タマゴ走る
これ絶対ダメなパターンのやつじゃん。
異世界転生モノでよく見る、振り返ったら不良グループに囲まれてて“金目のもん全部出せ”って脅さるパターンのやつじゃん!!
振り返ったらジ・エンドな気しかしないしこのまま黙っててもジ・エンドな気しかしない!!
どうする…肩に乗せられてるこの手を振り払って脇目も振らず全力疾走で表通まで走るか?
いやいやそれはあまりにも無謀だ。
数年間引きこもってろくな運動もしてない俺が後ろの奴らを振り切れる筈がない。
このタマゴさんを渡すって事で手打ちにして貰うか…
いやそれもダメだ…てか無理がある!!
俺が逆の立場だったら、こんな得体の知れない黄ばんだ巨大タマゴさん絶対いらねえええ!!
俺は考える。
限りなく無に等しい矮小な脳みそをフル回転させて考える。
このピンチ…俺の脳細胞よ今こそ覚醒してくださいお願いします!!
そうして数秒ほど黙って考えある一つの究極とも言えるような考えに行き着いた。
“ひょっと俺の後ろの人たち雰囲気がアレなだけで本当に俺を手助けしてくれる好青年たちなんじゃね”
うん…その可能性も十分あるよありまくりだよ。
多分後ろの人たちいい人たちだよ。
今までの人生他人を信頼せず頼りにもせずに生きて来たけど今回ばかりは他人の手助けが必要だ。
後ろの人たちに助けてもらおう。
後ろにいるのはいい人たち…自分自身に暗示をかけるようにその言葉を繰り返し、俺はゆっくりと振り返る。
「すいません…実はすっごい困ってて………」
案の定というかむしろ期待通りというか、俺の後ろに立っていたのは如何にもな感じに強面な人たちだった。
耳や鼻にピアスを開けて、手元でナイフをチラつかせている。
この光景を見てもこの人たちが好青年だと思うのは流石の俺でも無理だった。
「やあお兄さんこんな路地裏に一人でいたら危ないよぉ~僕らみたいなのに目をつけられちゃうからさぁ~」
「ああ…そうですね。ご忠告どうも」
「ホントだよお兄さん。じゃあそれを教えてあげたんだから有り金全部置いていってよ」
うわ~全くもって読み通りのセリフ言われた~…
そこからの俺の反応はとてつもなく早かった。
即座に肩に乗っている手を振り払って体の向きを半回転させ全速力で走りだす。
「すいませんでしたああああああああ!!」
「「「待てやゴラァァァァァァァァァァア!!」」」
複数人の怒号が鼓膜の中で反響する。
振り返るな全力で逃げるんだ俺、ここで捕まったら命の保証はないぞ。
そう俺は世界最速のスプリンター…今の俺はウサインボルトよりも速いから大丈夫だ!!
そう自己暗示をして少しでも足が速くなる事を信じて走った。
「許してくださいいいい。そこに置いてあった金色のタマゴあげますからそれで勘弁してくださいいいい!!」
「ああ!? 何言ってんだテメェは!! そのタマゴならさっきからテメェの真後ろ背走してんだろが!!」
ええ!? ウソマジで!?
半信半疑で後ろを振り向くと…
本当に俺の後ろをピッタリとくっつくように背走していた。
「嫌ああああ怖ッ!! タマゴさんの四肢がついに生え揃ってるううううう!! てかなんでついてくるのそんなに俺の事が好きなの!? だったら俺のために質屋にでも売り飛ばされてくれよおおおお!!」
『マスター…ワタシ………マモルカラ』
え? 今喋った!?