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頑張るのは自分の為だ

流れる汗をシトシトと降る雨が洗い流す。

額から伝わる雨水が口に入った。

汗と混じって少ししょっぱい。

着ていた元々真っ白だった赤黒いワンピースも雨のせいで肌にくっついて気持ち悪いし、下着のラインがくっきりと浮き出てしまっている。

背筋が冷たい気がするのは、雨水のせいか、突き刺さる様な視線を感じるせいのか。


後ろを振り向くとリンネさんがニコニコしながら後ろ手に手を組んでピョンピョンと余裕で降りている。

実に馬鹿馬鹿しく羨ましい運動神経だ。

ルリさんは先行して道を作ってくれている。

ホクトは相変わらず俺達とは距離を取り警戒に当たってくれている。

ご主人様の方も少しはホクトの真面目さを見習って欲しいと思うのは贅沢なんだろうか、、。

まぁリンネさんはリンネさんであれで真面目にやってるんだろうから、何も言うまい。


「はぁ、はぁ、はぁ」

ため息混じりの荒い息が白く立ち昇る。


たかが丘から降る道のりがこんなに険しいなんて思いもしなかった。

もとの世界で登った山なんて、小学生の時に遠足で行った山とも呼べない小さな山以来だ。

整備されていた道と違って今歩いている道は、苔むした岩や、石、草や木が生い茂り行く手を阻んでいるので一歩一歩歩く毎に体力を削られる。

裸足だった足元に履いている靴も昨日リンネさんがどこからか拾って用意してくれていたブカブカのブーツ状の安全靴の為、歩きづらさを倍増させていた。

ありがたい事に昨夜のゾンビ騒ぎから今まで結局モンスターに遭遇する事はなかったが、臨戦態勢を解く事が出来ない為精神的にもキツイ。


それに加え。


「!」


たまにリンネさんから飛んでくる凍りつくような殺気が心臓に悪い。


昨夜の事になるけど。


「リンネさん私を強くしてください!」

「どのくらい?」

「え?」


くりっとした可愛い瞳がアホみたいにキョトンとした俺を真っ直ぐ見つめる。


どの位か、、。

断られるかもしれないから、あまり具体的に考えてなかった。


「え、、あの、、、じゃあ、せめてリンネさんとルリさんに頼らなくてもいい、、、位に」

「マリアちゃんは魔素さえ取り除いちゃえば、結構な強さだとは思うんだけどね、まぁ力のコントロールはどうにかしないとだけど。

あとは」

「あとは?」

「経験と、器の容量。」

「経験はこれから嫌って言うほど積めると思うけど、器はそうはいかない、だけど手っ取り早くどうにかする手立てはあるよ。」

「どういう方法なんですか?」

「職替えだね」

「職替え」


要するにゲームのジョブチェンジとかクラスアップ的なものなんだろうか?。


「簡単に言えば、今の娘っていう一般職からレベルを上げて上級職に職替えするっていう方法かな」

「上級職になると容量がどうにかなるんですか?」

「うん、内包出来る魔力の量が増えるんだよねぇ、職業にもよるけど。」


やっぱりそうだった。


「例を挙げれば、エルドルアさんの魔剣士とか、魔術師の上級職の魔導師とか、騎士とか、司祭とかかな」

「ちなみにリンネさんの職業って?」

「フフーン、ちっちっち、マリアちゃん、冒険者のステータスを詮索するのはマナー違反だよ」


と、いたずらな表情を浮かべ、人差し指を立て左右に振る。


「あ、ごめんなさい」

「でも、そうだなぁ、、マリアちゃんには特別に教えてあげるね!!」


いいんかい!

満面の笑みから溢れる八重歯が可愛いなぁもぉ!


「ボクの職業はエクストラジョブの勇者でーす!!」

「はいはい、それはさっき聞きました。

聞いた私が悪かったです。」

「え、ええ、、、冗談じゃないよ、本当に勇者なんだってばぁ〜、マリアちゃーん。」

「はいはい」


「それ信じてない目ぇ〜、、、まぁいいけどさぁ。」


確かめる方法が無いので、話半分だが、今の自分にとっては、リンネさんが勇者かそうでないかというのは、どっちでもいい事で、今は目の前にいるこの人が強い、、只々強いという事実さえあればそれでいい。


打算と思われてもしょうがないかもしれないが、今日起きた色々な事が、ファンタジーな要素が俺に期待と焦り、、、そして不安を覚えさせていた。


今のままでは俺はマリアの希望を叶える事は出来ないしリョーマのいってた冒険を楽しめという言葉さえ実行出来ない、只のひきこもりの豚になる自信がある。


だから俺は、強くなりたい。


「マ〜リ〜ア〜ちゃーん」

「はい?」

「マリアちゃんって考え込むと思考止まるよね」

「それ矛盾してませんか?」

「いやいやいや、めっさぼーっとしてたよ。

それ戦闘中にやったら死ぬよ」


きゅんと心臓が冷たい何かに掴まれる感覚に陥る。


「・・・・かは」


呼吸が出来ない。


「はぁーい、エルドルアさん、これさげよっか?」


気づくと、ルリさんがリンネさんの背後に立ち喉元にナイフを当てていた。

切っ先からつーっと赤い血が流れる。


「流石だねエルドルアさん、力は最小に抑えたんだけどね」


リンネさんは小さく両手を胸の前に挙げ降参のポーズを取る。


「それで最小ですか、思った通りのバケモノじみたお力ですね」

「そのバケモノって言葉、結構傷つくんですけど。」


降参ポーズのまま笑顔で答えるリンネさんの目は笑っていない。


「はぁ〜」


ルリさんが呆れたように息を吐くとその目がゆっくりと赤みを帯び始める。


辺りの空気がキーンと鋭さを増すのが俺でもわかった。


「やめて下さい二人とも!!」


「ん?」

「ですがお嬢様、今のは」


「私が頼んだんです!」

「頼んだとは?」

「私がリンネさんに強くして下さいって頼んだんです」


ウンウンと何度も頷くリンネさん。


「・・・・・・

あ、、え、、あ、、、その」


状況が飲み込めたのか、ルリさんの顔が戦士の顔からいつもの表情に崩れ始めた。


「も、、もうしわっけありませーーん」

「いいていいて、それより、それ危なくない?」


ナイフを持ったまま顔を覆うルリさんを気遣うリンネさん、流石にです。


「まぁボクとしては、一回本気のエルドリアさんと手合わせしてみたい気もするけど。」

「いいえ、私なんて」

「謙遜しすぎは嫌味だよ、エルドルアさん」

「そうですね、、、では、機会があれば、胸をお貸しください。」


ルリさんの口角が少しだけ上がる。


「かっかっっか!

いいねぇ、その貌、ボクの好きな貌だよ」

「はぁ〜、、、やめて下さい。人をからかうのは」


誤解が解けたんだろう、さっきの張り詰めた雰囲気が嘘の様に無くなっていた。


「リンネさん今のは?」

「殺気だよ、マリアちゃんを殺す気で魔力を込めたやつ」

「え、、、、。」

「私も昔よくクソ、いえ、師匠にやられました」


ルリさんよっぽど嫌な経験だったんだろうね。

心中お察しします。


「マリアちゃんは結構強いくせに何故か基本的な事が出来ていない気がするんだよねぇ、例えば殺気、、まぁ気配の感知みたいな?

元英雄さんでだったんだし、日常生活が死に直結するような生活してたでしょ?

そんな生活おくってたらたとえ記憶喪失だったとしても身体に染み付いてると思うんだけどなぁそういう感覚」


その生活をおくっていたのは、あくまでマリアなので俺の経験ではない、ばあちゃんに鍛えられてはいたが、それはあくまでももとのせかい基準であって、こちらのせかい基準ではない。

まぁ、霊能力っていう特殊な要素はあったけど、死にそうになった事は両手の指で足りる程度の経験数なのでそうそうそんな特殊な感覚が身につくはずもない。


「マリアちゃんが手っ取り早くっていうのを希望してたから、スパルタで進行しようと思ってね」

「人やモンスターの意識には極僅かですが魔力や魔素が含まれています、特に敵意や好意など感情の込められた意識には顕著に。

それに日常的に触れる事で、外敵の接近を感知できるようになるんです。」

「達人クラスになると、普通にそういった物を消すけどね、さっきのエルドルアさんみたいに」


確かに、、。

さっきのルリさんは気付いたらリンネさんの背後に立っていた。


やっぱりルリさんも相当強いんだろうなぁ。


それにしても、いつもならピンピロリーンスキルなんとかを入手しましたとか言って脳内にメッセージが流れる所なんだが、経験しない事には入手もクソもないか、、。


まぁ始めたばっかだし、仕方がないか、、。

頑張るしかない。


「目指せ次の町で職替えーーー!!」

「リンネさん、それはいくらなんでも無理です。

エスパル迄普通に向かったとしても2日、、いえもっと短いかもしれませんよ。」

「う〜ん、エルドルアさん、そこはボクの育成スキルを最大限に活かして、あ、マリアちゃん今レベルいくつ?」

「娘レベル12です」

「あの、、リンネさん育成スキルなんて聞いた事ありませんが」

「あーそれ精霊魔法の一種だから、失われたスキルだから気にしない気にしない。」

「・・・・何も言い返せない自分が恨めしい。」

「職替えってレベルいくつでできるんですか?」

「そうですね、基本30から職替えは可能ですが、普通にレベル上げをするとなると18上げるのに最短でも一ヶ月以上はかかります、でも、狼って結構いい経験値を持ってるんですね、それとも娘という一般職の特色でレベルが上がるのが早いのか、、、。」

「ダイジョーブこのリンネさんに任せなさい!!

かっっかっかかか!!」


あ、ダメだ、何かダメな気がする。

不安しかない。


そして今に至る。


「お嬢様ーーー!」

「は〜い!」

「平地に出ます!!」


いつのまにか雨は止み、木々の間から日がさしてきていた。


ズルッ!!


「ハブし!」


ベターーン


後ろの方から変な音と声が聞こえてきたが、無視、、だな。






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