訪問者は・・・
タンッ
金属が樹木に突き刺さるような音が俺の座っている左奥の茂みの中から聞こえた。
「うーん、せっかくのボクらが楽しく食事してるっていうのに無粋だなぁ、死にたいの?」
物騒なセリフをあどけなさが残る笑顔まじりの表情で言ってのけるリンネさんの見つめる先には一体何がいるのだろうか?
夜の暗さもあいまって俺には何も見えない。
もちろん串焼きがどこかに突き刺さる迄は俺たちの会話以外物音もしなかった。
「リンネさんあれは?」
ルリさんが声を抑え臨戦態勢をとり、リンネさんに尋ねる。
その様子は先程迄の使用人ぶりが嘘だったのかのように表情に険しさが宿った戦う者のそれだ。
しかもその手にはいつのまにか短めのナイフが握られている。
それも秘密の小箱から取り出したの?
なんて気軽に声をかけれる雰囲気では無いのでこの質問は次の機会にとっておきます。
「うん、何なんだろうね、面倒くさい殺気を垂れ流してるから君の仲間かもね」
とホクトに目をやるが
「グルゥ・・」
心外ですなぁという返事とも取れる相槌をうつ。
そのホクトでさえも既に巨体を起こし、何者かがいるであろう方向に向かい威嚇を始めていた。
あーーうん。
俺だって気付いてたさ。
呑気に串焼きを食べようとしてたわけじゃない。
俺はそーっと口元の涎を指で拭った。
「おーい、出ておいでよ、楽にしてあげるからさぁ」
そう言われて出てくる奴がいるんだろうか?
パチリ
枝だろうか、何かを踏みつけた音がする。
「・・・・・・く・・」
暗闇から、焚き火に照らされる明るい世界にゆっくりと闇が入り込んできた。
「あれ、あいつ」
「あれ?マリアちゃんお知り合いなの?」
「知り合いも何も、今さっきとてもお世話になった冒険者の片割れです。」
暗闇から出てきたのは忘れもしない、奴らの一方、ずんぐりむっくりのマタギだった。
「チッ」
舌打ちしたルリさんの目の色が一瞬紅く光る
痛っ!!
針に刺されたかのような痛みが、俺の素肌に走る、腕を見ると、尋常じゃない量の鳥肌が立っていた。
ルリさん・・・この人は怒らせちゃダメだ。
「・・・・に・・」
フードが外れ、素顔があらわになっている。
目の焦点は合っておらず、その目の周りには、メイクでもしたんじゃないかと思うほどの隈ができ、口と鼻からは、これまた、出てはいけないんじゃないかと思う赤黒い液体が流れている。
「・・に・・・・く・・・」
おぼつかない足取りでゆっくりと、近付いて来るマタギ、よく見れば、焦茶だったマタギの毛皮が、血だろうか、赤黒く変色していた。
リーダーにやられた?
命辛々逃げてここにたどり着いたんんだろうか?
いや違う、、、。
あの首から流れて、毛皮に付着したであろう血の量、そして何より、その首は肩口から噛みちぎられていて、とても生きた人間が負っていていい傷では無い。
「あ・・あ・・・にく・・」
「あちゃ〜ゾンビ化しちゃってるね。」
「ゾンビ化?」
「ありえません、ここは英雄の丘です、かつての勇者の加護のおかげで、この地域にはモンスターは発生しないはずです。」
「はずです、、、か。
かっっかっっか、エルドルアさん、加護が永遠に続くって保証何処にあるの?
それにその加護を実践した術式って、勇者を人柱に、、いわば、勇者の犠牲の上で成り立ってる魔法だよ、死体から何百年も出汁を取ってたらいつかは絞りカスになっちゃうんじゃない?」
「出汁って、変な例えは止めて下さい。
文献によれば、その術式を考案し組んだのはかの大賢者、ルダと記されています、勇者の意思を尊重し、死後も永遠に人々の平和を守りたいと言った、勇者の願いを叶える為と。
その大賢者様の組んだ術式に欠陥があったなんて考えづらいです。」
「・・・・あのクソエルフ、ボクはそんな事・・」
「え?」
リンネさんの表情が一瞬険しくなった。
「あ〜こっちの話
ただ単にその魔法が完璧じゃなかった。もしくは、期限切れになったって事でしょ」
「期限切れって、もしそれが事実だとしたら、この地域はめっちゃヤバイって事じゃないんですか?」
「めっちゃ・・ヤバイ?」
あーまたこのくだり。
「大変な事態って事です」
「かっかっか
モンスターの大発生ねぇ、ワクワクするじゃない。」
「何を呑気に!」
「呑気ってわけじゃ無いけど、血が騒ぐんだよねぇ、そういう状況って」
「はぁ〜それを呑気と言うんです。」
「あのぉ・・・ルリさん、、それって」
「あ〜奴の首です」
何気なく会話に入ってきたルリさんの手にはマタギの髪の毛が握られ当然のごとくその下にはマタギの首がぶら下がっていた。
「肉・・・・・・に・・・く」
うわぁまだ動いてるよ。
胴体の方は倒れて動いてないみたいだけど。
「ゾンビ、アンデッドを仕留めるには胴体と首を切り離すのが一般的です。」
「その割にはまだピンピンしてるみたいだけど」
「ご心配には及びません、じきに機能は停止します。」
「蘇りの呪文なんてものこの世にないからねぇ、ダンジョンなんかで仲間が死んじゃったら、余程高位の火炎魔術を使える人間がいない限り、胴体と首をチョンパして放置っていうのが冒険者の常識なんだよねぇ。
まぁ、魔力枯渇を気にして殆どが首チョンパなんだけど」
「ゾンビ化は、神の悪戯だとか邪神の呪いだとか、未だに何故そうなるかは解明されていません。」
神の悪戯って、それもう邪神の呪いにまとめちゃえって気がする。




