別れと、出会いと。
「わっわっわーーーー」
俺とアラケニアさんの会話が漏れ伝わらない程の距離だったので、実際はそれ程離れてはいなかったが、それでもルリさんは心の動揺が隠せないのか、赤い顔をして珍しく息を切らせていた。
「ちょっと、マムさん、こっちに来てください!」
と言いながら、後ろから、アラケニアさんの腕を掴み、そのまま引っ張った。
が。
「え?」
引っ張られたアラケニアさんは、微動だにしなかった。
「何じゃお主、いきなり、失礼であろう。」
と、さも何も無かったかのように平然としている。
こんないでたちの女性一人、簡単に俺の前から移動させる事が出来ると思ったであろうルリさんは、驚愕の表情を浮かべた。
「え、あの、、、、。」
単に、自分の力が劣っていることが理解できないのか、したく無いのか、ポカンとその場に立ち尽くすルリさん。
「そうか、お主、まだ自分が鬼人という事を言っておらなんだか」
「あ、、、、はい。」
「それは悪い事をしたな、許せ」
と初めて自らの意思でゆっくりと立ち上がり、ルリさんの方に向き直り右手を取ると、そっと、もう一つの手を添えて、ルリさんの手を包んだ。
「それと、妾の事はこれから、ビッグマムでは無く、アラケニアと呼んでくれ」
「アラケニア、、、それって魔剣の銘ですよね?」
「いかにも、魔剣の銘、アラケニア、それが妾の真名じゃ。」
「シンメイ!って、え、いや、私なんかにそんな大事な事、教えてしまっていいんですか?」
「まぁ、のう。
これまでお主の魔剣として世話になった仲じゃし、お主の事は長い事一緒に旅をしてきたから信頼もしておる。」
「・・・・なった、、、ですか?」
俺もそこが気になった、言葉が過去形になっている。
薄々、ルリさんも変化に気付いているんだろう。
少し寂しげな表情を浮かべている。
「妾は、今し方、そちらのお嬢さんのおかげで、あのクソ忌々しい、勇者の呪いから解放されてのぉ、お主には悪いが、魔剣として共に歩む事が出来なくなったのじゃ」
「そう、、、なんですか、、、。」
気を遣ってなのか俺の呼び方がお嬢さんになっていた、どうやらアラケニアさんはとても空気の読める方らしい。
別れを告げられたルリさんは、その場に立ち尽くして動けないでいた。
少し肩を震わせている。
「でも、良かったです、あの方からマムさ、、いえ、アラケニアさんを譲り受けて、いえ、もう、あのどういえばいいか。」
「よい、お主の言葉で話せ、真意は伝わっておる」
「はい、、、。
あの方にアラケニアさんと引き合わせていただいてから、私の人生は変わりました。
どん底に落ちていた私の人生が180度変わったと言っても過言ではありません。
私のような半端者が、国をまたいで冒険出来たのも、全部、アラケニアさんの力のおかげです。
私には、、本当にもったい無い名剣でした。
だから、今解放されたと聞かされて、本当に自分の事のように嬉しいというか、、、本音の部分ではお別れが寂しいというか。」
「ふむ、謙遜するな、お主の実力は、妾と出会う前から、普通の人間の水準はとうに超えておった。
要は、お主のその力を引き出すきっかけが無かっただけの事、妾はそれを後押ししたに過ぎぬ。
老いたとはいえ、妾を召喚出来たのが何よりもの証拠であろう。」
「でも、私がマムさんを維持できたのは3分が限界ですけどね。」
ルリさんの顔は笑顔だったが、頬には涙が伝わっていた。
「今し方あのお嬢さんを引き上げた際は10分を超えてたがのぉ、ひとえにこれも愛の力かえ?」
「へ、、、変な事言わないで下さい。
お、、お嬢様に聞こえてしまいます!!」
「ほぉ〜〜。
妾は家族愛の事を言ったんじゃがのう、お主は違うのかえ?」
「は、、はひ?
もぉーーからかわないで下さい!!!」
うーん、もう聞こえているんだけど、台無しにしたく無いから心にしまっておきますね。
「しかしのぉ、世話になった分、お主に情が湧いたというか、血は繋がっておらぬが、妾はお主の事を娘のように思っておる。」
「そんな、、、もったい無い、その言葉だけで嬉しいです。」
「それに、何より、お主といた事であのお嬢さんに会う事が叶った、もう戻る事が無いと思っていたこの姿に戻る事が出来たのじゃ。
ここは、何か礼をするのが筋というものじゃろう。」
「れ、、礼だなんてとんでもない。」
「これは妾の気持ちの問題じゃ、、。
言うたじゃろ、お主を娘のように大事に思っておると。
そこでじゃ、妾の代わりにお主を守護する、新たな魔剣、お主に妾の末娘を預けようと思う。」
「そんな、、、。」
引きかけていた涙が、またどっと溢れ出る。
「お主の現在の実力に合っている娘を選抜するとなると、末娘位になってしまうが、許せよ。」
というと、ルリさんから離れ、空中に向かってフーっと息を吐くアルケニアさん。
すると、空中に魔法陣らしき複雑な模様が浮かび上がる。
その魔法陣に向かって指を指すと、徐々に赤く染まり始めた。
「アラーニェ」
とアラケニアさんが呪文の様に唱えると。
ブン!!
という起動音と共に
「フアーーーー」
という情けない叫び声が魔法陣の奥から聞こえてきた。
その声は徐々に大きくなり、終いには一人の少女がウォータースライダーの出口から出てきたような格好で飛び出してきた。
そのまま受け身を取れずに尻から落下する少女。
「いったーーーい」
地面に転げてお尻の辺りをさする少女。
状況を理解できないのか辺りをキョロキョロ見回すと、アラケニアさんを見つけたのか。
「あーーーーーーーーーママーーーーーーーーー」
と人差し指をアラケニアさんに向ける
「もぉーーーーーー勝手に呼ばないでっていつも言ってるじゃん!!!
呼ぶ時は一声掛けてよ!!!
って、あれ?
ママ若返ってない?
何それーーー受けるんですけどーーー何何!!!
どうやったのそれ!!!!!」
と一気に捲したてる。
一昔前のJ○かよ、ウザいな。
というのが俺から見た初見の彼女の印象である。
彼女の見た目は、俺、ことマリアと年齢はさほど変わらない、16歳〜17歳程度。
服装は青と白のストライプの入ったパジャマ姿に同じ模様の入ったナイトキャップ。
変わるとすれば、、、パジャマの下までは確認出来ないが、恐らく全身、髪の毛までが真っ白な所位か、、、。
アルビノ、遺伝子疾患によるメラニンの欠乏だったけか?
うーん、知識が薄っぺら過ぎて、恥ずかしいな。
でも彼女の一番のポイントは、そこじゃない。
異世界の決まり事の様に、美少女なのはお約束として、その真っ白な肌のせいで、一際目立つ真っ赤な目。
その一見恐ろしささえ感じさせる真紅に染まった美しい目が彼女の一番のポイントであった。
まぁ当の本人は、アルケニアさんにまとわりつき、久しぶりだのわかーいだのとごちゃごちゃ言っている。
「えええーーい」
とアルケニアさんが、少女を振り払うと。
「少し、失礼しますえ」
というと少女の手をグイッと引っ張り。
消えた。
文字通り、パッと俺達二人の前から消えた。
「えええええーーーー」
「えええええーーーー」
ほぼ同時に俺とルリさんは驚きの声を上げる。
「え、、、あの、、、」
「ここは、、多分待っておいた方がいいよね。」
マジマジと見つめ合ってしまう、ルリさんと俺、少し気まずい。
この短い時間でルリさんに聞きたい事が山程できた。
恐らく、ルリさんも同じことを考えている気がする。
嫌、絶対考えているだろう。
だが、どちらも、声をかけられずにいた、、。
この関係が壊れてしまいそうな気がして。
「あ、あの」
「ルリさん」
また言葉が重なってしまう。
ベタなドラマの様な展開で気持ち悪い。
えええーーーいここは男らしく俺から!!!
「お待たせ致しました」
目の前に突然、アラケニアさんと娘さんが現れる。
「ふあぁ!」
と情けない声を出してしまう俺。
タイミングでも測っていたかの様に入ってくるなーー本当に!
「ほれ、ちゃんとご挨拶しなさいな」
と、アラケニアさんに促されると、娘さんは俺の前に恭しく跪いた。
「お、、お初におめにかかります。
まお、、」
「おほん」
アラケニアさんが咳払いすると、娘さんがビクッと身体を震わせる。
跪いた彼女の頭を見ると、大きなたんこぶが出来ていた。
「お初にお目にかかります、マリア・ルーエルト様。
アラーニェと申します、以後お見知り置きを」
「うん、こちらこそ宜しくね、アラーニェさん」
「さん付はおやめ下さいマリア様、私の事はアラーニェとお呼びください。」
というと、更に身体を縮め、俺に向かい礼をするアラーニェ。
先程のJ○の雰囲気を感じさせない、いい礼だった、、、。
一体アラケニアさんはこの短い時間でどんな躾をしたんだろう。
気になる。
アラーニェは立ち上がるとルリさんに向かい手を差し出す。
「これから世話になる、ルリ、我が妹よ」
見た目は俺とそう変わらないのに、ルリさんを妹と呼ぶ光景は何か不思議だが、何故か違和感を感じさせない雰囲気があった。
「こちらこそ宜しくお願いします、姉さん」
そういうと、ルリさんは差し出された手を両手でぎゅっと掴んだ。




