーだな、、。」
この足も自動回復スキルのおかげで、数分後には元に戻るんだろうが、痛みよりも現在進行形で感じる膝のグニグニと動くような違和感がどうしようもなく気持ち悪い。
「あと、、、6匹」
俺は棒切れにもう一度魔力を通し直すと、目の前にワラワラと群がりはじめたゾンビに対し剣術でいうところの正眼の構えをとる。
「コラ!エルドルアさん、助太刀に行こうとしないの〜」
全身のバネが今にも躍動しかけそうになるように縮こまったルリの肩にポンっとリンネが手を置いた。
「しかし!あの怪我では!」
「大丈夫、ダイジョーブ、マリアちゃんはまだ膝をついたわけじゃない でしょ」
「確かにそうですが」
「それに、自力でいったらマリアちゃんの方が、エルドルアさんより数段上だよ。」
「そんなことは、言われなくても」
「わかってるなら、マリアちゃんを信じて我慢しなきゃ」
「・・・・・・・・・・」
ルリの真一文字に閉じられた唇の奥からギリギリと歯軋りの音が凄い音量で流れてくる。
「これも修行の一環なんだから邪魔しちゃダメ、、、って、エルドルアさん、顔怖い。凄い怖い。」
「そうですか?」
「ほ〜く〜と〜た〜す〜け〜て〜」
横にいるでっかいモフモフに抱きつこうとするが、ヒョイっとかわされる
「はぁ〜ホクトお前もかい?」
見ればホクトのいた地面が抉れている。
「グルル」
「・・・・」
リンネは低く唸るホクトの頭を優しく撫でながらじっとマリアを見つめる。
その顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「嬉しい誤算だよね〜今の状態でも普通のゾンビ相手なら問題にもならない、、。
でもあの個体だけは今のマリアちゃんじゃきついかもね。」
「グルルル」
ホクトが怯えにも似た鳴き声を上げる。
「ん?ごめんごめん大丈夫だよマリアちゃんならね」
「ぷはぁーあ!」
息が続かない、緊張も相まって呼吸がおかしい、苦しい、無呼吸運動が続く、何よりゾンビが臭い!!
それらのイライラ全部を込めて棒切れを振るう。
バスアーン
新たに棒切れの犠牲になったゾンビの頭が吹き飛ぶ。
「はぁ〜はぁ〜、、じゅう・・に・・・」
倒した敵の数を数えるのが癖になってるかな、良いのか悪いのか解らないが、数が減っていく実感が湧いて気が楽になる。
「あと、、3」
「お姉ちゃん頑張って!」
「メル!!駄目」
不意に前方の建物の窓から7、8歳だろうか幼い少女が顔を出し、マリアに向けて声をかける。
それを制したのは母親だろうか、少女に覆うように抱きつき窓から少女の姿を隠す。
残りのゾンビが今の声に反応したのか2匹が建物の方を向きユラリと移動を開始する。
「待てよお前ら、、、。
はぁ〜、、俺には魅力がないってか?
こんなに可愛いのに、、、。
いや、、生前ロリコンだったのか?」
こちらに向かってくるゾンビの頭を横薙ぎに払った一撃で潰し建物に向かった残りの2匹を追う。
魔力で強化された俺の肉体はすんなりと俺の意図を把握し通常の全速力を軽く超えた速度を俺に提供する。
「あと2匹!!!」
刹那ゾワっと背筋に悪寒が走った。
スキル 「気配察知」を入手しました
え?何?今?何で?
「うわっつ!」
不意に足がロックされる。
ブカブカのブーツがすっぽ抜け俺は勢い余って二回転ほどする。
また泥にはまって?
・・・嫌。
すっぽ抜けたブーツがグシャリと潰された。
あれ?確か鉄板が仕込まれてたよなあの靴。
その靴がああもあっさりひしゃげるなんて。
モコモコとその場の土が盛り上がりその原因が徐々に姿を表す。
出てきたのは手、、、だがその手には肉がない、ただの骨。
だがその骨はその身に不釣り合いで高価そうな、だが鈍い光を放つ鎧を纏っていた。
「そんな、、死霊、、、騎士だなんて。」
ルリがぼそりと呟く。
「おめでと、マリアちゃん、お目当てのスキルは入手できたみたいだね」
「では、今すぐ加勢に!」
「まだ駄目!」
先程とは違い肩を掴まれた手には力が込められていた。
「っ!!」
動けない。
文字通り動けない。
身体が金縛りにあったかのように微動だに出来ない。
「ふざけないでください!
死霊騎士なんて、お嬢様の今のレベルと職業で何とかできる相手じゃないでしょ!
そんな事あなただって!」
「わかってるよ
だからいーんだ、これでマリアちゃんを測れる」
プツン
ルリの中で何かが切れた音がした。
「だから、ふざけるなと言っている!」
ルリの見開かれた瞳は紅く染まり腰にはリンネが見たことのない刀が出現していた。
「あれ?動けるんだ」
ルリの肩に置かれた手は振りほどかれ、その白く美しい刀身の切っ先がリンネの首筋に触れる。
「次は止めません」
殺気のこもった紅の瞳はゆっくりとリンネを見下ろす。
「ふ〜ん、いいねぇ〜それがエルドルアさんの魔剣かい?」
ルリはその問いに答えず、ゆっくりと振り返る。
「マリアちゃんの事になると、本当に駄目だね、エルドルアさん、少し冷静になったら?」
「黙れ!!」
ルリは常人を遥かに凌ぐスピードで抜刀し、魔剣アラーニェを横薙ぎに振り抜く。
だが。
リンネの手がそのスピードを殺した。
キーーーン
まるで金属同士が打ち合ったかのような音が鳴り響く。
「・・・・」
「ん?」
「ふざ・・・けるな!!」
ルリは身体を小刻みに震わせながら、動揺する自分を抑え切れないでいた。
殺すつもりで放った一撃が素手で止められたのだ。
その事実を脳が受け入れない。
棒立ちしたルリの手にはもうアラーニェは握られていなかった。
「どう?落ち着いたかい?」
気付けば先程迄の激情は消え去りつつあった。
「・・・・・」
「ん?」
頭上で俯いたルリの顔を下から覗き込むようにリンネは首を傾げる。
「・・・すみませんでした。」
「何が?」
「仮にも恩人に対して刃を向けるなんて」
「全くだよ、ホントーにもぉ、手の皮が剥けちゃったじゃん」
「申し訳ありません。」
「うそうそうそ!!!
あーごめんねルリさん。
少しからかっただけだから、ほら無傷、無傷!!」
言いながらリンネはルリに手のひらを見せる。
「はは・・・・その方が充分心にきますよ。」
乾いた笑いがルリから溢れる。
「いやぁ、魔力がこもってない状態の棒剣いや刀か、なのにボクに本気で防御させるなんて、大したもんだよ、これも嬉しい誤算だよね。
それと、マリアちゃんの事思っての事なんだから、全然気にしてないよ」
この人なりに気を遣ったんだろうが、自分の力を遥かに凌ぐ実力者のそれは違った意味で心に響く。
昔よくあの人からもぎこちない慰めの言葉をかけてもらってたっけ。
はぁ、、、自分の情けなさに涙が出そう、、、。
お嬢様が急速に力を取り戻そうとしているのに私が止まったままじゃ、振り向いてさえ、、、。
「・・・有難う・・ございます。
あの死霊騎士、あなたが大丈夫だというなら、そうなんでしょう、、しかし」
「あの親子の方にはホクトを向かわせたよ。
これでマリアちゃんは集中してあの死霊騎士と戦える」
「はぁ〜やる事にそつがありませんね」
ルリは右手で顔を覆いながらゆっくりと溜息を吐く
「まぁいざとなったら、ボクもルリさんもいるし、問題ないでしょ。
でもあの鎧どっかで見たことあるんだよなぁ」
圧力
俺のスキル、威圧にさらされたあの狼達も今の俺と同じような感覚をあじわっていたんだろうか。
あのガイコツが、地面から這い出て来るまで、俺はただ見ていた、あの親子の元に行った残りのゾンビ二体の頭をカチ割る時間は余裕にあったかもしれない、しかし、動けなかった。
まるで、足に楔を打ち付けられたかのように動けなかった。
幸いリンネさんに許可をもらったのか、ホクトが、楽々と残りのゾンビの頭をカチ割って、そのまま建物の前に気だるそうに丸まって鎮座している。
「向こうはもう安心だな、、、。
でも、ホクトがこっちに加勢しに来ないって事は、こいつは俺一人でどうにかしろって事ですよね、リンネさん」
俺は後ろでニヤニヤしているであろう、リンネさんの顔を思い浮かべながら、一人愚痴る。
後ろを振り向くなんて愚行を犯したら即真っ二つ確定、こいつのそれはそれ程に半端なかった。
今目の前にいるガイコツは俺がこの世界に来て初めて出会った強敵、嫌、凶敵か。
ガイコツの全身が姿を表した事によって、嘘のように、金縛りのような感覚は消え去った。
だが次にあいつの禍々しい身体から黒いモヤモヤが吹き出た瞬間に俺の全身に鳥肌が立った。
凄まじい圧力、寒気にも似た見えない何かに俺の身体が包まれる。
呼吸するのが困難になり心拍数が上がる。
俺の心臓が早鐘を打った。
不覚にも膝が笑いだす。
・・・・どうやら、痛めていた足はもう治ったみたいだ。
「くく」
冷や汗が俺の頬を伝う。
どうやら俺はこの状況でニヤついているみたいだった。
「本当に大概だよ、全く」
「ううううううがぁぁぁぁぁっぁあ!!!」
俺は力の限り腹の底から声をあげ叫んだ
スキル 「恐怖耐性 初級」を入手しました。
先程迄の寒気と鳥肌が一気に消え去った。
あの時の、、爬虫類とクソ魔王に感謝だな。
「はぁはぁ、、、。
初級でどうにかなるなんて、実は大した事ないな!お前!!」
俺は切っ先をガイコツに向けた棒切れに魔力を込め、ガイコツに突進する
カチカチカチ
笑っているんだろうか?
表情なんて物が無いから、何とも言えないが、ガイコツの顎が上下し、音を鳴らした。
ガイコツが宙空に手をかざすと黒い渦が生まれそのままその中に手を差し入れる。
「うーーーおりゃーーーー!!」
俺は加速した勢いでジャンプし奴のガラ空きの脳天目指して棒切れ、もとい俺の魔力を振り下ろす。
ガキーーーン
ガイコツはどこからか現れた大きめな剣で俺の棒切れを受け止めた。
ブオンと鈍い風を切る音がしたかと思うと、俺の右半身に衝撃と痛みが走り、気づくと地面に打ち付けられていた。
「がぁっは」
何が?起きた?
「ぺっプッチ」
目や鼻、口に入った砂利や泥が気持ち悪い。
吐いた唾には血が混ざっていた。
混乱する意識の中、ぼやけた視界でガイコツを見るといつの間にか奴の左腕に中型の丸い盾が出現していた。
これがゲームとかでよくある「シールドバッシュ」って奴なのか?
地面に手をつき立とうとするが、鋭い痛みが俺を縛る。
「くっつっ!!」
痛覚耐性があってこの痛みって、、、車にでも轢かれたのかよ、実際轢かれた事なんてないけど確実に骨折はしてるだろうな。
よくあるシュチュエーションだと、肋が折れて肺に刺さってるとかか?
「はぁはぁ〜っつー!!
あーーーークッソ!!」
呼吸する度にピキピキと痛みが走る。
不思議とこんな状況でも恐怖はない、恐怖耐性のおかげだろうが、人間辞める階段を登る音が聞こえてくるよ。
ガシンガシン
奴の立派な鎧がロボットの行進のような音をたて俺の方へ近づいてくる。
はぁ、、。
人助けしてる実感が今になって湧いてきたよ、俺さっきかわい子ちゃんに頑張ってって言われたんだよ、、。
だから頑張らないといけないんだって、、。
めんどくさ。
「燃えて、爆ぜろ」
俺が呟くとガイコツの進行方向に奴の半身程の大きさの火球が出現する。
それは急速に辺りの酸素を取り込み、大きさを増す。
ガイコツは動きを止め一旦下がろうとするが酸素を取り込む勢いが、ガイコツをも取り込もうとゴーゴーと音を鳴らす。
しかしそんな状況でも奴は相変わらずカチカチカチと顎を鳴らし、危機的状況を楽しんでいるかのような余裕を見せる。
骨だけのくせに感情がある?
人を襲う事以外にモンスターに思考する力がある?
少なくともゾンビには何も考えている様子はなかった。
ただ自らの渇きを癒すかのように生きている人間を襲っていた。
しかし目の前のこいつはアラケニアさんやアラーニェさんらと同じく感情がある。
モンスターの線引きって難しいよなぁ。
「ククっ」
はぁ、、何考えてんだか。
俺自身こんな危機的状況を楽しんでるじゃん。
火球が奴を覆うほどの大きさまで膨らむと徐に奴は右手を挙げ手に持った剣を深々と地面に刺した。
ザス!!
ゴーっという凄まじい音を一瞬低く鈍い音が打ち消す。
引きずり込まれそうになっていた奴はその瞬間その場から一切動かなくなり俺のいる方へその真っ黒な視線を向けた。
まるでどうだと言わんばかりの自慢げな表情を浮かべて。
「カ・・・・チ」
しかしそこに俺はいなかった。
「ぶわぁーか!!後ろだよ!!」
俺は渾身の突きを奴の鎧の隙間から覗くぶっとい腰椎に突き刺す。
「かか」
「リンネさん?」
ルリがリンネを見やると自分を抱きしめるように両手で腕を交差しフルフルと小刻みに震えていた。
その指先からは血が流れている。
「リンネさん一体どうしたんですか?」
リンネからの返答は無くブツブツと何かを言っているようだが、聞き取れない。
表情も下を向いてしまっていて見ることが出来ない。
この人もこの人なりに加勢に行きたいのを我慢しているのだろうか?
だとしたら、さっきの言動はとても恥ずかしく、反省しかない。
「ケケケケ
あはは
かかか
いいね、いいよ我が主人、今の移動方はボクの理の外のスキル、一体なんなんだいそれは?
ボクをこの世に呼び戻した力の一旦なのかい?
ケケケケ
あぁ、、君は自分が今のこの状況を作った張本人だって知ったら君はどんな顔をみせてくれるんだろうねぇ?
しかもこんな小競り合いなんか事の発端にしか過ぎないなんて知ったらどんな顔をするんだろうねぇ?
まぁ勿体無いから教えないけど、想像するだけでワクワクが止まらないよ。
だから負けないで、そんな奴に、元ボクの部下なんかにね。」
ラウンズ12、エナ・ハーン、彼女はラウンズの中で総合では最弱、魔力無しの剣技、格闘では、7番目だったっけな?
魔法はからっきしだったけど、肝っ玉だけは、、、。




